表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/48

第一話 山田草輔について

バキッ ガッ

ドサッ


「か…かんべんしてください……」

路地裏で金髪に染めた180センチほどある学ランを着た不良が

170あるかないかのマッシュルームカットの学生服の若者に

胸倉をつかまれて、泣きをいれている。

顔は腫れ上がっていて、原型が分からないほどだ。


「よし、いいか。僕は楽に静かに生きて行きたいんだ。

 一人でゲームしたりとか、野良ネコを眺めたりとか

 お母さんのお夕飯を食べたりとか、休み時間に本読んだりとか

 そういう幸せを追求したいんだ」

前髪に隠れた顔を不良に近づけてボソボソと呟く

「……!はいっ!はひっ」

「おまえ、名前はなんていうんだっけ?」

「か、梶田ですっ……」

「名前は?」

「たっタケシです……」

「ふーん、次は殺すからな。あと弱いものいじめもだめだ。

 それも知り次第殺す。明日からは弱いものを助けて、正しく生きろ」

「"はい"は?」

「は……はいっ!」


返事を聞いたのを確認して、片手で路地裏のゴミ箱に不良をで投げ捨て

マッシュルームカットの男は雑踏に戻っていった。

「本当に頭が悪い奴が多くて困る。みんなが人に敬意をもって

 正しく生きれば、こんなに楽な世の中は無いのに、

 すぐにバカどもは見た目で判断して、弱いと見ると喰いにかかる」

「カツ上げやいじめなど非効率の塊じゃないか。

 弱肉強食など、文化のある人類が生きる上で必要ない。

 ほんとバカどもの考えは分からない」

「まあ、僕が正していけばいいか……めんどくさいな」


ぶつぶつ言いながら雑踏の中を歩く

このあぶないマッシュルームの男は山田草輔

この物語の主人公である。


彼はいいように言えば、合理主義の塊である。

「楽して楽しく生きる」この一点以外まったく興味はない。

そしてその一点のためだけに生きているのだ。

他人を排することも、排されることも無く

中学までは友達は居なくとも

休み時間は名著などをたくさん読み、彼なりに楽しく過ごした。

学校の雰囲気も良く、彼は排斥されることも無く

"本をよく読む人"ということでふわっと周りに存在を認められていた。

彼はそんな静かにマイペースで過ごせる生活が幸せであった。


だがしかし、そこからは思春期。マイペースでぼっちな彼には

しかたのないことだが同調圧力という名のいじめや無視が待っていた。


中学に入学して、最初の一ヶ月彼は耐えた。

無視すればすぐに止むと思っていた。担任の教師が止めると思っていた。

そしてその考えも変わったとき、彼はしかたなく本性を現した。


彼は高知能サイコパスであった。そして恐るべき怪力と運動能力を実は有していた。


まず入学三十二日目にいじめの主犯格である各田と山崎が

学校にこなくなった。

そして四十三日目にクラスの女子のボスである高橋は大腿骨の複雑骨折で入院をした。

新卒二年目の担任の若い男性教師は新学期二ヶ月目ちょうどに謎の失踪をとげた。

高橋の泣き顔でダブルピースで開脚をした全裸写真がネットに拡散されるころ、

休み時間に一人で静かに本を読む、

中学一年生の山田を煽ったり、触れることのできるクラスメイトは一人も居なくなっていた。


そして彼が中学三年になるころには、その学校からいじめは、ネットでのものも含めて無くなり

不良やタチの悪い教師は消えうせていた。

みんな山田が更正させるか追放したのだ。

山田はその圧倒的な凶暴性と、高知能サイコ特有の行動様式で

彼を害する可能性のある他者を校内から排除してしまった。

つまりその中学校全てを


「彼が住みやすい環境」に徹底的に作り変えてしまった。


山田草輔の目的は「楽して楽しく生きること」

そのマイペースを崩されたとき、彼は凶暴性を発揮するのである。


そして彼はそのころ自分はどうやら男性が好きだということに気付いていた。

