表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの世界で私たちは敗者だった  作者: ものくろ
あの世界で私たちは敗者だった
2/3

チカラ

「げほっ...げほっ...」


砂煙の中から現れたさそりはキュルキュルと私をあざ笑うかのように唸っている。蠍は100メートル程距離のあった私にめがけて跳んで来たのだ。しかも落ちたのは私の前、完全に退路をふさがれていた。


逃げなければ殺される。そう思った、だが体はもう限界だった。


蠍はその大きなハサミを横に払う、私は虚しくそのハサミに弾かれゴム玉のように転がっていく。

蠍にとってそれは遊びだった、横たわって動かない私を見ると蠍は満足したように吠えた、同時にその大きなハサミを振り下ろす。


私はただ呆然とそれを眺めていることしか出来なかった。



蠍は飛んだ、跳んだのではなく、『飛んだ』


金属と金属がぶつかる強烈な轟音が辺りに響き渡る。私に振り下ろしていたハサミはえぐれたように凹んだ。蠍は回転しながら左へ吹き飛ばされていく。



私が右を見ると一人の少女が歩いてきていた。フードの付いたカーディガンをしているその少女は深くフードをかぶっていて顔は見えなかったが2本の長い紫色の髪がフードから流れていた。


『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ』


吹き飛ばされた蠍は吹き飛んだ逆にの方向に向かって今までで一番強く吠える。


少女はゆっくりと左手を前に伸ばす、深くかぶったフードと髪の間から瞳を覗かせる、その瞬間袖の間からキラリと何かが光った。



二度目の轟音

蠍の半身が浮き上がる、そして地面にドスンと倒れた。


少女は私の元まで歩いてくる、彼女は私の横でちょこんとしゃがんで言った。


「大丈夫?......生きてる?」

彼女は私に手を差し出した、私はその手を取るが立つほどの力は残ってなかったためその場に座った。


「はい、何とか」

私を覗く彼女の瞳は蒼く、大きい目をまぶたが半分ほど隠していて

鼻と口は小さく可愛らしい印象を受けた。


「そう......あなた...」


突然彼女は私の後ろへ目を向ける。


さっきまで倒れていたはずの蠍は音を立てずにものすごいスピードで私たちの方向へ突進してきていた。蠍の顔はほとんど潰れてる、きっと私たちへの強い殺意が蠍の体を動かしているのだろう。


少女は私に向き直って言う。


「ちょと待ってて」


その声はとても落ち着いていた。


少女は立ち上がると、歩いてきた方へ戻って行く。


5歩ほど歩いた瞬間、彼女は驚くほど高く跳躍しながら体を私の方向にひねった。その時彼女は腕は横に薙いでいた。

彼女のないだ左腕から鎖がすごい速さで伸びていく、その鎖の先には握り拳ほどの塊がついていた。

鎖は扇状に広がっていく、広がった鎖の先端が迫ってくる蠍の尻尾を絡めとる、


この瞬間、彼女の姿が消えた。


彼女は蠍の上にいた、蠍の上に彼女がいた時には尻尾に絡まっていた鎖は袖にものすごい速度で戻っていた。


上を取った彼女は右手を蠍へかざした、蠍は今までのどれよりも強いであろう力で地面に叩きつけられる。その反動は彼女を上空へ飛び上がらせた。


蠍はぴくりとも動かなくなった。




「こらあああああああああああああああああああああああああああ」


突然、遠くから女性の声が聞こえた。


「一人で行動するなって何回いえばわかるんですかあああああああ」


それを聞いた瞬間、空に浮いている彼女の顔が見るからに険しくなった。


「いい加減にしなさああああああああああい」


その声はさっきまで遠くにあったのに今はもうすぐ近くに感じた。


さっき見るからに嫌な顔をした彼女は両手から鎖を伸ばしもう全く動かないさそりの胴体を左右からぐるぐる巻に縛ると



上から放り投げた、


声のした方に。



ズドーン


私はただ呆然としていた。


しばらく経ったあと少女が蠍を投げた方向からひとりの女性が歩いてきた...すごい形相で。


「リリアちゃ〜ん」


私の横に立っていた少女はビクンと体をのけぞらせた。


少女のことをリリアと呼んだ女性の髪は赤かった、長く赤い髪を頭の真ん中の方で結でいる、背は高く金色の刺繍が入ったトレンチコートを着ていてとても細身だった、顔の形は整っていた、が、いまはその整った顔がとても怖かった。


空気を切る音がした、

気付けば、赤髪の女性は私の隣にいたリリアという少女の目の前で腰に手を回して立っていた。


「リリアさん?何度同じことを言えばわかるんです?」


話し方はとても落ち着いていたが、顔がとてつもなく怖い。


私がふと少女の方を見ると、少女は私の方をすごい眼力で凝視していた、この目は完全に救いを求めていた。


少女の願いを感じ取った後、女性が話(お説教)を始めようとしたので、私は慌てて話しかける。


「あの!」


ビクン!赤髪の女性はさっきの少女とよく似た驚き方をした。

彼女は私に気付くと突然先程までの雰囲気は消えた。


「私、彼女に危ないところを助けてもらったんです」


私がそういうと彼女は目を見開き、少女へと視線を移す、少女は元々切れ長の目を更に細くして赤髪の彼女を見据えていた。

赤髪の彼女は苦笑いを浮かべると、私の前に座って話しはじめた。


「大丈夫......じゃないわね......襲って来たのはあの蠍?」


「...はい」


「そう、怖かったわよね。大丈夫、もう安心していいわ」


彼女はっとして私に言う。


「名前を言うのを忘れてたわね、私の名前はミカ、そこの彼女はリリアっていうの、よろしくね。あなたの名前は?」


「私の名前......」


そのとき無意識に私の口からこぼれた


「...アリア」


ミカは笑顔で答えた。


「アリア、とても綺麗な名前ね。何処から来たの?」


「何処から...」


覚えていない、気がついたらここで横になっていたのだ。


「覚えていません...」


「名前の他は何も?」


「はい...多分」


ミカは目を閉じ少し考えると言った。


「まず私たちと─────────」


彼女の声が遠くなっていく、視界もぼやけ始め体から力が抜けていった



突然、私の視界が黒で塗りつぶされた。




私の名前を呼ぶ声は私に、届かなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