表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅣー【死】をもたらすために【破壊】をChapterⅡ:プラチナローゼズ
80/132

ChapterⅡ:プラチナローゼズ③

「ワッドー入るよー!」


俺がベッドの上でビーンズメーカーの整備を行っているとき、アーリィが部屋へ入ってきた。


「なんか用かよ」


俺はビーンズメーカーから視線を上げずに答える。

なんだかアーリィの目を見てしまえば、俺の抱えていることを見透かされてしまうような、そして俺からコイツが離れて行っちまうんじゃないか。

そんなことを漠然と考えた末の行動だった。


「も、もしかして忙しかった?」


「まぁな。見ての通りビーンズメーカーの整備中だ」


といっても、最後の工程の表面のクロス掛けだけだが。


「でも、もう終わりだよね?」

「……」


やっぱり見透かされていると感じた俺は、


「だからなんだよ!用があるならさっさと言えよ!」


と、怒鳴って、しまったと思う。

やり場のない生の感情を、遠慮なしにアーリィへぶつけてしまったことに後悔する。

恐る恐る視線をあげてみると、そこにはいつもと変わらない表情をしたアーリィがいた。

俺は内心ホッと胸をなで下ろす。


「すまねぇ、急に怒鳴って……」

「ううん。集中してるところに話しかけたあたしが悪かったよ。ごめんね」

「いや、良い。で、どうした?」

「あのさ……ちょっと買い物に付き合ってくれないかな?」


アーリィは慎重そうな声で聞く。


「買い物?」

「うん。ちょっと食料が足りなくってきてさ……この際だからたくさん買っておこうと思って。荷物が沢山になるからワッドに手伝って欲しいなって」

「どうして俺が?他のみんなは?」

「なんか出かけちゃったみたい。アインザックウォルフ商会のことでなんだか慌てた様子でジムさんも出て行っちゃったし……このままだと明日ローゼズのパンも焼けないんだよね」


ローゼズの名前を聞いて、独りでに体が勝手に反応してしまう。

不意に寂しそうにハミルトンの墓の前に座るローゼズの小さな背中が頭の中に浮かんだ。


「っと、いう訳で一緒に来て!」

「お、おい!?」


俺はアーリィに手を取られ、ベッドから無理やり下ろされた。


―――まぁ、良いローゼズのためだ。


俺は大人しくビーンズメーカーをホルスターに収め、靴を履くとアーリィに手を引かれるまま部屋を出るのだった。



●●●



 俺とアーリィはそれぞれの馬に跨り、ヒースへ続く森の道を進んでゆく。

昼下がりの東海岸の太陽は燦々と陽の光を放ち、周囲を明るく彩っている。


「なんかさ、こうして二人で馬乗っていると子供の頃を思い出すよね!」


ふと、隣で馬に跨っているアーリィがそう言った。


「昔のこと?」

「ほら、ちっさい頃良く二人でビリーおじさんの牧場に忍び込んでポニー乗り回したじゃん」

「ああ、そういえばそんなことあったなぁ」


 俺が五歳の頃、ターキー家は西海岸の外れにあるモルトタウンに移住した。

あとで聞いた話だと、軍人だったオヤジは軍を辞めて、バーをお袋と経営するのが夢だったようで、そのために格安で店が開店できるモルトタウンへの移住を決めたそうだ。

まぁ、その肝心な親父は店が開店して早々、仕入れの道中で無法者に襲われて死んじまい、結局はお袋が店を一人で切り盛りすることになったんだが……まぁ、そんな訳でアーリィとはその時からの付き合い。


