22話 演説
混乱した場が収まるまで5分ほど経過し、先程まで言い合っていたセアラとマインは少し息を乱していた。
そうしてセアラは息を整えると、
「コホン。失礼しました、それでは説明を再開します。先程まではアーミー・エイプとの戦いについてとこの町の戦力分析をしていました。まあマインさんのお陰で戦力は上方修正することになりましたけど。そういえばマインさん、そのクランのメンバーは今どちらに?」
「この町の宿に泊まってる」
「そうですか、それではこの一通りの説明を聞いてからここまで連れて来ていただけますか?」
「分かったよ」
「お願いします。それではこの町の住民についての説明をしていきます。この町に限ったことではありませんが拠点として利用される町や都市の人たちには避難していただくことになりました。これは各地の領主に伝わっていて既に避難先の指示は頂いています。そしてこの町の人たちには領都に避難していただくことになりました。ここから領都までは徒歩で二日程度です。なるべく多くの人に避難していただきたいのですがこれは希望者だけの避難になります。そして派出所はこの護衛を"橙"以下の戦闘者に緊急依頼を出して全員に任せたいと思います。ここまでで質問は?」
三人は何もないと言うように顔を横に振ると、セアラは憂鬱そうな表情になってホールの隅っこの方に視線を送って、
「避難するしないは住民の方々に任せますが、ここで一つ問題がありましてですね、その~、町長がアレなのですよ・・・・・・」
そういうと三人も同じく視線をやると、ああ~と言うように頷く。
「今この町にはアレがアレなせいで指揮を執る人がいないのです。そこで皆さんにも意見を頂きたいのですが」
そういって息を大きく吐いた。
「ハハッ、本当にアレは面倒なことしか起こさないな」
「ほんとにね。・・・・・・アレにナイフでも突きつけて無理やり喋らせましょうか」
「・・・・・・アレにはそれでいい」
三人がそれぞれそんなことを言うと、
「確かに今は緊急事態ですし、ルート君の意見は十分考慮に入れる価値がありそうですね。まあ最終手段にしたいものですが。他に意見はありませんか?」
と意外にすんなりルートの意見が選択肢の一つとして採用される。
するとマインが、
「なあ、"群青"っていつ来るんだ?」
「そうですね。次に話そうと思ってたのですが王都で各地から集めた"ギルド"の戦闘者と合流をした後、転移で一気に来るようなので大体3時間程度だと聞いています」
「それじゃあ"群青"の連中に指揮を執ってもらうってのはどうだ?」
「確かにそれも手ですね。ただそれまでに戦いが起こらないとは言えませんからね、この町に籠城するにしても今の戦力じゃ守りきれるか分からないので先に逃がしておきたいとも思います」
「確かにそれもそうか」
「どこかにアレに勝るほどの有名な人はいませんかね?」
「出来れば力があるほうがいいな」
「説得力のある風貌の人がいいですね」
そういうマインとセアラにルートは、
「それってマインさんのことじゃないですか?」
と言った。
「おいおい、俺がそんn「ルート君!それですそれ!マインさんが居るじゃないですか!有名な『万色の集い』のリーダーで"豪腕"の二つ名を持つ文字通り力があって、説得力に溢れるあの巌のような顔!ピッタリです!」・・・・・・巌のような顔って酷いな」
セアラは確かにその通りだというように根拠を並べるが、そこにマインに対する配慮は無いようだ。
「・・・・・・確かにあってる」
「おい、シーク。お前本気で言ってるのか?」
「・・・・・・本気」
「勘弁してくれよ」
どうやら味方だと思っていたシークもそう言ったので、マインは項垂れてしまった。
「それではマインさんには避難の指揮を取っていただきましょう。まず町中に張り巡らされている拡声の魔道具で住民を広場に集めて、そこでマインさんに避難を勧める演説をしていただきましょう。住民は南門から逃がすことにしましょう」
「それがいいと思うよ」
「・・・・・・賛成」
「おまえらなぁ。はあ、わかったよ。やってやる」
好き放題に言う三人に溜息をついて了承するマイン。
そうして細かい条件をマインとセアラを中心に詰めていく。
そしてあらかた条件が詰まったところで、
「しゃあねえ。やるだけやってやる。いつ始める?」
「こういうのは早い方がいいですから今すぐにでも。私は"ギルド"の権限を使って緊急依頼ということで戦闘者をここに集めます。町の人に対する説明はマインさんとルート君に任せます。隅っこに転がっている中から御しやすそうな人を選んで連れて行ってください。シークさんには断ってもらってもいいのですがアーミー・エイプの本隊の偵察を頼みたいのですが。」
