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真実は迷宮の中  作者: Luce
第1章『無限』
11/84

11話 特典


彼はそのまま通路を進むと木製のボロくて所々向こうの景色が見えてしまっている扉を見つけた。

あまりのボロさに、


「確かに魔力コーティングされているのが分かるけど、なんだろうねこの"探知"が通らなかったと信じたくない感じ」


とせっかくの自己暗示が思いもよらぬ方向にぶち破られたことに自分の"探知"に対して自信をなくしてしまう彼である。


その扉に近づき手で触れると、その魔力が勢いよく弾けて霧散した。

そうして魔力コーティングが霧散した扉がバタンと音を立てて向こう側に外れて倒れてバラバラになった。


「・・・・・・」


彼はなんとも言えない表情でバラバラになった元扉、現木片を見つめる。

そうして無言でその木片を力強くグリグリとしっかり踏みしめてからその先へと歩を進める。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そうしてなんともいえない感情を抱いた場所から大体五分ほど歩かされたところで通路の終わりが見え、その先の部屋はどうにも内部から溢れる光のせいで上手く見えない。


彼はその妙に長いその通路を歩く間に「なんともいえない事態に見舞われたけどこの先はきっと安全、きっと安全。」と再び自己暗示をかけて自身の精神的な平穏を保つことに成功し、その先の部屋の中が見えないという事態に少しためらいはしたものの迷い無く部屋の内部へと足を伸ばす。

そのまばゆい光に一瞬視界が奪われて、とっさに目を腕でかばう。


目がその光に慣れてかばっていた腕を退けると、その部屋は先程の虹蛇と戦った部屋よりも遥かに大きく天井はどういう原理か白く発光しており部屋全体を照らし、なんとも神聖な空気が漂う真っ白なパルテノン神殿のような建物が部屋の中心に厳かに鎮座しており、周りには立派な翡翠色の幹に葉が白銀色に輝く広葉樹が茂っていて、それらで構成された一つの島を空色の浅い湖がグルリと取り囲んでいるような様子で、その島には通路から一本の日本庭園に見られるような八つ橋が架けられている。


彼はその橋を渡って神殿のある島へと歩いていく。

道中で湖の中を見てみると視界は明瞭で底まで見えるほどの透明度のようであるが、そこには魚の一匹もおらず枯れ葉の一枚も浮かんでおらず、水中には水草の一本も生えていない。

あまりにも水が澄みすぎているためかそれに生命を感じることができず、なんだか得体の知れないもののように思えて彼は不気味に思った。


橋を渡り終えて中心の島に上陸すると改めてその神殿を見上げる。


それは高さ20m、幅15m、奥行15mと非常に大きく白を基調とした立方体の上に屋根を被せたような神殿で、3段ある階段を上った高さに柱が中心の5mを除いて1m間隔に左右に3本ずつ並んでおり、それが立方体の側面の四方向とも同じようなつくりになっている。

また、神殿の立方体の側面とそれぞれ呼応するような屋根の向きでその形は正面から見ると台形に近いものであり横から見ると台形の下底から上底にかけて反比例のグラフのように反っており、台形の下底は両端に近づくにつれて湾曲していてそれは丁度沈む直前の上弦の月のような形になっている。

そしてその四方向から伸ばされた台形の上底は屋根の天辺で正方形をつくり、折り紙を二等辺三角形になるように二回折って開いた時の折り目のような形で中心点を中心に窪んでいる。

その中心点は直径10cmほどの穴が開いておりそこから建物内部へと一筋の光が入るようになっていて、雨が降るということが無いこの場所だからこそできる採光性である。

そのような立派な神殿の周りには美しい木々が等間隔に並んでおりそれを取り囲んでいるようであった。


彼は階段を3段上がって中を見てみると、その中心には天井からの一筋の光を一心に受ける直径3mほどの回転する大きな球があり、その下には地面からその球を貫く直前で止まった針のようなものが突き出ていて、それがその球を浮かせているようにも見えた。

その浮いている球は透明な赤色でいわゆる柘榴石-ガーネットであった。


彼はその柘榴石を見て、


「柘榴石……。ということはこれが迷宮核なんだね」


と呟いた。


迷宮核が柘榴石だということはこの世界『セルデイア』においては良く知られている。

その迷宮核が柘榴石だということは物語から学んだり、両親から聞いたり、はたまた広場で歌っている吟遊詩人から学んだりとさまざまな方法で世界中に広がっていて、ある意味で魔物や迷宮に続いてよく知られている存在だ。

それは迷宮についての話をする上では絶対に登場する物としても有名であり、また柘榴石は今のところ迷宮核以外のものが発見されていない。

そういう希少価値がある柘榴石は、戦闘をする人が持っていると迷宮を攻略できるほどの実力の持ち主だということの証明であり、また商売をする人にとっては商売が大繁盛しているという成功者の証明としても世の中に浸透している。

強い人を見つけたいのであれば柘榴石を目印に探せだとか、商会の規模を判断するには柘榴石を目印にしろなどといったようにその存在は様々なものに対して影響を及ぼすものなのである。


