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第五話 百万都市ジャーディー

城門前で馬車がとまり、狼人達が全員降りると

魔法で浮いていた土の板は、「ドシャアアアア」という雪崩のような音と共に

形を崩し土の小山になった。


「大佐、あぶなかったですね。ギリギリでした」

「だな。急場で作ったにしては、よくもってくれた方だ」

フェルマとダンマーズはほっとしている。

「さあ、これからどうするんだ?僕は早く家に帰りたいんだ」

山田がせかす。

「もちろん帰る方法をさがしますともっ。

 さあさあ皆さま、長旅お疲れ様でした!

 ジャーディー中央庁舎の中でマルスドゥ様がおまちですよっ」

どうやらフェルマは狼人たちもまとめてマルスドゥに会わすつもりのようだ。

「こいつらも庁舎に入れて大丈夫なのか?」

ダンマーズが心配そうにたずねる。

「ふふっ、西大陸最強の魔法使い、大賢者マルスドゥ様ですよ?

 何か起こると思いますか?」

「……それもそうだな……あのジジイなら上手くやるか」

山田はフェルマが"帰る方法を探す"と言ったのが何となく引っかかったのだが

今は疑問を口にせずに、素直にフェルマの主人に会いに行く事にした。


黄金色の夕暮れが、碁盤の目のように綺麗番地を整えられ

建てられた建物群を照らす中

門番の居ない巨大な正面城門を潜り、

大都市ジャーディーのメインストリートの

左右に振り分けられた広い歩行者道の左側を

黒スーツの巨体のダンマーズ、妖精フェルマ、学生服の山田が並んで歩き

その後ろを、ボロボロの服を着た狼人達が二十数名がついていくという異様な光景に、

夕暮れ時でごったがえすジャーディーのの多様な種族の通行人たちは

釘付けになり、そしてヒソヒソ話をし、避けていった。


「おいフェルマ、何か俺たち目立ってないか。あんなふうに馬車にのるとか無いのか」

ふつうを愛する山田が悪目立ちしている状況に文句をつける。

メインストリート中央の四斜線に分けられた道は

二車線ずつ行き帰りに分けられ、様々な動物に引かれた馬車や、

魔法で浮遊したらしき様々な形の鮮やかな色の乗り物が走っている。

地球の車道にそっくりだ。

「すいません……乗る予定だったのですが、

 さっきの馬車に引っ張ってもらって、狼さんたち連れて来たじゃないですか?」

後ろでは狼人達が物珍しそうにジャーディーの風景を見回している。

「あの、それで御者さんに迷惑料としてチップを大分弾んだんですよ」

「だろうな。一応逮捕連行しているとはいえ、ぱっと見、王国通行法違反だあれは」

ダンマーズが興味なさそうに補足する。

「で、ですね……馬車に乗るお金なくなっちゃいましたっ」

取り繕うようにニパッとフェルマは笑う。

「……そういうことならばしかたないな。歩くか」

利他行為とエゴが直結している山田は即座に納得した。

「さっすが勇者様!おっとこまえっ」

フェルマは嬉しいらしく山田の周りを

光る鱗粉を撒き散らしながら踊るように飛び回り、

狼人たちはその光景に目を奪われていた。山田に向かって祈るものも居る。



一時間ほど歩くと、七階建てのジャーディー中央庁舎が見えてきた。

縦横に広いビルのようで城のようでもある、不思議な外観をもっている。

「さあさあ皆さん、もう少しですよっ」

フェルマが励ます。ダンマーズの広い肩には狼人の子供が二人ほど乗り

その手には"長老"と呼ばれていた老いた狼人を抱えている。

山田も狼人の子を一人肩に背負いながらだ。

太陽はもう沈みきって、夕闇があたりに忍び寄りつつある。


庁舎の正面入り口の前でフェルマが守衛に何か告げると

守衛は巨大な正面入り口の中に入っていった。

「さあ、皆さま。あと一息ですよっ」

フェルマとともに全員が中央庁舎の巨大なエントランスに入る。

ガラス張りのエントランスは、ロビーも兼ねていてソファやテーブルも備え付けられている。

奥には多様な種族の受付係りが何人も並んでいる。

「まるで、地球のホテルや市役所みたいだな」

山田の口からつい感想が漏れた。

夕暮れ時なので、庁舎内には職員しか居ないようだ。

フェルマが受付と話すと職員から全員が、

エントランス内にある檻の様な厳ついエレベーターに案内され

全員で三十人近くの大所帯を二回に分け、七階まで昇った。

