表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅣー【死】をもたらすために【破壊】をChapterⅢ:黒の真実
83/132

ChapterⅢ:黒の真実②


 絵の中には高質感のある室内が映し出された。

みたこともないような機器がひしめくそこは、知らない場所だけど、大方そこがどこかは判断が付く。

今のアンダルシアンには存在しない機器が多数存在するそこは明らかに【遺跡】の中だった。


映し出された【遺跡】の風景の中で長い白衣を来た人物が見えた。

背筋の曲がった人は奥の赤の液体で満たされている二本の大きなガラス管の前で何かをしていて、その隣では長い栗毛色をした髪を持つ白衣の女性が背を向けて立っている。

 俺の記憶の中にある髪色とはだいぶ違って明るい。

しかし俺はその背中になんとなしに懐かしさを覚える。


『レアドーもう始まっちゃってるよ?』


突然、絵の中からロングネックで出会ったビーンズメーカーの開発者であるジョニーさんの声が聞こえてきた。


『そうなの?』


聞こえてきた声を聞き、俺の胸が自然と高鳴った。


『その子の目が青く光ってる時ってもう録画ってのが始まってるんだってさ』


ジョニーさんの声が再び聞こえると、俺へずっと背を向けていた女性がこちらを振り返ってくる。

目線が一致し、俺は懐かしさのあまり目頭に熱いものを感じた。


 絵の中で振り返ってきたのは紛れもなく俺のお袋レアブリード=ターキーだった。

生前よりも少し若く見え、髪は明るい栗毛色で、瞳の色も俺の知っている黒ではなく淡い青色だった。

でも背格好、声の質、そして雰囲気から今目の前で目線が一致している彼女が、間違いなく俺のお袋だと言い切れる。


『先生、始まってるみたいですよ?』


お袋は背筋の曲がった白衣の男へそういう。

しかし男は無反応だった。

お袋はため息を突き、小走りで近づいて来た。

すると、お袋の前を何かが覆った。


『ちょっとライ!そこからどいて!』


少し怒ったようなお袋の声が聞こえる。

そしてまた懐かしい顔が映像に映った。

アッシュブラウンの髪を短く切りそろえた、細面で精悍な、だけどどこか人が良さそうな顔つき。

少しブラウンがかった瞳は、すごく綺麗で今でも俺の記憶に鮮明に残っている。

青色の襟は中央政府の軍人の証。

間違いなかった。

今、目の前に写っているのは俺が七歳の時に亡くなった親父:ライ=ターキー。


『おっ?そ、そうか、すまん……!』


親父の顔のアップが消え、再びお袋の姿を映る。

お袋は少し前髪を直し、白衣の襟を正す。

そして軽く咳払いをして、言葉を始めた。


『現在星暦2016年4月4日16:30です。私は中央政府遺跡調査団団長のボウモワ=ラーガン先生の第一助手レアブリード=プルーフです。私たちは今、アンダルシアン中央山系のスペサイド遺跡で発掘された銀兵士という機械を使ってこの映像を残しています。私たちは……あ、あれ?資料は……』


お袋と同じく少し若く見えるジョニーがぶっきらぼうにレアブリードへ資料を渡す。


『ありがとう!』

『全く……レアドは才女の癖に、こういうおっちゃこちょいは多いわよね?こないだなんて下着も着ずに来てたじゃない』

『ちょ、ちょっとジョニー!なんで今そのことを!?』

『記録に残して置こうと思ってねぇ。偉大な発掘者の一人は、実は物凄くおっちょこちょいな人だったと……その方がみんな親しみを持てるんじゃないかしら?』


ジョニーさんがいたずらっぽくそういうと、お袋は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


『もぅ、ジョニーの意地悪……』

『ジョニーさん、そこまでにしといてください。レアドが可愛そうです』


すかさず親父の声が入ってくる。


『はいは~い、レアドにゾッコンのライさーん』

『なっ!?ジョ、ジョニーさんどうしてそれを!?』


親父の声もまたひどく動揺していた。


『まぁ、恋愛は自由だけどさぁ、職場ではほどほどにねぇ~』


ニンマリ笑みを浮かべながらジョニーさんはお袋から離れていった。

相変わらずお袋は頬を真っ赤に染めたまま、少しモジモジしている。


『ほらレアド、記録記録!』

『あっ、うん!』


親父の声に促され、お袋は顔を上げた少し深呼吸をすると、元の冷静なお袋に戻る。

お袋はジョニーさんに渡された資料へ視線を落とした。


『去ること星暦2015年12月31日、私たちボウモワ遺跡調査団は万応じてアンダルシアン中央山系の奥深くにあると言われていた【遺跡】の一つ【スペサイド】の発掘に成功しました。

 ここは銀兵士というテラフォーミング初期時代の大規模戦争で使われていた道具が多数発見されました。ただし銀兵士がこうして映像を記録できること以外はまだよくわかっていません。しかし銀兵士の謎を解く鍵は、今私の後ろにある二本の巨大な試験管とその中身が握っていると思われます』


