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真実は迷宮の中  作者: Luce
第1章『無限』
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2話 『無限』

本日二話目


次話から一話辺りの文字数が増えます。


「あー、気が滅入るね。ほんとに」


そう呟きながら歩く彼-ルート・セルファはこの薄暗い洞窟とやけに同化している。


その理由は彼の風貌にある。


身長が160cm程度の標準よりも痩せている彼の上半身は黒く暗い色のシャツの上に黒塗りされた革鎧を身につけ、肘から手の甲までを覆うように黒色の要所要所に硬そうな金属があしらわれた手甲をつけ、下半身は何かの動物の毛を編んで作られたような伸縮性に富んだ黒いズボンを穿いている。

それに加え、頬はこけており、目の下には大きな隈、そんな顔つきに純白の髪が長く無造作に垂れ下がっており、不健康そうな印象を受けるパーツさえどうにかすればそれなりにいい顔立ちをしている彫りが深い顔のところどころに陰影ができてよりいっそう不気味さが際立ち、その隙間から垣間見える目は吸い込まれそうになるような蒼い双眸が薄暗い洞窟の中で人魂のようにゆらゆらと浮かんでいるように見える。

しかしながら服から出ている肌は白く、それがより一層不気味さを引き立てていた。

街で歩いていたら間違いなく距離をとられるようなそんな不気味な風貌をした彼だが、この空間においては周りの暗さとやけに同化しており、白い肌だけが彼の存在を主張していてまるで顔と手だけが宙に浮いているように見える。

まぁどちらにせよ、街でも洞窟の中でも不気味という点においては大差は無い。


その不気味な彼は小さく呟きながらも周囲の警戒を解くことなく、物音一つ立てずに歩を進める彼の蒼眼は鋭く、まだ見えぬ迷宮核を見通さんとばかりに一寸先の闇を見据えていた。


「もう『無限』に潜って何日目かな?今が朝か昼か夜かもよく分からなくなってきたよ」


などとこの先の見えない現状に不満をこぼすも、その足は確実に前へ向けられている。


彼はこの迷宮、通称『無限』に一ヶ月以上前から潜り続けている。


この『無限』という迷宮は自然型と呼ばれる迷宮の一種で、いくら進んでも果てが見えないことからそう呼ばれている。


迷宮には幾つか種類があり、『無限』のような迷宮は自然型と呼ばれ、例えば洞窟なら洞窟、海なら海といったように迷宮の外観と内部の環境が等しく、つまり外観通りの内部構造をもつ、自然環境でみられるような特徴を持った迷宮をそう呼ばれている。

またほかの迷宮の種類には世界型というものがあり、先程の例でいうと外観は迷宮なのに内部の環境は海というように外観と内部の環境の不一致から、まるで違う世界に迷い込んでしまったかのような印象を受けることからそう呼ばれている。

また、場所によって世界型と自然型の両方の特徴が共存している迷宮の種類を複合型などと呼称されている。


閑話休題


「んにしても、『無限』とはよく言ったものだよ。僕でも迷宮核のある場所が分からない。"探知"には自信があるんだけどね」


などといい、声にはもううんざりだという感情がこれでもかというほどにこめられている。


『セルディア』はまさに剣と魔法の世界で、魔法が存在している。


そして、魔法を発動する際には魔力というものが必要不可欠であり、魔法を発動させるには要求される魔力を対価として支払わなければならない。

この魔法と魔力の関係は物の売買に例えられる。

欲しい物即ち発動したい魔法は、貨幣という対価即ち魔力を支払うことによって物即ち魔法という結果が得られるという。

当然、対価がなければ物は得られないし、対価が不十分であれば取引不成立つまり不発動であったり、何かを対価に上乗せすることによって物つまり魔法が発動することになる。


また、魔力には貨幣のように信用によって与えられた価値とは別に、その貨幣自体の価値、つまりは金属や紙そのものの価値といったようなものが存在する。

一部を除いて、貨幣は与えられた価値のほうがそのものの価値より高くなっている。

しかし、信用がなくなったからといって貨幣に一切の価値がなくなったとはいえない。

硬貨なら金属として利用できるし、紙幣なら紙として利用できる。

魔力も同じように劣化はするものの、魔力単体で利用することが可能である。

その魔力そのものの運用法として"探知"という方法があり、魔力を周囲に放出することによってその放出範囲内の状況を探る技術である。


彼はこの"探知"が優れており、この『無限』に入ったときから度々発動しているのだが、


「まさか、小部屋で二千、中部屋で五百、大部屋で百もあるとか想定外も想定外だよねぇ。しかも、これが分かっている範囲内でって言うんだから冗談きついよね。たぶん一ヶ月以上は潜ってると思うんだけど」


おおよそのそれぞれの部屋の大きさは、小部屋で40畳程度で学校の教室くらいの広さ、大部屋で2000畳程度でサッカーフィールドの広さがある。中部屋はその中間程度の広さの部屋である。


『無限』の構造としては碁盤を想像してみてほしい。

部屋に大小はあれ、基本的には一つの部屋に対して四方向に通路が延びていてその通路の先に次の部屋がつながっているような形だ。

それに加えて、行き止まりも多数存在しているためある程度の"探知"ができないと散々歩いた挙句、行き止まりに遭遇して心がぽっきりと折れてしまうことになるだろう。


もっとも、"探知"に関して一定以上の技量を持つ彼には関係のない話ではある。

その彼をもってしても一ヶ月以上潜っているのに迷宮核の位置が分からないというところが『無限』の無限たる所以といったとこだろう。


「!」


彼は突然何かを探り当てたかのようにピタリと動きを止めた。


「……次の部屋にウサギが五匹、つまり…肉!」


彼はその捉えた反応と知識として頭の中に入っているものを一致させると、腰にぶら下げていた鞘からナイフを抜き放ち、口を三日月の形に変える。

そして、


「『陰身ハイド』」


そう呟くと彼の姿が薄暗い洞窟に同化するように溶けて消えた。



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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
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