最初アーリィと出会ったとき、コイツのことを男だと勘違いしてたのは少し恥ずかしい思い出だ。

気が付けば十数年、なんだかんだで俺とアーリィは今も一緒にいることが多い。


「あん時はアーリィがのろまだったから良く捕まってビリーおじさんにこっぴどく叱られたよな」

「えー違うよ!ワッドがへたくそだったから良く捕まったんじゃん!」


アーリィは頬を膨らませながらいう。


「や、そんな筈はない。アーリィが馬にやたら拍車をかけて操れなくなって、俺に助けを求めてたじゃん」

「ワッドこそ、馬の止め方がわかんなくて良く「助けてぇ~アーリィ~!」って叫んでたよ?」

「俺が、お前に?まさか!んなことあるかよ!逆だろうが!」

「いいや!確かにワッドはあたしに助けを求めてました!記憶を勝手に改ざんしないでくれる?」

「それはこっちのセリフだっつーの!お前こそ、自分の汚点を勝手に俺の汚点みたいに言うんじゃねぇ!」

「なによ人聞きが悪い!だから、記憶違いをしているのはワッドの方だって!」

「違うっつってんだろ!?」

「いいえ、ち・が・い・ま・せ・ん!」


俺たちは互いに睨み合い視線を交差させる。

すると突然アーリィがニヤリと笑みを浮かべた。


「じゃあこうしよう!過去のことはとりあえず水に流して、今で判断しよ?」

「今って?」

「今はどっちが馬を上手く扱えるようになってるかってこと!」


アーリィは轡を揺らし、馬へ拍車をかける。

アーリィを乗せた馬は一気に走り出す。


「どっちが早くヒースに着くか競争だよぉー!」


先行するアーリィが叫ぶ。


―――おもしれぇ、勝負に乗ってやらぁ!


「負けてもガタガタ言うんじゃねぇぞぉー!」


俺は自分の馬へ拍車を掛け、走らせ始めるのだった。


……

……

……


「ふっふ~ん!ワッド、随分遅かったね?どうしたのかな?」


ドヤ顔のアーリィ。

ムチャチャクチャ腹立たしい顔をしているけど、なにもいう事のできない俺がいた。


「はいはい、わぁった!わぁった!俺の負け!申し訳ございませんでした!」


もう破れかぶれ、俺は思いっきりアーリィへ頭を下げる。

結局、ヒースまでの馬の競争はアーリィの圧倒的な勝利で終わっていた。


「まっ、これでもあたしは保安官候補ですから!追々はこの子達をかっ飛ばして悪党をとっ捕まえるのが仕事だからね。そんじょそこらの人とは馬に触れ合ってる時間が違うのよ、時間が!」


完全にアーリィの奴は調子に乗ってる。

いつもなら、なんか言い返すところだけど、負けは負け。

ここで言い訳でもしたら、それこそ情けない。


「っというわけで、負けたワッドには罰受けてもらうからねぇ~」

「はぁ!?んなこと聞いてねぇぞ!」

「だって言ってないもん。今思いついた!」

「お前なぁ……」

「今日の買い物のぜ~んぶの荷物持ちはワッドの仕事ね!」

「マジ?」

「まさか大の男が勝負に負けた上に、「荷物なんて重たいもの持ちたくありませぇ~ん」なぁ~んて情けないこと言わないよね?」


「グッ……」


グゥの音は出たけど、それ以上の言葉は湧いてこない。


―――もうこうなりゃヤケだ!


「あーわかった、わかった分かりましたよ馬の扱いがお上手なアーリィ=タイムズ保安官候補殿!不肖、敗者の馬の扱いが下手くそな俺ワイルド=ターキーは今日一日保安官候補殿の荷物係を喜んで引き受けさせて頂きます!」

「ふっふ~ん、よろしい!では行くぞよ、ワッド君!付いてきたまえ!」


ニコニコ顔でアーリィは、馬からいつもの車輪付き木箱を下ろし、それを引きずりながらヒースへ踏み込んでゆく。


―――木箱を踏んづけて、久々に「あべし!」をやらせてみようか?


でも今それをしたら怒る。

ものすごく怒るだろうし、んなことしたら男のプライドが許さない。


「あべしッ!」


そんなことを思っていた手前、アーリィは一人で勝手にずっこけていた。


―――神様ナイス!


