ChapterⅣ:暁の結末②
方々から銃を放つ炸裂音と勇ましい掛け声が響き渡っている。
側道とマドリッドのメインストリートであるグレンモーレンジィ通りを隔てる建物の間にはちらほらと銀兵士へ立ち向かう青い制服を着た中央政府の兵士達の姿が見えた。
どうやら響さん達の陽動作戦が開始されたようだ。
朝焼けでオレンジ色の燃える空の至る所から、まるで湧き出るように銀兵士が姿を現す。
「皆さん!私が先行して道を切り開きます!援護をお願い致します!」
快傑ゴールドは俺たちより先んじて飛ぶ。
石造りの家々の間にある細い道を駆け抜けて行く。
「じゃあ、始めるですよ!」
トラックの運転席でジムさんが叫び、トラックのエンジンに火が灯った。
アーリィ、ローゼズ、俺はトラックの荷台でそれぞれの武器を構えた。
「行くですっ!」
ジムさんの運転するトラックが走り始めた。
トラックは内炎コーン機関から激しい音を放ちながら四つの太いゴムタイヤを高速で回転させる。
馬車や馬では感じられない圧倒的な速度は、風を頬に感じるだけで気持ちが良い。
「来たよッ!」
しかしそんな気分の良さも、鋭いアーリィの声で吹っ飛ぶ。
トラックの進行方向の上空にいた一部の銀兵士が俺たちに気が付き急降下をしてきた。
「ゴォールドゥ!」
先行するゴールドが飛ぶ。
ゴールドはあっという間に最接近していた銀兵士のところまで到達し、レイピアで切り裂く。
他の銀兵士はハッチを開き機関銃の銃口を覗かせた。
「うららららッ!」
しかしアーリィがすかさずガトリングから実弾を放ち、ゴールドの周囲にいた銀兵士を撃破する。
だが、その爆発は銀兵士の注意を引きつけた。
更に多くの銀兵士が進行方向を俺たちのトラックに変え、接近してくる。
そして真っ赤な銃弾が俺たちのトラックへ向け降り注ぎ始めた。
「やるぞッ!」
俺の言葉を合図に、俺とアーリィは射撃を開始した。
「行ってくる!」
ローゼズはビーンズメーカーへハミルトンのナイフを着剣する。
「気をつけろ!」
「ワイルドも!」
ローゼズはトラックの荷台から飛んだ。
左右に存在する家屋の壁を蹴って飛び、更に屋根をも蹴って、空高く舞い上がる。
銀兵士がローゼズへ方向を変え、マズルフラッシュを発する。
するとローゼズは着剣したビーンズメーカーを華麗に振り回した。
差し向けられた銀兵士の銃弾はビーンズメーカーに着剣されたハミルトンのナイフによって弾かれる。
そして次の瞬間にはもうローゼズは着剣したナイフを銀兵士の装甲の隙間へ差し込んでいた。
遠く離れていても分かるくらいの、鋭い空気圧縮の炸裂音が複数回聞こえてくる。
ローゼズがナイフを抜き、銀兵士を蹴って飛ぶと、そいつはよろよろ後ろへ下がり他の銀兵士を巻き込んで盛大に爆発する。
そんなローゼズの様子をみて、負けじと思ったのか、快傑ゴールドも益々勢いを上げて空中で銀兵士を撃破し続ける。
だが銀兵士の襲来は止まらない。
「うざったいです!」
ジムさんはローゼズ達が撃ち漏らした銀兵士から放たれる銃弾からトラックを守る為にハンドルを激しく切り続ける。
「もう、一体どんだけいんのよぉ!」
アーリィは泣き言を言いながらも、ガトリングを撃ち続け俺と一緒に接近する銀兵士の撃退を続けている。
刹那、俺の感が嫌な予感を感じた。
「アーリィッ!」
「えっ!?」
すかさず俺はアーリィの背中の前へ飛んだ。
俺の前には低空飛行で接近する銀兵士が三機。
右腕にクロコダイルスキンを発動させ、腕を薙ぐ。
アーリィめがけて突き進んでいた銃弾は跳弾し、左右に並んでいる家屋の窓ガラスを粉々に砕く。
俺の視界は既に接近する銀兵士の装甲を隙間を捉えていた。
俺の指が流れるように撃鉄を撫で、無数の弾が銀兵士へ突き進む。
俺は手早くスピードローダーで給弾し、弾を放ち続ける。
数え切れない弾は一つも外れることなく、銀兵士の装甲の隙間に入り込み内部を蹂躙する。
トラックへ接近していた銀兵士は全て木っ端微塵に吹き飛んだ。
「お見事ワッド!」
「背中は俺に任せろ!アーリィはゴールドとローゼズの援護を!」
「了解ッ!」
―――アーリィは俺が守る!絶対に!
