34話 覚悟
久しぶりに良い文章が書けた気がする。
それでは本編をどうぞ。
本命のストレートの前の軽いジャブのような面倒事に巻き込まれたルートたちはなんとか力を合わせることで乗り越え、何とかそれを起こしたレンいわくバカどもを回収、樹海からの離脱を目標に行動を始めていた。
ルートの"探知"によって脳内に地図を作り上げて行き、その地図の中にいる魔物などの邪魔者との遭遇を出来るだけ避ける最短ルートを構築、そのまま進んでいく。
先ほどまでのように森の中を自由に動き回れる力の持ち主の集団であればすべての魔物との戦闘は回避できたのだが、どうにもお粗末な行動しか取れない連中を不本意ながら護衛しているという現状では、魔物との戦闘は必要最低限にするという手を取るしかない。
そのおかげで移動速度は落ち、なるべく戦闘時間は短く済ませるものの魔物の行動など読めるはずも無く、考えうる中で最短ルートに魔物が混ざりこんでくるという非常に面倒極まりない状況に陥ってしまっているというのが今の現状だ。
「はあ、めんどくさい」
そういいながら自分が倒した魔物から槍を抜き、辟易とした顔をしているルート。
襲ってきた魔物から守ってあげたくなるような子供でもあるまい、そのそのの年齢の人たちを守るという正直不毛な戦闘を行っているせいでルートの精神はガリガリと削られていっている。
それは同じく先ほどから戦闘を行っている他のメンバーも同じようで、レンは苛立ちを解消するためか一撃一撃に力がこもり相手に痕が残るほどの打撃を食らわせていて、ルイとライは面倒になったのか二人の息の合ったコンビネーションで最初は戦っていたものの、いまでは交代で戦闘を行っている。
また、エリュは最初は魔法で攻撃していたものの、今ではすっかりその手に持った杖で敵に自ら近づき、突き、払い、打ちと相手が哀れになるほど滅多打ちにして、目が完全に据わってルートをして恐怖を感じるほどのナニカを放っている。
そしてそのピリピリとした面々の放っている雰囲気からはまったく信じられないが実際に守られているバカどもはビクビクと肩を震わせて何よりも非常に沈んだ様子で大人しくその後ろを付いて行く。
実のところこのバカどもとルートには面識があり、バカどもの方が一方的に興味を向けていたとでも言おうか、パーティーのリーダーは班編成のときにニヤニヤとしながらルートを勧誘していた人物である。
どうしてこのパーティーがこのような愚行に走ったのかというと、このパーティーは端的に言って調子に乗っていたというだけのことである。
元々"水"相当の実力を持って戦闘者になった者たちがたまたまパーティーを組んだという結成秘話があり、その力のおかげで特に苦労することなくランクがトントン拍子に上がっていき、一般的な昇格速度よりも速く"水"ランクまで上がっていた。
そして調子に乗った。
自分たちは優秀だという驕りに呑まれ努力を行った。
自分たちの昇格は魔物の討伐数だけが評価されたもので、魔物の習性や森の歩き方などの様々な技能についての未熟さはなまじに最初から実力だけはあったために失敗から学ぶということも無く評価されていないということに気がつかなかった。
そしてその結果が驕り高ぶるだけの愚者という他から見ればただのピエロ同然の行動を取って初めての失敗、それも自分たちだけでなく他に甚大な被害を与える寸前という結果を残した。
そしてその失敗を見かけの姿で判断して侮っていたルートに尻拭いをしてもらい、あまつさえ守ってもらっているというこの現状が彼らの精神に大きなダメージを与えている。
そんな状況の中ルートたち一行は魔物を倒したり回避したりして足を進めていて、時間をかけながらも安全なコースを選んで歩いていく。
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おおよそ2時間ほど経過しそろそろ日も姿をくらまそうかというところでルートたちは樹海を抜けた。
元々の集合予定時間は一時間前くらいであったので十分に遅刻であり、場合によっては死亡したものとして扱われていることもあるのだがどうにもそういう事態にはなっていないようで、マインが先頭に立っていろいろ指示を出していたところあたりに数多くのテントが建っており、なんだか良い匂いが出てきたばかりのルートたちの鼻をくすぐる。
その匂いを嗅いだことで先ほどまでは緊張感や悲壮感などに囚われていたルートたちのおなかが思い出したかのように主張を始めた。
