14話 終わりの始まり 2
少々残酷な場面がありますのでご注意ください。
マイルドにしたこの話の流れをあとがきに書いておきますので苦手な方はそちらをご覧ください。
そのためすべての読者様には、あとがきに改行を多く挟むためお手数ですが、前の話と目次、次の話がスクロールしていただかなければなりませんがご了承ください。
「ただいま帰りました!」
僕は妙な焦りからいつもより大きな声でそう言った。
いつもなら誰かが出迎えてくれるのに、今日は誰も出迎えてはくれない。
二つ目の違和感はそれだった。
僕は誰も出てこないことを疑問に思いながらも、靴に付いた土を払い室内用の靴に履き替えて誰かが絶対にいる大広間に暗い廊下を歩いて向かった。
今思えば、その暗さが最初に感じたの違和感の正体だったのだろう。
そういえば、こんなこと前にもあったなと数年前の光景を思い出した。
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それは一番上の兄様が成人(『セルディア』では十五歳)を迎えた日の夕方、次期領主として正式に決まったことで、セルファ領の住民に対して所信表明を行う式典を行い、兄様だけが古参の人たちに取り囲まれていろいろと激励の言葉を貰って帰りが遅かった日。まあそれは僕達の仕込みであったのだが。
一足遅く帰ってきて、出迎えが無いことを怪しげに思ったのか誰かいないのかなどという兄様を大広間でこの屋敷に住む僕達家族と使用人一同が笑いを堪えながら待ち構えて、あらかじめ暗くしてあった大広間に入ってきた瞬間に、魔力灯を一気に明るくしてびっくりしているところに全員で声を揃えて、
「「「次期領主、就任おめでとう(ございます)!」」」
といって、光魔法で様々な色の光の球を兄様の周りにふわふわと浮かべたり、水魔法で就任おめでとうございますという文字を浮かべたりと派手な演出をした。
兄様は虚を突かれたように少し硬直したあと表情をニヘラと崩して、次期領主として勤めを果たしていくのでこれからも見守ってほしいと照れながらも毅然とした口調で言った。
すると、母様が優しく微笑みやさしく抱きとめて、父様がガシガシと乱暴ながら優しい表情で頭を撫で回し、二番目の兄上がよろしくな兄貴などといって背中をバンバンと叩き、姉上は兄上のその行動にため息をつきながら、兄様の右手を両手で包み込んだ。
僕は残った兄様の左手と握手をして、尊敬しておりますと声を掛けた。
そんな僕らを周りの使用人たちは優しく見守っていた。
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そうした記憶が脳裏をよぎり、今の状況と照らし合わせると共通点がいくつかあるので、そういう展開なのかなと思いながら納得しながらも今日は特別な日では無いよねなどと考えているといつの間にか大広間の扉の前にいた。
僕は驚かされるかもと思って、扉の前で息を整えた。
そうして、心の準備を十分にして扉を開けると、大広間の中は暗く、少し先のものも見えないようだった。
少し待っても明かりは付くことが無かったため、僕は自分で魔力灯という明かりをつける魔道具を起動させるために扉の近くにある接触パネルに触れた。
その直前、少し暗さに慣れた目が何かがべったりと付いたようなものを見たような気がした。
それが最後の違和感。
そして明かりが付いた瞬間、今まで感じた違和感が一つ一つ線で結ばれ、たった一つの残酷な真実が浮かび上がり、その証拠が目の前にあった。
接触パネルに付いた何かは赤い血であった。
血はまだ乾ききっておらず、垂れた血が描いた線の長さが出血量の多さを表していた。
僕はその血を見て、体の震えが止まらなくなった。
目から涙が出てきて止まらなくなった。
血は『大森林』で狩りをしているからある意味で見慣れている。
けど、それは魔物の血で、青色だ。
魔物の定義の一つに血が青いというものがある。
けど、接触パネルについている血は紛れもない赤色。
赤色は.......人の血だ。
そして、接触パネルに触れた僕の手にもその赤がベッタリと付いていた。
僕は叫んだ。
ただひたすらに。
目に飛び込んでくるその赤に思わず後ずさると、足に何か柔らかいものがぶつかった。
吃驚して声も止まって涙でグチヤグチャになった顔で足下をみると、ずっとセルファ家に仕えてくれている使用人がうつ伏せになって倒れていた。
しかしその倒れている理由が体調不良などによるものではないことを床に広がった血だまりの大きさが明確に告げていた。
あまりな事態に僕は震えながら足下から視点を変えることなく後ずさると、後ろの壁にぶつかった。
その衝撃で反射的に顔が上がった。
すると、倒れていたのはその使用人だけではなかったということが分かってしまった。
今朝までは確実に生きていて確かに言葉を交わした使用人達の体がそこら中に転がされていた。