アーリィはガトリングで対空迎撃をし、俺はアーリィの背中を守りつつトラックに襲来する銀兵士を撃ち落としてゆく。
するとトラックのエンジンが益々唸りを上げた。
トラックは更に加速し、道の端々に置いてある樽なんかを吹っ飛ばしながら疾駆する。
やがて道の向こうに僅かばかり、人三人分はありそうな高さのレンガ造りの立派な塀が見え始める。
「ワイルド、アリたん、吹っ飛ばされないようにしっかりと捕まるでぇーす!」
運転席からジムさんの声が聞こえ、俺とアーリィは荷台にしがみつく。
次の瞬間、トラックは銀兵士の銃弾をすり抜け、側道を飛び出した。
車体が急激に90度曲がり、激しいGが俺とアーリィを襲う。
「うわっ!?」
その時、突然トラックが止まり、アーリィの体勢が崩れる。
俺は咄嗟にアーリィを抱きとめる。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう」
「ジムさん、急にどうしたんすか!?」
俺は運転席のジムさんへ聞く。
「ワイルド、やばい奴が来たです!」
ジムさんはウィンチェスター型ビーンズメーカーを手に持ち、運転席から飛び降りる。
ただならぬ予感を感じた俺はアーリィと一緒に荷台から飛び降りた。
ずっと空中で銀兵士を各個撃破していたローゼズとゴールドも降り立っていた。
そして俺たちは一様に険しい表情を浮かべる。
「なるほど、あの二人が門番ってわけか……」
俺たちの目の前に立ち塞がっていたのはボウモワ、そして黄金兵士と化したアードベックだった。
「イーッヒッヒッヒ!まさかまた会えるとはのぉ!」
ボウモワは相変わらずの不気味な笑い声を上げそう言う。
「お前たちに用は無い!そこを通して貰うぞ!」
俺はボウモワへ向け叫んだ。
「イーッヒッヒッヒ!ならば力ずくで通るのじゃな。なにせわしには最強の黄金……お、おい、アードベック!?」
突然、ボウモワが動揺した声を放ち、奴の横に並んでいたアードベックの姿が消える。
「ッ!? 貴方はアードベックなのですか!?」
気がついたときにはもうゴールドはレイピアでアードベックの拳を受け止めていた。
「……目標認識!」
アードベックは後方へ飛び退き、腰に携えていた柳葉刀を抜き放ち、
「ターゲット、快傑ゴールドッ!」
俺たちなどまるで気にせずアードベックはゴールドへ斬りかかる。
ゴールドはレイピアでアードベックの柳葉刀を受け止めた。
「ワイルド様!アードベックは私にお任せ下さい!」
ゴールドはアードベックを押切きり、高く跳躍する。
アードベックもまたゴールドを追い、跳躍した。
「全く……未だ昔の執念が残っているようじゃな。あとで再調整しなければのぉ……」
ボウモワは空中で剣戟を繰り返すゴールドとアードベックを眺めながら呟いた。
そんなボウモワへ向けジムさんは突然発泡した。
しかし寸前に気がついたボウモワは義手を振る。
義手の指先から緑色の液体が飛び散り、ジムさんの放った弾を一瞬で蒸発させた。
「おやぁ?急に撃ってくるなど失礼ではないかね?」
「アンタは悪党です!悪党に失礼もへったくれもないのです!」
「イーッヒッヒッヒ!なんと勇ましい!お前さんのような健全な肉体を持つ方は大好きじゃ!」
ボウモワは嬉々とした表情を浮かべた。
「うっさいです!ジジイにモテても嬉しくないのです!ワイルド、このジジイは私に任せるです!」
「ジムさん!!」
ジムさんは俺の静止を振り切り射撃を続けながらボウモワへ突撃してゆく。
その時、俺は脇に殺気を感じた。反射的に両腕を構えクロコダイルスキンを発動させて大統領官邸の塀の方へ身体を向ける。
