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真実は迷宮の中  作者: Luce
第2章 大量発生
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18話 指揮権


彼が派出所の中に入ったときにはもうすでに男の姿があった。

そうして男も彼の到着を確認すると口の端を持ち上げ、


「どうやら間に合ったようで」


そういう男に彼は苦笑いを返しながら近くまで行く。

そうして、


「どうにか間に合いましたよ。ええっと」

「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。俺はマインだ。これでも"藍"やってる。よろしくな、ルート」

「"藍"ですか!っとマインさんですね、分かりました。こちらこそよろしくお願いします」


そういってやっと互いの名前が分かったところでマインが差し出してきた手を握り返す彼。


「ハハッ、これから命を預けあうんだ。敬語はいらねぇよ。そいういやまだ彼女は帰ってきていないようだ。……ところでルート、お前は今回の緊急依頼についてどう考えている?」

「そうですね。いや、そうなんだね。とりあえず下手を打てば僕達は一溜まりもなさそうってところかな?というよりも無事に乗り切ったとしても王国が厳しくなることは間違いがなさそうだね」

「だろうな。俺としてはこうなるまで誰も気がつかなかったということに対して、あの"馬鹿王"に文句を言いたい気持ちで一杯だ」


"馬鹿王"と言うのは『無限』の攻略に兵を放ち、国力を削いだ結果息子に処刑された100年前の王のことである。

その"馬鹿王"を槍玉に挙げたマインは続けて、


「あの"馬鹿王"がただでさえ攻略困難な『無限』に大勢の兵を向かわせてむざむざと殺されまくったせいでここまで魔物が繁殖しやがったんだろ絶対。そもそも"原始の迷宮"の近辺の魔物討伐は定期的に行われてるってのにこっちは縁起が悪いとかで誰も討伐をしやしねぇ。あそこまで兵を失ってなけりゃ"原始の洞窟"と同じような扱いになって討伐くらいは定期的に行っただろうよ。ほんといらねぇことしかしねぇよ」


そう処刑された"馬鹿王"についての恨み言をマインが連ねていると、勢い良く派出所の扉が開けられてさっきの素朴そうなお姉さんが入ってきた。

そして、


「お揃いのようですね、話が早くて助かります。それでは決まったことをお話したいのでさっきの部屋へ行きましょう」


そういうやいなやそそくさと奥に消えていった。

その後ろをマインと彼がついていき、先程と同じ椅子に腰掛ける。

そうするとお姉さんが悲痛そうな顔で、


「まず最初に、この町の"ギルド"派出所はこの事態に対して攻勢に出ます」


「「!?」」


「おいおい、本気か?」

「ま、町の人は!?」


この町の"ギルド"所属の戦闘者は決して戦闘能力が高い訳では無く、それは近くにある『無限』が原因だ。


"馬鹿王"がやらかしたことについてはマインが言っていた通りで、この町にはあまり旨味が無いため町の兵士の練度は低く、また戦闘を生業とする者にとっても弱い魔物しかいないとされている『無限』にわざわざ潜る酔狂なやつもなななかいない。

伊達や酔狂じゃあ今日の飯も食いっぱぐれる可能性だってある。

そのため戦闘者は集まらず、兵の練度だって低い。


そして、ここで問題となるのが『無限』を含む迷宮というものに対する対応策だ。

ある日突然何らかの原因で一斉に迷宮から魔物が飛び出してくる"大暴走スタンピード"という現象に対する防止策の一つとして近くに防衛拠点を設置すると言う決まりがあって、今回の例で言えばその防衛拠点がこの町に該当する。


結局何が今の非常事態に対して言いたいのかと言うと、防衛拠点に選ばれるだけの近さに迷宮を抱えておきながら定期的な討伐も何も行わずただ弱い魔物しかいないという情報を鵜呑みにして何も対策を考えていないと言う点だ。


この町が抱える問題に気がついている彼らは当然こちらから攻勢に出られるような戦力が無いことにも気がついていて、それをやれという方針に対して驚きを覚えたのだ。


「……というのがこの町の上層部が打ち出した結論のようです」

「ハハッ、どうやらこの町の上の連中は夢見がちなお子様の集団だったって訳か」

「どういうことですか?」


顔を俯かせたお姉さんの手は強く握り締められていて、その言葉の意味を察したマインは苦笑する。

いまいち良く分からない彼は疑問の声を上げると、


「ルート、これはな上の連中が俺達に「私達が逃げ切るまでその命を使って時間を稼げ」っていってやがんのさ」

「なっ!!?」

「これが町の人間を避難させるまでってんなら話は違って来るんだが、どうにも外の様子には変化は無いし、彼女のその様子じゃあな?」


そう水を向けられた彼女は相変わらず下を向いて俯いて、


「そういうことです」


と小さな声で肯定した。

すると、


「そういうことか、…ふざけるなよ?」


そういう彼の体から濃密な魔力があふれ出し、あっという間に室内に広がる。

その突然な事態に動けないマインとお姉さんを気にもせずに、


「貴族、また貴族か。ほんとに他人の足を引っ張ることだけは一人前だ。なんならそいつらを餌にして魔物の群れを誘導してやったらいいんじゃないか?ああ、それは良さそうだなあ」


