33話 案
面倒な事態になることを想定してそれをどうにか回避しようと樹海を駆けていくルートたち一行は、アーミー・エイプの大群がいる方向に向かって進んでいるパーティーを次々と追い抜いて行く。
そうして全員が揃って駆けているところでルートの探知範囲に続々とアーミー・エイプの反応が爆発的に増えて行き、そして、
「マインさん、まずいかも・・・」
とルートはこの状況では聞きたくない声を上げる。
「おいおいマジか、状況は?」
「一番近いパーティーは大体200m付近の場所にいて、今も少しずつ近づいてるよ。シークさんの読みどおりならあと100m近づいたらばれる」
「非常に笑えない状況だ。お前ら!全力で走るぞ!付いてこれない奴は退路の確保、ルートに続け!」
引きつった笑顔ではき捨てるように言った後、全員に聞こえるような声を出して指示を出す。
まず最初にルートが地面を力強く踏み込み加速、その後ろにシークが続き、レン、ルイ、ライ、ルナ、エリュと足に自信のあるメンバーがその背中を追って走りだし、その姿もあっという間に樹海の闇に呑まれて消える。
残されたマインたちは遅れながらもその後姿を追って移動していく。
妙に木々の揺れる音が拭いきれない不安を煽っているようだった。
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先ほどまでとは比べ物にならないほどの速度で木々の間を縫うように駆けるルートたちは、わずか1分程度でアーミー・エイプの大群との距離が残り1000mを切る所まで来ていた。
ルートは自分自身物凄い速さで走っていながらも、"探知"による反応の移動の様子を他のメンバーに向かって報告しており、そしてついに、
「まずいよ!残り50m!」
「「私たちが先にいく!」」
「お願い!このまま真っ直ぐ行けば良いから!進路上にいる一つ目のパーティーは無視してその先に行って!」
「「うん!」」
ルートのその言葉に反応して犬人族のルイとライの二人がギアを上げ、ルートたちとの距離が徐々に離れてゆき、その姿が消えていった方へと先ほどよりも心なしか速い速度で走っていくルートたち。
そして走っている最中に見えたアーミー・エイプのいる方向へと進んでいるパーティーに対してルナが説明をするということでいったん外れる。
シークの見立てによるとそのパーティーは隠密行動に長けているものが所属しているようで、大群から近い位置にいたのもその場所から遠目に情報収集をしようと準備をしていたからだろうという事なのでルートは警戒対象からそのパーティーを外して再び"探知"に意識を向ける。
「もうすぐ合流です。っつ!ルイさん、ライさんを含めたパーティーが囲まれました!」
その言葉を発したと同時に、どうやらアーミー・エイプの集団は自分たちの暮らしを快適にするためか適度に木を切り倒しているようで少し拓けた木々の隙間からその囲まれているパーティーも見えてきた。
どうやら囲まれているパーティーは見たところ奇襲を受けたのか肩を抑えてうずくまっている男を取り囲むような形で陣形を形成しており、そのパーティーをさらに取り囲むようにアーミー・エイプが陣取っている。
お互いにそれぞれが牽制をし均衡が保たれているように見えるこの状況なのだが、実のところ人側は刺激してはいけないというハンデがあるが故に飛び込んできた魔物に対して剣で切りつけるというような効果的な牽制が出来ず、剣をそれぞれに向けるだけという消極的な牽制しかできないという周りは敵だらけでなおかつ対処法が限られているという縛りを強要されているため、ルイとライが応援が来るといくら言ってもピリピリとした雰囲気が漂い、誰かが負傷するような事態になれば確実に爆発してしまう、まさに一触即発といったところであった。
それを持ってくれと願いながら、
「あれをどうにかできる方法はある?」
あせる内心を抑えつつ冷静にルートが尋ねるとレンは直ぐに首を横に振り、シークは人数が多いから全員を撤退させるのは難しいと言う。
「・・・・・・ルートの土魔法で囲むのは?」
「囲ってさらに脱出経路まで作るとなると魔力の放出量で刺激しかねないよ」
