13話 終わりの始まり 1
あの日、僕は『大森林』の表層でいつも通りに狩りをしていた。
定期的に魔物の討伐を行わないと魔物同士が徒党を組み、父様が遭遇したような魔物の大量発生が起こるという結果になるそう。
そういうわけで僕は表層である程度の数を狩り、土魔法を使って人型の土くれ、もといゴーレムを作り出した。
ゴーレム達にこれまでに倒した魔物を持たせた。
内訳としては、ブラッディ・ウルフと呼ばれる集団で狩りを行う狼型の魔物でいつも数体の群れで行動している魔物でそれが4匹に、キラー・ラビットと呼ばれる頭からとんが○コーンのような角を生やしたウサギのような魔物が3匹、そして滅多に出てこない危険な魔物としてこの辺りでは知られているキリング・ベアと呼ばれる体毛や目といったありとあらゆる場所が返り血のように赤く、その血の様な赤にふさわしいような嗜虐性や残虐性を持った熊のような魔物が一匹という戦果であった。
僕は充分な戦果に嬉しくなり、軽やかな足取りで『大森林』から出てレストに向かって歩き出し、その後ろを両手にウサギやら狼などの首をぐっと掴んだゴーレムやら一回り大きいゴーレムが熊を背負ってのしのしと歩いていた。
『大森林』から出ると、空には分厚い雲がかかり、丁度真上にあるはずの太陽の光でさえも隔ててしまうほど分厚く、にごった灰色の雲は、雨をポツリポツリと降らし、時折ゴロゴロと音と閃光を上げていた。
僕は妙にぬるい空気に不快感を覚え、一刻も早く水を浴びたい衝動に駆られいつもより早い速度で歩き始めた。
森と領都レストの間には小高い丘があって、それを越えるとレストを囲むような15Mほどの石壁がどっしりと構えているのが見えた。
その壁の一部に設けられた門には10人程度の人と2台の馬車が並んで、門番による検査を待っていた。
僕はその一番後ろに並んで着ていた外套のフードを深くして顔が見えないようにしてばれないようにして、抜き打ちで門番の仕事を観察することにした。
門番の仕事振りには問題なく次々と検査を終わらせ僕の番まで回ってくると、身分証を提示して深く被っていたフードを脱ぐと彼らは驚き、そしてすぐさま姿勢を正し頭を下げた。
僕は門番にすぐ頭を上げさせると、お仕事がんばってくださいと一声掛けてから門を通って中に入った。
レストはいつもと変わらず、大通りの壁沿いには露店がズラッと並んでおり活気に溢れている。
通りの中央は馬車が頻繁に行き来しており、石畳の上をすべるように進んでいった。
通りを進んでいけば小さな広場にぶつかり、そこではリュートを弾きながら英雄譚を歌う吟遊詩人に元気に走り回る子供の姿も見えた。
そんないつもと変わらないレストの様子に穏やかな気持ちになった。
僕はそんなレストの町並みを見ながら歩いていたのだが、僕自身が領主の息子として知られていたり、後ろに大きなゴーレムを何体も従えるように歩き、そして一回り大きいゴーレムが熊を背負っていたりとさまざまな要因から変に注目を集めているようだった。
その視線から逃れるように逃げ込んだのは、この都市がまだ名前の無い拠点として利用されていたときから商売をしていて今ではセルファ随一の商会で敷地面積ダントツ1位の"ラザート商会"であった。
"ラザート商会"は主に魔物の素材の買取を行っており、また装備や薬などの討伐者に必須な道具なども同時に販売している。
またこの"ラザード商会"の会頭は超国家的組織"ギルド"の一員でこのセルファ領のギルドマスターを兼任している。
内装は木を基調とした素朴ながらどこか威厳を感じさせるようなつくりで、正面には一枚の板を規則正しく窓のような形にくり貫いたような受付口がたくさんある。
その受付口の上部には、依頼、買取、相談などなどいろいろな単語が書かれており、その看板の下の受付口がそれぞれの受け持っている役割を示していた。
右手側には地下への階段が見え、その先は"ギルド"所有の訓練場が設置されている。
左手側には二階への階段が見え、その先は"ラザード商会"の店舗となっている。
僕は"ラザード商会"の本店兼"ギルド"セルファ支部に入って買取と書かれている看板がある受付口に急いだ。
そしてそこにいた綺麗なお姉さんに、
「すみません。魔物の素材の買取をお願いします」
と声を掛けた。
するとお姉さんは、
「分かりました。それでは買取を希望するものの提出をお願いします」
と言われたので、
「魔物の体を丸ごと運んできました」
「そうですか。それでは解体は当方で行うことになり、その解体料は買取価格から引くことになりますがよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いいたします」
「かしこまりました。それでは係りの者が引き取りに参りますので少々お待ちください」
そういうとお姉さんは買取口から離れていき、僕は引き取りに来る人を待つことにした。
しばらくすると唯一設けられた扉から一人の男が手押し車を引いて出てきたが、僕の後ろに立っているゴーレムを見てしばし呆然としたあと近づいてきて、
「申し訳ございません。キリング・ベアを引き取るには私だけでは手が足りませんので人を呼んで参ります。先にキラー・ラビットとブラッディ・ウルフだけ引き取らせていただきます」