まるで人が入れ替わったかのような言葉遣いで凶悪なことを言い、実行しようと腰を浮かせる彼の手をマインが咄嗟に掴む。


「まて!」

「なに?僕は今から町の人をおいて逃げようとする貴族どもを捕まえてくるけど」

「止めとけ。」

「どうして?民を置いて逃げようだなんて反吐が出るね。」

「それでもだ。どうしてお前そこまで…」

「言ったでしょ?僕はセルファ出身だって」

「成程、"戦闘貴族"セルファか。」

「僕だってセルファが異常だってことくらい知ってるけど、それでもこの町にこんな危機をみすみすと招いた貴族がそのまま自分達だけ助かろうとするなんて認めない。だからその手を離して、マイン」


強く濁った目でそういう彼にマインは、


「落ち着けルート。そもそも奴らに逃げ場なんて無いんだよ」

「は?」

「だよな、姉ちゃん?」

「ええ、この町で生まれた一人としても"ギルド"職員としても今回の貴族の行動は見過ごせません!」


そういって決意を顔の前面に出したお姉さんは力強く握った拳を頭上に掲げる。


「ハハッ、そういうこった。そもそも今回の事態は上の連中が管理を怠ったからであって無罪放免となるには重傷者0、死傷者0とかいう位の結果を残さなきゃなんねえ。それに逃げ出したりなんかした日にゃぁ爵位の剥奪は勿論、一族もろとも処刑だからな。どうやら上の連中は後者を選びやがったようだ。この件に決着がついたらどんなことを言うつもりだったのやら」

「ええ、今回の事態は下手をすれば王国の存亡を掛けた戦いになりますし、それ以下だとしても王国の北部は大きな被害を被るのはほぼ確実でしょう」


今回の事態の展望を示して見せたマインとお姉さん、そしてそこに、


「それにこの国の"ギルド"から今回の件に関しての指示が届いたよ」


もう一人の窓口の女性がこちらに向かってそう言った。


「内容は?」

「緊急事態につき、指揮権は"ギルド"に一時的に移譲するそうだよ。そして、この町が今回の魔物討伐の最前線になることが決定したね」

「な!本当ですか!?・・・・・・そういうことなら上層部を正当な理由で捕らえられますね。拘束理由は貴族の責務も果たさずに逃亡といったところでしょうか」

「その辺りが妥当だろう。と言うわけでルート、俺とお前で上の連中を拘束するぞ。いいな?」


内容が一切分からずに呆然としすっかり毒気を抜かれた彼は静かに椅子に腰を下ろして話の流れを掴もうと耳を傾けていると突然自分の名前が出てきたことに対して驚き、マインの顔を見る。

すると彼の顔が助けを求めているような表情をしていることを読み取って話を要約する。


「要するにこの事態に対しては"ギルド"が主体で戦闘を行い、王国の兵士の指揮権を一時的に譲り渡すことによって速やかな収束を図るんだとさ。

そしてその指揮権のものにはこの国の貴族も含まれるから、今から逃げ出そうとしている連中に対して適当な罪状でも付けてやって拘束してしまおうってことだよ」

「……成程、そういうことですか。分かりました。僕もそれに従います」


そういうと派出所内にいる彼以外の人が一斉に息を吐いた。

そしてお姉さんが雰囲気をキリッとしたものに変えると、、


「今このときから問題が解決するそのときまで、マイン、ルート両名を"ギルド"の使者として任命します。そしてこれから"ギルド"が指揮を取るにあたって、この町の上層部の方々に使者として指揮権の一時的な委譲といってたものに関しての連絡をし、そしてその方々をこれからの事態に対して本拠地として使用する中央会館に連れてきて戴きたい。万が一それを拒否、あるいは無視することがあれば"ギルド"の使者としてその場で適切に判断してください。よろしいですか?」


「はい」「おう」


「それではそちらはあなた方にお任せします。あとは、この町の"ギルド"の所属者に対して緊急招集を掛けましょう」

「そうか。それじゃあそっちは姉ちゃんに任せた」

「ええ、任せてください」


彼らを使者に指名し、貴族関連のことを丸投げしたとも思える行動を取ったお姉さんは次に"ギルド"の所属者に対する説明を必死に考え始める。


「それじゃあ、俺らはさっさと使者の役割を果たしに行くとしますか、なあルート」

「はい、一刻も早く終わらせて"ギルド"の方針などを聞くことにしましょう」


"ギルド"の使者として任命された彼とマインはさっさと仕事を終わらせるために話がすべて終わる前に椅子から立って入り口のほうへと向かう。


「使者の役割、しっかりと果たしていただけるように信じています」

「ああ、任せろ。そっちこそ頼んだぜ」

「お願いします」


後ろから聞こえるお姉さんの声にマインは振り返らずにそのまま肩の位置で手を振りそう言って、彼は首だけ振り返って軽くお辞儀をしてそう言って、どちらも派出所から出て行った。



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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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