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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅣー【死】をもたらすために【破壊】をChapterⅢ:黒の真実
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ChapterⅢ:黒の真実④


「なんだよ、これ……」


俺から意図せずそんな言葉が漏れた。

既に映像は灰色の砂嵐に切り替わっている。


「これは今、お兄ちゃんの前にいる銀兵士が録画し続けた約13年間の記録だよ。たぶん、あのレアブリードという人が間違えて、お兄ちゃんを追い続けるよう設定してしまったんだと思う。まだ記録はあるけど見る?」


プラチナは機械的に聞いてくる。

俺は自然と首を横へ振っていた。


「分かった。じゃあ今度はわたしから補足をするね。記録映像の冒頭【白】と語られていたのはわたしプラチナローゼズ、そして【黒】ブラックローゼズはお兄ちゃんのことなんだよ」

「……」

「わたし達はテラフォーミング初期時代、未だこの星の人が高等技術を有していた頃に作られた。人を構成する要素、細胞というものをブロックのように組み合わせて作られた、人の腹から生み出されたのでは無く、機械の中で生を受けた人造生命体。それがわたしとお兄ちゃんなんだ」

「……」

「ローゼズ計画の中でそうして作られたのはわたしとお兄ちゃんだけ。しかもほぼ同じ細胞の組み合わせから作られた。だかららわたしとお兄ちゃんはこの世界でただ二人きりの、本物の家族だと言えるの」

「違う……」


俺はプラチナの言葉を否定する。

頭の中にはお袋と親父との記憶がある。

息子の俺を慈しみ、育ててくれた二人。

たっぷりの愛情を注いでもらい育ててくれた俺の両親。

今は二人共遠くへ行ってしまったけど、でも俺の胸の中ではお袋と親父は今でも生き続け、俺を優しく見守ってくれている。


「俺はワイルド=ターキー!レアブリード=ターキーとライ=ターキーの間に生まれた子供だ!」

「? お兄ちゃんが何を言っているのかわかんないよ。記録映像をみてどうしてそういう答えに至るの?」

「あんな映像信じない!信じるもんか!」

「……仕方ないね」


プラチナは首からぶら下げていたSAAのグリップを握る。

そして銃口を俺へ向け、ハンマーを倒し、迷わず引き金を引いた。


「ッ!?」


俺は反射的に右腕をかざす。

一瞬で俺の右腕がクロコダイルスキンを発動させた。

プラチナの放った銃弾はクロコダイルスキンに弾かれ跳弾する。

弾はさっきまで記録映像を映し出していたボロの銀兵士へぶつかった。

銀兵士は顔のような構造体を打ち抜かれ、双眸から輝きを消失させ、ガラクタのように床へ落ちる。


「あ、あああ……!」


黒色化した右腕をみて、俺の心臓が嫌な鼓動を発する。

頭の中が滅茶苦茶になり、体が凍えたように寒い。


「人の子ならばそんな風にはならないよね?」


冷たくプラチナがそう言い放つ。


「瞬時に細胞組織を組み換え硬化させ形成される絶対障壁クロコダイルスキン。それはわたし【白】を防衛するために【黒】へ与えられた有機特殊兵器なんだ。それを発動できるお兄ちゃんこそ【黒】に他ならないのんだよ?」

「じゃ、じゃあ……なんなんだよ、お前の隣にいるブラックローゼズは……。あいつだって、クロコダイルスキンが使えるじゃないか……!」


「あの子はお兄ちゃんを見つけるまでに代用品としてわたしが作った偽りの【黒】。嬉しいことに本物の【黒】のお兄ちゃんが見つかった。だからあの子はもう【黒】を演じる必要はないし、お兄ちゃんの立場を危うくしない。あの子には近いうちに元の「バランタイン=ファイネスト」に戻ってもらうから安心してね」


プラチナの気配が近づいくる。

そしてプラチナ小さな手が俺の両頬へ添えられた。


「顔を上げてお兄ちゃん」


ひどく優しく聞こえたプラチナの声に、俺は自然と従ってしまう。

するとプラチナはそっと目を閉じ、俺の額へ額を当ててきた。


「お兄ちゃんの役目、わたしが思い出させてあげる……」


プラチナの額を通じて、温かい何かが俺の中へと流れ込んでくる。

優しく、温かい気持ち。


―――プラチナ……プラチナローゼズは俺、ブラックローゼズの妹……命をかけても守る存在……


自然とそんなイメージが浮かびあがる。

だが、それを鵜呑みにできない俺がいた。


―――違う!俺はワイルド=ターキー!レアブリードとライの息子!プラチナは妹なんかじゃない!