銃弾がクロコダルスキンへぶつかり、火花を散らせた。
「チッ!僕の前でクロコダイルスキン(それ)をみせるなぁ!!」
塀の上には怒りに満ちた表情を浮かべるブラックローゼズの姿があった。
「殺す殺す殺す!【黒】は僕だけのもの!僕が本物の【黒】なんだぁぁぁ!!」
ブラックが叫びを上げると塀の向こうから数え切れない程の銀兵士が姿を現した。
刹那、脇から鋭い発砲音が聞こえ、銀兵士の狙いがそっちへ一斉に集まる。
ローゼズは空中の銀兵士へ銃口を向け、狙いを定めていた。
「銀兵士は任せる!」
ローゼズは高く跳躍し、ビーンズメーカーを放つ。
「よそ見はダメだよ!よそ見は!!」
気が付くと目の前には塀から飛び降り、手刀を構えたブラックが狂気の笑みを浮かべている。
俺はすかさずクロコダイルスキンを発動させ、奴の手刀を左の二の腕で防いだ。
「見せるなって言われても発動しちまうんだ。悪いな!」
「くっ、てめぇ!!」
すると突然ブラックは飛び退いた。
俺の前を無数の銃弾が過る。
銃弾を放ったのはアーリィ。
「ワッドに触るなぁぁぁッ!!」
アーリィは叫びながらガトリングから銃弾を次々と押し出してゆく。
だがその全てはブラックのクロコダイルスキンに弾かれる。
「うっせぇんだよ、このアマぁッ!!」
「あっ!?」
ガトリングの弾が突き、砲身が空回りしている。
その隙にブラックはホルスターから銃を抜いてアーリィへ銃口を突きつける。
咄嗟に俺は地を蹴ってアーリィの前へ立ち塞がり、腕を無いだ。
俺のクロコダイルスキンはブラックの銃弾を弾く。
「アーリィ、これからは俺を撃て!」
俺は後ろで給弾を終えたアーリィへ叫ぶ。
「分かった!信じる!」
「行くぞ!」
「うん!」
俺は地を蹴って高く飛んだ。
アーリィは言われたとおり、俺へガトリングの銃口を向ける。
俺は意識を銃の軌道予測に集中させた。
―――入射角良し、反射角がこれならば!
アーリィの銃弾をクロコダイルスキンで受け、腕を薙ぐ。
目下には唖然と俺を見上げているブラックの姿が。
「うくっ!?」
クロコダイルスキンで反射させたガトリングの銃弾は全てブラックへ降り注ぎ、その一発は奴の肩を撃った。奴は思わず、その場に膝を突く。
続け様に俺はビーンズメーカーを抜き、ブラックへ神速の銃撃を見舞う。
「させるかよぉ!!」
しかしブラックもまた神速の銃撃をみせた。
互の銃弾がぴったりの機動でぶつかりあり、砕け散る。
地に降り立つと、再びアーリィの射撃を感じ、俺はクロコダイルスキンを発動させ、銃弾を反射させて様々な方向からブラックを狙う。
「なんなんだよこれ!うぜぇっんだよ!!」
ブラックは銃弾を避けてはいるものの、それだけ。
俺はアーリィの銃弾を反射させ、ブラックの動きを牽制しつつ、距離を詰めてゆく。
そして見えた。
奴の意識が反射銃弾に集中する瞬間。
俺はその瞬間へ全ての意識を集中させ、五指でハンマーを撫でた。
突き進む五つの弾。
ブラックは弾の接近に気づくがもう遅い。
「あ!うっ!くっ!!」
全ての銃弾はブラックの脇を捉え、奴を吹っ飛ばし、仰向けに倒れさせる。
ブラックは必死に立ち上がろうとするが、ダメージが蓄積しているのかなかなか立ち上がることができない。
そんな奴へ俺は銃口を突きつけた。
「そこまでだ、ブラックローゼズ!大人しくプラチナをここへ呼んでもらおうか?」
「クッ……だ、誰がそんなこと!」
「なら、暫くここで眠っててもらうぜブラックローゼズッ!」
「ワッドッ!!」
突然、アーリィの叫び声が聞こえた。
背後にアーリィの気配を感じ、俺は咄嗟に振り返る。
刹那、乾いた炸裂音が響き渡り、目の前に赤い飛沫が飛んだ。




