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真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
31/84

31話 槍

よく考えればまだ『無限』から出てきて二日しかたっていないことに気がつきました。


あと2,3話で長ったらしい二日目が終わるはずです。


・・・・・・下手をすると総力戦についての話のほうが少ない話数になるかもしれない。


そんなこんなで鐘が一度鳴り、ルナによる『万色の集い』講座も終わって後は準備だけという段階に入ったところで、マインの一言でそこからそれぞれの自由時間に突入した。


メンバーは今回の戦いに対して恐ろしく感じたり逃げたくなるというような感じは一切見えず、それぞれの自由時間へと突入していく。


ピナが適当な二段ベッドの下側を選んでそこに倒れこむとそのままスースーという寝息を立てて夢の世界へと旅立って行き、レンがそれを見てニンマリとして眺めていて、それをルイとライにからかわれている。

ギルバートは暑苦しそうな全身鎧を脱いで汗を布で拭い、ミツナとタタラがもう我慢ならんとどこから取り出したのか酒を手に一杯やろうとしているところでルナが二人の頭に一発拳骨をお見舞いし、その衝撃で宙に舞った酒を手で掴むと自分の荷物の中に「没収」という簡潔な言葉と共にしまいこんだ。

どうやら部屋に一つしかない窓の近くではマインとシークがなにやら話をしていて、一番端の二段ベッドの下の方でリズが静かに本を読んでいた。

この雰囲気に入れそうも無い臨時メンバーたちは顔を見合わせてどうしたら良いんだと話をしていて、とりあえず自分の寝る部屋の確認をして荷物でも置いてこようという事になって、イーサとエリュは部屋を出て行った。


影部屋シャドウルーム』の中にすべてのものを仕舞っているルートは、部屋だけ確認したら先に町を出て、セアラに頼まれた物見櫓の建設と自分が放置してきた第一級危険指定種のクレイジー・ボアの討伐をしておこうと考えて、マインにその旨を伝えると「気をつけろ」とだけ言われて反対など何も無くすんなりとキラの樹海に向かえることになった。

そしてルートは部屋を出て行こうとすると後ろで、


「ルート君、少し時間をもらえませんか?」


とシンが声をかけてきた。

ルートはどうしてシンが時間がほしい言ったのかが良く分からず、疑問符を頭に浮かべながら、


「・・・どうして?」


シンの発言の真意を探るように彼はそういうと、


「模擬戦を始める前のこと、覚えていますか?」


ルートは頭の中で記憶を漁ると、シンの「ルート君、この試合が終わったら私に少し時間をくれませんか?」という言葉が網に掛かり、その事かと思い至った。

ルートは頭の中で自分のこれからの予定を思い浮かべて、シンに対して割く時間があるかどうかを計算しなおし、今から少しだけなら今後に影響が出ないと判断する。


そしてルートはシンに「そうだね、少しだけなら大丈夫だよ」と了承の返事を返すと、シンはマインに「少し出てきます」と言ってルートよりも先に部屋から出て行った。

マインもそのシンの様子を見て「またシンの暴走癖が出たぞあれ。ルート、面倒をかけるが一つ頼むわ」といって丸投げする。

ルートはそんなマインに曖昧な笑顔を向けることで返事としてから、シンの後を追って部屋を出て行く。


広間にはシンがいて「ここではなんですから」と暗について来いと言っているような様子でわき目も振らずに階段を下りていく。

3階の広間では群青騎士団の面々がミーティングのようなものを行っていて、2階ではセアラが教台の上に立って机の上に乗せた水晶球のような魔道具の説明をしていた。

そうして誰もいないだだっ広い1階から砦のような様相の拠点を出て、北門まで少し歩くと周りに誰もいないということを確認して、シンはクルッとその場で回って後ろについてくるルートに向き直る。

