16話 原因
ふと気が付くと夜が明けていた。
辺りを見るとそこは天変地異が起こったような光景であった。
地面が何かに切り取られたように何箇所も抉れ、魔物を何匹も飲み込んだ地割れが起きていたり、木々が魔物を押しつぶされていたりとなかなか出鱈目なものでその光景を生み出したのが一人によるものだとは誰も思いはしないだろう。
その光景の生み出した張本人である彼は夜通し動いた疲れが一気に来たのかその場に座り込んでしまった。
そうして木々が倒れたことによって森の上部は見通しのよいものとなっていて、そこから見える空は皮肉なほどに青く晴々としてなんだか少し慰められているように感じた。
彼はゆっくりと座り込んでいるように見えるが、内心ではそこそこ焦っている。
というのも、
「……あれ、僕ってどれくらい暴れまわってた?覚えてるの森の中に突入したところまでだけど?この地獄絵図みたいな光景になんて身に覚えありませんけど?しかもまだ向こうにも同じような感じで禿げ散らかした土地があるんだけど?しかもここ『無限』の前だよね?ということは森の最奥もいいところ……ということはここまで一本道ができちゃったりとかしちゃったりしちゃった?」
辺りを見渡しながらそんなことを言って乾いた笑みを浮かべている彼。
「ま、まさかいくら僕が本気で暴れまわったからと言ってそうはならないだr「おい!そこのお前!そこで何をしている!!」……うそでしょ。」
自分自身の疑念を肯定するように突然声を掛けられて驚いて体を強張らしてしまった。
そうして錆び付いた機械のようにギギギと後ろを振り向くと、30代くらいの防具を身につけた男が抜き身の剣をこちらに向けていた。
そうして反応が無いように見えたのか、
「おい!聞いているのか!」
「……やっぱりそれって僕のことですか?」
「当たり前だろう。ほかに誰がいるっていう!」
「ですよねぇ。……本気で誰かがいてくれたら良かったのに」
「何か言ったか!」
「何でもありません」
「ところでお前には聞きたいことがいくつかある」
「はぁ。」
どうやら男は彼に聞きたいことがあるらしく剣をこちらに向けたまま質問を続ける。
「お前はいつからここにいる?」
「昨日からです」
「ほう、そうか。ならば聞きたい事が聞けそうだ」
そういって笑うと男は、
「お前はここで何が起こったか知っているか?」
「……?どういうことですか?」
「いやなに実はだな、昨日の夜から町の近くの森から木が倒れるような大きな音が聞こえてくるとかで町の"ギルド"の派出所に捜査依頼が出されて、それを受けたのが俺だって訳だよ。そして森の中に入ると木々が倒れていたりとなかなかな有様になってたわけよ。そうしてその痕跡を辿って歩いていくとそこにお前がいたと言うことだ。そうそう、言う意味は無いかもしれないがその痕跡はここが最終地点だ。…俺の言いたい事が分かるか?」
彼は自分の八つ当たりがそんな町まで聞こえているなんてことは一切思わなかったため町の人たちに迷惑をかけてしまったのではないかと言うことと、男が言うとおりこの森をなかなかな有様にしてしまったという事実を知ってしまったという二つの観点から顔を青ざめてしまう。
「俺の考えだとなかなかどうして怪しい奴が目の前にいるんだがな。その辺りを詳しく教えてもらえるとありがたいんだが?顔を青ざめさせたお前さん?」
「……す。僕です」
「何がだ?」
「その原因です。全部僕がやりました」
そう彼が白状すると男が、
「そうか。それじゃあおとなしく俺の後ろをついてきてくれるか?」
「……はい」
返事を確認した男は来たのと同じ方向に歩き出すと、その後ろを肩を落とした彼がトコトコとついていく。
二人が歩く場所は木がなく、地面は隆起したり割れてしまっていたりとこれが森だと言われてもまったく納得できないほど荒れ果てていた。
彼はそれを見てものすごく申し訳ない気持ちになって少しでも直そうと思って土魔法を使って地面を均していく。
その様子をひそかに肩越しにみる男は、
(この小さいのは何がしたい?これだけ派手に森を壊したから本能の赴くままに破壊を行う狂人かと思えばああやって地面を均していきやがるし、下手な言い訳もせず俺を襲ったりしねぇで後をちゃんと付いてきやがる。こいつは一体何なんだ?まあ、今は素直に付いてきやがるが頭の中では逃げる算段でも立ててるかもしれん。まあ万が一の時は……な)
そう考えて少し上を見上げると男は少し速度を上げた。
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しばらくすると彼と男の姿は町の一角にある木造の建物の中にあった。
彼はその建物が何であるかを知っていて元々『無限』の攻略後はここに顔を出すつもりであったのだが、あんまりな事実を前に後回しにしていた場所だ。