彼はそんな世界で有名なものトップテンに余裕でランクインするような迷宮核を目の前に涙を流す。


「ああ、ほんとに僕はこの『無限』の最奥までちゃんとたどり着いたんだね。これは夢じゃないよね?」


そういって彼は頬をつねると確かに痛みを感じる。


「あっ、痛い。と言うことはこれは夢じゃないんだね。これで僕はやっと'あの日'の真実を知ることができるんだね。僕のあの幸せだった日常が一気に崩壊した'あの日'のことを。僕は今日この日のために5年も生きるか死ぬかの世界で生き延びてきたんだよ。こんな夢も希望もほんのささやかな幸せまでも無い世界をね」


そう彼は入り口からゆっくりと迷宮核に近づきながら言って、忌々しい'あの日'の真実を知ることができるものを目の前にしていることに喜びの感情が溢れ出ようとするが、それ以上の激情が彼の中で暴れ狂っていてその喜びが外に出ることは無かった。


そうして彼は迷宮核にゆっくりと手をのばしてしっかりと触れると、


(迷宮核ナンバー'L-8274610'に対して知的生命体の接触を確認しました)

('ラプラスレコード'に接続します。……接続完了。続いて接触者の判定を行います)

(接触者の過去を照会。……照会完了。第一試練'*****'-クリア。第二試練'*****'-クリア。最終試練'*****'-クリア。固有試練'*****'-クリア)

(接触者をすべての試練を乗り越えた者として認定。'到達者'としてルート・セルファを'ラプラスレコード'に登録。……登録完了)

(これより'到達者'ルート・セルファに対して特典の授与を行います)


神殿内にどこからか中性的な声が聞こえてきて良く分からない言葉を並べ立てる。

彼はいつもならこの状況に驚くのだが、真実が分かると言うことに気を取られておりいまかいまかと体を揺らしている。


('到達者'ルート・セルファ、あなたを迷宮の攻略者として認めます)

(これまで起こった出来事の真実の開示を行います)

(あなたは知りたいことはありますか?)


「僕が知りたいのは5年前の出来事、僕以外のセルファ家の家族、使用人達の惨殺事件の真実です」


(照会開始。……照会完了。真実を開示します。またその真実はこの迷宮核の一部に保存されます)

(そして特典として迷宮核の一部を譲渡、保存された真実は何度でも確認することができます)

(譲渡された迷宮核の詳しい使い方はそれに触れた瞬間に知識として流れ込みます)


迷宮核がひときわ眩い光を放つと赤く透明なその石の内部にふわふわした白い光が閉じ込められていた。

そしてその光が動いて一部分に集まると、迷宮核全体が一瞬アメーバのように不定形になり光を含んだ一部がトプンと分離して彼の目の前に赤ちゃんの握りこぶし大の柘榴石の珠が浮かんでいた。

彼はその柘榴石の珠に手を触れると使い方が頭の中に流れ込み、その情報の奔流が収まると自然と使い方が昔から知っていたかのようにわかった。

そして早速真実を見えようとすると、


(おめでとうございます。あなたは固有試練をクリアしました)

(特別特典'アリアドネの糸'を授与します)


という声に邪魔された。

少し不機嫌になり迷宮核をにらみつけるとどういう訳かその中から少し青みがかった白い糸がまきついた棒が出てきた。

彼は特別報酬といわれたのでそれももらえるのだろうと手を伸ばして触れると先ほど同様使い方が頭の中に流れ込み、その使い方を理解した。


(以上で特典の授与を終わります)

('ラプラスレコード'切断。これより迷宮の崩落が始まります)

(ルート・セルファはすぐに迷宮核に手を触れ、脱出をしてください)


彼は真実を見る暇も無く退去を進める声にしたがって迷宮核に触れた。

すると触れた部分から迷宮核の内部に取り込まれてしまうように少しずつ体が呑み込まれていく。


彼が最後に見たのは柱の隙間から見えた何かを祝福するようにいっせいに音をたてて揺れている美しい木々だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


彼が目を開くとそこには鬱蒼とした森が目の前に広がっていて、後ろを見れば崩落した洞窟、元迷宮の『無限』の入り口があった。

手には光が閉じ込められた赤い透明な柘榴石と糸巻きが握られていた。

上を見上げると風に揺れる木々の隙間から吸い込まれそうなほど蒼い空が見え、外ではもう夏に差し掛かる季節になっているころだと思い出した。


彼はとりあえず何度も邪魔が入った真実を見るのを後回しにして、手に持ったものを腰袋にしまうと一番近くの街に向かって歩き始めた。




迷宮を攻略することによって知りたいと願い厳しい戦いの末に勝ち取った'あの日'の真実。

'あの日'はいつ思い出しても残酷で救いが無く、それ以上にそれこそが彼自身の歪んだ出発点なのだと熱烈に意識させる記憶。


そして彼が今の彼になった'あの日'がすべての始まりだ。

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もう一つの連載作 テーマは独善の投影。
「辻ヒーラーさんは今日も歩く」
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