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真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
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32話 討伐


"探知"で得られたクレイジー・ボアの反応を目指して歩いていたルート、そして、


「見つけた」


小さくそう呟く彼の目は、フーフーと鼻息と荒げ全身の体毛をいきり立たせており、灰色に近かった体色は全身で怒りを表すように真っ赤に染まり血走った目をしている全長6mほどのクレイジー・ボアを捉えていた。

そして隠れて観察しているルートの元までその振動が伝わってくるほど一抱えもある幹のように太い足を執拗なまでに地面に叩きつけている奴のその真っ赤な体をべったりと青く染め上げている染料の元なのか、周りには同じ青い染料と数えることが出来ないまでに執拗に踏みつけられた何かがあちらこちらに散らばっている。


彼は奴を視界に収めつつ、一気に魔力を練り上げる。

怒りで冷静さを失っている奴は通常では感じられるはずも感じられずに、ひたすら何かを踏み続けている。

そして彼はいつも通りに腰袋からナイフを大量に取り出すと、


「『磁力の手(マグネットハンド)』『貫き通すもの(ドゥヴシェフ)』」


取り出したナイフを磁力で操り、勢い良く奴に向けて発射した。

発射した瞬間、奴は踏みつけていたものから冷静さを欠いた頭の中で物凄い勢いで自分に向かってくる飛来物に意識を向け、そしてそれに向かって地面を陥没させるほど強く踏み込み突進していく。


まず一本目のナイフと奴が交差、ナイフは先ほどまで何かを踏み潰していた太い足を掠め、一筋の青い線が走る。

そして二本目のナイフと奴が交差、一本目とは違う軌道で奴の鼻に目掛けて飛び、深く突き刺さる。

次々と三本、四本、五本とナイフが奴の体のいたるところに深く突き刺さり、全身からナイフの柄が生えているような状態になっている。

そしてその突き刺さったところからツーっと青い血が流れ、ポタリポタリと地面に青い染みを作るが、奴はそれを一切気にせずに飛来物が飛んできた方向に向かってただひたすらに突進をする。


クレイジー・ボアは片割れが殺されると冷静さを失い、正面から戦いを挑めば第一級危険指定種相当の危険度を誇る魔物であるが、罠に掛けてじわじわと削っていく方法ではむしろ通常時よりも討伐しやすいということを知っているルートは『磁力の手(マグネットハンド)』を使って発射位置の偽装、ついでに突進していく方向をアーミー・エイプの小隊がいる方向に誘導して轢かせる。


奴にナイフを突き刺すという作業を20回ほど繰り返した頃、すでに片目はナイフが突き刺さったことによって視界は制限され、顔や体のいたるところから出血しているため最初に突進を行った時ほどの俊敏性は見る影も無く、それでもなおフーフーと鼻息を荒げながら暴れまわろうとしている。

ルートは確実に仕留められるように無謀な賭けに出ることなく、ジワリジワリと嬲るように体力を削って、視界も制限し、一歩一歩奴の命を刈り取るための段階を踏む。

そして彼の計画通りとでもいうように疲労が溜まったのか、奴は突然その太い足の膝が折れ顔から地面に倒れこむ。

その瞬間を待っていたルートはすぐさま魔力を練り上げ、


「『泥沼マッドプール』」


という地面を泥沼状に変化させる魔法を奴の体の下に発動して体全体をそれに沈める。

疲労が溜まって倒れこんだ奴には泥沼から抜け出そうにも一度崩した体勢を立て直すほどの力も無く、ただフーフーと鼻息を荒げることしか出来ずにいる。

そしてルートはそんな奴の前に姿を現すことなく『変形メイク』で体を固定すると、


「『断頭台ギロチン』」


奴の頭を大量の魔力で刃の切れ味と質量を増した土魔法で『断頭台ギロチン』で刎ねた。

怒りによって防御力も上がっていた奴の体であったが、膨大なルートの魔力で強化された刃に敵うことなくスパッと頭と胴体がきれいに分かれた。

ルートは奴が見えるところまで移動して足元にあった石ころを幾つか拾うと、生死を判断するためにそれに向かって投げるが、分かたれた頭と胴体はピクリとも反応することは無く、クレイジー・ボアの絶命を確認した。

