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真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
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38話 "身体強化"


リズの言った「弱い」といった言葉が妙に頭に残り、それを振り払うように"身体強化"の鍛錬に励んでいたルートはなかなか上達する兆しの無い現状にじわじわと焦燥感が胸を占め、またそれを必死に押さえ込むように鍛錬を行うという行動を取り続けていると、やがて日が昇りテントの方から少しずつ声が聞こえ始める。

ルートは前もって決めていた騎士団との交代の時間がそろそろだということを思い出し強引に気持ちを切り替え、腰袋から取り出した布で軽く流れた汗を拭いながらテントの方へと近づいていった。

テントの方ではすでに大多数のパーティーが起きていたようでそれぞれが朝の食事やら準備をしている姿が目に入り、ルートの知り合いは全員が起きているようで軽く組み手などをしているのが見えた。

ルートは挨拶でもしておこうと思ってそこに近づいていくと、近づいてくる彼に気が付いたエリュが、


「おはよう、ルート」


と声を掛けたことで他のメンバーも気がつき同じように挨拶をし、その中には先ほど話というには一方的な言葉を放ったリズもいて、なにか感じるところでもあるのか視線はあさっての方向に向けられていたのだが、特に気にすることも無く、ルートも同じように挨拶を返した。


そうして特になにかが起こるわけでもなくいつもの三人の作った食事を食べ、それぞれテントの中に置いた自分の荷物の回収と掃除を行っていると良い時間になっていたのか群青騎士団の面々も到着し、団長のショルツと戦闘者の元代表のマインと現代表のブラハが情報交換を行っていた。


その情報交換の間に全部のパーティーが準備をすべて終わらせたようで荷物を持って自然とマインとブラハの後ろに並ぶような形で集合し、そして情報交換が終わると群青騎士団はテントの方へ、そして戦闘者集団はキラの町へと進んで行き、すれ違うときに「任せたぜ!」「ああ、任された!」などという互いを応援する言葉を掛け合いながらそれぞれの方向へと進んでいった。


キラの町に帰るためだだっ広い平原を最後尾で歩いていると、暇になったルートは前の人に遅れないようにしながら"身体強化"の練習を行いながら歩いていていた。


現在のルートの魔力操作が可能な魔力の総量は限界量のおおよそ90%ほどになっており、限界量に近づいていくほど魔力が不安定になっていくという性質があるからこそ、そのあと十%がなかなか遠く苦悩を重ねている。

そもそもルートが五年の間に"身体強化"を身につけていないというのはある意味で当然なことで、もし限界量を振り切って怪我を負ってしまうと確実に死ぬ上、そもそも限界量を振り切るほどの魔力を放出した場合には近くの魔物に居場所を知らせてしまう環境にいたからで、不測の事態を回避するためにも戦えそうな魔物を判別できるようにも必要な"探知"をひたすらに磨いたという背景があった。

しかし、動けなくなったら死に直結していたときに比べると今の状況は遥かに死から遠く、動けなくなったとしても回復してくれる当てがあるということで"身体強化"を磨ける時間は今しかないという考えの元、こうした時間を使って少しでも鍛錬に励もうという心積もりであった。


そんな理由から先ほどから体内に魔力を循環させながら歩いているわけなのであるが、そもそも魔力が服を着て歩いているとでも表現しても誤りが無いほどの魔力を持っている彼が魔力を制御出来ないという状況になってしまったら、近くにいるものにとってはある意味でアーミー・エイプの大群よりも身近な、それこそ自分達に向かって都を破壊できるほどの規模の魔法が向けられているのと同じほどの脅威となってしまうため、暴走前提の鍛錬が出来ずに少しずつ制御可能な魔力量を増やしていくしかないという彼ならではの問題もあった。


それでも使える手は一つでも増やしておきたいと思っているルートは少しずつ体内に流れる魔力の量を増やしていく。

それでもなかなか上達している実感が無く、苛立っていると、


「"身体強化"か?」


と前を歩いていたイーサが声を掛けた。

実際"身体強化"の鍛錬を行っていたルートは苛立ちを心の中に隠しこみ少し気分を変えるためにも会話をしてみようかと思って、


「そうだよ」


と返事をした。

するとイーサはルートのことを一分ほどじっと見つめると、


「大体9割か」


ルートが感じ取っていた体内を循環させていた魔力の総量とイーサの見立てが一致しており、どうして分かったのかと聞こうとしたものの、イーサはそもそも"身体強化"を使えると言っていたため、なんとなく感じ取れるのかと納得していた。


