26話 ミーティング
セアラが去っていった後にマインが、
「ルート、お前どう動く?」
と尋ねてきた。
ルートは、
「それって僕の行動を聞いてるんだよね?とりあえずクレイジー・ボアは1人で狩って来るよ。その後は未定かな」
と何でもないことのように答える。
ちなみに第一級危険指定種のクレイジー・ボアなら少なくとも"青"相当の力は必要で今回のようにオスだけ残っているならば"藍"相当の力は必要とされている。
それをちょっと散歩に行ってくると言うような感じで話す彼に『万色の集い』のメンバーは結構引いている。
「ハハッ、そうか。んじゃ終わったらうちに混ざれ。未定なんだからいいだろ?この中じゃ一番ランクの高い俺がいるから激戦区に当てられることになるだろうがお前なら大丈夫だろ?」
マインも同じく何でもないことのようにルートを誘っているのを見て、同じようにメンバーに引かれている。
「僕が混ざったら連携崩れない?」
「お前には俺がカバー出来ない横と背後から迫ってくる魔物の対処を頼みたい。それなら連携も崩れないし前方の魔物だけ薙払えばいいってなるとうちのメンバーも楽になるから心配すんな」
「他の人たちはどうなの?」
そうルートが言うと、
「リーダーが大丈夫って言ってんなら問題ねぇよ」
「若けぇもんがそんな心配すんじゃねぇ」
「「問題なーし」」
レン、タタラ、ルイ、ライがそう言い、他のメンバーは肯定するように頷いている。
それを見たルートにマインがニヤッとした顔で、
「という事らしいぞ?」
と言った。
「そういう事なら参加させてもらおうかな。それでは皆さん、改めまして"水"の戦闘者、ルートです。宜しくお願いします」
ルートはそう言って頭を下げた。
すると『万色の集い』のメンバーが近寄ってきて、握手をしたり肩をバンバンと叩かれたりと彼等なりの歓迎をしてくれたようで心が暖かくなった。
「んじゃルートも確保した所で姉ちゃんも含めて1度戦闘者を集めてミーティングと行きたいんだが、‥‥‥まだ揉めてやがんな、連中」
マインがセアラの方に視線をやってそう言った。
ルートも同じように視線をやると、セアラを取り囲んで大きな威圧する様な声を上げている件の連中がいた。
それを見て、
「そういう事をするからランクが上がらないというのに、本当に愚かですね」
ルナがズバッと斬り捨てる。
セアラは受付嬢として働いていることもあってか連中に気圧されてはいないが、それでも気分の良いものでは無いだろう。
「確かにな。まだお願いをしている体ならまだしもあんな恫喝するようなやり方をとるような連中じゃ100年経っても昇格なんて出来ねぇぞ」
「‥‥‥不愉快だ」
マインもシークも眉を顰めていてそろそろ止めようかとその集団に向かって歩き出したその時、
「だぁあ!話になんねぇ!いいから俺達も前線に出せ!あんたは黙って頷いてればいいんだよ!」
話にならないのはお前の方だというツッコミが来そうなことを口走った男は腰にぶら下げた傷一つない新品同然の剣を抜き放った。
連中の中にも流石にそれは不味いと止めようとした者もいる中、それに触発されたように同じ様な剣を持った者達が次々と剣を抜き出した。
剣を抜く前までは眉を顰めながらも静観していた周りの戦闘者たちは、制圧した時にセアラに剣が刺さらないように連中を取り押さえれる瞬間を待つ。
そして剣を向けられたセアラはというと、
「流石に剣を抜かれてはこちらもしかるべき対処をさせていただきますよ?今引けば降格と無償奉仕5年で済ませます」
聞く者によっては煽っているように聞こえる最後通牒を叩きつけるようなことを言う。
それを案の定挑発と受け取った連中は額に青筋を浮かべると、
「ああそうか。それじゃあちっとばかし痛い目見てもらおうか!」
と剣を突き出す。
そして刺されると思ったのかその場にいた一部のものを除いた者達がその男に攻撃を加えようと動き出した瞬間、
男の身体が宙に浮いた。
「「「はあ!?」」」
「何だルート、お前知ってたのか」