「これの動力は何なんだ」

上昇していくエレベーターの中で山田が尋ねるとフェルマが返す。

「魔法と機械ですね。

 メイン動力はさっきと同じ反属性の反発による力場を利用しています

 機械は補助的な役目です。もちろん永久機関ではないので

 定期的にメンテは必要ですよっ」

七階には一室しかないようで、エレベータから降りてすぐに

赤いカーペットのひかれた巨大な部屋に入った。

壁や天井は全て白く窓は無い、奥には一面ガラス張りの壁の先に半月が見え、

壁の近くにこじんまりとしたデスクと椅子がある。


ガラスケースの中にある謎の液体や玩具や虹色のグラス

壁に立てかけられた賞状や不思議な抽象画の数々を

山田や狼人たちは、物珍しそうに見回している。

「フェルマ、ジジイはどうした」

ダンマーズがイライラして尋ねる。

「おっかしいですね……もう来てるはずなんですが……」



"ジジイとはだれのことじゃ……"



部屋一面に響き渡るような威圧的な声が響くのと同時に

「シュオオオオオオオ」と部屋中央から白い煙が吹き出し

ムキムキマッチョの一本角を生やした大男が現れる。

三メートルはありそうな巨体に、肌の色は青色だ。

鬼のような厳つい顔と身体を振り回し周りを威嚇しながら鬼は叫ぶ。



"おっおおおおおおぅおあぁおわぁあああああ

 わしが大賢者マルスドゥじゃあああぬしらひれ伏せえええええ"



一斉に恐れ戦いた狼人達が全員ひれ伏した。

山田はどうすれば目前の怪物を倒せるかの手順を頭の中で構築し始める。

この状況をダンマーズは鼻で笑い、

「ジジイ……というか首相閣下。遊びもいい加減にしとけ。一般人が怖がってる」

フェルマは皆の後ろで口を塞いで笑い転げている。



"ばれたかあああああダンマーズ覚えておれえええええええ"



再び「シュオオオオオ」と煙があがり、鬼は消えて

代わりに紺色のローブを着た中肉中背で白髪の優しそうな老人が現れた。

瞳の色は黒く、一見地球人と見分けがつかないが

サイドに分けられた長い白髪から少しはみ出ている尖った耳は

エルフであろうと推測される。


「ようこそ。百万都市ジャーディーへ。私が首相のマルスドゥじゃ」

マルスドゥは温和な表情であっけにとられている狼人たちを見回し

「ふむ……予定より二十四人ほど多いのだが、どういうことかね。フェルマよ」

問われたフェルマは大慌てで

「あれっ……職員さんから報告いってませんでした?おかしいなぁ……

 これはつまりですね。勇者様の慈悲の心で助けられた者たちなんです」

ひれ伏したまま狼人たち全員が大きく頷く。

「ふむ、つまりは勇者殿の最初の領民であり、部下達だな」

狼人たちから歓声があがる。山田の部下になることを同意ているようだ。

「そういうことになりますねっ。でも全権委任された首相的には過去の罪を裁かなくていいんですか?」

「よい。わしはフェルマの眼力によって選ばれた勇者の力量を信じておる。彼らの過去も帳消しじゃ」

「マルスドゥさま……」

感極まったフェルマが泣きそうだ。狼人たちも泣いている。

「くだらない茶番はいいんだが。任務終了した俺はもう帰っていいのか」

完全にふてくされているダンマーズが言う。

「ダメじゃ。国軍総統権限で現時刻からお前をもう一度強制徴兵する。

 同時に特別任務を成功させた功績で王国軍小将に昇格じゃ。あとで任命書を受け取っておけ」

「チッ。んなことだろうと思ったぜ。俺には随分辛く当たるな」

「お前も道中面白いものが見れたじゃろ?」

ニヤッとマルスドゥが意味ありげに微笑み。図星だったらしいダンマーズが動揺する。

「お前なら、あの意味を理解しているはずじゃ。どうせなら最後まで見ていけ」

パンパンっとダンマーズの背中を叩き、マルスドゥは山田の前にくる。

「さぁ勇者殿か。山田君だったな。下の名前は草輔か」

山田の顔と胸を丹念に覗き込みながら、マルスドゥは人物鑑定する。

「ふむ……凶暴じゃな。しかし平和を愛する心もある。

 いや、心というよりはロジックに近いか……。……面白いな」



「おい、爺さん。僕は今すぐ家に帰りたいんだが」



興味深そうに山田の身体を覗きまわるマルスドゥを遮って

山田は、はっきりと望みを述べた。


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