ChapterⅢ:ハイボール牧場の決闘 ①
【Volume1―ChapterⅢ:ハイボール牧場の決闘】
「ローゼズさん、あたし女の子ですから! ホントですから!」
「んー……」
「ほ、ほら! 履いてるのも女の子用パンツ……」
「何やってんだお前!」
俺は視線を明後日の方向へ逸らしたまま、
アーリィのスカートの裾を強引に掴んだ。
「だ、だってローゼスさんが信じてくれないから!」
「だからってこんなとこで自分からスカートをめくる奴がいるか!」
「だって!」
「そう品が無いと益々ローゼズはお前のこと男だって思うぞ!?」
「……おとこ?」
「うわぁぁぁ~ん!」
モルトタウンを出て二日経ち、
一体何回目のアーリィのダッシュだろ?
アーリィは一人泣き叫び、
飽きもせず車輪付きの木箱を引きずったまま先を行く。
「おーい、また転ぶぞぉ~」
「あべしっ!」
やっぱり車輪が岩に引っかかって転んだ。
しかも、ちゃんと足元を見ていなかったためか、
目前に迫ったエプロ川の浅瀬へ突っ込んでいて、
少しずつ川に流されていた。
俺は慌ててアーリィまで駆け寄り、
流木のように流れてゆくアーリィを川から救出する。
「大丈夫か?」
「あたし女の子だもん……ホントだもん……!」
ダメだ。
ちょっと失神してる。
とりあえずアーリィを、
辺の草むらの上に寝転がせた俺は周囲を伺ってみた。
不毛の大地であるアンダルシアンの西海岸側の大動脈エプロ川。
川幅はまるで海を思い起こさせる。
水平線の向こうへ僅かにテラロッサの地平線が見えるのみ。
流れも、勢いもさほど急じゃないが深さがある。
川を人間の足で横断するのは不可能に近い。
だからこそ、ここを超えるための橋があるのだが、
いまだ少し濁っている川の様子は俺に不安を抱かせる。
「マジかよ……」
不安は的中してた。
向こう岸へ渡るための橋は決壊し、寸断されていた。
おそらく二週間前に降った大雨のせいで壊れてしまったんだろう。
他の橋もあるが、ここからだいぶ距離があり、
同じように決壊しているかもしれない。
そんな俺たちの横を馬に乗った商人の隊列が過ぎった。
強靭な脚力を持つ馬は、
平然と川の水面に体を浸しながら、悠然とエプロ川を横断してゆく。
マッカランがお袋を殺した時のことが思い出される。
奴らが家を出るとすぐに馬蹄の音が聞こえた。
奴らは馬を所持している。
だからこのエプロ川も、なんの問題もなく渡りきっている筈だ。
気持ちが焦る。
ここで立ち止まるわけには行かない。
でも道を封じられている。
「馬がないと渡れそうにないね……」
アーリィもまた俺の隣でそう愚痴を言っていた。
すると後ろから重そうな金音が聞こえた。
「コレで馬買う」
ローゼズは担いでいた荷物袋から更に小さな小袋を取り出していた。
それを受け取り、中を見てみれば、
「うわぁ……凄い」
アーリィは袋の中身を見て目を見開き、そう漏らす。
俺も同様の感想を抱いた。
小袋の中には目一杯に金貨が詰まっていた。
金貨一枚の価値はおよそ100ペセ。
およそ100ペセ金貨一枚で四人家族、
内二人が食べ盛りでも豪華なディナーが腹一杯食べられる。
それが数え切れない程詰まっている。
「これもしかして今まので賞金か?」
コクリ。
「良いのか?」
「重たいから少し使いたい」
迷わずそう言ってくれたローゼズに、
俺はありがたみを感じた。
「……ありがとう。いつか必ず返すから」
コクリ。
「この近くだったら……そうだ、ハイボール牧場に行こうよ!あそこだったらきっといい馬が見つかるはずだよ」
アーリィの提案に俺も賛成だった。
【ハイボール牧場】
アンダルシアンでも名馬の産出や、
酪農で有名なビーム家が所有する有力な牧場だ。
アンダルシアンを統括する中央政府軍も御用達の牧場の馬だったら、
今のエプロ川を難なく渡ることができる。
本来だったらそこの馬なんて高すぎて買うことなんて出来ないが、
ローゼズが貸してくれた金があれば安い買い物だろう。
俺達は来た道を少し引き返し、
アランビアックの町の外れにあるハイボール牧場を目指すのだった。