ChapterⅣ:暁の結末③
「ワッドッ!!」
突然、アーリィの叫び声が聞こえた。
背後にアーリィの気配を感じ、俺は咄嗟に振り返る。
刹那、乾いた炸裂音が響き渡り、目の前に赤い飛沫が飛んだ。
何故か俺の前にはアーリィの背中が近くに見える。
アーリィの背中から銃弾が突き抜けて来て、地面を抉る。
「えっ……?」
アーリィが手にしていたガトリングが地面へ転げ落ちる。
思わず俺はアーリィの背中を抱きとめる。
彼女の胸の辺は何故か、真っ赤な血で染まっていた。
「アーリィ!!」
「ワ、ワッド…………あっ!うっ!」
更に複数回の乾いた炸裂音が響き、アーリィの身体を撃ち抜いた。
アーリィの首から力が抜ける。
「アーリィ!?しっかりしろアーリィ!!……誰だぁぁぁッ!」
俺は怒り任せに叫び、視線を目の前に飛ばす。
そこにはSAAの銃口から硝煙を登らせている白いローブを羽織った少女の姿が。
「邪魔なの……」
銃口を突きつけたままプラチナローゼズは呟く。
「ワイルドお兄ちゃんはわたしだけの家族。わたしだけのもの。わたしだけを見ていて欲しいの。だからアーリィさんは邪魔だったの……」
「……」
「お兄ちゃんと心を重ねるられるのはわたしだけ。傍に居て良いのはわたしだけ。さぁ、お兄ちゃんこっちへ来て!もうアーリィさんは殺すから。もういなくなるから。もうお兄ちゃんにはわたししか居ないから!」
プラチナが再びアーリィを狙って引き金を引く。
俺は咄嗟にクロコダイルスキンで銃弾を弾いた。
跳弾した弾は反転し、プラチナへ向かう。
するとブラックがプラチナの前へ降り立ち、クロコダルスキンで弾を弾いてプラチナを守った。
「プラチナを守るのは僕の役目!僕こそが本物の【黒】!そうだよね?僕だけがプラチナの家族なんだよね?そうなんだよね?」
ブラックは狂ったようにプラチナへそう聞く。
しかしプラチナはそんなブラックを押し退けた。
「お兄ちゃん!こっちへ来て!兄妹仲良く一緒に過ごそうよ!」
プラチナが叫ぶ。
平然と、まるで何事もなかったかのようにそう言い放つプラチナをみて、
俺の胸は真っ赤な怒りで染まってゆく。
「ふざけんな……」
体が震え、涙が瞳から溢れ出てくる。だがそれは悲しみでは無く怒り。
静かに俺の腕の中でアーリィは眠るように瞳を閉じている。
アーリィの呼吸が次第に弱まっていくのが、はっきりと感じられる。
それが不快で、悲しく、そしてそれを引き起こした奴への怒りへと変わってゆく。
胸が張り裂けそうに痛かった。
こんな気持ちはお袋を失ったとき以来だった。
大切な人が俺の腕をすり抜けて、消えようとしている。
―――もう二度と大切な人を失いたくはないと思っていたのに、それなのに……!
