ChapterⅢ:黒の真実③
映像が切り替わった。
窓越しに部屋の中を映している風景。
俺はそこを知っていた。
そこは俺の実家。
マッカランに燃やされる前にあったバー「ターキー」
窓の中では髪の色を真っ黒に染め、立ち鏡の前にいるお袋の姿があった。
するとそんなお袋へ普段着の親父が歩み寄ってゆく。
『どう?似合ってる?』
お袋は親父へ振り向いて、そう聞く。
『どうしたんだよ、髪なんて染めて?』
『だってほら、ワイルドは黒髪だし。私、地毛がブラウンだから……』
『レアド、お前……』
『子供ってね、みんなとちょっと違うだけで苛められちゃんだよ?ただでさえアンダルシアンじゃ黒目、黒髪は珍しいからね。でも、こうすれば親譲りってことでワイルドが苛められないと思ってね』
親父はそっとお袋のことを抱きしめた。
『貴方?』
『ありがとう。俺も頑張るから。だからこれからは家族三人で幸せに暮らそう。俺がワイルドとレアドを守る。この命に替えても、絶対に!』
『ありがとう、ライ……』
お袋と親父は暫く抱き合い、そして窓から消えた。
……
……
……
『ライ……どうして……』
雨が降りしきる墓地。簡素な十字架の前でお袋は膝まづき涙を流していた。
その横にいる黒髪の少年はそっとお袋へ屈み込む。
『お母さん、泣かないで?今度は僕がお母さんを守るから。お父さんの代わりに絶対にお母さんを守るから……』
お袋は黒髪の少年を抱きしめた。
『ありがとう、ワイルド。優しい子ね……本当にありがとう……』
『お母さん、大好き……』
……
……
……
『うわぁっ!ワッド助けてぇ~!』
暴れまわるポニーの上で幼い頃のアーリィが叫んだ。
『アーリィ!』
黒髪の少年はポニーの上へ飛び乗り、アーリィをそこから突き落とす。
『こ、この!言うこと聞けよぉ!』
黒髪の少年は懸命に轡を持って馬を落ち着かせようとしているが上手くいかない。
『ア、アーリィ助けてぇ!』
ポニーは依然暴れまわり、黒髪の少年は助けを求める。
『こらー!いたずら坊主共!なにしてるんだ!!』
遠くから、ビリーおじさんの叫び声が聞こえてきた。
……
……
……
『ジャジャ~ン!』
バー「ターキー」へ保安官ルックのアーリィが入ってきた。
『おっ?なんだ、仮装か?』
バーの中を掃除していた黒髪の青年がそう云う。
『仮装じゃないよ!いよいよこのあたしも今日付けでモルトタウンの次期保安官候補になったのでしたぁ!えっへん、頭が高いぞ!控えおろう!』
アーリィは自信満々に胸を張る。
すると黒髪の青年はため息をついた。
『でもその胸じゃあなぁ……』
『なっ……!む、胸は関係ないでしょうが!』
『じゃあわざわざ無い胸張るなよ。なんだかその、ちょっと可哀想に思っちまう』
『あのねぇ、ワッド!』
アーリィが黒髪の青年へ飛びかかろうとしたその時だった。
お袋が現れて黒髪の青年の耳を摘む。
『い、いてて!お袋!いきなり何すんだよ!』
『ワイルド、あんた親しき仲に礼儀有りって言葉知ってる?それに女の子にそんな酷いこという男に育てた覚えはお母さん無いけど?』
『わ、悪かった!俺が悪かったから!耳がちぎれるぅ~』
『はい、それじゃアーリィちゃんに謝る謝る!』
お袋に解放された黒髪の青年は耳を摩りながらアーリィへ、
『悪かった』
憮然とそういう。
しかし後ろにいるお袋が睨んでいることに気がつき、
『すみませんでした、申し訳ございませんでした!アーリィ=タイムズ保安官候補殿!以後、言動には注意をします!』
『有無、宜しい!次言ったら公務執行妨害で逮捕だからね?』
アーリィはいたずらっぽく笑った。
『そうだ!じゃあ今日はアーリィちゃんの保安官候補就任のお祝いしましょ?』
『良いんですか!?』
『ずっとワイルドと仲良くしてくれているアーリィちゃんのためだもの。ジミーさんには私から伝えておくわ』
『ありがとうございます、おばさん!』
『なら前は急げね。ワイルド、お母さんは飲み物の用意するから食事の支度宜しくね』
『結局、俺かよ……』
黒髪の青年はボソリとつぶやくが、またしてもお袋の鋭い視線を感じて背筋を伸ばす。
『は、はい只今ぁ!』
『ワッドーあたしも手伝うよ!実はこの間パンの焼き方勉強したからさぁ!』
黒髪の青年とアーリィはバーカウンターへ向かってゆく。
そんな二人の様子見てお袋は目を細め、幸せそうに微笑んでいた。
……
……
……
『ローゼズちゃん、昨日はよく眠れた?』
