目覚め
光が眩しい、視界に映るのは自分のまぶたの赤さだけ、体は水の中にあるみたいにとても軽くて、心地よくて、でもなんだか、悲しかった。
「んぅ......」
眩しい...目の前が真っ白だ、目がじんじんする...
目が明るさに慣れるのに何分掛かっただろう、やっと目が慣れると視界に澄み切った青空と白い雲が飛び込んできた、私は立ち上がろうと体を起こそうとするが、体がメシメシと悲鳴を上げて思うように動いてくれない。
「まずいなぁ」
思わずため息をついてしまう。まぁ、でもゆっくり時間をかければいいか。
もう私は10分ほど横になっている、そうすると首と腕が少し動かせるようになった。
私が周りを見渡すと色とりどりの花が一面に咲いていて、甘い蜜の匂いが私の鼻をくすぐった。
『グゥーー』
お腹が鳴った、はちみつの匂いでお腹がなるなんて食いしん坊だなぁ私は。その匂いはなんだか懐かしく感じて私の胸を締め付けた。
また少し経ったあと、頭の上の方で何かが走ってるような音が聞こえてくる。
それはいくつもの地面を叩きつけるような音をしてこちらに近づいて来ている。
私は直感的にそれから逃げないとと強く思った。
私はすべての力を使って上半身を起き上がらせた、座ってみると私の前から
「え、」
今まで気づかなかったけどここって丘の上じゃないか。
私の中の何かが、逃げろと私に伝えている。
手を地面につけて叫ぶ
「いうことを聞いて私の足!」
声を出さないと自分に負けてしまいそうだった。
歯を食いしばって地に足をつける。
「...ん!」
足をつけた瞬間、まるで足が燃えるように熱くなる。
立ち上がると花畑の向こうに森が見える。
あそこまで行かなきゃ。
腕を使ってバランスをとりながら歩き始める、10歩ほど歩くとさっきまでの足の痛みはほとんど消えていた。
風は相変わらず私の髪を、服を、地面の花達を、強く強く揺らす。
私の体に速度が出るまでにかかったのはほんの20メートルほどだっただろう、きっと地面が下りになっているのもある。遠くからの轟音は止まってはいなかったが、音の距離から考えて丘の下にある林に私が逃げ込むほうが早いだろうと...思っていた。
『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ───────────』
空気が震える。
心臓を掴むような咆哮が私の走りを止めた、
私は音のする方に振り返る、さっきまで私が寝ていた場所に”何か”がいた。
それは輝いていた、
太陽の光を反射していた、
細い八本の足とそれに不釣り合いなぐらい大きいハサミ、
体から伸びる尻尾にはやりのような太い刺が天高く掲げられていた。
これほどまでに離れているのに大きすぎるその体は一瞬にして私に死を連想させた。
巨大蠍の咆哮は私を見つけた喜びの証なのだろう、咆哮を終えると私の元へ砂煙を上げながら突進して来る。
私は振り返り再び丘の下へ走り始める、サソリは私のあとをとてつもない速さで追いかけていた。
蠍は私との間をものすごいスピードで詰めていっていたが、このまま走れば捕まる前に私が森に入る方が早かった。
地面が震えた。
その衝撃で地面に手をついてしまう、反射的に何があったのかを振り返り確かめる。
─だが何もなかった─
─何もいなかった─
私の体が砂煙とともに吹き飛んでいく、私の体は地面ゴム玉のように跳ねた。
「げほっ...げほっ...」
口の中から血の味がする、立ち上がろうにも体が動かない。
霞んだ目のに映ったのは、砂煙の中から現れる蠍だった。
私も、蠍も、横から近付いて来る少女と鎖の音に気づいていなかった。