ChapterⅢ:君がいる喜び①
【VolumeⅣー【死】をもたらすために【破壊】をChapterⅢ:君がいる喜び】
黒々とした空には僅かに星が光を瞬かせていた。
そんな空を星の光ではない何かが横切り、暗い夜空に軌跡を残す。
闇夜に軌跡を刻むモノ、それは鈍色の冷たい装甲で覆われた銀兵士だった。
銀兵士は五機一組の三角編隊を組んで空を飛んでいる。
森の奥深くまで逃げ込み、木々の下で俺たちは銀兵士に感づかれないよう、息を殺している。
それが奏功し、銀兵士の編隊は俺たちに気が付くことなく、上空を飛び去っていった。
アーリィ、ハーパー、ジムさん、ジョニーさん、バーンハイムさん、そして竹鶴姫と響さん達三侍は一斉に殺していた息を履き、呼吸を落ち着ける。
しかし俺とローゼズだけは項垂れたままだった。
「そういえばどうして竹鶴姫さん達はここに?」
俺の隣にいたアーリィがそう聞く。
「姫様に代わり拙者がご説明申し上げる」
答えたのは響さんだった。
「拙者達はマドリッドから逃げてきたでござる」
「マドリッドから? どうして?」
「崩落したのでござるよ、マドリッドが」
「えっ?!?」
「マドリッドだけではございません。聞くところによれば交易地点であったヒースもまた……拙者達は幸い、タリスカー討伐の任についていたおかげであの球体の攻撃に巻き込まれずに済みました」
「で、これからどうしようかと彷徨っている内に、たまたま君たちが球体に襲われているのを見つけて助けったってワケ」
山崎さんがさらりとそう言うと、
「山崎兄者の言うとおりです!」
白州さんは同意を口にした。
「にしてもなんなんだろうねぇ、あの銀玉は?」
山崎さんはひょうげているが、憎々しそうにそう呟きながら空を仰ぎ見る。
「……あれは銀兵士【スペサイド遺跡】から13年前に発掘された過去の戦闘兵器です」
アーリィが答え、皆の視線が一気に彼女へ集中する。
「アーリィちゃん、どうしてそれを!?」
一番の驚きを見せていたのは膝を抱えたまま項垂れているローゼズに付き添っていたジョニーさんだった。
「あたしとワッドはさっきまでプラチナローゼズと名乗る奴のところに監禁されてましたそしてジョニーさん、貴方が中央政府の遺跡発掘団団長のボウモワ=ラーガンの下で働いてたことも……」
「……」
アーリィの言葉にジョニーさんは黙り込む。
皆の視線がジョニーさんへ集中する。
「もう詳しいことを話せるのはジョニーさんしかいません。みんなにも今の事態や、銀兵士のことをわかりやすく説明して貰えますか?」
アーリィは静かのジョニーさんへそういった。暫くしてジョニーさんはため息をついた。
「ええ、アーリィちゃんの言う通りよ。私は13年前、遺跡研究の権威ボウモワ=ラーガンの第二助手として【スペサイド遺跡】の発掘を行っていたわ」
「スペサイドって、アンダルシアン中央山脈の中にある地区名ですね?」
ジムさんが聞くと、ジョニーさんは首を縦に振る。
「そうよ。ボウモワはあそこに巨大な【遺跡】があると言っていたわ。そして13年前の12月31日、私たちは【スペサイド遺跡】の発見に成功し、そこに眠る自動攻撃兵器【銀兵士】を発掘した。それこそあの球体の正体。統括システムによってどんな戦闘命令でも聞く、恐ろしい兵器よ」
ジョニーさんの言葉をその場にいる全員は静かに聞き入っている。
ジョニーさんは更に言葉を続けた。
「私たち調査団の調査の結果、【スペサイド遺跡】はかつての戦争時代【銀兵士】の製造と発進基地であったことがわかったわ。更に調査を進めて私たちはそこで銀兵士の統括システムである人造生命体【白】プラチナローゼズを発見した」
「ローゼズって……?」
ハーパーは近くに居たローゼズへ視線を送る。しかしローゼズは一切反応を示さない。
「【ローゼズ】とはかつてアンダルシアンに存在した高等技術を有した国家が打ち立てた新兵器開発プロジェクトを指す暗号だったらしいの。紅兵士、強化発展型の黄金兵士、更に人体という要素を覗いた自動兵器軍の銀兵士とそれらを統括するプラチナの存在……これらはひとまとめにして【ローゼズ計画】と呼ばれていたそうよ」
「バラの花言葉は情熱……もしやこの計画の立案者は相当なロマンチストで、この計画に文字通り情熱を注いでいたのかもしれませんね」
バーンハイムさんがそう冗談めいたことを言ったが、ジョニーさんは重苦しい表情のまま「そうかもね」と返した。
「それでその人造生命体とはなんなのですか?」
ハーパーが続けざまに聞く。
「人ってね、細胞っていう組織の塊なの。様々な人からその細胞を取り出し、ブロックのように組み合わせて、別の人を作る。人のお腹から生まれたのではなく、機械の中から生み出された存在……それが人造生命体よ」
「済まぬが、拙者たちには理解できない話でござる」
響さんが声を上げた。山崎や白州も同様の意見らしく鋭い眼差しをジョニーさんへ送っている。
