12話 ”セルファ”
僕、ルート・セルファはセルファ家の三男坊として生を受けた。
セルファ家は曽祖父の代から始まる貴族家の一つで今は辺境伯を授爵している。
そもそもこの辺境伯という地位を拝するきっかけとなったのは、このセルファの地を開墾したことだ。
後にセルファと名づけられる地は、元々『大森林』と呼ばれる世界最大の森と隣接している地であり、その森から魔物が頻繁に出てきてとても住めるようなところではなかった。
しかし、僕の曽祖父は逆にこれを利点と考えた。
-魔物が頻繁に出てくるなら、それを返り討ちにすれば魔物の素材が取り放題ではないかと。
こうした考えの下、曽祖父は腕の立つ狩人や魔物を狩るスペシャリストたる討伐者、またけが人を癒す治療魔法使いなどを募り大規模な魔物討伐に乗り出した。
最初の3年は仲間が死ぬことも多く何度も解散の憂き目にあったが、得られたそれぞれの魔物に対する効果的な討伐方法、周辺の地形情報およびその地形を生かした戦術の開発、緊急事態に対処する際の指揮系統や連絡手段の構築などの幾重にも改良を重ねたことによって得られた経験をマニュアル化、それの徹底などを行うことで結果的に死亡率が大幅に下がり、魔物の出現パターンを解明したことによってその地を手に余る危険な地という認識から手に収まる危険な地として何とか居住可能なほどにまで危険度を下げることに成功した。
その魔物討伐の際に拠点としていたのが現在のセルファ領の領都レストなのだとか。
また、拠点と利用していた地には魔物討伐に加わった人の家だけではなく、最前線まで物資を売りにきた商人や彼らの活躍を聞いて集まってきた人たちに向けて作られた宿や食事処、戦いに疲れた戦士たちの衝動を晴らすためのそう言った店などがいつの間にやら出来上がっていた。
そうして段々と大きくなっていった拠点に魔物討伐を始めて5年ほど経ったある日、数名の騎士と王国の使者と名乗る人物が現れた。
その使者によると、拠点の規模はもう村といってもいいくらいになっており、王国としてはこれ以上の発展は見逃すことができないといったらしい。
王国はそもそもこの地は『大森林』の一部として扱っており、そこが拓かれるなどとは考えていなかったそう。
だからこそ、この地には王国も領主は立てず王国の地の一部としても扱っていない。
しかし、魔物討伐によってこの地が住める土地になったことによって王国としては新国家の樹立を疑っており、その真意を確かめるべくこうして使者がやってきたのだとか。
新国家の樹立などは一切考えていなかった曽祖父たちはこれを否定、あくまで我々は王国民のつもりだという回答をした。
その発言を受けた使者は曽祖父たちに幾つか質問をするとまた来ると言葉を残し騎士とともに王都に帰っていった。
そして一ヶ月が過ぎたころ、同じ使者が現れ、王国としての立場が定まったといったらしい。
その内容は、この地から近い領を持つ領主たる貴族にこの地を領地としたいかと尋ねたところ結構だと答えたものばかりであったと。
また、土地を与えるほどの功績を挙げた貴族もここ最近いないのだとか。
そして、領を持っている貴族は飛び地としての土地を持つことが禁じられているという。
あらゆる方策を考えた結果、最終的にこの地を開拓したという功績を鑑み、最低爵位である男爵位をこの魔物討伐の代表者に与え、異例ではあるがその功績ゆえにこの辺り一帯を直轄領として与えるというものらしい。
まぁ簡単に言うと、この危険の多い土地はマニュアルの存在を知らないので採算が取れるとは思われなくて貴族の誰もが欲しがらず、開拓した功績という名目で押し付けてやろうということかな。
それはさておき、体のいい押し付けで当時魔物討伐の主導者の立場にいた曽祖父が男爵を授爵して、最低爵位ながら直轄領を持った貴族となったらしい。
そのときに直轄領をセルファと名づけ、家名をセルファとしたそう。
こうして貴族の一員となった曽祖父であるが、元々平民でろくな礼儀も知らずにいたため他の貴族からは馬鹿にされたり平民風情がと罵られることもあったそうだが特に気にすることなく、結婚し子を残しその生涯に幕を下ろした。
そしてその子供であり父の背中を見て育った僕の祖父は、セルファ領のすべてを見て周り街や村を次々と作っていった。
そこに住む人々が飢えないように農耕地を自ら作り、魔物討伐に過剰な戦力をそれぞれの街や村に振り分け、いざと言う時の為の予備戦力として駐在させることにした。
また、作物が実るまでの間祖父は私財から食糧不足にならない程度の作物をそれぞれに送った。
最前線の拠点よりは頻度が低いものの、魔物も出現するので肉の確保はそれぞれで出来たそう。