二つの相反するイメージが俺の中でせめぎ合い心を揺り動かす。


【黒】すなわちプラチナを守るために作られた人造生命体という強い認識をもつ自分と、それを否定しターキー家の一人息子でお袋の腹から生まれたという認識を強く持ち続けたいと願う自分。

二つの自分が中で激しくぶつかり合い、その間に立たされている俺自身は疲弊ししてゆく。


「抗わないで。お兄ちゃんのことを分かるのはわたしだけ。お兄ちゃんはずっと私の傍に居ればいいの。ただそれだけでその苦しみは無くなるよ?」


プラチナの優しく温かい声が俺の頭へ直接響いてくる。

その声は俺の中からワイルド=ターキーという認識を薄れさせてゆく。


―――ワイルド=ターキー、それは……誰だ?


 俺が俺で無くなり、別のものへと変容しようとしている。

いや、もうすでに変わっているのかもしれない。

【ワイルド=ターキー】という音が一体何の意味を持っているのか?人の名前なのか?物のを指し示す言葉なのか?分からない。

ならばここにいる俺は何か?俺は一体何者なのか?


「人はね、生まれながらに不平等なの」


プラチナの声が頭に響く。その言葉に俺は「そうだ」と肯定する。


「力の強い人、弱い人。元々多くのものに囲まれている人、何も持っていない人。ある人はない人を見下し、無い人をある人のことを妬む。全ての人が平等ならばそうはならない筈。だから過去にそういう社会を造ろうとした人たちがいた。その人たちは国家が持つ物は全ての国民に等しく分け与えるとした。でも、結局それでも不平等は生まれてしまった。平等とは嘘ばかり。結局、国家を束ねる一部が富み、それ以外は貧困に喘ぐ……たぶん、これが人の限界。人が幾ら平等を願っても、人同士が他の人よりも上に居たいと一人でも思う限り、それは永遠に叶わない想い……」


―――その通りだ。プラチナの言うとおりだ。幾ら人が平等を願っても、自分以外の誰かがいる限り同じじゃないし、平等でもない。人はいつまでも不平等。平等などこの世の中には存在しない。


「わたしとお兄ちゃんは人を公平に人を裁く目的で生まれたの。最高の公平……人に、全ての生命体に等しく与えられる唯一絶対の理。それは……」


―――プラチナが正しい。人は生まれながらにして不平等だ。でも、どんな人でも必ず訪れる唯一絶対の平等がある。不平等の中を生きた先に訪れる、終焉の時にようやく平等に与えられるもの、それは……


「【死】」


―――最後の瞬間に与えられる平等、それは【死】


「死んでしまえば持っている人はその持っているものの意味を失うし、持ってない人を見下すことはない。持ってない人も死んでしまえば持っている人を憎まない。「死」は公平。ある人もない人もみんな死んでしまえば一緒。だからわたしたちは人へ【死】を与えるために【破壊】を行うの』


―――【死】は訪れるもの。な

らばそれを与えるためには俺と妹は何をすればいいのか?

人へ【死】を俺たちが与えられる方法。

人を平等へ導く方法、それは【破壊】



「【死】を与えれば、そこには富むものの貧困に喘ぐ者もいない。誰も憎まない、誰も殺しあわない。だって何も無くなるのだから。だからわたしはこの星すべてに等しく【死】をもたらすの。そのために全てを【破壊】するの。これがわたしたちのう役目。生まれた意味なんだよ」


―――俺は【黒】ブラックローゼズ。妹の【白】プラチナローゼズを守り、共に人へ公平な【死】を与えるために【破壊】を行う存在。


「だから私は人の身で手伝ってくれる三銃士を結成した。そして、ついこの間、13年かけてようやく沢山の銀兵士を動かせるようになった。時が満ちたんだよ」


プラチナは静かな笑みを浮かべ、そして、


「お兄ちゃん、一緒にしよ? 全ての人へ【死】を与えるために【破壊】をしよ?わたし達兄妹の手で……」


 プラチナが、この世界で唯一の家族、最愛の妹が俺へ手を差し伸べている。


―――今始めよう。すぐにでも始めよう。妹と一緒に、世界の【破壊】を……!