 お袋は立ち上がって、こっちへ近づいてきた。

お袋の胸元が画面いっぱいに映り込む。

何をしているのかよくわからないが、目の前の映像が僅かに揺れている。


『何してるんだ?』


再び親父の声が聞こえた。


『ごめんライ、手伝って!』

『これを持ち上げれば良いのか?』

『うん!じゃあ、行くよ……せーのッ!』


画面が少し上へあがる。


『さっすが軍人!力あるね!』

『結構重いな、これ。この後は?』

『ボウモワ先生のところまで!』

『了解した』


靴音と衣擦れの音が聞こえ始め、映像が次第に背を丸めた白衣の老人へ近づいてゆく。

画面には右腕が生身である以外は今と少しも変わらないプラチナローゼズ三銃士の一人ボウモワ=ラーガンが映った。


映像はボウモワから、奴が夢中になって向かっている赤い液体に満たされた隣り合う二本の巨大なガラス管へ移った。

左のガラス管には銀髪の、そして右のガラス管には黒髪のまるで子供のように小さな人が浮かんでいる。


『この中にいる存在はこのスペイサイド遺跡の制御に関する何かしらの意図があるものだとわかっています。向かって左側【白】プラチナローゼズ、右側の試験管にいるのが【黒】ブラックローゼズと呼称されていたことはわかっています。でも今の段階ではそれ以上わかってはいません。ですよね、先生?』

『イヒヒヒ。丁度今、新しい発見をしたぞい』


相変わらず不快なボウモワの笑い声が聞こえた。

画面は試験からボウモワへ移る。

ボウモワはこちらを振り返ることなく、試験管の前にある端末へ夢中で向かっている。


『どうやら製造番号はブラックの方が先のようじゃな。遺伝子的にこの二つはほぼ同じ。この二つは兄妹で、ブラックの方が兄といえるのぉ』

『なんでそんな設定をしたんでしょうね?』


お袋がボウモワへ疑問をぶつけた。


『ブラックは完全な戦闘向けじゃ。おそらく【黒】は【白】を守るために作られたんじゃろう。ほれ、兄が妹を守りたいと思うような庇護欲的なものじゃ』


『庇護欲ですか。なんで守備に感情を絡ませるんでしょうか?感情は不安定なものだと私は思います。だったら機械に任せれば効率的じゃないでしょうか?』


『所詮機械は命令通りにしか動かん。少しでも命令を間違えば、バカみたいな間違いを平気で犯す。確かに人間の感情もその不安定さから、誤った判断をすることはある。しかし逆に感情があるからこそ、命令もなしに自己で判断し、適切な行動を取ることができるとわしは思うのじゃよ。存外、何かを守る場合は機械よりも人間自身で行ったほうが効率的に行えるとわしは考えるがのぉ』