御袋がそう問いかけると、赤目赤髪のローゼズはパンを飲み込み、顔を上げた。
『うん。凄くふかふか。気持ちかった』
『そうかいそうかい。それは良かった。なんなら暫くの間ここにいても良いんだよ?こうして今日も無事に朝ごはんが食べられるのはローゼズちゃんのおかげなんだから』
『んー……』
しかし当のローゼズは何か考えているのか首をゆらりゆらりと左右へ振った。
暫くして首をフルフルと短く横へ振る。
『嫌なのかい?』
『タダ、ダメ。ご飯大事。タダごはんダメ』
『別に遠慮することないのよ?』
『ダメ。昨日のベッド、今日のごはん、タダは嫌。わたし、何かしたい』
『そう……じゃあ後でワイルドと二人でコーンの採取に行ってもらおうかしら?』
『二人で!?』
突然声を上げたのは近くにいた黒髪の青年では無く無くアーリィだった。
この後のてんやわんやは記憶に新しい。
……
……
……
バー「ターキー」は真っ赤な炎に巻かれていた。
カウンターは炎に包まれ、窓ガラスは全て熱によって砕け散っている。
その中で一人、仰向けに倒れこむ人が見えた。
『お袋!なにやってんだよ!!おい!』
黒髪の青年が悲痛な叫びをあげる。
しかし炎の中でお袋はまるで寝ているかのように一人突っ伏していた。
お袋の周りには赤黒いシミが広がり、長い黒髪の先には火が燃え移っている。
『起きろよ!何そんなとこで寝てんだよ!早くしろよ!おいっ!おいってば!!』
だが、お袋はピクリとも反応を示さず、そればかりか炎に巻かれ始めた。
『そ、そんな……』
膝から力抜け、青年の身体は階段の踊り場に崩れ落ちた。
お袋の体が燃え、肉が焦げ始めている。
『どうして、こんな……なんで……』
黒髪の青年はその場で膝をつく。
この光景はもう二度と見たくはなかった。
だから俺は途中で画面から視線を外した。
……
……
……
コーンのものではない、鋭い破裂音が響いた。
ビーンズメーカーから放たれた一発の豆は何者にも邪魔をされず、まっすぐと、吸い込まれるようにマッカランの額を穿った。
『ッ!?こ、この私が…………!』
マッカランの額で破裂した豆は、目前に迫ったマッカランを押し戻す。
彼女は長い赤髪を散らしながら、弧を描くように宙を舞い、そして床に叩きつけられた。マッカランはそれっきり起き上がることはなかった。
『ありがとう、ローゼズ』
『どういたしまして、ワイルド』
俺とローゼズはそう言葉をかわし、マッカランへ歩み寄った。
……
……
……
激しい銃撃が止み、左腕をガントレット事破壊されたアードベックの体勢が崩れる。
『いまだ!ゴールドッ!』
『ゴォールドゥ!』
俺が叫ぶとゴールドは甲板を蹴った。
ゴールドは二刀一刃のレイピアを構え、アードベックへ突き進む。
『アードベック!覚悟ぉッ!』
『ッ!!』
アードベックは体勢を立て直すことができず、ただ闇夜に舞う黄金の騎士を見上げるのみ。
アードベックの眼前へ降り立ったゴールドはレイピアを華麗に薙いだ。
その動きは優雅で、しかし猛々しい。
アードベックは為す術も無く、ただゴールドのレイピアに切り裂かれる。
鋭いレイピアの軌跡が幾つもアードベックを刻まれる。
やがてゴールドはアードベックを過ぎりそして奴の背中へ立った。
『悪の栄えた試しはありません……成敗ッ!』
硬直するアードベック。
奴の胸にはレイピアで刻んだ【G】の文字が浮かんでいた。
『なん、だ、と……こんな……!』
アードベックの巨体から力が抜けるのがわかった。
奴は膝を付き、その場にうつ伏せにゴールドメダル号の甲板へ倒れ込むのだった。
……
……
……
『お前は一体……?』
画面に映ったブラックローゼズが顔に動揺を浮かべていた。
『うおぉぉぉぉっ!』
黒髪の青年はブラックローゼズの顎へ、アッパーを見舞う。
ブラックローゼズは吹き飛ぶが、空中で体勢を立て直し、着地する。
『うぜぇんだよ、てめぇ!』
ブラックローズは素早く黒い銃を抜き、ハンマーを撫でた。
奴の銃から機関銃のように弾丸が飛び出す。
すると黒髪の青年は無意識の内に右腕を翳した。
彼の右腕の皮膚が一瞬で黒色化し、まるでワニのウロコのように変化した。
彼へ進んでいた全ての弾丸が黒色化した皮膚に弾かれ、跳弾する。
『クロコダイルスキン!?どうしてお前がそれを!』
ブラックローゼズは接近し、黒髪の青年へ蹴りを向ける
。彼はそれを腕で払いのける。
……
……
……