「ワッド、正気に戻ってッ!!」


俺を呼ぶ声が聞こえ、頭の仲にあった【黒】としての自覚が一瞬でなくなる。


「ッ!」


俺はプラチナを突き飛ばす。


「お、お兄ちゃん……どうして……!?」


プラチナはぺたりと尻餅をついた。

プラチナは瞳に僅かに涙を浮かべ、動揺を浮かべている。

しかし俺は奴を無視し、俺を呼ぶ声がした方を見た。

壁沿いにあった開け放たれた食堂の扉の前。そこには俺の幼馴染、俺をワイルド=ターキーと呼んでくれるアーリィ=タイムズの姿があった。

衣服はボロボロで、彼女は肩で息をしている。

その時、アーリィの背後にある廊下の闇にキラリと光が見える。


「アーリィ、避けろッ!」

「ッ!?」


アーリィは慌てた様子で踵を返す。


「イーッヒッヒッヒッ!」


不快な笑い声と共に闇の奥からボウモワが義手を振りかざし、飛び出してきた。

赤い液体を滴らせる奴の義手がアーリィを襲う。アーリィは急いで飛び退いた。

ボウモワの義手がアーリィの腕を一瞬掠め、傷が浮かぶ。

しかしその隙にアーリィは突き出されたボウモワの腕を掴んだ。

そして奴の懐へアーリィは手を差し込む。


「これ、返してもらうよ!」


アーリィはボウモワの懐から俺のスコフィールド型ビーンズメーカーを抜いた。


「そぉれっ!」

「うおっ!?」


アーリィはボウモワを横へ投げ飛ばす。

ボウモワは背中から壁へ激突した。

奴は壁に沿ってズルズルと床まで落ち、起き上がることはない。

アーリィはテーブルを踏み台にして俺のところまでやってくる。


「お、お兄ちゃん……」


相変わらずプラチナは尻餅をついたまま悲しそうな視線を俺へ送っている。


「違う!ワッドはあんたなんかのお兄ちゃんじゃない!彼はレアドさんとライさんの息子!そしてあたしの大切な幼馴染なんだから!」


アーリィはマグナムをプラチナへ突きつけ、俺の代わりに強い否定をぶつけた。


「アーリィさん、貴方という人は……!」


プラチナは恨めしそうな視線でアーリィを睨む。

しかしアーリィはプラチナの視線を無視して、ベストのポケットから小さな粒を取り出した。


「目、閉じて!」


アーリィが取り出した粒を床へ叩きつけようと振りかぶる。

俺は言われた通り目を閉じる。

一瞬、瞼が真っ赤に染まる。

閃光弾の輝きが食堂を席巻した。


「行くよッ!」


アーリィの声が聞こえ、腕を掴まれた。

俺はアーリィになされるがまま、走り出した。


 俺はアーリィに腕を掴まれたまま走り続け、外へ出た。

外はすっかりと夜になり、空では僅かに星が瞬いている。

俺はアーリィへ手を引かれ目の前の森へと飛び込む。

さっきまで俺たちが居た館はあっという間に森の木々の間に隠れて見えなくなった。

ようやく緊張が解け、頭に冷静さが戻ってくる。

そうすると急激に体が重くなったように感じた。


 既にプラチナが側にいた時の異様なイメージ、俺が【黒】であるとう認識はまるで薬か何かが切れたように無い。

しかし認識は無くなったとしても事実が消えることはない。


―――俺は【遺跡】で発見された人ならざる者。

お袋と親父の子供では無く、かつて何者かに人工的に生み出された存在。


いくら否定しても、見せつけられた映像とプラチナの言葉、何よりも今では平然と発動してしまうクロコダイルスキンが現実を突きつけてくること。


―――俺は化物……そして、プラチナと共に人へ【死】を与えるために【破壊】を行う存在……


心が重く、体が気だるかった。

気力が体から抜け落ち、力を容赦なく奪い去る。


「ワッドは、例えどんな存在だったとしてもワッドだから……」


アーリィの声が聞こえ、心臓が大きく跳ね上がる。

アーリィはゆっくりと走るのを止め、立ち止まった。


「アーリィ、お前もしかして……」

「全部聞いた……ボウモワのところで……」

「……」


アーリィは振り返り、彼女がずっと左手に握り締めていたスコフィールド型ビーンズメーカーをそっと俺の右腕へ握らせた。

ビーンズメーカーの銃身に刻まれたライ=ターキーの刻印に視線が落ちる。


―――ライ=ターキー、親父の名前……そしてこの銃はお袋からいずれ俺へ渡そうとし

これを継がせようとしたということは、俺はあの二人の子供ということ。


『人の子ならばそんな風にはならないよね?』


記憶の中のプラチナの声が響き、銃を握る腕が硬質感のある黒へと変色したように見えた。


―――いや、俺は化物だ。お袋と親父は俺を産んでくれた人じゃない。俺は遺跡の中にいた人に仇なす人造生命体……


「その銃を持ってるのはワッドがレアドさんとライさんの子供だった証だから。そしてモルトタウンで一緒に育った幼馴染のワイルド=ターキーの証だから。だからあたしは気にしない。だってワッドはワッドに変わりないもん」


アーリィは優しく声をかけてくれる。

だがどんなにアーリィがそう言ってくれたとしても、俺が【遺跡】の中で作られた存在で、お袋と親父の子供では無く、人を滅ぼそうとする化物だったという事実が覆ることはない。


 その時、夜空に銀色の光が見えた。思わず俺とアーリィは空を仰ぎ見る。

そこには編隊を組み、空を滑空する無数の銀兵士の姿が見えた。


「行くよ!」


アーリィは再び俺の腕を掴む。俺はアーリィになされるがまま、再び走り出した。


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