「セルファの親切な職員さんにアレ、教えて貰いましたから」
「お前、何なら俺より知ってんじゃねぇか」
動かなかったマイン、ルナ、ルートはそんなことを言っている。
一番驚いているのは今まさにナイフを首に当てようと一瞬で駆け寄ったシークだろうか。
目の前で起こった出来事に驚愕したようで一瞬前の格好のまま固まってしまっている。
「あれ?シークさんは知らなかったんですか?」
「アイツ基本的に自分からは"ギルド"に寄らねぇからな。見たことなかったんだろうよ」
「シークが"ギルド"に足を運ぶ時はコレが一緒ですから。こんな強面が入ってきた"ギルド"は一瞬で静まり返りますからね。コレが出て行くまでは誰も争いなんてしません」
と親指でマインを指してそう言うルナ。
「ルナ!お前酷くね!?」
「うるさいわ。なによ、事実でしょう」
「俺お前の旦那だよな!?」
「あー、うん。そうね」
「なんで考えた!?」
夫婦喧嘩をしている2人とルートを除いて場が静まり返り、その隙を逃さずに次々と抜剣した連中を投げ飛ばしたり地面にキスをさせたりと、全員を制圧し終えたセアラは自分に注意を向けさせるように両手をパンパンと叩き合わせると、抜剣まではしなかった取り囲んでいた連中に、
「貴方達はどうする?」
と冷酷な笑みを浮かべてそう言った。
連中はそれを受けてピシッと背筋を伸ばして、
「護衛依頼を受けます!」
「うん?」
「護衛依頼を受けさせて下さい!」
「そう、なら宜しくね」
セアラはそう言うとマインたちの方へ歩いてきて、
「それではミーティングを始めましょうか」
面倒事が片付いたと満面の笑みでそう言った。
「いや、セアラさん。どうにもさっきのでみんな固まったまんまだよ」
「あら?ルート君が平然とし過ぎてて忘れてたわ。けどシークさんが知らない受付嬢の技能どうして知っているの?」
「セルファでは調子に乗った戦闘者が受付のお姉さんを口説こうとして投げ飛ばされる光景ってたまにあったからね。それに僕もちょっと教わったし」
「アレって教えてもいいものなのかしら。」
「"ギルド"支部長が教えてくれたんだよね」
「セルファの支部ってあの"女帝"?」
「そうですけど、それ本人が聞いたら怒りますからね?具体的にいえばその技能の鍛錬相手に選ばれます」
「好き放題してるわね」
「確かにそうですね。それでもやることは人一倍やっているから何も言えないって嘆いてましたよ」
まだ夫婦喧嘩している2人を他所にセアラとルートはそんな話で盛り上がっていた。
そしてどうやら他の人たちの意識も戻ってきたようでざわざわと騒がしくなり始めたので、セアラは会話を打ち切ると手をパンパンと叩き、
「皆さん、確かに言いたい事も聞きたいこともあるでしょうがそれは今この状況ですることではありませんので、早速護衛依頼を受ける方と討伐依頼を受ける方に分かれてください。討伐依頼は私の方です」
「それであたしの方が護衛依頼だ」
いつの間にそこにいたのかセアラの隣に立っているのはもう一人の受付口にいた女性である。
そしてその指示になんだか腑に落ちなさそうな顔でしぶしぶと従って並んでいく。
「それでは私たちは引き続きこの中央会館で打ち合わせを行いながら騎士団を待ちます」
「あたしたちは南門に行くよ。もうそっちにはこの町の兵士に備蓄品を運ばせて向かわせているから急ぐよ」
そう言うとさっさとホールからもう一人の女性が出て行き、その後ろを若手たちが追いかけていく。
「あちらも移動を始めたようなのでこちらはミーティングを始めましょうか。あ、ルート君、悪いんだけどあの連中もさっきと同じように縛ってくれる?」
「分かったよ。『土人形』、5体おいで」
そう言うと隅っこの方で伯爵達を囲っていた『土人形』の内5体が外れるが、さっきとは大違いで誰もそれを好機と見て逃げ出そうとしない。
どうやら十分に『土人形』の、もといルートの恐ろしさが骨身に沁みたらしい。
