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あの世界で私たちは敗者だった  作者: ものくろ
あの世界で私たちは敗者だった
3/3

始まり

私が次に目を開けた時に見たのは綺麗な木目の天井だった。陽の光が私の目を覚ましてくれたのだろうか、私は起き上がる、部屋の広さは広めでにはベッド、タンス、鏡や机、本棚などが置かれていた。人の生活のあとは見られなかった。


階段を上がる音が聞こえる。しばらくすると赤髪の女性が扉をゆっくりと開け入ってくる。黒色のロングスカート上に白い服を身にまとった彼女は私を見るとほっとしたように言った。


「おはようございます。もう体の方は大丈夫?」


彼女の言葉を聞いた途端、私の体験した記憶が、頭の中で呼び戻される。


そうだ、私は彼女達に助けられた後気を失って......


アリアは体を少し動かしてみる、もうどこにも痛みはなかった。


「もうどこも痛くありません大丈夫です、ミカさん」


私は声を大にしていった。すると彼女はほっとしたようにやさしい笑顔を浮かべる。


「名前も覚えてくれているなんて嬉しいです、お腹空いているでしょう?なにか作ってきますね」


彼女は満面の笑みでそう答えると、ゆっくりと部屋を出ていった。


彼女が出て行ったあと、のそのそと私はベッドから降りる、少し体を動かしたくなったのだ。ベッドから出てみると、気を失う前よりもむしろ体が軽い、部屋の中を飛んだり、走ったりする姿は傍から見たらとてもおかしかったに違いない。あと、もちろん音は立ててない。


一通り身体を動かして部屋を見渡すと大きな姿見があった、私は今更ながらに自分自身の姿を見たことがないことに気付く。私は姿見の前に立つ。


私は真っ白なワンピースを着ていた、きっと彼女が着替えさせてくれたのだろう。だがそれより目を引いたのが、ワンピースと同じぐらい真っ白な髪だ、真っ白と言うと語弊があるのかもしれない、私の白い髪は先はうっすらと赤みを帯びていた、前髪は長さがあまり無いためか、ほとんど赤さはない。目は黒く赤みがかっていた。


アリアが姿見の前に立ってもう10分は経っただろうか。


鏡に映る自分の姿に見とれていたわけじゃない、姿見の向こうに映っている自分になんだか無性に違和感を覚えたからだ。

だがアリアのその違和感探しは中断させられる。


「そんなに自分の容姿が気に入った?」


「ひゃ!」


突然背中から声がかけられる。あまりにも突然で変な声を出してしまう。アリアは勢いよく後ろへ振り返った。


「違います!違いますから!」


アリアの顔は真っ赤になっていた。


「そう」


黒いフードの間から垂れる長い紫色の髪を持つ彼女、その特徴的な姿は一瞬でアリアの記憶を呼び覚ました。


「リリアさん......?」


「......」


「あの......」


「............」


リリアは何もしゃべらないままじっとアリアを見ていた。

しばらくするとリリアは踵を返してしまう。


アリアは慌てて呼び止める。


「あの!」


リリアの歩きが止まる。アリアはその背中に向けて叫ぶ


「助けてくれてありがとうございました!本当に...ありがとうございました!」


アリアの声は少し震えていた。

リリアはアリアの言葉を聞いた後窓の方へ歩いていく、そのまま部屋の大きな木の窓の淵に立った。


優しい風が彼女のフードをふわりと下ろした。

リリアは長い紫色の髪をクリップで後ろにまとめていた。彼女は言った。


「次からはリリアでいい...」


彼女は風のように消え、風がアリアの頬をなでた。



リリアが去ってすぐ、ノックの音がした。


「食事の準備が出来ましたよ」


扉の向からミカの声が呼んでいた。


「はい、すぐ行きます」


ミカの後について歩いていく、少し廊下を歩くと綺麗な木目の階段があった。階段はカーブしていて螺旋状になっている。長い階段だった、下に降りる途中で私が居た階と同じような廊下があったからここはきっと3階建てなのだろう。


