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真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
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19話 伯爵


彼とマインが派出所を出てから数分程度で着く南門の近くの上層部の面々が住んでいる一角でなにやらいつもは静かなはずなのだが騒がしく、また馬車が多く集まっているような様子があった。

そこには上等な服を着た人が集まっていて過剰にも見える装飾があしらわれた馬車なども数多く停められており、馬車に次々と家の中から持ち出された高価なものが運び込まれていく。

その様子を眺めている一層上等な服を着た者同士がそれらを見守りながら、どのルートから~やら、我々はどこどこを目指すなど話をし合っていた。

話をしているのはこの町の上層部に名を連ねる面々で、"ギルド"よりもたらされた凶報に慌てて逃走の準備を始めた何とか自分だけは生き残ろうとする貴族体質が極まった者たちで、一切住民に対しての非常事態宣言も出さず、"ギルド"の所属のものに体の良い言い回しで足止めをさせている間に逃げ出そうとしている正真正銘のお貴族様である。


そうして必要なものを馬が動くのもしんどそうなほど最大限に詰め込んでこの町から脱出をしようと御者が鞭を打とうとした瞬間、


「どうもこんにちは~、皆さんお揃いでどこかへお出かけで?」


30代に見える防具を身にまとって帯剣したガタイの良い男が話しかけてきた。


一刻も早くこの町から出たい上層部の連中は互いに目をあわせて意思疎通を行うと、男から一番近い位置にある馬車に乗っているあらゆるところに脂の乗ったオッサンが応対することにしたようで、


「我はこの町の長、カント・ヌーメンデ伯爵だ。我らはこれから急用故、至急王都に向かわなければならなくなった。貴様は何の権限があって我らの道を遮るか!」


そう男に向かって叫ぶと、


「ハハッ、そうですか。それは失敬。しかし私が持ってきた伝言のほうが遥かに重要かと思われますが?」


そう男は返してにやりと笑う。


「それは貴様が判断することではなかろう。さあさっさとそこをどけ!」

「いいや、退きませんなあ。確かに伝言の内容も伝えずに決め付けたことは間違いでしたね。それでは改めて伝言をお伝えしましょうか。先程の言葉通り判断していただけますよね、伯爵様?」

「ぐっ、よい。判断してやろうではないか。我らの足を止めたのだ、さぞや重大な話なのであろう。その伝言とやらを話すがよい。一考に値しないような話であったなら不敬罪で処してやるからな?」

「再考していただける内容だと信じておりますので」

「ハッ」


自分で言った言葉を逆手に取られた伯爵は刑罰を持ち出すことによって男を牽制しようとするが、男の頬は言質を取ったと言わんばかりに持ち上がっていた。

そして、


「既に王国は"ギルド"に一時的に指揮権を移譲しています。何に対してのものかはもうお分かりですよね?」

「なっ!本気か!?」

「伯爵様方には"ギルド"の指揮下に入っていただきます。これは決定事項です。ご同行を願います」


指揮権の移譲というのは言ってしまえばその現場にいる王国の兵士を"ギルド"の好きにさせてしまうということで、装備なしで魔物の群れに飛び込めと言われたら従わなければならないということで、自分の持つ剣を相手に渡して何をしてもいいというようなものである。

つまり王国は今回の魔物の大量発生に対して指揮系統を王国と"ギルド"で二分にしてしまうと現場が混乱し、重大な損害を被ると判断したという事にほかならず、それだけの脅威と見ていることを明確に告げているものである。


そのことが分かる程度の頭は辛うじて持っている伯爵は自分の町に起こっている問題の大きさを再認識し、万が一生き残ったとしても王国のどこにも自分の居場所が無いことを悟った。


男が告げた伝言の内容によってザワザワと騒がしくなる背後の馬車に乗った特権階級の者達が口々と、「こんなはずでは無かった」だとか「元はと言うと貴殿が!」などの不毛な言い争いをして、勝手に仲間割れでも起こしてしまいそうな程に混沌としてきた場に伯爵が、


「皆の者落ち着け!このままでは我々に将来はない!かと言って王国がこれ程までに脅威を感じている事態に対して立ち向かうなどより命が短くなるだけだ!‥‥‥それならば、この国を出るしか道はないと思うが如何か?」


そう伯爵が問いかけると混沌とした場に静寂が訪れ、今の言葉を各々が吟味して結論が出たのか、肯定の意を込めた眼差しで伯爵を次々と見つめていく。


その眼差しに込められた意を読み取って、


「ならば我々に残された選択肢は一つ、亡命しかあるまい」


そう口にして続けて、


「深い親交を持つ者、愛しき者がこの場にいない者もいるだろう。だが、此処で果ててしまえばもう二度とその者には会えぬ!しかし、生きてさえいればその者に会える可能性は僅かだとしても確かに存在する!ならば、我々とその者の間に生まれるのは暫しの別れだ!必ずいつか会える!いや、カント・ヌーメンデの名に懸けて会わせてみせよう!」