「お主達はバカか……」
すると竹鶴姫が響さん達へため息混じりにそう言った。
「妾達は既に幾つも不可思議なものを見ておろうに。ワイルド殿達が持つビーンズメーカー、マッカランが手に入れようとしていたバーボン……全ては【遺跡】とかいうものに関わっておる。その【遺跡】とやらに銀兵士やプラチナなる者が関わっておるのなら、信じるしかあるまいて」
響さんを筆頭に山崎さん、白州さんは目を点にして竹鶴姫を見つめている。
「な、なんじゃお前たちそんな目をして気持ち悪い……」
「姫様!なんと……なんとご立派に!不可思議事柄の数々を前にしても動じることなく、理解をし、我らを叱咤されたご言動!誠にあっぱれ!拙者は竹鶴姫様よりいずれ鳥居藩を更なる発展へお導きなされるであろう、大きな器を感じました!この響 九十郎、永久に竹鶴姫様へお使えさせていただきたく切に願う次第であります!!」
大仰に響さんはそう言って傅き(かしずき)、
「へぇ~姫さんやるようになったねぇ!俺も器のでっかい姫さんにずっと付いてくぜぇ~」
山崎さんも軽く口調だが、竹鶴姫の前へ膝を突く。
「そうだそうだ!兄者たちの仰る通り!拙者も竹鶴姫様にずっと付いてきます!」
相分からず同調する白州だった。
「そ、そうか!ならばこれからも妾の手足となって頑張るのじゃぞ」
「「「ははっ!」」」
少しと恥ずかしそうな竹鶴姫だった。
「当主様、ご覧下さい。あれが人を率いる者の器です。よくよくお目にお焼き付け下さい」
バーンハイムさんがハーパーへボソリとそうつぶやき、
「し、失礼な!私もあれぐらいの器はあります!」
「でも、ハーたんは世間知らずでぇすからねぇ。この間もケバブを食べるのにナイフとフォークを探して……」
「ちょ、ちょっとジムさんまたそれを!!」
ハーパーは顔を真っ赤に染めて抗弁する。
ずっと冷ややかだった空気が少し温まったような気がした。
「ジョニー殿、妾は問う!プラチナローゼズとやらの目的はなんなのじゃ?」
しかし竹鶴姫の言葉で少し温まった空気が再び冷え込んだ。
ずっと重い表情をしていたジョニーさんが口を開く。
「プラチナの目的、それは【死】をもたらすために世界中を【破壊】すること……」
【死】をもたらすために【破壊】をすること……その言葉を聞き、俺はプラチナの声を思い出す。
そして、その先に思い描くのはやはり、俺自身が人間ではないということ。
突然、寒気が襲い、俺は自ら肩を抱いた。
ジョニーさんは更に言葉を続ける。
「プラチナは作成段階である事へ願望を強く与えられたの……奴の持つ執念にも近い、強い願望……それは【公平】」
「【公平】? どうしてそんなものを?」
ハーパーが聞く。
「奴の製造目的は銀兵士を自在に操って、あらゆる存在を殲滅すること。人へ最後の瞬間に訪れる唯一【公平】それは【死】。奴にはそう刷り込まれているの。死んでしまえば人の出身、門地、性別、所有の有無なんかは関係なくなる。死んでしまえば、滅ぼして無にしてしまえば全て同一、だから奴は【死】をもたらすために【破壊】を行う……」
「狂ってるですね」
ジムさんは呆れ気味にそういった。ジョニーさんは苦笑いを浮かべた。
「私もジムさんに同意よ。そんなの言い訳よ。みんなを【公平】にするために【死】なせるだなんて馬鹿げてるわ。そしてそれはきっとプラチナが作られた時代に生きていた人たちも同じことを思ったはず。奴は発見当時、実践投入された痕跡がなかったのよ」
「当然ですね。そんな身勝手な理由で作られたモノを外に出すわけにはいかないのです」
「でも13年前、そんなプラチナの存在に魅入られたボウモワ=ラーガンは、プラチナの復活を企てたの。そのことを私と当時のボウモワの第一助手、そして警備に当たってくれていた中央政府の軍人さんとの三人で私たちはプラチナの破壊を試みたの……でも結果は失敗。ボウモワはプラチナを持ち去り、行方を眩ませたわ。そしてどうやらボウモワはプラチナの封印を解くのに成功したようね」
「ならばジョニーさん、何故貴方はそのような事態が起こっていると知りながら何もしなかったのですか?」
バーンハイムさんが聞く。
するとジョニーさんは疲れたような笑いを浮かべた。
「したわよ。だから私はアインザックウォルフから預けられた【遺跡】を研究して、フランソワ=アインザックウォルフを素体として黄金兵士、マスク・ザ・Gを造ったわ。いつかプラチナが解放されるその日を考えてね……」
ジョニーさんの言葉を聞いて、ハーパーが肩を落とす。
そんな彼女の肩をバーンハイムさんはそっと抱いたのだった。
「他に私に聞きたいことはある?遠慮はいらないわ」
ジョニーさんが皆へ問う。誰もが沈痛な面持ちのまま、言葉一つ出さない。
「なら……【黒】ってのはなんなんですか……?」
自然と俺の唇が動いた。