マッシュルームカットでまったくもてなそうな暗い見た目ながらも、

その学校の影の支配者ぶりに、影に日向に言い寄ってくる女子は絶えなかったが

彼は、まったく興味がもてなかった。

自分は性的に成長が遅いのだろう、高校生くらいになれば女に興味ももてるだろう

というマイペースな考えが打ち破られたのは、

彼の中学三年生の七月であった。


図書館の外の夏の雲ひとつ無い青い空を眺めながら、一人で読書をしていると

彼は一人の背の低い男の子から不意に話しかけられた。

びっくりしながらも応じると、山田の読んでいる本に興味があったらしく

熱心に聞いてくる。山田がこの中学の影の支配者なのも

友達が少なく、本ばかり読んでいたその子は知らなかったらしい。

館山というその笑顔のかわいらしい小柄な男子は、話せば話すほど

山田と読書やマンガ、そしてアニメ、ゲームの趣味が合い、

彼は生まれて始めて気の合う友達というものを知り、

同時にその男の子に"恋"をした。


胸がときめく。という経験は山田にとって始めてであった。

しかし、山田はその恋は隠し通した。

まず、ゲイである自分との葛藤は

彼の「楽して楽しく生きる」という大前提から少し離れているのと

そして館山君はゲイではなかったからである。

彼は館山君を力でねじ伏せ脅迫して、恋人や、性の奴隷にするのではなく、

館山君と友人として楽に楽しく交際するという選択をした。

館山君とは、高校二年になった今でも、学校は分かれたがいい友達である。



そして現在である。

山田の通っている高校は偏差値中程度の進学校であり、

雰囲気もそれなりによく、館山君のおかげで"友達"というものを知った山田は

数人の気の合う友達を作り、高校では学校の影の支配者などという面倒なことはやらずに

楽に楽しく生きているのである。

その暗い見た目から、不良に絡まれることはまれにあるが

冒頭のように、暴力で屈服させ、脅迫し、無理やり更正させる。

というパターンでいつも終わらせている。

彼は中学のときに、暴力で挑むものには徹底的に暴力で返すという癖をつけており

さらに屈服させた不良を更正させるのは、彼の正義感や倫理観からではなく

そうすることでまわりまわって最終的には、

彼の住む世界が楽に楽しくなるからと考えているからである。

言ってしまえば、ただの個人的なエゴである。

そんな暴力とエゴの権化に絡んでしまった

不幸な不良を更正させた帰り道、彼は奇妙なものに出会う。




街灯のついた大きな湖というか、ため池のある公園の遊歩道を

初夏の気配を感じながら山田はのんびりと家路を辿っていた。

ふんわりと漂ってくるツツジの花の香りが、彼を幸せにしていた。

石畳風のアスファルトを歩きながら、良い気分に浸っていると


「パンパカパーン。あなたは選ばれましたっ」


体長80センチほどで七頭身の小人が、宙に浮いている。

というか、背にある羽根で空中でホバリングしていると言ったほうが正しいか。

黄緑の長い髪をポニーテールにして、

前髪はアシンメトリーで、顔立ちは日本人と西洋人のハーフ風で

目鼻立ちが通っていてくどくない美形である。

服装は、長い黒ブーツと蒼い太ももまであるワンピースだ。

「……妖精?」

山田は思わず訊いてしまった。


「はいっ、フェアリーのフェルマと申します」


精神障害で幻覚を見る理由は見当たらないな。と山田が思索していると

フェルマと名乗った生物は甲高い声でまくしたてる。

「あなたのその勇気と正義感は、我がアラマスク王国に必要なものです」

「童貞というのも素晴らしいっ、聡明で穢れ無き少年ですねっ。惚れました!」

「勇者よ。わたしたちの世界を救ってください」


「……????」


頭の中がクエスチョンマークで一杯になった山田の全身を金色の光が包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