「ルートと呼んで良いか?」

「はい」

「"身体強化"について少し話をしよう」

「え!ほんとですか!」

「ああ」


思ってもいなかった"身体強化"の使い手から話をしようと提案され驚くものの、確かにその話にはなにかしらの道が見えるのではないかと考えると、ルートは、


「是非ともお願いします」


と言ってお願いすると、イーサはルートの隣に移動すると、


「まず話をする前に実際に見てみろ」


そう言ったイーサには表面上は何も変わってなどいないのだが、どこかしらに感じる魔力そのものとはまた違った覇気とでもいうべきものを身に纏っていた。

その覇気に対して若干気圧されたルートを見てイーサは少し笑って話を始めた。


「これが俺の"身体強化"だ。ルート、君は"身体強化"の原理を知っているか?」

「うん。体内に魔力を循環させて自分の出力を上げるっていうものだよね?」

「その通りだ。じゃあその体内に流れる魔力を増やす方法については?」

「魔力を循環させながら体内に流す魔力量を増やすことじゃないの?」

「その通り。ただその循環という部分の理解が君は間違っているからこそ限界の9割から増えない」

「え?」

「いいか。"身体強化"は環境に敏感な生き物を飼うということに近い。その生き物にとってどれだけ魔力によって作られた環境が住みやすいのかという事を示す答えが限界量に対する今流れている魔力量だ。つまり今のルートの魔力で作られた環境はまだ住みやすいとはいえないということだ」

「よく分からないや」

「そうだな、生き物にとってそれぞれ住みやすい環境は違うな?例えば魚だったらまず水がいる。そしてその魚は淡水で生きるのか海水で生きるのかという事を判断してあっている水を入れる必要がある。それに中には泳がなければ死んでしまうという魚もいる。こういったいくつもの好みの環境を用意していくことで最終的にはその魚にとって最高の環境が出来上がるというわけだ。そしてそれと同じように"身体強化"も発動するのに最適な環境、たとえばその生き物が好む環境というものを作り出すのが循環という訳だ。だからその生き物が望むような循環をしてやれば自然と"身体強化"も発動する」

「つまり"身体強化"を発動するにはその生き物にとってストレスにならないような循環が必要ってこと?」

「そういうことだ。そしてその生き物はそれぞれ違うからこそ"身体強化"を使える奴がいくらコツを教えたところで発動しないんだ。だからルート、君がもし"身体強化"を使えるようになりたければその生き物にあった自分らしいの循環を見つけろ。これが俺なりの"身体強化"についての考察だ」

「自分らしい循環・・・ね。分かったよ。イーサさん、ありがとう」


イーサなりの"身体強化"論を受けたルートは話の内容自体は分かったがその話を実現するという段階でなかなか苦労を重ねることになるだろうと思いながらも、"身体強化"を発動するに当たっての方向が見えた気がしたために礼を言っておいた。

そしてイーサはその礼を受けて気にするなとばかりに首を振ると、「キラの町に着いたぞ」と言って指で他の町よりも高く作られた壁を指して示した。


キラの町の入り口ともいえる北門には門番の代わりにでもなっているのか元々この町にいた戦闘者が立っており、帰ってきた戦闘者集団を見て明るい表情になると挨拶をし、それに対して同じく挨拶を返して町の中へと入っていく。

町の様子は特にこの事態が伝わる前と人通りの量という意味ではそこまで大きな差は無いのだが、そもそもの生活音というものの一切が消えているため、妙な空虚さが今のこの町には確かに存在している。


