ChapterⅣ:暁の結末④
「ワイルド君!早くアーリィちゃんを下ろして!」
「は、はい!」
俺はジョニーさんの指示に従って血まみれのアーリィを床へ下ろした。
「ワイルド様、アーリィさんは……!?」
恐る恐るゴールドが俺の袖を引き、声を震わせている。
「プラチナがアーリィを……」
「そんな……!」
ゴールドはレイピアを落とし、マスカレードの奥に涙を溜める。
「くっそぉ……血が止まんない!!」
ジョニーさんは白衣を真っ赤に染めながら、タオルを押し当て止血を試みている。
だが真っ白なタオルは一瞬で真っ赤な血に染まった。
「うっ、ううっ……」
「アーリィ!?」
アーリィが呻きを上げていた。急いで駆け寄り、アーリィの手を強く握り締める。
「しっかりしろ!アーリィッ!!」
「ワ、ワッド……無事、だったんだぁ……良かったぁ……」
アーリィは弱々しい微笑みを浮かべる。
それを見ただけで俺の胸は張り裂けなそう位痛かった。
「ああ、無事だ!お前のおかげだ!
「そっか……あはは……でも、ドジちゃった……ごめんねぇ……やっぱ、銃で撃たれるって痛……けほ、ごほっ!」
「アーリィ!!」
アーリィの口元から血が吹き出てくる。
「もしさぁ……もっとあたしに胸があったらこんな大怪我にならなかったのかなぁ……あはは……」
「バカ!こんな時になに言ってんだよ!」
俺は更にアーリィの手を力の限り握り締めた。
しかし時を追うごとに握り締めたアーリィの手からみるみる力が抜けてゆくのが分かる。
「もっと胸があったらさぁ……ほら、おっぱいが銃弾を防いでくれたっていうか……」
「だから何言ってんだよ、こんな時に……!頑張れ!大丈夫だから!俺が傍にいるから!だから……!」
突然、アーリィは笑みを浮かべた。
その表情は穏やかで、静かで、しかし物悲しい。
嫌な予感が去来し、俺は息苦しさを感じる。
俺の目からは自然と涙が溢れ落ちてゆく。
「ありがとう、ワッド……最後にワッドに好きって言って貰えて、あたし、幸せだったよ……」
「何が最後だよ!?俺たちはこれからだろ!?言って欲しけりゃいくらでも言ってやる!飽きるまでおまえのことが好きだって叫んでやる!だからそんなこと言うな!!」
「もしもさぁ……」
アーリィの青い瞳が優しく俺を見据えてきた。
「もしも生まれ変われるなら……またあたしに生まれ、たい、な…………」
「アーリィ……?」
握り締めたアーリィの手が力を失う。
アーリィはまるで眠りに入るよう静かに目を閉じた。
「アーリィ!しっかりしろ!おい、アーリィッ!!」
いくら身体を揺すっても、いくら呼びかけてもアーリィは目を開かない。
どんなに愛しい人の名前を叫んでも、それは空気に溶けてなくなってゆく。
胸が張り裂けそうに痛み、頭の中がめちゃくちゃにかき混ぜられたように混乱している。
「アーリィッ!アーリィッ!アーリィッ……!アー……リィ……ううっ……」
俺の心が音を立てて崩れ、涙はとめどもなく溢れ、うなだれるアーリィへ零れては床へ流れ落ちて行く。
俺はもはやなにも考えられず、ただただその場で泣き叫ぶだけ。
力を失い、うなだれる最愛の人はもう俺に何も言ってはくれない。
でも、それでも今は離したくなかった。
未だ仄かに残る彼女の熱を感じたい俺は、彼女を強く抱きしめる。
もしかしたら目覚めてくれるんじゃないか?また俺へ笑いかけてくれるんじゃないか?
そんな願いを込めて俺はアーリィを強く抱きしめる。
でも頭のどこかでは理性が残酷な結果を俺へ容赦なく感じさせようとしている。
俺はそんな理性を否定するようにアーリィを抱き続ける。
―――だけど……やはりアーリィが目を開けることは、もう二度となかった。
その後、俺は知った。俺たちの作戦は失敗し、マドリッドが崩壊したことを。
そしてこの日を境にアンダルシアンは【死】と【破壊】が席巻する暗黒時代を迎えたのだと……。
To be continued……