そして背中の槍に手を掛けながら、


「正直に答えてくださいね。私個人としてはルート君を信じていますが私の懸念事項が真実だった場合、私があなたをここで貫きます」


模擬戦のときとはまた違った緊張感、いや、殺気と魔力を迸らせているということでシンの本気らしい強者独特の圧というものをルートに対してぶつける。

ルートはシンがその状態になる寸前に大きく距離を取って顔から感情の色を落とし、戦闘体勢に移行する。

ただルートもシンの突然の行動に疑問を持っているのか武器までは取り出さないものの、腰は低く保って一挙手一投足に注意を払っている。

そして再びシンが口を開き、


「あなたの使っている槍、あれはどこで手に入れたものですか?」

「あれは僕の父様がくれたものだ」

「父君がですか。そういえば先ほど群青騎士団長殿に言っていたようにルート君、あなたは元貴族ですね?」

「・・・・・・」

「"セルファ"」

「!?」

「肝心なことを聞きましょう。あなたは5年前に殺害された辺境の"セルファ"の領主、戦闘貴族の唯一の生き残りではありませんか?そしてあの貴族の生き残りの名前はあなたと同じ、ルートという名だったはずです」

「・・・・・・どうしてそう思ったの?顔なんて知らないでしょう、その生き残りの顔なんて」

「ええ、もちろん知りません。ただそのセルファを家名にもつルートという名前の人物がその槍を持っているということこそが私にとっては答えのようなものなのです」

「・・・・・・」

「その沈黙は肯定と受け取っても構いませんか?」

「・・・・・・」

「ルート君、私のココを見てください」


顔を俯かせていたルートが顔を上げて見たのは、シンが自分の頭から生えた白い角を指差しているというものであった。


「これがあなたの槍の元ですよ」

「?」

「まあ正確には私の父上のものですが。竜人族には自分が認めた者に対しては"竜化"という技を使って自分の角を折り、それを相手に渡すという習慣があるのです。そして私の父が今までに一度だけ角を渡したことがあると言っておりまして、その相手というのがセルファと呼ばれる貴族だと。ここまで言えば分かるでしょう」

「・・・・・・そうか。シンさんの予想通り、僕がルート・セルファ、セルファ最後の生き残りだよ」

「やはりですか」

「それ誰かに言った?」

「いいえ。わざわざ言うようなことでもありませんから」

「そうだよね。それに僕はもうその名前は捨てたんだ。だから言わないでもらえると助かるよ」

「分かりました。っと忘れるところでした。私の本題はルートさんの正体を暴きたかったのではなくてですね、あの槍について説明をしたいというものなのですよ」

「説明?」

「はい。あの槍はいわゆる魔槍の一種なのを知っていますか?」

「知らないよ」

「一口に魔槍とは言っても伝説にあるような炎を出せるようなものでは無く、簡単に言えば共に成長する武器といったところでしょう」

「共に成長する武器?」

「ええ。具体的に言えば魔力を流せば流すほどその魔力との親和性が高まり、頑丈になり魔力の通りが良くなり、また自己修復もします。その部分だけに限っては伝説の武器をも凌ぐかも知れません」


その言葉を聞いてルートは腰袋から白い槍を引き抜き眺める。

ルートにとってはある意味で一番付き合いが長いモノになるのだろうが、彼の父もシンが言うような特性があるなど一言も告げてはいなかった。

というよりもそもそも彼の父自体、シンの父からそんな特性があるだなんて聞いてもいなかった。

彼はこれまでのことを確かに思い返してみると、この五年間で欠けたことも折れたことも一度も無く、さらに『無限』の攻略を始める頃には研ぐことすら無くなった。

主観的、客観的に見ても明らかに異常な武器なのではあるが、迷宮の最奥に到達することだけを考えていたルートにとって、それを気にする必要など無く注意を向ける対象ですらなかったのだと今更ながら考えるのであった。


「これにそんな特性があるなんてね、知らなかったよ」


そういうとルートは槍に魔力を流して、演舞というにはあまりに無骨、魔物を屠ることだけを主軸に置いた残酷でありながらもどこか美しい操作を行った。

1分ほどそれを続けて満足したのか槍を腰袋に仕舞うと、


「まあ、ある日突然その特性について実感することは無いよね。ありがとう、シンさん。良いことを教えてくれて」

「構いません。元々私の目的の一つでしたから」

「なら良かったよ。僕はこれからセアラさんに頼まれた物見櫓を建てなきゃいけないから先に行ってるね」

「ルート君なら問題は無いと思いますが気をつけてくださいね」

「分かったよ、それじゃあ行ってきます」


そう言って門番もいない北門を出て行く。


空は雲ひとつ無い快晴、ただ何事も無ければ良いのにと願うばかりであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