ルートたちはとりあえずその仮拠点まで近づいてゆきテントの間を縫うように、マインやギルバートといった『万色の集い』のメンバーを探してうろうろと歩き回る。
するとテントの群れを抜けたところで中央にキャンプファイヤーのように大きな焚き火を設置し、その周りを囲むようにそれぞれパーティー単位で集まって誰が用意したのかわからないが食事を摂って雑談をしながらリラックスしているようだった。
ルートはその様子を見て戻ってこれたのだと実感すると、次に報告やらを済ませるためにマインの姿を探すのだが、そう試みるまでも無くそれはそれはたいへん目立っていたためすぐに見つかった。
マインはルートたちが帰ってくるまで暇だったのかなんだったのかは知らないが、集まっていた集団と腕相撲をしており、隣で囃し立てているギルバートに寄ればただいま19連勝中なのだとか。
ルートはこれを信頼の結果としてこうして遊んでいても大丈夫だという思いで今こうなっているのかがひたすらに疑問であったが、とりあえずは近づかないとマインさんのことだから何も始まらないかという一種の諦めも入りながら近づいていく。
するとマインは近づいてくるルートたちに気が付き、腕相撲で相手にしている人を軽くねじ伏せて、「おう、待ってたぜ」とマインに対して歓声が上げられている中にこやかな笑顔でそう言った。
そんなマインの顔を見ながらルートは万感の思いを込めて、
「何とか面倒ごとは回避、そして全員無事に帰還。そして何よりも・・・疲れた」
というと地面に座り込んだ。
それを見てマインはいつもの通り「ハハッ」と笑って頭をポンポンと叩くとその後ろに続く仲間に対して労いの言葉を掛けた。
そしてその後ろで頭を下げてジッとしているパーティーの前まで行きその前で立ち止まると、
「顔を上げろ」
有無を言わせぬ冷たく低い声でそう言うと、彼らはその声にビクッと体を震えさせられながらもゆっくりと頭を上げ、そして頭を上げたときに視界に入るマインの顔は無表情でありながらなぜか激情を見て取れるというその顔に「ヒッ!」と声を漏らす。
そしてその妙に響いたそのマインの声に、周りの戦闘者や群青騎士団の面々も何事かと注意を向けて成り行きを見守る。
そんな注目を集める中でマインはゆっくりと口を開き、
「お前たちは分かってねえ。お前たちに実力があるのは援軍として派遣されているということから十分に分かる、だが重さが分かってねえ。自分たちの出来ることも分かってねえ。そして何より俺たちが町の中を移動するときに向けられた危機が迫ってきているという状況の中でもなおあの町に留まっている人たちのあの眼差しの意味がまったく分かってねえ。今回はたまたまルートたちが間に合って助かった。だがもし間に合わなかったらお前たちはおそらくアーミー・エイプの大群に攻撃を加えただろう。そこでお前らはその場でお陀仏、樹海の奥からあふれ出てめでたく俺たちも全滅、晴れて王国存亡の危機だ。歴史に名を残せるぜ、おめでとさん」
ここでいったん言葉を区切りマインは注目を向けている全員をぐるっと見渡して、
「無謀な行動に出た奴らがいるんだ。今まであえて言わなかったがこの場にいる全員に言っておく。もし本隊に囲まれてどうしようもなく逃げれそうも無かったらその場で死ね」
その言葉にある者は非難の声をあげ、ある者は分かっていたようにスッと目を閉じる。
「己の犯したミスは己で支払え。それが俺たちに任されているこの仕事だ。もしそれが納得できない、命が惜しいというなら今からでも遅くは無い、荷物をまとめて帰れ。命さえあれば今回の件でギルドや騎士団から追い出されることにもなるだろうが日銭を稼ぐくらいの仕事は見つかるさ。それにギルドも広く援軍を募っているからその分の穴くらいは埋めれる。だから決めろ。いまここで。この件に関わり続けるかを」
辺りには重い雰囲気を漂い、先ほどまで非難の声を上げていたものもいつの間にか黙り込んでいる。
そしてマインはまた目の前の彼らに目を向けると、
「お前たちはどうする?正直に言ってお前らが犯したミスは最悪だ。この先も戦闘者としてやっていくにせよ一生付きまとうことになるかもしれない。少なくともこの場にいる奴らからは快くは思われないだろう。だからこそ自分たちで決めろ。ここで逃げるもよし、残って戦うもよしだ。好きに選べ」
それだけ言うとマインは元いた場所に戻っておちゃらけた雰囲気で、
「さあ!次に掛かってくるのはどいつだ!?全員まとめて負かせてやる!」
と宣言する。