彼はついさっき作ったものなので片手間に『変形』を使ってさっさと枷を作って『土人形』にそれを嵌めさせていく。
そして全員に枷を付け終えた『土人形』は先程の位置に戻って腰を下ろす。
「よし、おしまい。あれ、どうしたの?そんな驚いたような顔して。まだセアラさんのアレが気になるの?」
と言うと、
「確かにそっちはそっちで驚いたのだがルート君の魔法にも驚いたんだよ」
「どう考えてもあの構成速度はおかしいです。一度『土人形』を崩壊させてその土で『変形』の魔法を使って変形させたとしたらどう考えてもあの構成速度の3倍の時間はかかるはずです。その時間は魔法の習熟度で変わるものでは無いですし。となるとあの『土人形』に使われている土の原材料が魔力を伝達しやすい性質を持っている?」
シンは冷静に言っているようにも見えるがそれでも彼の尻尾はブンブンと振られており、リズは今のルートが使った魔法の非常識さを見抜いたのか自分なりの考察を展開し始める。
全く興味の無さそうなピナはさておき、それを見ていた人たちは意味が分からないといったようで首をかしげている。
セアラはとりあえず首を傾げているだけなら話は進みそうだと、
「ルート君の魔法も後回しにしてさっさとミーティングに入りますよ」
話を始める。
すると全員が話を聞く体制に入りそれを確認した彼女は、
「それでは作戦は先程説明したので簡単に確認だけします。作戦はキラの樹海を戦闘者と騎士団とで包囲し、強襲部隊と待機部隊に分かれて第二級特別危険指定種のアーミー・エイプの根絶を図るというものです。そしてここからが本題です。我々は『無限』の"大暴走"に対する防衛拠点でもあるこのセラの町を中心に動きます。ただし今回はより詳細な状況が知りたいので樹海とこの町の半分くらいの位置に物見櫓のようなものを建設したいと思います。この中で視力がいい方や夜目が利く方、合図として使えるほどの光魔法や火魔法が使える方や伝令に走れそうな方はいますか?」
そう尋ねる。
すると『万色の集い』のメンバーからはシン・リズ・ルナ・シークが手を上げ、"水"からから二人、"黄"からは6人程度が同じように手を上げた。
そして手を上げた者の顔を確認すると、
「分かりました。それでは戦闘者からはあなた方を警戒部隊として新たに設立してそこに据えたいと思うのですが、『万色の集い』の方々には強襲部隊を任せたいと思うので"水"と"黄"の方を中心に、事態が長引きそうなら『万色の集い』の方からも人を出して欲しいのですがいかがでしょうか」
セアラは周りの顔を見渡してそう言うと、これも反論が無いようだったので話の続きを話す。
「問題はありませんね。それでは次に先程も少し言いましたが基本的には強襲部隊の方はこの中で最高ランクの"紫"のマインさんに任せて、待機部隊のほうは私が受け持ちたいと思います。質問はありますか?」
セアラは問いかけると"水"の男が手を上げたので「どうぞ」と手を向けると、
「その部隊の編成は固定か?そうなら強襲部隊の負担が大きいと思うのだが」
そういう。
するとセアラは、
「基本的に固定で行きたいと思います。それに追加の戦闘者を王都の"ギルド"が派遣するということなので戦闘者集団と騎士団とで2交代制が出来ますから負担はある程度軽減されると思います。それに待機部隊にはこの町に残った人たちの治安維持や他の拠点との情報交換やそのまとめを任せますので、同じ人に任せた方が円滑に情報のやり取りが出来ると考えているからです」
そう言うと、質問した男は「分かった。以上だ」と言って黙った。
またセアラが「他に質問は?」と問いかけると他の人たちがどんどんと手を上げ質問し、それに答えていくという状態が続き、全員の意思統一が十分に行えた所で、
「突然失礼します。たった今、群青騎士団及び"ギルド"所属の戦闘者が到着しましたのでご報告に参りました」
とこの町の兵士がホールに入ってきてそう言った。
どうやら戦いの火蓋は1時間もしないうちに切って落とされることになりそうであった。




