ChapterⅢ:黒の真実⑤
森を抜けると、そこはアインザックウォルフの別荘がある海岸だった。
しかし別荘は真っ赤な炎に巻かれれている。
別荘を取り囲む無数の銀兵士。
その中には二刀一刃のレイピアを構える快傑ゴールドと手甲を装着したバーンハイムさん、その後ろにはウィンチェスター型ビーンズメーカーを携えたジムさんの姿があった。
銀兵士が一斉に十字のマズルフラッシュを見せる。
「はぁっ!」
快傑ゴールドは裂帛の気合と共にレイピアを振るい、銀兵士の銃弾を弾き続ける。
「行きますッ!」
バーンハイムさんは敵の弾幕をくぐり抜け、銀兵士へ接近し、拳を浴びせかける。
「援護するですッ!」
ゴールドに守られながらジムさんはビーンズメーカーを放った。
しかし相手は金属装甲を持つ銀兵士。
例え高圧縮された空気で押し出された弾だととしても、ビーンズメーカーから発射されるのは所詮豆でしかない。
豆は銀兵士にぶつかり砕けるだけ。
バーンハイムさんの拳も銀兵士には決定打を与えられていない。
それでもジムさんはビーンズメーカーを撃ち続け、バーンハイムさんは拳で銀兵士を叩き、敵の照準をずらし続ける。
なぜならば、ジムさん達の更に後ろにはジョニーさんに付き添われ、膝を抱えて座り込むローゼズの姿があったからだった。
ローゼズは相変わらず座り込んだまま、微動だにしない。
「クッ!」
「ハーたん!?」
「お嬢様!!」
銀兵士の銃弾が快傑ゴールドの黄金のマスカレードを弾き飛ばし、ハーパーの素顔が顕になる。
「ゴォールドゥッ!」
しかしハーパーは動揺することなく、勢い良く地を蹴って銀兵士へ接近する。
二刀一刃のレイピアが複数体の銀兵士の前へ鮮やかな軌跡を描く。
銀兵士はレイピアに真っ二つに切り裂かれ、瓦解する。
だが銀兵士の数は圧倒的で、例え数体倒したとしても状況は変わらない。
「っ!お、お嬢様には指一本触れさせません!」
銃弾がバーンハイムさんの肩を掠め膝を着くが、直ぐに立ち上がり銀兵士へ拳を叩き込む。
「お、お前たちなんなのです!何が目的なのですか!!」
ジムさんは銀兵士の弾幕を転がり避けながらビーンズメーカーを放ち続ける。
「例え数が圧倒的でもあろうともこの私は屈しません!なぜならば、私はハーパー=アインザックウォルフ!アンダルシアンで一番の戦士だからですッ!」
ハーパーもまた懸命にレイピアで銀兵士を撃破し続けていた。
「あたしたちも行くよ!」
アーリィに手を引かれる。
しかし体が重く、上手く前に進めない。
「来たぁ!ようやく来たねぇッ!」
その時、圧倒的な殺気が俺たちの前へ躍り出た。
「アーリィッ!」
俺は咄嗟にアーリィの手を引き、抱きしめ背を向ける。
乾いた炸裂音が複数回響き、鉛弾が俺の背中へ容赦なく撃ち込まれる。
でも俺の背中は傷一つ負わず、逆に銃弾を弾き返した。
背中に発生したクロコダイルスキンは銃弾を弾き終えると瞬時に元の皮膚へ戻る。
振り返ると、そこには手早く装弾を終え銃口を俺へ向けるブラックローゼズが居た。
奴は俺へ殺意に満ちた鋭い視線を送っている。
「あー嫌だ、もう嫌だ。黒目黒髪なのも嫌なのに、僕だけのクロコダイルスキンを見せつけられて僕は凄く不愉快だよ」
「……」
「【黒】は僕だけだ!僕だけなんだ!僕がプラチナの世界で1人きりの本物の家族なんだぁ!」
ブラックローゼズは左のホルスターからも銃を抜き、ハンマーへ指をかける。
俺は咄嗟に両腕を構えた。
左右の腕が一瞬で黒色化し、クロコダイルスキンを発動させ、ブラックローゼズの銃弾を弾く。
目前に見える黒色化した自分の両腕。
否応無しに突きつけられる俺が人間ではない証拠。
心臓が嫌な動悸を発し、膝が震える。
「ワッド!何してんの!!」
アーリィの声を聞き、意識が周囲のことへ戻る。
視線を上げると、そこには既に手刀を横に構えたブラックローゼズの姿あった。
「死ねぇ!君を殺して僕が本物の【黒】になるんだぁ!」
明確な殺意、怒り、妬み。
あらゆる負の感情を含んだブラックローゼズの手刀が俺の首筋を狙う。
刹那、煌く斬撃が俺とブラックローゼズの間に割り込んできた。
ブラックローゼズは瞬時に構えを時、後方へ飛び退く。
「ワイルド殿!ご無事でござったか!!」
俺の目の前には巨躯を和装で包み、刀剣を構え、臨戦態勢を取る東方の武士:響 九十郎の背中があった。
「妾の力を思い知らせるのじゃ!行け、山崎、白州、アンダルシアンの戦士たちよぉ!」
「「「「「おおおおっ!!!」」」」」
更に聞き覚えのある甲高い声が聞こえ、勇ましい掛け声と共に森の奥から東方の武士山崎 発芽、白州 麦芽、そして青い軍服を来た中央政府軍の兵士たちが銃剣を突き出し突撃を仕掛ける。
「俺の力、お見せよう!」
山崎の刀剣はあっさりと銀兵士を切断し、
「そうだそうだ!山崎兄者のお力を見るがいい!」
白州の刀剣は銀兵士の頭のような構造体を叩き割る。
中央政府の兵士もまた銀兵士の頭部と本体の間にある隙間へ銃剣を突き刺し、トリガーを引いて撃破してゆく。
「響!何をぼさっとしておるのじゃ!はようワイルド殿を連れて逃げんか!!」
気が付くと俺たちの隣にはしゃもじを持って叫ぶ竹鶴姫の姿があった。
「どうして貴方たちが?」
アーリィが疑問を口にする。
「事情はあとでご説明を致します!今は撤退が先決!」
「逃すわけないだろうがぁッ!」
ブラックローゼズが怒りに満ちた声を上げながら銃撃を始める。
しかし銃弾は全て、響の刀剣によって弾かれる。
「その殺意、誠卑しきもの!義もなく忠もないただの殺意を拙者は許しはしない!」
「何訳のわかんないこといってんだよ、クソジジイがぁ!」
「失敬な!これでも拙者は未だ四十手前でござるッ!」
響とブラックローゼズがぶつかり合う。
ハーパーやジムさん達も中央政府の軍人に付き添われ、森の中へ逃げ込んでいるのが見えた。
「急がれよ、ワイルド殿!殿は拙者が務める!」
ブラックローゼズの銃を刀剣で受け止めている響が叫ぶ。
「こっちじゃ!」
竹鶴姫が先行する。
「行くよッワッド!」
俺はアーリィに腕を掴まれる。
俺は引きずられるように走り出す。
やがて銃声は遠くに聞こえるようになってゆくのだった。




