25話 厄介事
気合十分といった調子で"悠遠亭"から出てきた『万色の集い』+ルートであるがルナが「あっ」と声を上げ、
「そう言えばあなたが手に持ってた人はどうしたの?」
とマインに向かって言うとマインは、
「忘れてた。すぐ取ってくる」
と言うや否や、踵を返し再び中に入っていった。
マインは1分もしない内に手荷物のように男を持って出てきて、
「よし、行こうか」
そう言うと駆け出した。
『万色の集い』のメンバーとルートはそれを追いかける。
大通りには先程よりも人の数が増えたようで流れに逆らって動く彼等にとっては走りにくく、中央会館に着くまでに少し時間を要した。
それでもなんとかたどり着いた中央会館の前でマインとシークとサッと目を逸らしたルート以外の彼等は奇妙な光景に足を止めていた。
その奇妙な光景とは勿論、地面から生えた花のように埋められている人の群れである。
どうやらマインとシークとルートが出た時よりも数が増えていることから逃げようとした者が続出したということが容易に見て取れた。
その地面から生えた人々は最大限抜け出す努力をしたようだが、どうにもそれが成果へと繋がらなかったようで力無く顔を地面に付けていた。
それでもなお聞こえた足音の方向に一欠片の希望を込めた顔を向け、そしてその者達はその集団の先頭にいるマインの顔を見て顔を青ざめさせた。
それを見た『万色の集い』の者達は自分たちのリーダーはいったい何をしたのかとマインの背中に容赦ない視線を送る。
特にルナの視線は一段と切れ味が鋭く、それを受けたマインは額に汗を浮かべ、
「言っとくが俺じゃねぇからな!?全部ルートの仕業だから!」
と叫ぶように主張する。
『万色の集い』のメンバーの目がルートに向くが一切目が合わず先程から明後日の方を見ている。
ルイとライが双子ならではのコンビネーションで彼の周りをグルグルと回って視線を合わせようと激しく動き回るがどうにも合わない。
そこにピナが混ざり、ピナが混ざったのを見てレンも一緒に参加する。
四人がかりでは流石のルートもきついものがあったようで先程までは一切見ていなかった地面から生えた人たちの方に目線を向けると、今までは周りの人で見えなかったのだろうがこちらをギョッとした目で見て、そのまま泡を吹いて気絶した。
「「「・・・・・・」」」
既に誤魔化すことは出来ていなかったのだが最後のか細い希望の糸も切れてしまったようで全員の厳しい目が向けられた。
「あ、あのね?これはその成り行きと言うか、その~・・・・・・。僕がやりました」
ついにルートは耐え切れなくなり両手を挙げてそう白状した。
「ハハッ、まあルートの所業はまた酒のツマミにじっくり語ってやる。入るぞ」
そういうとマインはさっさと扉を開けて入っていく。
そしてルートは、
「勘弁して欲しいよ、まったく」
と肩を落としながら同じように中に入っていく。
『万色の集い』もその後ろについて、ルートによって萎びてしまった人たちで作られた花畑を通り抜けて中に入っていった。
中央会館の中には隅っこに転がされている集団を除いて大体50名ほどの人がいた。
その人たちの中にはルートが身に着けているような少し年季の入った防具を身に纏っている者から一切傷が無いような防具を身に纏っているような者までいた。
前者と後者の構成比は大体4:6といったところで、後者の方が平均年齢は低い。
この差が今回の戦いで隣で肩を並べられるかどうかを克明に示しているようだった。
そしてその人たちに囲まれるような位置にいたセアラに近づいていくと、向こうもこちらに気がついたようで話をしていた人に断りを入れると近くに寄ってきて、
「演説聞きましたよ。期待に応えていただきありがとうございます」
と言って頭を下げた。
「アレで役に立てたんなら何よりだ。それで今はどんな状況だ?」
マインは軽く前半部分を流すように言うと、現状についての説明を求める。
「それではマインさん達が出て行ってからのことを話しましょう。っと後ろに居られるのは先程仰っていた『万色の集い』の方々ですか?」
「ああ」
「分かりました。マインさん達が出て行った後、私はこの町の戦闘者に対して緊急依頼を発令しこの中央会館に召集しました。そして集まった戦闘者に対して状況の説明とそれぞれに対しての役割の分担などをしていました。ここまでは予定路線でしたがどうにも一筋縄ではいかないようで少々問題が起こりました」
「問題?」
「はい。一つはこの町に家族が居る戦闘者の一人から、避難民の護衛をするから前線から外してくれという希望が出たので十分話し合いをした結果、その者を責任者とすることで纏まりました」
「良かったのか?」
「その者は"水"で貴重な戦力なのですが、私としても護衛に一人くらいは任せたいと思っていたので問題はありません。そこで話が終われば簡単だったのですが」
セアラはなにやら疲れたような表情になると、
「どうにも"橙"の戦闘者が俺達も戦いに混ぜろと言い出しまして」
そう言った。
それを聞いてマインたちは意味がわからないというような顔になって首を傾げた。
「なんでも、俺たちは実力なら"黄"くらいはある。ただ昇格するのに十分な成果を得る前に事が起きたので俺たちは除外されてしまった。"ギルド"としても戦力は多い方がいいだろうから俺たちを混ぜろ。との事だそうですよ」
セアラは頭痛を抑えるように頭に手を置くような仕草をした。
そして、
「そいつらは"ギルド"の判定基準を知らねえのか?」
「愚かですね」
「・・・・・・それで"黄"相当とは大きく出たな」
「僕でも知っていたのにね」
マイン、ルナ、シーク、ルートはそう言い、他のメンバーはその言葉に同意するように首を上下に振った。