「あのバカどもを穴に落とすのはどうっすか?」
「けが人がいるようだから避けたいという気持ちはあるけど仕方ないね、十分出来そうだよ」
レンの言葉に従うようにルートは取り囲まれているパーティーの下の部分に範囲を指定、魔力を練ろうとしたときに、
「私の光魔法はどうでしょうか?」
エリュのその言葉に聞く価値がありそうだと判断したルートは作業を停止して話の続きを促す。
エリュはその意図を汲み取って細く白い指をあの緊張感漂う場所に向けると、
「丁度あのパーティーに注目が集まっているのであそこに強い光を放つ魔法を使うことで目を晦ませることが出来るでしょう。そして全員を抱えて離脱・・・というのはこの人数では難しそうなのでレンさんの言うとおり落ちてもらいましょう。幸い魔物たちは地面も整備しているようなのでその穴の上を土魔法で見かけだけでも戻せば消えたように見えるのではないでしょうか」
エリュの案を聞いてその穴を探してみるがルートの土魔法も出来る範囲のため、考える範囲では穴は見つからずそれを実行に移すことにした。
同意を得られたエリュはすぐさま魔力を練り、
「『閃光』」
打ち合わせをすることなく目をくらませるような閃光をあたり一面に無差別に撒き散らすという町中で発動すれば迷惑極まりない魔法を発動し、迷惑極まりないアーミー・エイプたちの視界を一時的に奪う。
そして同じく打ち合わせも無くルートもそれに合わせて魔法を発動。
「『穴』」
同じく突然の出来事に視界を奪われているパーティーの足元に無慈悲にも3mほどの高さの穴を作り出し、足場を失った彼らは重力に引っ張られてそのまま落ちていく。
続いて『変形』でその3m分の土を圧縮、強度を上げた土を見かけ上は元通りの地面に戻す。
そして視界を奪われていたアーミー・エイプたちは目を押さえ、擦って何とか見えるようにと無駄な努力を重ねるが、その努力も報われないまま時間の経過によって視界が徐々に回復し、押さえていた手を離しまだ少し霞む目で先ほどまでの場所を見ると、忽然と彼らの姿は最初から幻であったといわんばかりに消えていた。
次々と視界を取り戻してきたアーミー・エイプ同士がそれを見て顔を見合わせ、先ほどまで見ていたものがどこにも無いということに疑問を持ってそのうちの一匹が恐る恐る彼らが立っていた場所まで行き、そこらにあった棒でツンツンとして安全を確認し、次につま先で同じように確認、そしてゆっくりと中心に向かって歩く、当然ルートはそこに何も仕掛けていないため中心にその個体が立ったところで何も起こることが無い。
その個体に異常が無く、危険はないと理解したアーミー・エイプたちは次々とそこに乗り不思議そうに首を傾げるばかりで疑問が解消されるわけでもなく、彼らがいたと思わしき場所を取り囲んでいたアーミー・エイプたちは互いに顔を見合わせて首を傾げるばかりの狐につままれたようななんとも腑に落ちない様子でそれぞれ自分のすべき行動に戻っていった。
その一方、ルートによって作られた明かりの一切無い低い天井に狭い空間に突如として閉じ込められたレンいわくバカどもは一瞬たりとも気の抜けない極限の緊張からこの不意打ちで閉じこまれたというあまりの状況の変化についていけないようで自然と全身から力が抜け、手に持った武器が零れ落ちてその場に倒れこんだ。
バカどものお守り役のルイとライはそんな暗闇でまったく目が利かない状況の中、警戒を怠ることなく自信のある鼻と耳で周囲の様子を伺う。
「ライ、大丈夫?」「ルイ、大丈夫?」
「「大丈夫!」」
「たぶんこれってルートの仕業だよね」「その前のあの眩しいのはエリュちゃんかな?」
そうして阿吽の呼吸で情報を共有しあう彼女らは突然その犬耳をピンと尖らせ、その方向に薙刀を向ける。
その薙刀の切っ先が向いている方向の壁がゆっくりとコンビニの自動ドアのように開き、そこから控えめな光の球体が顔を出し、その後ろをルートとエリュが並んで、その後ろに隠れるようにシークとレンと並んで入ってきた。
そして、
「強引な方法でごめんなさい!」
「私の作戦だから彼に責任は無いのです。あんな方法で申し訳ありません」
といってルートが頭を下げ、その横でエリュも頭を下げた。