ひっそり、心の中でガッツポーズを取る俺だった。


……

……

……


「とりあえずこれでよしっと……」

「結構あるな」


俺の両手は既に目一杯食料が入った袋が握られていた。

肉に野菜、なんてたって一番重いのはやっぱり小麦粉だ。

まぁ、でも仕方ない。


―――これがなきゃパン焼けないもんな。


っと、気が付くとアーリィの姿が目の前から忽然と消えている。


「ワッドー!こっちー!まだ買い物するよー!」


雑踏の中からアーリィが大声で呼んでいる。


―――まだなんか買うのかよ……


しかし負け犬の俺は逆らうことなく、重い買い物袋を手にアーリィの元へと急いだ。


 大勢の買い物客で賑わうヒースの街を俺とアーリィは巡ってゆく。

特に、この間の開拓祭でメインストリートとなっていた大通りは一際大勢の買い物客で賑わっていた。

石造りの立派な道路の左右には、白壁の建物が道の向こうまでずっと続いている。

通りの手前だけをみても、ブティック、雑貨屋、銃砲店など様々な商店が軒を連ねていて、ここならば丸一日ウィンドゥショッピングで潰せると思う。

するとアーリィは一人で勝手に、手前のカジュアルな服屋へ入ってゆく。


―――長くなりそうだな……


俺は渋々、アーリィへ続いた。


……

……

……


「やぁ~買った買ったぁ~!じゃあ次行くよー!」


俺の両手には更に四つの袋が追加されていた。

しかしアーリィの買い物は止まらない。


「すみませーん!これとこれを5つくださーい!」


雑貨屋でアーリィはコーヒーメーカーとステンレス製のカップを五つ、雑貨屋のおじさんに注文する。


「コーヒーメーカーあるよな?」

「ハーパーの別荘にはね。でもほら買っておけば旅の途中でみんなで飲めるじゃん。カップもステン製だったらなにかと使えるだろうし」

「なるほど。確かに」


―――ちゃんと考えはあるみたいだな。買い物袋プラス2つ。


「わー!ねぇねぇ、ワッド!どっちが可愛いと思う?」


二件目の服屋でアーリィはピンクと青の随分フリフリしたパジャマを俺へ見せる。


「どっちでも良いんじゃね?パジャマなんて着るのか?」

「着るよ!ってか、着てるもん!普段は動きやすいように保安官ルックばっかだからせめて寝る時位はおしゃれしたいなって!」


―――まぁ、確かにアーリィも一応年頃の女だ。

そういうのも興味があるのは当然か。


「うーん、どっちにしようかなぁ……」


アーリィは未だに色違いのパジャマを見比べて唸っている。


「早くしろよ」

「よし!両方買う!」

「マジ?」

「うんマジ!だってワッドが選んでくれないんだもん」

「俺のせいかよ?」

「そっ。ぴしっと一発で選んでくれりゃ、二着買う必要も無かったのにねぇ~すみませーん……!」


アーリィはパジャマを持って会計へ走る。

っというか、ただ単に二着欲しかっただけじゃ?

女の考えていることは良くわからん。

買い物袋更にプラス2つ。


「おおーこれはこれは……」


今度は銃砲店を訪れたアーリィは銀色のリボルバータイプの銃を手に取って見て、関心そうに唸っていた。

俺やローゼズが使うリボルバーよりも、今アーリィが手にしているのは少し大きく感じる。


「そいつはマグナム弾が撃てるタイプだよ」


店の奥から店主のおじさんがアーリィへ声をかけてきた。


「へぇ!やっぱそうでしたか」

「でもソレは華奢なお嬢ちゃんにはダメだよ。なんてったってマグナムは反動が……」


おじさんのことを放置して、アーリィはいつもの木箱からひょいっとガトリングを取り出す。

すると店のおじさんが眼を見開いた。


「お、お嬢ちゃんそれは!?」

「これですか?あたしのメインアームですけど?」

「ッ!!」

「質感も一緒かぁ……組み合わせは良いかも……」


アーリィは手にしたガトリングとマグナムを交合に見てそういう。

するとおじさんがそっと俺へ耳打ちをしてきた。


「お前さんの彼女、くれぐれも怒らせないようにな」

「あはは、まぁすでにいつもやられてますけどね。ちなみに俺の女じゃ無いんで」


俺は苦笑気味に答えるのだった。

結果、アーリィはマグナム、ホルスター、スピードローダーに追加弾薬をお買い上げ。

袋はなんとプラス四つ!