そして土魔法で地面を操ってクレイジー・ボアの体を地面の上に出すと、全身に刺さったナイフを抜いて回収した後、『創水ウォーター』で全身を水洗いして全身にこびりついた血などを洗い流して"探知"を使って周囲の様子を確認しながら腐りやすい内臓や素材として優秀な牙といった部分だけを解体して取り出し、必要の無い部分を適当な穴に埋めると、ルートは『断頭台ギロチン』を変形させて『土人形アースゴーレム』を二体作り出して担がせる。


取った牙と血を拭って水分だけ簡単に抜き取ったナイフを腰袋に入れると、ルートは自分が入ってきた場所までクレイジー・ボアを担いで後ろを付いて歩く『土人形アースゴーレム』と共に歩いて出ていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ルートと『土人形アースゴーレム』が樹海から出てくると、丁度キラの町から来た集団が500mほど離れたところで何かをしているのが見えた。

ルートはその集団に近づくと、一番前でマインが指示を出しているので邪魔をしてはいけないと思って気配をなるべく絶って話が終わるのを待っていた。


どうやら話を聞いている限りでは話が始まってそこまで時間が経っているようでもないため意味の分からない単語などは出てこなくて要約すると、「面倒を避けるために樹海の様々なところにいるアーミー・エイプはあまり倒さないようにすること。ただし大集団がいる場所は確認するだけで良いのでそこに集まっている奴らに関しては一切手を出さないこと。樹海に入って何か見つけたら必ず報告すること。ただ、樹海の入り口から『無限』付近まで続く整地された地面や魔物の亡骸などは気にしなくて良い」といったものであった。

その気にしなくて良い異変の原因であるルートは最後の言葉を聞いてスッと目をそらした。


そして説明も終わりマインの行動開始の合図でそれぞれの班が一斉に樹海に入っていくが、その向いた先にいるルートと『土人形アースゴーレム』を見て、「うお!?」などといって驚きの声をあげる。

そして脇を通り抜けるほとんどの人に驚きの声をあげられたものの誰も疑問を呈することは無く、『万色の集い』と臨時メンバーだけが残ったところで、


「ハハッ、宣言どおりだな」


と楽しげな声で言うマインに、ニヤニヤと愉しげな表情でルートを見ているギルバートと当然というようなすました表情で見るシンと、残りのメンバーは信じられないというような表情でこちらを見ている。

そしてルートは今まで向けられた顔を思い出して、


「えっと、これどうしよう?」


困ったような表情をしてそう言う。


「どうしようたってなあ?ルナ、何か良い方法はあるか?」

「そうね、ある程度の大きさになれば収納袋に仕舞えるわ」

「そうか。というわけでルート、解体だ。お前ら、さっさと手伝って捜索に入ろうぜ」


マインとルナのその掛け合いがあった後、解体を手伝おうと近づいてくるマインに隣を歩きながら腰から抜いたナイフを放って渡すルナ、そしてその後ろに残りのメンバーが続いてそれぞれ「俺は皮剥ぐわ」「じゃああたしは肉切り分けるよ」と役割をさっさと決めて行動に移る。

そしてあれよあれよという間に毛皮と肉が分かれ、その残った肉もすぐにある程度の大きさに切り分けれられて行き、ルナが取り出した大きな植物の葉で包まれ縛られ、収納袋の中に収められていく。

あまりの連携に狩って来たルートを含めた臨時メンバーの面々は見ているしかなく、


「ルート君、この毛皮はどうするの?いらないなら燃やすけど」

「あっ、いらないよ」

「そう。リズ、お願い」

「うん。『火弾ファイアーバースト』」


聞かれたことにしか出来なかった。

そして5分も経たないうちに解体されて、今では収納袋に仕舞われてしまって影も形もなくなってしまった。


「ハハッ、解体も終わったし俺達も入るか。シーク、頼んだ」

「・・・・・・任せろ」


そう言ってシークが先行する形で後ろにあらかじめ決めておいた配置通りに隊列を組んで樹海へと入っていく。


樹海の様子は当然の如く十分前まで入っていたときと少ししか変わっておらず、その変化も大人数が行動しているために起こる音くらいなものであった。


シークはさすがというべきか斥候担当なだけあり落ち葉だらけの地面でも音を立てずに進んで行き、その何も見逃すまいという決意が篭った鋭い目をあちこちに向けて情報をかき集める。