その建物はあまり大きくない上にボロく、内には窓が二つしかない受付口と依頼が書かれたものを貼ってあるボードだけが廃墟でないことを主張している。
男は内一つの受付口に向かうと、「依頼に関する報告を持ってきた」といい彼を親指で指し示した。
すると、素朴な顔立ちのお姉さんが彼を見て「詳しいお話は奥で聞かせていただきます。ついてきてください」というと、その建物の内部と外部を隔てる扉を中から開けて入室を促した。
彼と男はそのお姉さんについて進むと、その内部は酷く散らかっていて床にいくつか書類が散らばっている。
お姉さんはそれを気にすることなく二人に椅子を勧めて、自分は椅子に座ってメモを取る準備を追え、
「それでは報告をお聞かせ願えますか?」
そういって本題を切り出す。
「そうだな。とりあえず異変の正体に関してだが、魔物の仕業では無いようだから警戒は解いていい」
「そうですか。そう言い切るということは魔物以外に原因を見つけたと思ってもよろしいですか?」
「ああ。まあこの小さいのが言っていることが正しければなんだけどな」
メモを取るお姉さんに、男は彼の頭をポンポンと叩いて言う。
「そうですか。それではここからはその子供に話を聞いたほうがよさそうですね。君、名前は?」
「は、はい!僕の名前はルートです」
「そう、ルート君ね。なにか証明するものはあるかしら?」
「それなら、…はい、どうぞ」
腰袋から取り出した"ギルド"発行の水色のカードを取り出してお姉さんに手渡すと、それを受け取ってじっくりと眺めるとそこに書かれている情報をサラサラと手元のメモに書き写すと彼に返却し、彼は受け取ってそれを同じく腰袋に仕舞う。
「身元の確認を確かに行いました。……にしても君、15歳で"水"って何をしたの?」
"ギルド"では人によってはカードの色が異なっている。
それは主に『セルディア』に対する貢献度で分けられていて、下から順に赤、橙、黄、水、青、藍、紫、黒、白となっていて、"ギルド"基準で戦闘、生産、商売などのさまざまな力についての一番大きい功績を元に算出されたものである。
戦闘による"白"ともなると、幾つかの国を破壊できるほどの力を持った魔物を討伐したなどの功績を以って叙されている。
過去で言うと、彼が戦った英雄譚に出てくる虹蛇の討伐を行った英雄に対して送られた。
また生産による"白"となると、神が作り出した道具-神器に匹敵するものを作り出したなどの功績を以って叙されている。
有名なのは邪神と呼ばれる亜神を屠った者が持っていた神殺しの剣を打った一人のドワーフに送られた。
このように"白"に叙されたものは歴史に名を残している、いや、正しくは歴史に名を残すほどの功績を挙げた者に対して"白"という栄誉が与えられたと言うべきだろう。
閑話休題。
それでは彼の持つ"水"というものはどれくらいのものかと言うと、"ギルド"の戦闘における基準では、『武器を持った大人100人を余裕で屠れる程度の戦闘能力を持った魔物を討伐した経験を持つこと』とあり、大体第二級危険指定種を五体以上の討伐、もしくは村が壊滅するほどの魔物の群れに勝利というもので、"水"までいくと強者と呼ばれ始める程度の強さを持つことになる。
そして"ギルド"に登録できるのは12歳からで、決して現在15歳の彼のように3年ぽっちで到達できるような甘い基準を設けてはいない。
「ええっと、僕はセルファ領のレスト出身ですと言えば納得してもらえますか?」
そう彼がいうと男もお姉さんもなんだか納得したようで「ああそういうことか」と言った。
「成程、あなたはレスト出身ですか。あそこは"ギルド"の支部がある町の中でもトップ5に入るほどの危険地帯ですからね。ランクが上がる速度がすべての"ギルド"の中でもトップクラスだとも言われていますから確かに理解できなくもないです」
「えへへ」
「話がずれましたが元に戻しましょう。君はあの森の異変の何を知っていますか?」
「そ、それは~、えっとそのですね」
「何でしょうか」
言いよどむ彼に早く結論を聞きたいのか回答を迫るお姉さん。
どうにも居心地が悪い彼は意を決して勢い良く立ち上がって、
「す、すみませんでした!」
と深々と頭を下げた。
その様子に状況がつかめないお姉さんが「え?ええ?」「どういうこと?」「と、とりあえず頭を上げて!」と彼に言うが、どうにも頭が上がらずに「すみません。すみません」と繰り返す。
どうしたらいいかわからないお姉さんは隣に座っている男に視線を向けると、男はやれやれと肩を竦めて彼を指差して、
「この小さいのがその原因だとよ」
というとお姉さんは驚いて、
「ぇえええええ!!!!???」
と声を張り上げた。