そしてそれぞれの街や村に住む人々は少しでもその恩を返すために、それぞれの土地に合わせた作物の栽培、牧畜などを始めたりとして予想より早い段階で支援が必要なくなるなどという嬉しい誤算もあった。
そうして、セルファ領の全域に手を入れたことによってこの土地の特徴が読めた。
東には『大森林』が広がっている土地である。
西には王都へと続く見渡す限り平らな土地があり、牧畜に適している土地である。
南は海に面しており、漁業が盛んに行われている土地だ。
北には山々が連なり、肥沃な地であり、山の麓では畑、山の斜面では果樹園として活用されている。
このように魔物という脅威がなくなれば非常に魅力的な土地であり、それさえなくなれば発展の可能性は大きく、実際に祖父は発展を成功させた。
そして祖父は最前線の拠点として使われていた村を町から都市へと発展させ、都市名をレストとして領都に定めた。
最初の10年は徴税の免除を受けていたセルファ領であるが、祖父と領民の絆の賜物というべきか最初の5年ほどで軌道にのり、祖父が私財を投げ打った分を遥かに上回る収入が得られた。
またそれは、『無限』の無謀な攻略の結果として訪れた食糧難を抜け出すための助けとなったそうだ。
そしてあとの五年でその収入を大いに増やし、10年が経って国の役人が来て税についての話し合いの席ではその出来高の多さに驚き、王国の徴税料の上から五本の指には入ると言われたらしい。
そんなこんなで他の領に見劣りしないだけの大きな領にセルファをした功績によってセルファ家の爵位が子爵になり、当主の役目を僕の父様に譲ると祖母とともに農作業に勤しむ老後を送り、昨年祖父、祖母ともに他界した。
父様に代替わりしたところで、突然魔物の大量発生が発生した。
父様は討伐者たちを率いて魔物の討伐に乗り出し、得意の火魔法を魔物の群れに向かって撃ち一帯を燃やし尽くす。
そしてその時に同じ魔法使いの部隊にいた僕の母様が風魔法を使って魔物を切り裂いていたのだが、父様が魔物を燃やしているのを見て、切り裂くような鋭い風から薙ぎ払うような風に変え、より一層燃え上がるようにした。
父様が炎を放ち母様が風を放ち、風に吹かれた炎がより一層熱量を高め魔物を焼き尽くす。
そんな父様と母様の連携の甲斐があってか殲滅速度が上昇し、死者も出たがそれらはレストに辿り着くことなく討伐者達の手によって静められた。
そうして、父様と母様はその戦いの後から交際を始め結婚、こうして僕達を産み今に至るというわけ。
また、父様はその戦いの後に南の海に面した街に港を作ることによって、今までは陸路に限定されていた魔物の輸送経路に海路を加えた。また王国と友好的な関係を築いている国々の貿易船も積極的に受け入れた。
また、南西の平原に新しく街を作り、そこの近くの平原に飛竜が寛げるような大きな建物を建て、また倉庫をたくさん立てることによって、飛竜運送を呼び込み空路を加え、その南西という場所の性質上、海空陸路によって運ばれた物品をそこに集約するようにした。
そうすることによって『大森林』から出てきた魔物の素材とセルファ領のさまざまな特産品、それに加えてそれぞれの航路で運ばれてきた品々がその街に集約されることによって商売が盛んに行われ、その街、いやその都市は王国有数の貿易都市へと発展し、インテンと名づけられた。
その魔物の大量発生を食い止めた功績と王国有数の貿易都市を作り上げた功績によって、ある一定の裁量権と爵位を得た。
その爵位は辺境伯といって侯爵とほぼ同等の権力を持つ。
そして辺境伯ということで上位貴族に名を連ねたセルファ家は、戦争でも起きない限りこうして爵位がなかなかあがらない中で異例のスピード出世を果たしたわけだが、セルファ家を興した曽祖父が残した家訓にこうある。
「我々は決して偉くなった訳ではない。ただ、貴族の末席に身をおいただけの平民だ。私が貴族となった理由、そして我々が貴族であるための責務は責任を取ることだ。このセルファを愛せ。そうすれば私が貴族になった理由が見えてくるはずだ。決しておごること無かれ」
その言葉を胸に僕達セルファ家の人間は今日も生きている。
僕達にはこの家訓の言いたい事が十分に分かっているからだ。
武芸に学問、魔物討伐に礼儀作法、領民とのコミュニケーションとそれに伴う農作業、戦術からいざというときのサバイバル術まで、ありとあらゆる技能を学ばなければならない立場にある僕らである。
しかし、僕はこれを疲れるとは思ってもいやだと思ったことは一度も無い。
領民が笑顔になるのであれば喜んでやろう。
そう思ってあの日まで毎日を生きてきた。
あの日、僕の日常が壊れてしまうまでは。