その言葉にシークは、
「・・・・・・構わない。危険だと思ったら引き上げてくるが」
「ええ、どんなものでもいいので情報を持って帰ってきてください」
「・・・・・・了解」
そう言うとシークは物凄い速度でホールを出て行った。
そしてマインとルートは、
「俺らも行ってくらぁ」
「行ってきます」
といってマインが適当な人を選んでその枷を強引に破壊すると首根っこを掴んで案内させると走りだし、その後ろをルートが、
「強引に壊されたよ、僕の枷」
と少し悲しそうな声を出してもうホールから出て行ったマインのあとを追って走り出した。
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なんとかルートはマインの後姿を捉え走り出して首根っこを掴んだ男から道を聞き出して目的の魔道具がある場所に辿り着いた。
「着いたな」
着いた場所は元々町の上層部の連中が会議していたという建物で彼らの家の近くにあった。
二人はその場所に着くや否や建物の中に進入し、掴んだ男に言うとおりに廊下を進み目的の魔道具の前まで辿り着いた。
その魔道具は緑色の水晶球のようなものでそこにマインが魔力を流すと光を放つ。
そして、
「あーあー、聞こえているか、キラの町の諸君。俺は『万色の集い』というクランのリーダーをしている"紫"の戦闘者、マイン・ディロッタという者だ。"豪腕"なんて呼ばれたりもしている。どうして俺がここに居るのかと疑問に思う者も居るだろう。これから話すことをどうか落ち着いて聞いて欲しい。これから5秒時間を置く。その時間で諸君には話を聞く心構えをして欲しい。それでは5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0」
そうして5秒の猶予を与えたマイン。
町に住む人たちは突如として拡声の魔道具から聞こえてきた声に意識を奪われ、そしてその声の主がかの有名な"豪腕"のマイン・ディロッタだというのでこんなところに居るはずが無いと思いながらも、その魔道具を使えるのは町長の許可を得た者だけだというのは良く知られていることなので事実であると言う可能性も捨てきれないと思っていた。
そしてその声の主はこれからする話を心して聞けという。
そうして一応聞く姿勢を整え、やけに長く感じる5秒が経過すると拡声の魔道具から同じ男の声がして、
「それでは今から話す。この町、キラの町に未曾有の危機が訪れようとしてる。その危機に際して町長であるカント伯爵はこの町を見捨てて逃げようとした」
そう告げた。
すると町の人々は驚き隣の人に話しかけようとするが魔道具からは声が続くのでそれに再び耳を傾ける。
「伯爵様をして逃げ出す脅威がこの町に迫ってきている。諸君らは聞いたことがないか?国が猿の魔物の集団に襲われて滅びたと言う話を。そう、その猿、アーミー・エイプがキラの樹海で大量発生している」
そういうその声が告げると町の人たちは悲鳴を上げ、もうおしまいだと膝から崩れ落ちるものや泣き叫んだものと様々であったが、
「静まれ!!」
その大きな声に人々はもう一度耳を傾ける。
「ここで泣き叫んでも意味が無い!我々"ギルド"の戦闘者と王国の名だたる騎士団の面々はこのアーミー・エイプに立ち向かい勝利を収めてみせる!しかし、この町に諸君らがいるとどうしても人員を割かなければならず全力を出せない!だからこそ諸君らには安全な領都へと避難し我々の勝利を願って欲しい!そして領都の人々にもここで我々が戦っていると言うことを広めて欲しい!そうして我々の勝利を願う人を増やして欲しい!そうしてたくさんの人たちの願いは天上に御座す偉大な神々にも届き、かならずや勝利をもたらせてくれるだろう!だからこそこの場は我々に任せ、どうか避難をして欲しい!」
その言葉が町の人の胸に響き、絶望の色しかなかった目に希望が戻ってくる。
「心は決まったか?それではこれからの予定を説明する。最低限の荷物を持った者は南門の外の平原に集合してくれ。諸君らは"ギルド"の戦闘者が護衛する。詳しいことは南門に集まり次第話をする。それでは直ぐに準備をしてくれ」
その言葉を最後に魔道具から光が消える。
「ふぅ。こんなものか」
「外で物音がし始めたから十分伝わったと思うよ」
そういって二人と手荷物1人は魔道具のある建物を後にして中央会館へと向かった。




