第七話 この世界について
「うむ、そうじゃろう。勇者殿はまずは何から聞きたいのじゃ?
先日の非礼もあることじゃし、訊かれれば何でも答えるぞい」
マルスドゥは山田の目を覗き込み、真剣に答える姿勢を見せている。
山田はまずは一番聞きたい質問からすることにした。
「まずは、僕が地球に帰る方法はあるのか?」
シリアスな表情で二人を見回して山田は質問する。
「……あるか、ないかと問われれば"ある"。間違いなくある」
マルスドゥの答えに少しホッとした山田はさらに続ける。
「そして、その方法は爺さん達には分からないわけだな」
「うむ、分からぬ。もちろん探す努力はする。
いや、もうしている。と言えるか……。とにかく今は分からぬ」
「よし、ここまでは了解した」
ドワイドが、三人分のお茶を入れて持ってきて
山田とマルスドゥがティーカップを手に取り飲む。
味は紅茶そっくりだが、色が澄み切った青だ。
お茶を口にして一息入れた山田が口を開く。
「なぜ、帰る方法が分からないんだ?その理由は?」
山田の質問にマルスドゥは腕を組み、しばらく考え込んでから答える。
「二つの理由がある。一つは我々に地球人の地球への帰還の詳細な知識がないこと。
地球に帰った。と書かれている文献は多いのじゃが、何故か帰り方まで記されているものはない。
二つ目は、知っている者達が絶対に口を開かないであろうことじゃ」
「知っている者達とは?」
「勇者殿はドラゴンやアンデッド、そしてデビルなどをまだ見たことはないかね」
「ない。動物や魚の顔をしているふつうの人間たちに戸惑っているくらいだ」
山田の発言を聞いたドワイドが微笑む。
「ふむ……。一つ明かそうか」
そう言ってマルスドゥは隣に座っている山田の前に右手の手のひらを広げる。
「この手を触ってみてほしい」
山田はゆっくりと自分の手を伸ばし、マルスドゥの手を触ると驚いた。
質感こそ人間の手なのだが、凄まじく冷たいのだ。
間違いなく生き物の手の温度ではない、まるで命が宿っていないようだ。
「冷たいじゃろ?」
マルスドゥの言葉に山田は上目遣いで恐る恐る頷く。
「わしはな。平たく言えばアンデッドの一種なのじゃよ。
"ハイアンデッド"……"命を克服した者"と呼ばれておる」
「現世には、わしと東の大陸にいる大賢者オブディアンくらいしか、多分おらぬはずじゃ」
「この体は冷凍保存されているのと同じ感じじゃな。
魔法で時を止めて形を保ち、魔法で動かしておる」
「それもたまたま生まれながらに無尽蔵の魔力をもっているわしや、
オブディアンだからこそできることじゃ」
「ここまでは良いかね?勇者殿」
山田はとりあえず頷いた。
「わしは、自分で生きるのを止めるか誰かにこの身体を破壊されぬ限り、永遠に生き続けられる。
大体今二百七十歳くらいじゃ。ハイアンデッドになってからは二百年以上じゃな。
そしてな勇者殿、この世界にはそんな命の理を超えた生物や非生物がそれなりにおる」
「ちなみに私のような一般人の寿命は、五十から八十歳くらいです」
ドワイドが山田に向けて微笑みながら補足する。
「つまりな。ドラゴンやアンデッドなどで数千年生きている者なら
知っているはずなのじゃ、地球人の地球への帰り方を」
「爺さん達は、何でそいつらに方法を訊きにいかないんだ?」
「二千歳のオブディアンも含めて、やつらは頑固で頭が固いのじゃよ。
能力も知能も抜群に高いが、それぞれの自己利益最優先で行動する者が大半じゃ。
よほど興味を引かぬと、会話すらできないじゃろう」
マルスドゥは手を広げ、頭を振った。
山田は疑問に思ったことを訊いてみる。
「文献があるということは、僕のような地球人が過去にも来たと言うことだよな?」
「うむ。何度か来ておる。記録があるだけで五回。わしの研究によれば、おそらく七回は来ているはずじゃ」
山田は少し考えをまとめながら質問する。
「数千年生きているものたちが知っていて、
二百七十歳の爺さんが帰り方を知らないということは、最後に地球人が来たのはいつなんだ?」
「約三百八十年前じゃな。場所はこのアラマスク王国じゃ」
「わが国アラマスクの王家はその地球人が先祖です。
彼は五年滞在した後に、子供を三人残して地球に帰還したと云われています」
ドワイドが補足した。
「そうか……フェルマが地球に来れて、僕が地球に帰れないのは何でだ?」
「うーむ……それが一番複雑なのじゃよ……できるだけわかりやすく話すが……」
マルスドゥは長い説明を始めた。
そもそもの地球とステラスターの繋がりは"ゲート"と呼ばれる
この星特有の次元空間の不安定さから来る現象によるもので
古代のステラスターは、年に数十回ひどい時は数百回各地にゲートが無作為に開いて
地球以外にも様々な異世界の生物や無生物をステラスターに吐き出した。
その時に現れたのが"ドラゴン"や"アンデッド"達であり、
彼らは恐ろしい能力を用いて、瞬く間にこの星の生態系の頂点に君臨した。
古代人達は、彼らに怯えて暮らしていたのだが
彼らの繁栄もまた短かった。
ある賢者が、ゲートによる反応の恩恵で
ステラスターに生まれた人類の大半は"魔法"が使えることを発見したからである。
(ただし魔法を使えるようになるには厳しい修練が必要である)
そこから人類は知恵を絞り、魔法で戦い、団結してドラゴンやアンデッドに対抗し
世界の主導権をとりもどした。
そうしてできたパワーバランスが今の世界である。
ステラスターの大半は多様な種族の人類が運営する様々な国家が支配していて
ドラゴンやアンデッドは一部を除き、高い山脈や深い洞窟の中、
奥深い樹海へと姿を隠した。
さらに千数百年前に、大賢者オブディアンが
不安定に異界とつながる"ゲート"を魔法により安定化する方法を発見すると、
ゲートから異世界の生物が出現することはなくなった。
異世界からの来訪者に脅かされることの無くなった人類は、
さらなる発展を遂げようとしていた。
しかし、その直後に大きな問題が発覚した。
ステラスターのとある大きな勢力をもつ猿人国家が
オブディアンが世界に広めた魔法によるゲートの安定方法を悪用して
ゲートから"地球人"を召喚したのである。