キラの町を出て10分程度歩いたところでルートは立ち止まり、町と樹海と自分が今いる場所との距離を測るために何度か見比べ、大体セアラの条件どおりの場所に近いところだと判断すると、膨大な魔力を練り上げ、


「『石槍ストーンランス』」


と一本の高さ10mほどの大きな石の槍を作り出した。

そして続けて、


「『変形メイク』」


その言葉に応じるようにその巨大な石の槍はグニグニと形を変え、槍の先端部分には屋根のついた3畳ほどの空間が出来上がり、根元からそこまでをつなぐように石の梯子が掛かり、物見櫓というよりも灯台に近いようなものになってしまったが、本来の高台からの見張りという仕事は果たせそうなのでこれで良いと彼は結論付けた。

一応安全のためにその灯台のような物見櫓-見張り台の周りを土魔法で弄って軟らかくするという、雨が降れば面倒なことになりそうな仕掛けまで用意しておくのであった。


そして適当な位置に見張り台を設置すると、キラの樹海の方へと歩いていく。


15分後、彼の姿はキラの樹海の前にあった。

そこには彼が感情の制御を失い、八つ当たりをした結果出来た微妙に整備された道が樹海の奥へと永遠と続いていた。

彼はその光景を見て、自分が昨晩どれほどの怒りに任せて暴れまわったのだろうかと脳内を探ってみるがどうにも記憶に無く、自分の頭のネジの飛びっぷりが少し恐ろしく感じた。

それと同時にふと、また同じような自体になればこんな風に暴走してしまうんだろうかと考え、そして決して楽観視できそうもないイメージが頭に思い浮かび、そのイメージを言葉にしてしまうことが恐ろしく考えるのを止めた。


自分の考えを振り払うようにルートは"探知"を樹海に向かって発動、目的のクレイジー・ボアの捕捉を試みる。

そして驚く、返ってきた反応のほとんどがアーミー・エイプであったからだ。

より鮮明に描写するなら第一級危険指定種級の強さを持つ魔物以外がアーミー・エイプによって狩り尽されているからだ。


「シークさんの言うとおり多そうだね」


そう呟くとルートは自分で整備した道を辿って先ほどの"探知"で発見したクレイジー・ボアの元にたどり着くため、樹海の中に入っていく。


ルートが整備した場所以外は鬱蒼と木々が茂っていて、風で木々が揺れたその一瞬だけ日が差し込むとき以外基本的には薄暗い。

それに一本一本の木の幹も太く、直径1mほどは当たり前、時折3mほどのモノも見かけられ、足元には枯葉なども散らばっており、歩くたびにカサカサと音が鳴りどうにも魔物側にしても人側にとっても隠密行動はとりづらい。

視覚的に制限され、聴覚的には注意を払わなければならないという慎重な行動が要求されるこの舞台の中、現在唯一の人側の一員として、


「こんな条件の中での殲滅作戦は避けたいところかな。どうにかしてあのサルたちを樹海の外におびき出して平地で勝負をしたいところだね」


そんな感想が漏れてしまう程度にこの樹海の中で戦うという条件は、少なくともアーミー・エイプが木と木の間を渡って移動しないという条件でもなければ人側の有利になることは無い。

であればどちらにも有利とも不利とも働くことの無い平地でのガチンコ勝負の方が勝敗はともかく戦いやすいだろうという思いが込められていた。

そのルートの言うとおりの平地での戦いになったとしても明らかに頭数に差があるのでそれでもなお不利の方向に天秤は傾くわけなのではあるが。


"探知"によるとすでにクレイジー・ボアはアーミー・エイプを屠っているようで、その周囲は多くの骸が転がっている。

ルートはこのままアーミー・エイプを倒してもらっていた方が良いのではないかと考えはしたものの、自我を失っているクレイジー・ボアが人側に被害を与えるという可能性を考え、討伐するほうがいいと結論付け、アーミー・エイプの警戒包囲網を潜り抜け、目的のクレイジー・ボアの元へとゆっくりと確実に近づいていった。


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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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