37話 時代
全員で食事を取り3時間後に合流することを約束すると、再び午前と同じ班でそれぞれ分かれて行動を開始した。
それぞれに分かれて行動する中、ルートはというと再び回復していた魔力を背中側に『影箱』を展開して込めるという作業を行っていた。
その作業をしている傍らで『熊樫の森』にマインとルートでそれぞれの技術についての総評を行っていた。
というのも彼らはそれらを使うことを忘れていたものの基本は出来ていたのでマインが当初予定していた彼らを短期間で育てるという方法をとる必要が無くなったため、それならと一つ一つの技術の錬度を高めることに方向を切り替え、まず現段階の錬度を確かめなければ始まらないということでそれを行っているというわけである。
そうして一つ一つの動作を確かめ、最後の動作が終わったところで丁度魔力の充填も終わり『影箱』を閉じる。
「俺の感想としては、日課にしているだけあってすべてに動作が正しく出来ているという意味で及第点はやれるがいくつかのものに関しては実戦に使えるという意味での合格点はやれんな」
「僕も同じ。けど魔力操作さえもう少し出来るようになれば一気に全部実戦レベルになるよ」
ルートの言葉を肯定するように頷くマインを見て、『熊樫の森』のメンバーは自分達に足りないものはそれかと天啓を受けたような気分になって、
「「「ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」」」
声を揃えてそんなことを言う彼らに、つい一日前まで侮られていたルートは苦笑いを隠しきれず曖昧に「こ、こちらこそ?」と曖昧な返事しか出来なかった。
「にしても魔力操作ってんならイーサがいてくれたら楽だろうな」
「"身体強化"を使えるイーサさん以上の適任者はいないね」
「俺もまだ越えられねえからな」
「僕も。高すぎるよね、あの壁」
戦いをするものにとって"身体強化"が使えると胸を張って言うには一つの壁を越える必要があり、その壁は体内に流せる魔力の限界量の99%を魔力操作で循環させられるかということである。
その壁を越えるとそれまでの体内で循環させていたときの一定だった出力が格段に跳ね上がり、元々の自分の力の約5倍程度まで膨れ上がり、さらに0.1%を加えて循環させられると1.2倍ずつ出力が上がり、限界量までいくと30倍まで膨れ上がる。
魔力を1%単位で操作しなければならないという性質、そして魔力量は人によって違うため誰かがサポートするということも出来ないという性質があるからこそ"身体強化"が使える者は限られてくる。
「まあ"身体強化"を教えるわけでもないからそこまで気にしなくてもいいだろ。というわけで俺達が放出している魔力量と同じくらいに自分の魔力を調節して合わせるってな感じでいこうか。んじゃ最初はこれくらいだ。あ、あと馬鹿みたいに魔力は放出するなよ?最悪アーミー・エイプにばれるぞ?」
魔力を放出しながらそんなことをいうと彼らはより一層表情を引き締めて自身の魔力量を調節していく。
ルートはすでに数値化すればマインとの放出量の差は小数第四位くらいまでは同じ数値であろうほどまでに一致させて放出していた。
目の前で四苦八苦している彼らは大体マインの放出している魔力量との誤差が30%ほどあり、マインとルートが要求しているのは誤差を15%以内に収めるくらいの魔力操作精度であって、見たところ少なくとも3時間以内にどうこうなるようなものでは無さそうである。
そうしてマインとルートに様々な指摘を受けながらも彼らは一度も集中を解くことなく額に脂汗を浮かべながらぶっ続けで魔力の操作を続け、
「「ただいま~」」
その声で初めてもう集合時間になっていたということに気がついた。
『熊樫の森』の面々はもちろん、マインとルートもいつの間にか同じように集中して教えていたということに気がつき驚くと同時に考えていた以上に飲み込みが早く、打てば響くというのはこの事かと教えている側も楽しくなり始めて力を入れて指導を行っており、今気がつけば誤差も20%程度まで小さくなるという快挙を成し遂げていた。
そして自然とお互いに手を差し出し、ガッチリと固い握手をしていた。
お互いに良い時間を過ごせたと上機嫌になっているマインとルートを見て、
「ちょっとあれは不気味ですね」