『そうですか。でもなんなんでしょうね、このプラチナローゼズっていう人造生命体は……?』


『今はわからん。しかしいずれわしはこの人造生命体プラチナローゼズの謎を解き明かすぞい。その時こそこのスペイサイド遺跡がなんの目的で建造されたのか分かるのじゃ!』


ボウモワの言葉を最後に画面は灰色の砂嵐のような画面へ切り替わった。


……

……

……



 映像がまた写った。

さっきまで映っていた【スペサイド遺跡】の内部だった。

しかし、遺跡の内部は赤い光が明滅を繰り返している。

警報が鳴り響き、避難を促す人工的な音声が繰り返し流されている。


その時、画面の中に移る赤い液体で満たされた二本のガラス管が爆発した。

ガラス管から赤い液体が勢いよく吹き出し、遺跡の床を真っ赤に染める。

煙が捌け、砕けたガラス管の中には全裸の黒髪の子供が倒れ込んでいる。

隣にあるガラス管は無傷で、その中には相変わらず銀髪の子供が浮かんでいた。

画面の端から慌てた様子で走るお袋と親父の背中が入ってきた、お袋はすぐさまが黒髪の子供を抱き起こす。


 親父の横顔は無傷のガラス管を見上げながら、苦々しい表情をしていた。

親父はホルスターからスコフィールド型の銃を抜き、迷わず無傷のガラス管へ鉛弾を撃ち込む。

しかし、ガラス管は依然無傷だった。


『レアド、ライさん!時間がないわ!【白】は放棄しましょう!巻き込まれるわ!!』


どこからともなくジョニーさんの怒鳴るような声が響き渡る。

お袋と親父は銀髪の子供が浮かぶ無傷の試験管を悔しそうに見上げる。

やがてお袋と親父は黒髪の子供を抱き抱え、画面の外へと走り去っていった。

画面はそこで途切れた。


……

……

……


 映像が映った。

粗末な家具しか置かれていない質素な家の中が見える。

そこのベッドの上で眠りに付く黒髪の子供。

横には黒髪の子供の手をしっかりと握り、背中を丸めるお袋。

そんなお袋を壁に寄りかかって見つめているジョニーさんの姿があった。

どうやら天井から部屋の様子を映しているらしい。

ベッドの左側に仄かに光が差し、親父が姿を見せ、お袋の背中へ近づいてゆく。


『どうだった?』


ジョニーさんが背中を預けていた壁から離れ親父へ問いかける。

親父は途中で立ち止まると首を横へ降った。


『既にボウモワと【白】姿は遺跡に無かったよ』

『そう……失敗したのね、私たち……』


ジョニーさんは頭を抱え、そして力の限り拳で壁を叩いた。


『私はなんてモノに……とんでもないモノに手を出してしまったの……このままじゃいずれアンダルシアンは……』


肩を震わせるジョニーさん。

そんなジョニーさんの肩を親父は叩く。


『すまない、俺がいながらこんなことになるなんて……』

『いいえ、謝るのは私たちの方よ。だってライさんや第三作戦隊のみんなは……』

『良いんだ、アイツ等も俺も自分で選んだことだ。後悔は無いよ。ただボウモワを俺の手で追えなくなるのは残念だがな……』

『本当にごめんなさい……』

『でも安心してくれ。後のことは副隊長にお願いするつもりだ。アイツは優秀な、俺の自慢の部下だ。アイツならきっとボウモワの行方を突き止めてくれる筈だ。きっとな……』


静寂が訪れる。

やがてジョニーさんはゆらりと背筋を伸ばし、白衣の中へ手を伸ばした。

彼女が取り出したのは一丁の銃。

それを手にしベッドで眠りについている黒髪の子どもへ歩み寄ってゆく。


『ジョニー、何を!?』


ジョニーさんは銃口を黒髪の子どもへ突きつけ、お袋が慌てた様子で立ち上がる。


『念のためよ。【黒】は【白】の防衛システム。【白】が外へ解き放たれた以上、【黒】もいずれ驚異になりかねない。だから……』


ジョニーさんは銃のハンマーへ指をかける。

しかしジョニーさんの銃へお袋が飛びついた。


『やめて!【黒】に……この子にはなんの罪もないのよ!?』

『レアド、あんた……』

『確かに【黒】は【白】と同じくデータ上じゃ危険な存在よ?でもね、この子前に語りかけたとき言ってくれたの……私のことを「お母さん」って!「いつもありがとう」って、「お仕事頑張ってね!」って!!この子には優しさがあるの!システム的な【白】とは違う、人間としての心があるのよ!?だから私は……』


お袋はジョニーさんから離れて、ベッドの上で眠る【黒】へかがみ込んで、頭をそっと撫でた。


『この子は私が責任を持って育てるわ』

『ッ!? レアドあんた正気!?バッカじゃないの!?そいつは化物なのよ!?そんなものを育てるだなんて正気じゃないわ!!』

『ジョニー、私は正気よ。この子は私の子供……絶対に【白】のところになんて行かせないし、渡したりしない……』

『俺も、なんだ、その……』


ずっと黙っていた親父が言葉を発した。


『俺もレアドに賛成する。例えどんな存在であっても子供へ手をかけることは許せない』


親父はお袋に寄り添い、肩を抱く。

するとジョニーさんは銃口を下げた。


『あーあ、やんなっちゃうわ。こんな状況でも見せ付けられるだなんて。さすがバカップルね!』


ジョニーさんの声色には、それまであった緊迫感が抜けていた。

ジョニーさんは白衣の懐へ銃をしまう。


『まぁ確かに、【黒】は【白】に奪われない限り危険性は皆無に等しいわ。それはデータ検証担当の私が保証する。まぁでも、念の為に【白】と物理的な距離を置くことと力を覚醒させないようなるべく穏やかな生活をさせる必要はあるわね。その子を育てるんだったらどこか遠く……そうね、西海岸のそれこそド辺境のド田舎町辺りが穏やかで良いんじゃないかしら?』


『ジョニー……ありがとう』


お袋はジョニーさんへ深々と頭を下げた。


『決めたからにはしっかりと【黒】……じゃないわね、あんた達の子供をしっかり守ってやんなさいよ!それはアンダルシアンの未来のためでもあるんだからね!』


そういってジョニーさんは笑う。

お袋と親父も互いに見つめ合い微笑みを浮かべる。


『じゃあ、まずは名前を決めてあげないとね。この子はもう【黒】じゃない、私たちターキー家の子供……』


お袋はそっと黒髪の子供の髪をそっと撫でた。


『ワイルドはどうだ?』


親父がお袋へそう言った。


『ワイルド?』

『この子は凄く優しそうな顔をしている。その優しさは失わず、でも強く逞しく育って欲しい……俺はそう思うがどうだろう?』

『ワイルド……ワイルド=ターキー……貴方にしてはセンスあるわね?』

『茶化すなよ、俺は真剣なんだぞ?』

『わかってるよ。ワイルド、か……いい名前ね』

『あーあ、見せつけちゃってぇ!こっちも誰かと結婚したくなっちゃうじゃないの』


ジョニーさんは軽い口調でそう言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