そういって、ゴーレムからそれらを受け取って手押し車に乗せた。
失礼しますというやいなや、出てきた扉から奥に捌けていき、しばらくすると数名のガタイのいい男たちが出てきて、棒と木の板をあわせたようなものにキリング・ベアを縛り付けて載せて奥へと運んでいった。
すると先程のお姉さんが受付口から声をかけてきて、
「査定が終わるまでそちらで座ってお待ち下さい」
といって後ろの椅子を指し示した。
僕はおとなしくそこに座って待っていたが、暇だったのでゴーレム達を適当に操って組体操みたいなことをして時間をつぶしていた。
10分位が経って、"ギルド"にいた何人かの人たちがそのゴーレムたちを見て拍手していたりとなかなかな妙な時間を過ごしていたところにお姉さんが声を掛けてきたので、ゴーレムをピラミッド状なったまま放置して受付口にいった。
「お待たせいたしました。それでは精算させていただきます。まずどれも余計な傷が付くことなく討伐されていますので適正価格の一割り増しで買い取らせていただきます、。ブラッディ・ウルフが一匹銅貨三枚でそれが四匹分、キラー・ラビットが一匹銅貨一枚でそれが三匹分、そして、キリング・ベアが第二級危険指定魔物に認定されており、買取価格が金貨3枚となります。そして買い取り価格の一割り増しで合計金貨三枚と銀貨三十枚、銅貨十六枚となります。何かご質問等はございますか?」
「ありません。それでお願いします」
「わかりました。それでは一緒に確認をお願いいたします」
そういって、お姉さんは先程言ったとおりの硬貨をカウンターに並べておいた。
僕はそれが間違いないことを確認すると、自分の持っている皮袋にすべてしまいこんだ。
ちなみに銅貨が5枚あれば一日の生活は大体の地域では最低限保障される。
また、銀貨一枚は銅貨百枚と金貨一枚は銀貨百枚とそれぞれ交換できる。
「本日は"ギルド"のご利用まことにありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
そういって一礼するお姉さんに今日はありがとうとだけ言葉を残して"ギルド"からでた。
・・・そしてゴーレムを回収するためにもう一度中に戻った。
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少し恥ずかしい思いもしながらゴーレムを無事に回収し終えた僕は家を目指して歩き出した。
空は相変わらずの曇天でいやな空気も健在であった。
西から東に向かって整備された大通りからある程度進んでから北へと伸びる大通りより一回り小さい通りに入ってまっすぐ歩く。
この通りの突き当りが僕の家でもあり、このセルファ領の領主の一族が代々住んでいる屋敷がある。
この通りの北に向かうほど、このレストにおける古参の住民が住んでいる。
その通りをたどって家に向かうと、見知った顔の住民が声を掛けてきてくれるので僕も挨拶をして通りすぎる。
そうして何人もの住民と話をすると、このレストに住んでいて本当に良かったと心の底から感じた。
親切な人たちに囲まれて何不自由無く過ごす毎日、これが僕の幸せで、これが僕の原点なのだと改めて実感する。
一m程の塀に囲まれた屋敷、そしてその塀が途切れたところには門がある。
中の屋敷はそれほど豪華な外装の建物ではなく、庭には噴水やバラがこれでもかというほど咲き誇っているわけでもなく、ただただ草が短く刈られただけでよく見れば花が少々植えてあるなとわかるような程度のものである。
質素といえば聞こえはいいが、言ってしまえば迫力に欠けており、とても領主が住む屋敷だとは到底思えないような屋敷が僕の家だ。
僕自身この屋敷以外にも貴族の住む屋敷を見たことがあるが、なんだか見ているだけでも疲れてしまいそうなほどの装飾やら庭やらがあった。
僕が生まれてからずっと住んでいるという贔屓目もあるだろうけど、僕はこの屋敷が一番見ていて疲れない。
その飾りっ気も無い門の前にはいつも門番が立っているのだが、今は居ないようだった。
僕が家を出たときにはいたのにななどと少し疑問に思いながら門を開いて中に入る。
中に入ると、いつもと変わらないはずの屋敷になんだか違和感を覚えながらも、体にまとわり付くような不快感とポツリポツリと降りだした雨から逃れるように小走りで扉まで走る。
そして妙に重々しい雰囲気の扉を開け、「ただいま帰りました」といいながら中に入った。
扉は僕が入って一拍遅れでバタンと大きな音を立てて閉まった。
空は鈍色、ゴロゴロという音とともに閃光が走る。
僕はこのとき持った違和感の正体に気づくことが出来なかった。
こんな天気で外が暗いのにも関わらず、屋敷の中から光が漏れていないということに。
そして、居ないと思った門番が塀の内側に転がされていたことに。
その眠るように横たわる門番の体が赤く染まり、すでに瞳孔が開ききっていることに。
門番の最後の表情が目を飛び出るほどに開き、口を大きく開き何かを叫ぼうとした状態で固まっていて、喉を横一文字に切られていることに。
そして、誰か死んでいるという光景は屋敷の中にも、いや、より悲惨な光景は屋敷の中にこそ広がっているということに僕は気づかずにいた。