そう高らかと伯爵が宣言すると、背後の者達が大きな歓声を上げる。

そして、


「それでは我々のの目の前にいるこの男はなんだ!我々の旅立ちを妨げる者では無いのか!ならば、この程度の男や持ってきた伝言など切り捨ててゆくぞ!」


そう主張すると馬車の周りで警護をしていた兵士達が剣を抜き、伯爵の前に出てその切っ先を男に向ける。

そして伯爵は先程の男のように頬を持ち上げると、


「という訳で、我々は貴様の伝言は聞いておらず会ってもいない。貴様は伝言を伝える前に暴漢に襲われて果てた、そういう事だ」


その言葉を聞いて男は、


「それでは伯爵様は伝言を無視されると?」


そう念押しするように問うと、


「聞いていなかったのか?我と貴様は会ってなどおらぬ」


そう伯爵が答えた。

すると男は、


「なるほど、そういう事ですか。それでは私達も強引な手段に出たいと思います。という訳だ、ルート!」


彼-マインがルートの名を呼ぶと、


「『岩壁ロックウォール』」

「『岩壁ロックウォール』」

「『岩壁ロックウォール』」

「『岩壁ロックウォール』」


岩の壁が伯爵達の四方を取り囲む。


完全に閉じ込められた伯爵達は壁に攻撃を加えて脱出を試みるが、彼の魔力で強化された『岩壁ロックウォール』はビクともせず泰然とそこにある。


滑稽なほど『岩壁ロックウォール』に攻撃を加える伯爵達が、同じく取り囲まれた男を見て「貴様、何をした!」「早くこれを解け!」などと言うが、男はただ静かにこちらを見る。

そして、


「煩いよ」


周りの音など消えたように、ただその言葉だけが妙に聞こえる。


「いいから大人しく着いてこい」


静かな声の中に確かにに込められた怒気をひしひしと感じて伯爵達はその声の主を探す。


「こっちだって暇じゃない。もし嫌だって言うなら、‥‥‥手足の骨を砕いて連れてく」


その声の主はいつの間に入ってきたのか伯爵達の真ん中に立っており、小柄でどうにも折れてしまいそうなほどに細い体に隈やこけた頬が目立つ顔、それらの全てが合わさってより不気味な雰囲気を纏った少年であった。


伯爵達は先程から探していた声の主が彼であることに気がつき、その容姿を不気味に思いながらもこんな少年が我々を取り囲めるほどの壁を作り出せるわけが無いと思って見くびったのか、にやにやと抜刀した剣を見せ付けるように近づいてきた兵士の腕をいつの間にか取り出したナイフで浅く切りつけた。


「ぎゃあああ!!」などという悲鳴を上げながら切り付けられとっさに距離をとる兵士を視界にすら入れない彼を見て、周りの人たちは彼に対して恐怖心を抱くが伯爵だけは、


「何をしている!目の前にいるのはただの小僧、強かろうがいつかは力尽きる!取り囲んで一斉に攻撃を仕掛けよ!」


伯爵の言葉に動かされた兵士達が彼を取り囲み、一斉に切りかかってくる。

それらの攻撃を全てかわして兵士の猛攻を凌ぐと兵士の後ろで水魔法を形成していた魔法使いが自らの魔力で作り上げた水の球を『水球ウォーターボール』と言うと同時に打ち出す。


彼はそれを回避して魔法を使った相手に向かって接近すると、素早く魔法使いの背後に回ってその無防備な首に一撃を加えるとそのまま地に倒させた。

魔法使いが放った『水球ウォーターボール』は回避されたことによって彼の背後にいた連中に当たり吹っ飛び、そのまま『岩壁ロックウォール』にその体を衝突させた。

そして彼は敵意を向けている武器を持った者、魔力を練り上げている者を次々と無力化する。

地に倒れていないのは伯爵達、特権階級の達だけで、武器すら握らずにただ敵意をこめた視線だけを熱く向けているだけだ。

もっともすでに心を折られてしまって膝から崩れ落ちてしまっている者もいつのだが。


そして彼はその残った特権階級の連中に向けて、


「・・・・・・で?」


たった一言の言葉を放つ。


特権階級の者たちはその言葉に込められた嘲りの感情に腹を立てるが、目の前の少年に数で圧倒的に勝利していたにもかかわらず全てねじ伏せられたことを思い出しどうにも言葉に出すことが出来ない。

その中でたった一人、伯爵だけは、


「貴様!我々にこのような狼藉を働いてただで済むと思っているのか!?」


と吠える。

彼はそんな伯爵の声などに耳を貸さず、


「・・・・・・失敗した。そもそもこんなことに時間をかけている暇なんて無かったのに。・・・・・・即刻連行する。時間の無駄だから抵抗なくさっさと捕まれ」


そういうと彼は、


「『土人形アースゴーレム』」


と唱えるとそこらの地面がグニニニッと盛り上がり無骨で巨大な人の形を取ると、そこらに転がっている兵士を両肩に担ぎ上げ、そこらの特権階級の者たちをベアハッグのように力強く抱きつくように持ち上げる。

伯爵を含めた特権階級の者たちは「離せ!」「痛い痛い!」などと言っているが気にすることなく四方を囲っていた『岩壁ロックウォール』を解除すると中央会館に向かって歩き出させる。

それに伴ってルートも歩き出すとマインがいつの間にか隣に立って並んで歩き出した。


「貴様!このようなことをしてただで済むと思っているのか!」

「さっきも聞いた。いいからその間抜けな姿を町に住む人々に晒して嘲笑でもされな。・・・・・・ということでいいですよね、マインさん?」

「ハハッ、今までいい暮らしさせて貰ってたくせに見捨てて逃げ出すような連中にはいい末路じゃねえか」

「き、貴様ら!」

「伯爵様に随分とお似合いの上等な乗り物に乗っていらっしゃるようで。どうにも滑稽ですね」

「なっ!貴様!」

「伯爵様には一つ申し上げておきます。‥‥‥お前らに科される刑は良くて伯爵、お前だけの処刑。逃げ出さなければもう少し何とかなったかもしれないがな。今後の態度次第では一家もろともどころか親族もろとも仲良く死刑台に首を並べることになるぞ。まあこれはここにいる他の奴らも言えることだがな」


そうマインが脅しというには現実味が遥かに帯びていることを言うと、伯爵はそこから一切口を開かなくなった。


その様子を見たルートは、


「お前にも大切な人がいるなら戦えばよかったのに」


そう吐き捨てるように言った。

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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