「本当だ。気持ち悪いなあれ」
毒舌なルナと脳と口が直結した馬鹿なレンがそんな感想を述べて、マインが声を荒げ抗議するものの一向に受け入れられそうに無く、
「あなたの不気味さはどうでも良いですけどそろそろ樹海を抜けましょう。これからは魔物の時間です」
「そうだな。悪かった、さっさと樹海を抜けようぜ。シーク、案内頼む。それと『熊樫の森』!早速使える機会だから今が使いどころだ」
「「「ハイッ!」」」
「いだだだだだ!!わ、悪かったって!!!いだだだだ!」
マインは彼らに訪れた汚名返上の機会だと簡易なものだが教師まがいのことをしていたこともあり応援するような気持ちを込めて発言すると、いらない発言をしたレンの頭をガッチリと掴んで荷物をまとめて背負い、同じく教師まがいのことをしていたルートはシークから地上の安全を確認してもらうと自分もかっこ悪いところは見せてられないというように一気に飛び出し、"探知"を発動して警戒する。
そして続々と穴から出てきて全員が出てきたことを確認するとシークは「・・・・・・こっちだ」と言うとさっさと走り出してしまい、その後ろに続々と付いて走り始める。
そして、
「あ!?お前らそんだけ歩行術使えんのにあのサルどもに見つかったのか!?」
頭を痛みを抑えるように両手で押さえる格好の付かないレンがそこそこ大きな声で言い、「うるさいですよ」とルナに抑えた手の上から拳骨を食らい無言のまま涙目になる。
彼らのその歩行術に驚いたのはレンだけでなく、拳骨を落としたルナだけでもなく、マイン、ルートと本人達以外の全員が驚き、そしてご飯の時に言っていた馬鹿という言葉の意味を実体験を以って理解した。
そしてそれを見て速度を上げても問題無さそうだと判断したシークは速度を上げて、調査の結果見つけた場所を目指して走り出して次々と検討をつけていた場所を回っていき、最終的には樹海を抜けてしまう。
シークはペースを『熊樫の森』に合わせているとテントのある集合場所まで帰ってくるのは完全に日が沈みきってからだと考えていたが、良い意味で裏切られて今にも沈んでしまいそうな日を見て、
「・・・・・・『熊樫の森』、よくやった」
と聞く人によっては不快に感じるかもしれないが、シークを知っているものからすればほめているということが丸分かりなそんな言葉を送り、それに同調するようにみな口々に「見直した」「期待してるぜ」などの言葉を掛けて彼らは全員から認められた。
『熊樫の森』は昨日の自分達が一番迷惑を掛けてしまった『万色の集い』の面々に認められたということに気がつくと、何もいわずにしばらくフリーズすると、
「「「昨日は迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。助けていただいてありがとうございました。これからもよろしくお願いします」」」
涙をポロポロと流しだし震えた声でそう言うと『万色の集い』の面々が彼らを取り囲んで温かい言葉を掛け、さらにそのせいでまた泣くという無限泣き装置が完成した。
そしてまた昼間の三人の手によって用意された美味しい食事を取り、ルートが作り出した大量の『土人形』によって寝ずの番制度が崩壊し、ほとんどのものは疲れ果てて眠ってしまったがただ二人だけ起きていた『万色の集い』のリーダーとサブリーダーは、サブマスターの方がリーダーに体を預けるように隣り合って座っており、そして、
「なあ、ルナ。」
「なにかニャ?」
「俺も年をとったな」
「あたしも同じニャ」
「・・・俺は今新しい時代の波って奴を見てるのかもしれねえ」
「・・・・・・」
「俺が今日見ていた『熊樫の森』の奴らはたった3時間で魔力操作の誤差を10%も削った」
「それは凄いニャ」
「そんで何よりもおかしいのはこれを全員が出来たということだ。昨日肩を貫かれたばかりの奴が何の違和感を感じることなく他の奴らと一緒になってな」
「ニャ!?」
「どんなに腕の良い奴でもどこかしら違和感は残ってしまうはずなのにエリュの魔法はそれを残さない。俺にはあれが光魔法だなんてとてもじゃないが信じられないな」
「それニャらあれはニャに?」
「さすがにそこまでは分からん。それに何よりも異常なのは分かるだろ?」
「・・・ルートだニャ」