「許さねぇ……お前だけは絶対に許さねぇぞ、プラチナぁッ!!」
俺は怒りの全てを込めて、力の限り憎しみの声を上げた。
「ヒッ!」
突然、プラチナは怯えた表情を浮かべ、後ろずさる。
「嫌ッ……そんな目で見ないでよ……わたしはただ……」
「お前は俺が殺す!絶対に殺す!」
俺は一片の迷いも無くプラチナへ銃口を突きつける。
するとプラチナは瞳に涙を浮かべた。
そして、
「やだ!やだよぉ!そんな目でわたしをみないでよ!お兄ちゃんに嫌われるの嫌あぁぁぁぁぁ!!!」
プラチナは頭を抱え、涙を流しながら悲痛な叫びをあげる。
まるで世界を揺るがしそうな叫びが響き渡る。
すると、そらの遥か彼方から空を覆い尽くさんばかりの無数の金属が高速で飛来してくる。
「いやぁぁぁ!いやぁぁぁ!!」
「プラチナ!落ち着いて!プラチ……ッ!?」
プラチナは肩を抱いてきたブラックを弾き飛ばす。
「やだやだやだやだ!やだぁぁぁーー!!お兄ちゃんに嫌われるのはいやぁぁぁぁ!!」
プラチナが身悶え、叫びをあげる。
マドリッドの上空に数え切れないほどの銀兵士が集結していた。
銀兵士は一斉にハッチを開き銃口を覗かせ、そこからマズルフラッシュを明滅させる。
無数の銃弾がマドリッドへ降り注ぎ、家屋は一瞬で瓦解し、地面には無数の銃痕が刻まれた。
それぞれの敵と対峙していたゴールド、ジムさん、ローゼズも、もはやそれどころではなく、銀兵士から降り注ぐ銃弾の雨から逃れるために逃げ惑っている。
「なんなんだよこれ!?」
俺もまたアーリィを抱き、クロコダイルスキンで銀兵士の無差別銃撃を弾き続ける。
だが数が多すぎて、俺の感覚では把握しきれない。
それでも俺は銀兵士と銀兵士の間を見つけてはビーンズメーカーを撃ち込んでゆく。
だが弾は全て銀兵士に阻まれプラチナには届かない。
逆に銃撃で俺の存在に気がついた銀兵士が一斉に俺へ銃口を向けてくる。
その場から飛び退き、銃撃を避けるが、気が付けば背後にはまた別の銀兵士が現れていた。
再び飛び上がり回避行動を取ろうとするが、既にマズルフラッシュが瞬き、無防備な俺へ迫る。
「ゴォールドゥ!」
「ッ!!」
そんな俺の前へゴールドとローゼズが躍り出て銃弾を弾いてくれた。
「ワイルド様!お怪我は!?」
「俺は大丈夫だ。でも……」
「アーリィ!?」
俺の腕の中で血を流し、項垂れているアーリィを見てローゼズは驚愕する。
しかし感傷に浸るまもなく、俺たちは銀兵士の銃弾に再び晒され、身を守るべく動き続ける。
―――近づけない!プラチナに!
その時、空中で無差別銃撃を続ける銀兵士へ向けて赤い火球が降り注ぎ始めた。
火球は次々と銀兵士を撃ち落としてゆく。
すると俺の横には荷台に金属製の囲いを荷台に張ったトラックが止まった。
荷台には見覚えのある大砲のようなもの―――スモールバッチバーボン―――が搭載されている。
「ワイルド無事……アリたんはどうしたですか!?」
トラックの助手席にはボロボロのジムさんが乗っていた。
運転席ではバーンハイムがハンドルを握っている。
「撤退よ!作戦は失敗したわ!はやくこっちへ来なさい!」
荷台の後ろから一瞬ジョニーさんが顔を覗かせ叫ぶ。
しかし銃弾が遠慮なしに降り注ぎ、直ぐに荷台の中へ身を潜める。
「ジムさん!」
ハンドルを握るバーンハイムが助手席のジムさんへ叫ぶ。
ジムさんはアーリィから視線を外し、助手席からコードで繋がれた銃のようなものをフロントガラスへ向けトリガーを引いた。
トラックに搭載されているスモールバッチバーボンから火球が放たれ、トラックへ銃弾の雨を降らせていた銀兵士を爆発させる。
「早く乗るです!」
ジムさんの言葉に従い、ローゼズとゴールドは飛び込んだ。
「ワイルド早くッ!」
佇んだまま動かない俺へローゼズが荷台から叫ぶ。
―――プラチナを殺したい。
だけど今の俺じゃアイツの使役する全ての銀兵士を倒すことができない。今の俺の力じゃ……!!
「ちくしょうっ!」
俺はやり場のない怒りを叫びに変えて、アーリィを抱えたままトラックの荷台へ飛び込むのだった。
途端、トラックは急加速をし、爆走を始める。