でもアーリィの買い物は未だ終わりじゃなかった。


雑貨屋では更に二つ、違う服屋で三つ、終いにはまた違う銃砲店で四つ、おまけに屋台のケバブ屋でひと袋、俺の両手へは次々と袋が追加されていった。


「う、ぐっ……」


流石に辛くなってきた。

男のプライドがあるとしても、この両手で持つには無理な物量だ。


―――少しは引きずってる木箱に入れてくれれば……


「ワッドー!ちょっと休憩しよー!」


っと、そこでアーリィ=タイムズ保安官候補殿よりお許しの声。

アーリィは少し先にある噴水広場のベンチに座っていた。

早く、この荷物持ち拷問から解放されたい俺は可能な限りダッシュしてベンチへ向かう。


「たはぁ~疲れた……」


俺はベンチに座り、両手は大荷物に重量からようやく解放した。

手ぶらとはこんなにも快適で、気持ちが良いものなんだと感じる。


―――これからはでかけるときはできるだけ手ぶらを意識しよう。


なんて変なことを考えてしまう俺。

そして気が緩むのと同時に、結構歩き回ったためか腹がぐぅっと鳴った。


「はい、お疲れ様」


すると、隣に座っていたアーリィがさっき屋台で買ったケバブを俺へ差し出していた。


「おっ、サンキュー!」


俺はアーリィからケバブを受け取って一気に頬張る。

ジュワッと肉汁が溢れ出て、シャキっとした刻みキャベツの優しい甘味が口の中へ一杯に広がる。

なんの変哲もないケバブだけど、今日はやけに美味しく感じる。

思わず俺から笑顔が溢れでた。


「ようやく笑ってくれたね」

「えっ?」

「ここ一週間、ワッドずっと暗い顔してたから……だからちょっと心配で……」


どうやらいつも通り、アーリィには色々気づかれていたようだった。

そしてここにきてようやく、自分自身の気持ちが以前のように軽くなっていることに気が付く。


―――きっとアーリィは俺に気分転換をさせるためにヒースへの買い物へ誘ったんだ。


そしてこうして気を使ってくれたアーリィにありがたみを覚えるのと同時に申し訳なさを感じる俺が居た。


「気を使わせて悪かったな」

「ううん、良いんだよ。好きでやったことだし」

「ありがとう。いつも助かるよ」

「どういたしまして。まっ、あたしも目一杯買い物できたからねぇ~」


俺とアーリィはベンチの上に二人並んでケバブを口にする。


ふと、見えた幼馴染の横顔。

もう十何年も一緒に居て、今の俺の側にいて支えてくれるアーリィ=タイムズという存在。

今更珍しくもなんともないはずなのに、何故か俺の視線はアーリィの横顔に釘付けとなった。


「どしたの?」

「あ、いや!」


思わず俺はアーリィから視線を逸らす。

何故か胸の奥が少しざわついて、心臓の鼓動が早まる。


―――なんだこれ……?


アーリィはいつもと変わらない。

しかし、何故か俺の中にアーリィに対する認識が、いつもとは少し違ったように思えてならない。

これをどう言葉にしたら良いかわからない。

でも、確実に何かが変わっているように思う。

しかしはっきりとはしない。

自分のことなのに訳がわからない俺がいる。


「キャァァァァァッ!!」


突然、雑踏の中から悲鳴が聞こえてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