すると頭を下げられたルイとライは笑って、
「「びっくりしたけど助かった!」」
と言ってむしろほめたいというようにルートとエリュの頭をなでる。
まんざらでもないルートとエリュはしばらくその感覚に浸っていたのだが、
「・・・・・・そろそろいいか?」
というシークの一言で我に返り、戦闘者の顔に戻った。
「・・・・・・被害は?」
「「けが人が一人、エリュちゃん直してあげて!あの肩を手で押さえてる人ね!」」
「分かりました」
エリュはその示された人物の元に行き膝を突くと、
「『彼の者に救いの手を』」
肩に手をかざしてそう唱えると彼女の手から純白の温かみのある光がまるで粉雪のように発せられ、その患部の傷口をふさいでいく。
光魔法の中でも彼女が今行ったような癒す力というものは、魔法名を唱えてその効果が発動するのではなく、祝詞のような言葉を詠むことで神の御業と言われる人を治すという力を行使できるという仕組みになっている。
その詠唱によって傷口が塞がれた男はか細い声で礼を言うとそのまま気絶してしまった。
そして治療を終えたエリュが、
「あの負傷した男ですが、特にたいした怪我ではありません。ただ深くまで刺されたようで痛みが強かったために気絶したというところでしょう」
「・・・・・・それなら良い」
「という事は一応これで緊急事態は回避完了という事で良いかな?」
「だと思うっすよ」
「・・・ところでレンさん、その口調止めない?正直に言って凄く話し辛い。シンさんに言うような口調でお願いしたいんだけど」
「・・・そうか?それならそうする。ルート、これからどうする?」
「僕としてはさっさと連れて帰りたいところなんだけどね。エリュさん、治癒の力を持つ者からみて彼らは最低限動けそう?」
「負傷した男さえどうにかなれば大丈夫でしょう。ほかの者は緊張から急に解かれて力が抜けているだけなので少し待てば動けるようになるはずです」
「ありがとう。とりあえず動けるようになるまではここで待つしかないよね。先に無事に済んだということだけでもマインさんたちに伝えておきたいところだけどどうしようもないね」
「・・・・・・俺が行こう。ルートがいれば魔物との遭遇は回避できるだろうし、俺一人なら見つかることなく伝えることも出来るだろう」
「確かにそうですね。申し訳ないけどシークさん、お願いできる?」
「・・・・・・構わない」
そういうとまるでその場から消えるようにいなくなるシーク。
「相変わらずあれってどうなってるんだろうね。ちゃんと見ていたのに動きがまったく見えないなんて」
「大丈夫だルート、俺たちも分かってない」
「「だよね~」」
半笑いでそんなことを言う4人に対して呆気に取られたエリュは、
「シークさんは何者なのですか・・・」
と呟くものの誰も答えなどあいにく持ち合わせてはいなかった。
そして少しの間雑談をしていると力が抜けて倒れこんでいた人たちが徐々に起き上がり始めたため、ルートは地上の様子を探るために"探知"で情報を集めに行き、エリュは起き上がった人たちの怪我の様子を伺うために歩き回り、レンとルイとライは自分たちの実力を過信して愚行に及んだバカどもを冷ややかな目で見るという行動をしていた。
そしてルートが地上の様子を大体頭に入れて戻ってくると、倒れていた男たちが沈んだ様子で体をほぐしておりいつでも動けるような状態を作り上げていた。
そして気絶している男を同じパーティーメンバーが担ぎ、エリュやレン、ルイ、ライが準備が出来たというような顔でこちらを見ていた。
「準備はできてそうだね。シークさんがこっちの様子を伝えてくれているはずだから僕たちは樹海を出ることだけ考えて行動するよ。戦闘はもちろん避ける方針で遭遇したときは『万色の集い』と臨時メンバーの僕たちで相手をしよう。だから黙って守られててね?」
最後の言葉だけ威圧感を放ってバカどもに脅しをかけるルート、そして見事に脅されたバカどもはおとなしく後を追うことを決意した。
そして、
「行くよ!」
ルートはその言葉を背中を向けながら後ろにいる面々に投げかけ、樹海からの脱出を
目指して行動を開始した。