そしてその言葉を聞いたギルバートが腕をぐるぐる回しながらドカッとマインの前に座り腕を差し出して、
「そろそろ一度くらいリーダーには勝っておきたいな。ついでに20連勝も阻止させてもらおうか」
ニヤッと笑ってそういうギルバートの手をガシッと掴みマインも笑って、
「ハハッ、まだ早え!ルナ、合図頼む!」
「はぁ、それでは始め」
ルナのため息交じりの開始の合図と共に両者の筋肉が隆々と猛り相手を打ち負かそうと両者共に必死に勝負に集中していく。
そしてその熱気に当てられたのか重くのしかかるような空気も霧散し、再び嫌ではない騒がしい空気が漂い始めた。
そして先ほどのマインの言葉を聞いて再び俯いてしまった彼らはこの場から逃れるようにどこかへ立ち去っていった。
そしてその姿が見えなくなったことを横目で確認したルートは手持ち無沙汰になってしばらくボーっとしているとレンとルイ、ライが近づいてきて、
「俺もお前も良く頑張ったよな!お前は信用できそうだってのが分かっただけでも収穫だからな!これからもよろしくな!」
「「お疲れ~。また一緒に戦おうね!」」
レンは嫌味のないまっさらな笑顔でルートの背中を強めに叩いて、ルイとライはルートに強引に両手を上げさせると左手にルイが、右手にライがハイタッチの要領でパチンと小気味良い音を立てて満足げに頷くと手を振って『万色の集い』のメンバーが集まっているところに歩いていった。
それにヒラヒラと手を振って答えていると後ろから、
「お隣良いですか?」
とエリュが尋ねてきた。
特に問題も無いルートは笑いながら「どうぞ~」と力の抜けた声でそういうと「失礼します」と言って隣に座った。
そして、
「先ほどはありがとうございました」
と言ったのだが、何に対するお礼なのか分からない彼は首をかしげて彼女の顔を見ると、
「あのパーティーを助けるときに合図をするのを忘れていた私の魔法に合わせてくれたことです」
「ん?それってお礼を言う必要なくない?」
「そんなこと無い。あの時ルートさんの魔法が間に合っていなければ彼らはおそらくアーミー・エイプの怒りを買って殺されていたでしょうから」
「確かにそうなったかも知れないけど、それなら僕の方だってエリュさんに言っておくよ。エリュさんの案が無かったらレンさんが言ったような危険な賭けに出なければならないところだったんだから。本当に助かりました、ありがとう」
「いや、それは謙遜でしょう。ルート君の魔法の腕ならあの案でも十分に通用していたはずです」
「いやいや、そもそもエリュさんの案じゃなく穴を作って落としただけだとあいつらが飛び込んできたかもしれないから全員生き延びれたかは分からないよ?」
「いやいやいや、それを言うならルートさんだって・・・」
お互いが謙遜を繰り返し、お互いを褒め合い、お互いに白熱し、そして気がつけば後もう少し近づけば互いの体が触れ合うというところまで近づいており、二人の間の距離はもうほとんど無いところまで来ていた。
そのことに気がつくと、二人の間から言葉が無くなり、顔を見合わせる。
二人の間に距離は無く、互いの視界には相手の顔しか映っていない。
そして、どこからとも無く笑いがこみ上げてきて二人揃って笑い出した。
「ぷっ、あははははははっ!」
「ぷっ、あははははははっ!」
ルートは笑いながら腹のそこから笑ったのは何年ぶりだろうかと内心では冷静に考え、そして、そんなことどうでもいいやと笑い飛ばした。
そしてしばらくお互いに笑いあい、笑いすぎて目の淵に溜まった涙をルートは右手の人差し指で拭いながら左手を差し出して、
「僕はルートで良いよ、敬語もなしで」
「なら私もエリュでいいよ。よろしくね」
とエリュも同じように右手の人差し指で涙を拭いながら左手でルートの左手を掴んでしっかりと握手をした。
エリュの手は小さく柔らかで暖かく、ルートはなんだか懐かしいものを感じた。
そしてしばらく握手をすると、
「ぷっ、あははははははっ!」
「ぷっ、あははははははっ!」
また同時に吹き出して笑ってしまった。
ルートは笑いながら不意に空を見上げると、いつの間にか日は完全に地平線の彼方に沈み、雲ひとつ無い空は星々の独壇場となって自らの存在を主張するように輝き、'あの日'以来気付くことの無かった美しさが再び戻ってきたような気がした。
この話で長い長い二日目が終わります。
本当に長かった。
次の話の前半で二日目の最後を載せたら三日目へと突入ですが、どんどん加速していきたいところですね!