そしていつもは騒がしい『万色の集い』のメンバーもその印象を一変させるような真剣な表情で辺りを警戒し、そして無駄な雑音を立てないように注意を払っている。

ルートは基本的にパーティーを組むことが無かったため、これがパーティーの連携なのかと素直に驚き、同時にそれが自分の手の届かないもののように感じた。

そして少しの間なんとも知れない間感情に流されそうになったが、一つ息を吐いてその感情に蓋をして"探知"を行う。

"探知"の網に引っかかる魔物はおらず、その代わりに多くの集団が樹海全体に散らばっているのが確認でき、特に異常な点は見当たらない。


先頭を進んでいたシークが突然立ち止まって振り返る。

その瞬間、それぞれが自分の武器を引き抜き、それぞれが死角を潰すような方向に連携してその切っ先を向ける。


「・・・・・・敵はいない」


シークがそう呟くと構えていた武器を下ろし、全員の意思を統一してシークの行動の真意をマインが問う。


「シーク、何かあったのか?」

「・・・・・・まだ何も無い。ただ俺がさっき探ってきた大群のいる方向に向かっている足跡が多いような気がする」

「そうか。確かにそれ自体は異常ってもんじゃねえけど、多いってのはどういうことだ?」

「・・・・・・俺が見てきた大群の情報は確かに"ギルド"からの情報の提供という形で伝えられた。だからその方向に進むということはわかる。ただどうにもその足跡の持ち主の大半はあまりこういった環境を歩きなれていない」

「つまり?」

「・・・・・・もしその歩きなれていない集団、つまりは隠密行動が得意ではなさそうな集団がアーミー・エイプの大群の様子を見に行ったとしたらということ」

「ハハッ、下手な隠密行動がばれたら逃げれば良いんだが、何かしらの理由でこちらから刺激する可能性があるってことか」


マインの推論に頷いて肯定の意を示すシーク、そしてその言葉を聞いていたメンバーに緊張が走る。


つまり、もしもその下手な集団がアーミー・エイプに見つかって、その場から逃げ出せなかった場合、例えば奇襲を食らって重症を負ったものがいて身動きが取れないだとか、はたまた目の前で仲間が殺されたりして感情的に攻撃を加えてしまう可能性があるということ。

そうなってしまうと、


「冗談ではありませんね」


エリュの言葉に全員が同意、それぞれ最悪の状況を想像したのか心底勘弁と顔に書いてあった。


「こうなったらさっさと移動するぞ。面倒なことになる前に止める。いいな!」

「「「はい!」」」


一行は先ほど取り出した武器を元に戻して、走りやすいようにいらない荷物をそこらに置く。


「マインさん、"探知"が使えるので先行するよ」

「おう、シークと一緒に頼む。そんじゃあ行くぞ」


そのマインの言葉と同時に"探知"を発動、一番後ろから先頭に踊り出てそのままの速度で走り出す。


「シークさん、大群のいる場所までの距離は?」

「・・・・・・俺たちが進んでいるこの方向で約3kmほど」

「パーティー数の予想は付く?」

「・・・・・・まっすぐ進んでいるパーティーは6、ただ弧を描くように移動しているパーティーもいるかもしれない」

「ありがとう」


シークの情報を手がかりに頭の中に反映している"探知"の反応を探る。

『無限』のように閉鎖的空間ではないため範囲に大幅な制限が掛かってしまうが、それでも2kmほどの探知範囲を持つ彼はすでに幾つかのパーティーの反応を捉えていた。


「2km圏内に直線上に進んでいるパーティーが4、その方向へ進んでいるパーティーが3だね」

「・・・・・・2km?」

「ハハッ、やっぱルートお前おかしいわ」

「否定はしないよ」


そういって話をしている間にも100m当たり20秒程度の速さで走っている『万色の集い』と臨時メンバー一行の頭の中では、あまり当たってほしくない予想がよぎり、自然と足の回転数が増し、駆ける速度が上がっていくのであった。

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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