ChapterⅢ:君がいる喜び③
「うおぉぉぉッ!」
熱を帯びた俺の体が勝手に動き出し、森を飛び抜ける。
目下には倒れこむアーリィへ腕を突き出すアードベックの姿が。
刹那、アードベックの右腕の指先から無数の銃弾が放たれる。
「させるかぁ!」
アーリィの前へ降り立った俺は右腕を翳した。
瞬時に皮膚が硬質化し、クロコダイルスキンが発動させ、右腕を大きく横へ薙ぐ。
アーリィへ突き進んでいた銃弾は全て弾かれ跳弾する。
クロコダイルスキンを発動させた腕をみても、もう俺は動じない。
―――これはアーリィを守るための力!俺に与えられた唯一無二の力!
「イーッヒッヒッヒ!まさか【黒】までわしの前に現れてくれるとはのぉ!」
ボウモワは不快な笑い声を上げる。
「アードベック、銀兵士よ!プラチナの命令じゃ!【黒】も捕縛せぇい!」
ボウモワの指示を受け、奴の周囲に漂っていた三機の銀兵士が接近してくる。
「俺は【黒】じゃねぇ!」
俺は銀兵士へ向け飛んだ。銀兵士はマズルフラッシュを発しながら銃弾を放つ。
だが俺はクロコダイルスキンで全てを弾く。
「俺はお袋レアブリードと親父ライの子!」
最接近してきた一機の銀兵士を蹴り飛ばす。
銀兵士はピンポン玉のように吹き飛び、他の銀兵士とぶつかり合って爆散した。
しかし爆風の中から拳を構えたアードベックが飛び出してくる。
しかし、遅い。
感覚が研ぎ澄まされた俺の視界には接近するアードベックの速度が亀のように遅く見える。
俺はホルスターからビーンズメーカーを抜き、銃口をアードベックへ突きつけた。
俺の視界は瞬時にアードベックの全身を包み込むゴールドクロスの隙間を認識する。
引き金には指をかけたまま、撃鉄を左手の指でそれぞれ弾く。
鋭い炸裂音と共に、まるでローゼズのような神速の銃撃が放たれた。
「!!!」
弾がゴールドクロスの隙間へ入り込んだ。
アードベックは突然、動きを止め倒れこむ
奴の鎧の隙間からは紫電と煙が上がった。
俺は再び地を蹴って、高く跳躍した。
目標はボウモワ=ラーガン。
「ヒッ、ヒィィィ~~~!」
「このぉッ!」
恐怖で顔を歪めるボウモワの顔面へ俺は力の限り拳を叩き込んだ。
奴の歯が数本折れ、吹っ飛ぶ。俺は更なる追撃をしようと地面を再び蹴った。
「ア、アードベック!わしを助けるのじゃ!」
するとゴールドクロスに紫電を浮かべるアードベックが俺の前へ立ち塞がる。
しかしアードベックは俺の向かわず、ボウモワを抱き上げた。
「覚えておれ【黒】の小僧!一度ならず二度までもわしの顔面を殴り飛ばして貴重な脳細胞を壊してくれたお前さんへ必ず復讐してやるぞい!」
ボウモワはそう捨て台詞を吐いた。アードベックは相変わらず無表情のままボウモワを抱き、跳躍する。
そして森の木々の奥へと姿を消すのだった。
足元にはボウモワに捕らわれていた少年が、唖然と俺のことを見上げていた。
俺は少年へ微笑みかけ、かがみ込んで頭を撫でる。
「大丈夫か?」
コクリ。
「そっか、なら良かった。もう大丈夫だ。お父さんとお母さんのところへ帰りな」
「う、うん!」
少年は立ち上がり走り出す。しかしはたりと足を止めて俺の方を振り返ってきた。
「ありがとうお兄ちゃん!俺、いつかお兄ちゃんみたいに強くなるから!!」
元気よくそう言って、両親のところへ向かう。
少年の両親は深々と俺へ頭を下げる。
そして互いに寄り添いながら再び渓流の岸を下り始めたのだった。
激しい動きの中でも心は清流のように静かで落ち着いていた。
その静かな心は、俺の感覚を最高潮にまで引き上げられていた。
マッカラン、マスク・ザ・G、ブラックローゼズと対峙した時の同じ感覚。
人間では到底成し得ない軌道をし、ローゼズ並みの銃撃を行えるこの身体能力。
これは火事場の馬鹿力じゃ無い。
これこそが!
―――【黒】として与えられた、俺の本当の力!
俺は迷わないと決めた。
俺は人では無い。
人と明らかに違う、異質な存在。
だからこそ俺にはできることがある。
この黒い目も、黒い髪も俺が特別である証。
体は人じゃない。
だけど心は今でも人。
俺はお袋と親父に愛情一杯に育ててもらったワイルド=ターキーに変わりはない。
だからこそ俺は俺だけに与えられたこの力と共存することを選んだ。
俺にできること、俺にしかできないことをこの力を使って為す。
そう心へ強く刻み込ませる。
ふと、肩が叩かれる。
振り向くとそこには子供のような明るい笑顔を浮かべていた。
「やるじゃんワッド!」
アーリィの笑顔を見て、再び心臓が高鳴る。
「ま、まぁな!」
ついつい顔を背けてしまった。
どうやら俺の中にあるアーリィへの意識が変わってしまったようだ。
そしてそのことは俺へ新しい想いを芽生えさせていた。
―――俺が人間でなかろうと、世界を滅ぼしかねない化物だろうと、なんであろうとも俺のやることは変わらない。俺は必ず全ての【遺跡】を滅ぼす。悲しみを振りまくソレをこの世界から完全に抹消する。そして……
「? なんでこっち見てくれないの?」
アーリィは顔を背ける俺を不思議そうにみている。
「た、たまたまだ!」
「たまたま?なんで?」
「なんでも!」
「ふーん……えい!」
「わっ!」
アーリィが突然俺の両頬を掴んで、顔を向けさせる。
綺麗な青く透き通るようなアーリィの瞳を見て、俺の心臓は爆発寸前だった。
でも、その鼓動は心地よくて、近くにアーリィの熱を感じられるのを嬉しく思う俺がいる。
―――俺はこの身体と能力を使ってアーリィを守りたい。
これからもずっと……だって俺はアーリィのことを……
「? 顔真っ赤だけどどしたの?」
「ななな、なんでもないから!」
「久々にはしゃいだから熱でも出た?」
「そんなとこ!」
「まっ、暫くぶりの元気なワッド復活だもんねぇ!おかえり、ワッド!待ってたよ!」
アーリィは俺へ笑顔を送ってくれる。
それが嬉しくて堪らなかった。
―――俺はアーリィのこの笑顔を守りたい。愛し、大切に思うアーリィの笑顔を……