アリアはミカに案内されるままカウンターに座る。カウンターの上にはメニューが置いてあった。辺りを見渡すとたくさんのテーブル、たくさんの椅子が綺麗に並べられていた。だが人は誰もいない、ガラッとしていた。


厨房から沢山の皿を器用に持ってきたミカがカウンターにそれを並べ始める。


「今日はお休みなんですか?」


アリアが尋ねた。ミカは皿を並べながら答える。


「ええ、今日は依頼がありましたからね。いつもはもっと混んでるんですよ?」


彼女は笑顔でそう答える。


「さあ、召し上がれ」


机の上には色とりどりの料理が並んでいた。どれも美味しそうでヨダレが出てしまいそうだ。アリアはフォークを使って口に運ぶ。

アリアの頬はすぐに緩んでしまった。


アリアがしばらく食べ進めてほとんど皿が白くなってきた頃、ミカは少しだけ真剣な顔になって言った。


「今日より前の記憶は残ってない?」


アリアは食べるのをやめると少し考え言う。


「......はい、自分がどこに住んでいたかも、何をしていたのかも覚えていません......」


「そう」


もう何年ぶりかしら──ミカはそう言って少しの間、遠くを見ていた。アリアは彼女にその言葉の意味を聞くことは出来なかった。



「ご馳走様でした」


アリアは手を合わせて言った


「お粗末さまでした」


ミカはそう言うとお皿を片付けていく。


「今から少しだけ一緒に付き合って欲しいところがあるんだけどいい?」


アリアは首肯する。


「そう、じゃあ後ろにある服に着替えてきてくれる?」


アリアの後の机の上には服がたたまれていた、アリアは一人で部屋に戻り、ミカから渡された服に着替え始めるのだった。



階段下の場所20分後に集合ね──そうミカは言った。

そして今はその20分が経っている。だがアリアはまだ部屋にいるのだった。初めて着る服に戸惑っていたらこんな時間になっていた。20分を少しすぎてからアリアは大急ぎで部屋を出て階段を慌ただしく駆け下りる。下にはミカがアリアを助けた時に来ていたカーディガンを着て立っていた。階段を急いで降りるアリアは靴も新しいものでなれてなかったせいか走り方は危なかっしかった。


「ハァ、ハァ、遅れてすいませ────」


コツン。

アリアの謝罪はミカが私の額をこづいた事で中断される。


私が遅れたことに怒ってるのだと思った。


「危ないじゃないそんなに走っちゃ!」


アリアは驚いた顔で見つめる。


「時間に遅れてしまったので」


「時間よりもあなたに何かあったらどうするんですか!」


彼女は真剣な顔で言った。

もう──と彼女は言うと。


「それにしても......似合ってるわね」


ミカは笑顔で言う。これ以上怒ったりはしないようだ。



アリアの服装は着替える前の真っ白なワンピースとは真逆の暗めのトーンだった。ポケットがいくつもある大きいジャケット、ジャケットの中にはノースリーブのインナー、下はミニスカート、靴はヒールの付いた丈の短いブーツだった。


「ちょと派手じゃないですかこれ?」


アリアは自分の服装を見ながら言う。


「そう?私は似合ってると思うけれど」


彼女は満足げだった。



ミカとアリアは店の戸から外に出た。


街は木組みの街だった、たくさんの家が綺麗に並んでいる、太い道の中央には川が流れていた。アリアはその風景に目を奪われる。


「どう、綺麗な街でしょ?」


ミカが水路を眺めるアリアに言う。


「どこに行くんですか?」


アリアは振り返り尋ねる。


「あれよ」


それは水路の流れの先にあった。

それ街の中心にあった。

それ大きくそして顔を上げなければ先が見えないほど高く高くそびえ立つ塔。

空へのはしごのような塔。


私は歩き出す。



私そこで“彼女“に出会うことになるとは知らずに......



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