「ええ。皆さんも知っての通り戦闘者の"黄"への昇格条件はそもそも魔物の討伐だけではありません。"ギルド"の職員による素質の判断ですからね」
セアラはそういった。
討伐した魔物の強さによってランクが変わるのは"黄"から"水"に昇格するときからである。
"黄"以上からは強さというものが判断基準になって戦闘者の資質を判断するようになる。
しかし"橙"まではいわば戦闘者になるための研修期間のようなものなのであって、強さはあまり関係してこない。
戦闘者はどうしても強さというものを判断基準にしなければいけない以上、その力に溺れてしまうような者が溢れかえり、その者たちが"ギルド"所属だとなると"ギルド"自体の信用にも関わってきて、やがては依頼など来なくなってしまうだろう。
だからこそなるべくそういった輩を生み出さないように"橙"まではその者の性質を見て判断する期間になっていて、依頼の達成状況はどうか、話はちゃんと聞いているかなどを総合的に判断して"ギルド"の看板を背負うに足る人物かを見極めているのだ。
極端な話、最弱と言われているルートがキラの樹海から出てきて町まで歩いていたときに見た犬の魔物さえ倒せれば、あとは採取依頼や雑用依頼などをキチンとこなせていれば"橙"までは昇格できる。
しかし今回文句をつけている輩はどうにも人の話を聞いておらず、もう一度聞くということもしなかったようであった。
ちゃんと"橙"に上がったときの説明で"黄"に対する昇格条件は説明しているのだから。
「と言うわけで"黄"にも上がれていないような者を現場に連れていくだなんて考えられませんよね。しかもこんな異常事態だっていうのに」
「同感だな。いくら戦闘者は自己責任だとは言っても目の前で死なれても目覚めが悪いし、そいつらを助けるために俺の仲間が傷つくなんてとこは見たくねえ」
「ですよね。それにそんなことを言い出した人たちは全員そろそろ見限りが近いですし」
「それを聞いてなおさら連れて行きたくなくなったぜ。怖いもの知らずじゃなくてただの馬鹿じゃねえか」
見限りが近いと言うのは"ギルド"の品位を損なう可能性のある者に対して行う措置までの期間がもう残りわずかだということを示す言葉だ。
その措置とは一番軽いので罰金・強制労働、次に除名処分、そして最悪のものは死だ。
つまり見限りが近い者と言うことは何かをしでかす可能性が高いということでもある。
そしてセアラは疲れきったような声を出して、
「あまりにもしつこいのでもう一度"黄"への昇格基準を説明したのですが、それでもなお同じ事を繰り返してきたのです。先ほどの皆さんが入ってきたときに見ていたのはそういう事態でした」
最後に溜息を吐いた。
マインは、
「言って聞くような連中でもないと。めんどくせえな」
「ふっ飛ばしてやりましょうか」
「・・・・・・話を聞くだけ無駄だろう」
「埋める?」
ルートは少し冗談交じりに言ったつもりなのだが、みんながその意見を深々と考え込んでしまった。
「ハハッ、確かにルートのいう案もありと言えばありなんだがな」
「・・・・・・冗談だったのに」
「正直一考の余地は少なからずあるからな」
「そうですね。伯爵とは違う意味で現場に混乱を招きそうですから同じような対処でもいいのですが、自称"黄"程度の戦闘力はあるそうなので」
マインもセアラもどうやら肯定の意を表す。
「実際のところ姉ちゃんはどう見てる?」
「確かに正面から魔物と戦えば"黄"程度の力はあるでしょうけど、今回のように作戦を立てて行動するような相手だと簡単に釣られてしまうでしょうね。そして釣られていることにも死ぬ直前じゃないと気づかないでしょう」
「最悪だな。絶対連れて行きたくない」
「ですよね。個人的にはそれでも何とか対応できる"水"相当の実力の持ち主なら目を瞑ってもいいのですが"黄"相当じゃ力不足ですね。はあ、どうしましょうか」
そういってセアラは眉間に皺を寄せて考える。
「心を折ってもいいなら力尽くで判らせてやってもいいんだがな。ただそうすると護衛の数にも影響するからな。どうにも面倒だ。ルナ、何かないか?」
そういってマインはルナに話を振ると、
「そうだね、一応聞いておくけど昇格を餌にってのは出来ないの?」
「"ギルド"の信用にも関わりますからできませんね」
「やっぱりね。それじゃあ力で脅すとか?」
「その脅す役の者が一緒に着いていかなければどうせ面倒を起こすでしょうし"水"の彼では複数で襲い掛かられると抑えられはするでしょうが消耗はするでしょうからなるべく避けたいですね。消耗なく抑えれるような実力者なら最前線を任せたいですしね」
「私じゃ思いつかない。シーク、パス」
いい案は思い浮かばなかったようでシークに話を振った。
「・・・・・・俺か。そんなにランクにこだわっているならランクの降格はどうだ?」
「なるほど、確かにそれはいい考えかもしれないですね。今回の避難する人達の一行には丁度もう一人の職員に任せることになっているので監督役を任せればいいですね」
そういってセアラはその案を肯定した。
するとマインは、
「確かにランクと言うものにこだわりを持っていたならその策は十分に通じる策だな。他に何か意見のあるやつはいるか?」
そう『万色の集い』のメンバーとルートに問いかけると誰も意見が無いようで首を横に振って否定した。
「と言うわけで姉ちゃん、それでいったん話をしてきたらどうだ?もしそれが上手くいかなかったらそのときも俺らが力になるからよ」
マインはそう笑ってセアラに言うと、
「そうですね。シークさんの案に乗らせていただこうと思います。そこで問題が起きればまたご協力お願いします。それでは失礼します」
そういって頭を下げると先ほどの者たちの元へと戻っていった。