彼らは物言わぬ骸へと成り下がり、その証拠と言わんばかりに辺りに血を撒き散らしている。
僕は吐いた。
胃の中のものを全て。
そして、その中に見つけてしまった。
血溜まりに沈む僕の一番上の兄様の姿を。
僕は急いで駆け寄って服が血で汚れることさえ気にせずに膝を突き、何度も肩を揺らして「兄様、兄様」と声を掛けた。
しかし兄様は何も答えてくれず、ただ僕が揺らす方向に従順に力無く従うだけだった。
僕は兄様の死をその触れた手に確かに伝わってくる冷たさから痛切にも感じ取ってしまった。
兄様の暖かい言葉と手がもう僕に触れることはない。
動かない兄様のそばでただ呆然としばらくの間佇んでいると頭の中に他の家族はどうなっているのだろうと思い浮かび、兄様の体をそのままにして家族が住んでいる二階に向かって走り出す。
彼は大広間からでて二階への階段へ向かう途中の廊下には、僕が家を出る時には確かに生きていて挨拶までしてくれた使用人の亡骸がそこいらにたくさん転がされていた。
「なに、なんなの!みんなどうしたの!僕がいない間に何があったっていうんだ!」
僕は確かこんなことを言って二階への階段を上って最初に二番目の兄上の部屋へと急いだ。
そして兄上の部屋の扉に体当たりするように開けて、
「兄上!ご無事ですか!ッ!!」
腹に大穴を空けて壁にもたれかかるように死んでいる兄上の姿を見た。
僕はそのまま駆け寄って膝をついて「兄上!兄上!」と言って肩を揺さぶるが、一切反応が無く兄上の背中が壁を滑るように床に横たわった。
「ッ!ほんとに何があったて言うの!!兄上!兄上!」
床に横たわる兄上の手には愛用の抜き剣がしっかりと握られていて、それにはべったりと血がついていた。
おそらく兄上は家族の中で一番の剣の使い手というその腕を以ってその何者かに傷をつけたのだろう。
兄上の大きな手で頭を乱暴にガシガシと撫でられる事ももう無い。
僕は信じたくない現実にのどを嗄らすほど叫び弾かれるように兄上の部屋を出ると、隣の姉上の部屋の扉に体当たりをするように激突すると部屋に転がり込み顔をあげると、やはりそこには希望など無かった。
姉上は部屋の中心に仰向けで横たわっており、着ていたお気に入りの白のワンピースは心臓を中心に赤い模様を描いていた。
「姉上!!」
姉上の部屋には元々可愛らしい小物がたくさん飾られていたのだが、今ではそれらは鋭利な刃物で無残に切り裂かれていたようなものがそこらに散らばり、部屋の隅に折り重なるように積み上げられていた。
這うように近づいて潤んではっきりとしない視界でも姉上の死を悟ってしまうほどの赤が一面に広がり、僕の手や体についた。
「ああっ、あっ、姉上ェェエエエ!!」
体についた血なども気にせずに姉上の体に縋りよると、涙を流し嗄れた声を必死に張り上げ喉が裂けるほど叫んだ。
零れ落ちた涙は次々と姉上の頬に落ち滑り落ちていく。
姉上の優しさに触れることはもう無い。
そうして涙が涸れ果て壊れたラジオのような音しか発しない喉に、定まらない焦点、そうして上手く力が入らない体をゆっくりと持ち上げ、幽鬼のように左右にふらふらと揺らして、姉上の部屋から出て両親の部屋に歩を進める。
自分の体のあっちこっちについた血をそのままに、僕は希望も何も無いただの事実確認をするためにいつもより長く感じる廊下を歩いた。
両親の部屋は二階の一番奥にあって、ひときわ大きい扉がドンと構えている。
僕はその扉に体を預けその力で空けていき、部屋の内部に倒れこんだ。
そしてそこには当然と言うように事切れた母様の上に何かから庇うように覆いかぶさっている父様の遺体が存在している。
僕は声にならない声をあげ、両親の近くまで這っていくとそこにはおびただしいほどの血液が散らばっていてそれらは血塗れの父様からすべて出ていた。
母様のあの優しい表情を見ることはもう無い。
父様のあの立派な手腕を見ることはもう無い。
僕には母様を死んでもなお傷を与えないように守った父様に尊敬の念を送るような余裕などまったく存在しておらず、すでにこの残酷な事実に打ちのめされてしまって意識が暗闇に落ちていった。
これが'あの日'の僕から見た真実で、今日この日まで生きてきた原動力だ。
面白みなどどこにも無く腐った残酷な結果だけが残る。
そして僕の最悪最低の未来永劫変わることの無い過去だ。
僕は多くのものを失った。
貴族籍に領地、信頼と幸福、そして僕の家族と多くの使用人の命。
僕はわずかなものを得た。
空っぽになった精神に浸み込んだ闇の力。
そして皮肉なことにその闇の力のお陰で'あの日'の真実に辿り着いた。
そしてその真実は僕を……。
~今話の話の流れ~
どこか違和感のある屋敷に入ったルートが人が多く集まる大広間に行くとそこにはたくさんの人が死んでいた。
そして彼はそれを見てパニックになりながらも家族の安否を確認するが全員死んでおり、それを見てショックの余りに気を失ってしまった。