「そうだ。明らかにあいつはおかしい。理性が飛ぶほどの戦いをした後に4kmも土魔法で道を作るなんて意味が不明だ。それに町長のときもそう、キラの町との間にあった見張り台もそう、そして一人で倒したクレイジー・ボアのときもそうだろう。あいつは一切魔力ポーションなんて飲んでないぞ」
「冗談だよニャ?」
「事実だ。少なくとも町長を確保するまでは一切あいつは何も飲んでないぞ。シークも見てる」
「にわかには信じがたいニャ」
「『熊樫の森』だけでも時代の波だと納得できるのにな。そして無尽蔵の魔力を持つルートに得体の知れない回復手段を持つエリュという異常がいるってんだ。これをなにかの前触れと結び付けても仕方がねえだろ」
「・・・確かに一笑に付すニャんてことは出来ニャい」
「まあ俺にとってはどちらもまだまだ小さい子供なんだがな」
「そうだニャ」
「ルナ、俺はおそらくあの二人を超えるなにかを成すことは一点を除いて一つも無いと思う」
「ルートの料理は昨日見たけどマインが勝てそうニャ要素ニャんて無かったニャ」
「ほっとけ!・・・けど、俺はその一点だけは絶対に曲げねえから」
「ニャハハハ!・・・・・・絶対だからニャ?」
「おう。俺に任せとけ、俺の最愛の人」
「そこは俺にもでしょ。あたしの最愛の人」
お互いに見つめ合って「最愛の人」という単語を出した二人の顔はやがて近づき、そしてゆっくりと重なった。
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いつもと同じく日が昇る前に起きだし、日課の柔軟運動に魔力操作の集中を終えると『影箱』に続々と魔力を充填させていく。
そして魔力の充填を終わらせ『影箱』を閉じると、昨日の『熊樫の森』のメンバーが魔力操作を行っていたことを思い出して"身体強化"の発動を試みようとする。
ルートは日課として魔力操作をしているのだが、基本的にルートの行っている魔力操作は自身の体を強化するための魔力操作よりも、魔法の威力を高めるための魔力を自分の体の中で増幅させるという魔力操作の方に重きを置いているため、今までは"身体強化"を使うための魔力操作はあまり鍛えていなかった。
それでも昨日の『熊樫の森』のあの一生懸命に集中して頑張っているのを見て、技術を身につけておいて無駄になることはないと考えを改め、そっちの鍛錬も自分の日課に加えることにした。
(僕の仇と戦う時には手札はいくらあっても足りないしね。圧倒的な力でねじ伏せてやる)
『無限』の攻略の結果判明した五年越しにやっと判明した復讐相手に対して、この戦いが終われば次はお前の番だと目の奥には仄くにごった感情が蠢き、口元には邪悪な笑みが浮かべたルートの普段からは一向に予想が出来ないような顔になって、
「精々首を洗って待っていろ」
「キャッ!」
ボソッと腹の底から出すように低く呟いたルートの言葉に驚いたのか後ろで可愛らしい声を上げて誰かが後ずさったのを感じ取ると、普段の自分の顔を意識して振り向くと、そこにはリズが目尻に涙を浮かべて怯えながら立っており、
「え?リズさん?どうしてここに?」
「ぁ、あの、怖い魔力を感じて来てみると、その、ルートさんがいて、えっと、話しかけようとしたら。その、怖かったです!」
どうにもリズの言葉には抽象的な表現が目立つが、おそらく復讐の事を考えているときに無意識のうちに魔力が漏れて、それを感じたリズがこうして出てきたのだろうとルートは解釈した。
ルートは自分のせいでこうも怖がっている彼女を見てなんと言えば良いのか言葉を選んでいると、
「こ、怖い魔力は、その、弱いから、優しい魔力は、強い、だから、その、あの、ルートさんは弱い、です。けど、気が付けばもっと、その、強くなれます。それで、その、頑張って!」
最後の言葉を言ったと同時に反転、リズは走って自分のテントに戻っていった。
一方的にリズに言いたいことを言われた彼は何の言葉も出せずに走ってテントに帰っていくリズの後姿を見ていることしか出来ず、そして彼女の姿がテントの影に消えたところでやっと動くようになった口でポツリと、
「弱い、か」
そう呟きなにかの理由を探すように視線を彷徨わせて空を見上げてみても、ただ瞬く大量の星々が見えるだけで理由など転がっているはずも無かった。
設定上、ルートと『熊樫の森』のメンバーは3才差です。
ちなみにルート君は元気盛りの15ちゃいです。