そして門の近くにある一日と半日ぶりに見る拠点の中に流れ込んでゆくと、大広間には誰もおらずそのまま通りすぎて二階へと移動する。

するとそこでは複数の人間が水晶球のようなものに向かって話しかけていて、またそれから声が返ってくるという通信の魔道具を使ってどことかは分からないが連絡を取り合っており、どこから持ってきたのか情報が整理されながらも遠目から見ると真っ黒に見えるほどにびっしりと書かれた大きなホワイトボードのようなものが何枚も用意されていて、そこではセアラがそれぞれの通信の魔道具を使っている者が手元のなにかの皮を伸ばして作ったものに書き記したものを整理してそのホワイトボードのようなものにどんどん書き連ねていた。


そして帰ってきた戦闘者集団に気が付いたのか通信の魔道具を使っている者はそれぞれ帰ってきた者たちに言葉を発することなくこちらを見て一礼し、セアラはその書いている手を止めてこちらへとやって来て、


「皆様、お疲れ様でした。皆様には早々に体を休めていただきたいところですが先に幾つかの決定事項をお伝えします」


と言って全員の顔を見渡して各々の目がセアラ自身に向けられていることを確認すると静かに、しかしながらよく通る声で告げた。


「キラの樹海を包囲して行う殲滅作戦の決行は明日の正午となりました。戦術等についてはそれぞれの集団の判断に任せるそうですが一匹残らず殲滅しろとのことです。また援軍についてはギルドが国内国外問わず募った結果、合計2000人程度集まったそうで今日中に400人程度が新たに援軍としてやってくるようです。その新たな援軍には"紫"ランクの戦闘者もいるそうですが変わらずマインさんに指揮をお願いします。またそれぞれの拠点から連携を取りたいという要請もあったため、群青騎士団の参謀が拠点に残っていますのでその方と戦闘者の間で決めてください。以上で全体に対しての説明は終わりですがなにか質問等はありますか?」


セアラが告げた言葉の内容に少しざわめきが起こる中、その言葉に対してマインが手を挙げ、


「代表は指揮権ごとブラハに譲った」

「えっ?ほんとですか?えっと・・・うん。問題は無さそうですね。それでお願いします。他にはなにかあるでしょうか?」


マインの他には特になにか言うべき事がないという空気を察したセアラはホワイトボードのようなものを手で指し示し、


「何も無いということでいいですね。それではお疲れ様でした。また各拠点や本部から送られてきた情報をあちらに纏めてありますので一度は必ず目を通しておいてください」


言い終わるとセアラはさっさと先ほどまで書き連ねていた位置まで戻ると、あの説明をしている最中に微妙に増えた皮紙を手に取ると次々とそこに書かれたことを整理して書く作業に戻った。


セアラが離れていったところで一旦解散という空気が漂ったところで代表を委任されたブラハは魔力を一瞬威圧するように開放して注目を集めると、


「昼の鐘がなるまで自由行動。昼の鐘がなったところで一階の大広間に集合。昼飯を食べながら作戦会議だ。各自であの情報に目を通して置くように。解散」


そう言い放つと自分はそのまま階段を上って上の階へと消えていった。


あまりに端的に言葉を言い放ち、そしてそれに異を唱える間もなく姿を消していったブラハの行動に呆気に取られた戦闘者たちは、これでおわりなのか?というような困惑をあらわにしながらもホワイトボードのようなものを見に行って情報を整理しようとしたり、あるいはブラハと同じように階段を上っていったりとそれぞれの行動に移っていく。


ルートも同じくブラハの発言には呆気を取られたものの比較的早く復帰し、そして階段を下って拠点から出てなるべく人の気配の無さそうな場所を探しながら町の中を移動して、適当な裏路地に入り影の上に立って辺りには誰もいないことを確認すると、


「『影部屋シャドウルーム』」


小さく呟くと足先から膝、腹、胸、そして頭と影に呑み込まれ、今の彼にとって一番安心できる場所である『影部屋シャドウルーム』に移動した。


そこは最後に入ったときよりも虹蛇の素材が入っているせいもあってなかなか空いているスペースというものがなくそろそろ整理しなければならない思いながらも少し面倒だという気持ちが沸いてきながらも、いつか買った一時間が計れる砂時計をぐちゃぐちゃな山の中から発掘してきてひっくり返す。


そして『影部屋シャドウルーム』を閉じようと入り口を見ようと振り返ったところで、


「ここどこ?」


そういって不思議そうに部屋を見渡すエリュがいつの間にかいた。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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