ChapterⅡ:プラチナローゼズ①
【VolumeⅣー【死】をもたらすために【破壊】をChapterⅡ:プラチナローゼズ】
窓の外では麗らかな陽光を浴びて、白い砂浜が宝石のようなきらめきを放っていた。
海岸へ打ち寄せる波も今日は比較的穏やかで、心地よい漣の音が響き渡っている。
アインザックウォルフの別荘は本当に良いところに建てられていると思うし、普通の状況ならこの後、みんなで海にでも行こうか、なんて話になりそうだと思う。
だけど、リビングで朝食を囲む俺たちにはそんな会話は全くない。
誰も話さないまま静かに食事を続け、そして終えたのだった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様です」
食べ終えた俺がそういうと、音もなくアインザックウォルフの執事のバーンハイムさんが食器を片づけてくれた。少し遅れてアーリィ、ハーパー、ジムさんも食事を終え、バーンハイムさんは手早く食器をまとめ、流し台へと向かう。
「みんな食欲は戻ったみたいね。体調の心配はもうなさそうね」
一足先に朝食を終え、流し台の前にあるカウンターで一人コーヒーを飲んでいたジョニーさんがそう云った。
「いえ、この一週間ジョニーさんが私たちの体調管理をしてくださったおかげです。本当にありがとうございました」
ハーパーがそう礼を言うと、ジョニーさんは、
「良いのよ、そんなにかしこまらなくても。私は年中暇人だしね。特にあんた達のためだもの、私で役立てることがあるならいつでもどこでも迅速に駆けつけるわ!」
「ありがとうございます」
「でも早急だったとはいえ、バーンハイムが鬼みたいな形相で研究所に飛び込んできた時はびっくりしたわねぇ。車の運転だってむちゃくちゃ荒かったし、たぶん私はあんとき2、3回死んでたわ」
「その節は大変ご迷惑をおかけいたしました。何分、当主様やワイルド様が大変なお怪我を追っていらっしゃったもので……まだ私も精神修養が足りないようです。以後、注意いたします」
バーンハイムさんは涼やかで丁寧に頭を下げた。
「もしハーたんが誰かに誘拐されでもしたら、バーンハイムは一体どうなるんですかねぇ?」
ジムさんはにやりとした笑みを浮かべた。
「きっと彼のことだから、そいつは生きて帰れないでしょうねぇ。ハーパー、犯人さんのためよ?絶対に誘拐なんてされちゃダメだからね?」
ジョニーさんは驚けた調子でそういうと、
「私はそんな誘拐されるような歳じゃありません!」
「でもハーたん時々まだまだお子ちゃまなところがありますですからねぇ。こないだなんてケバブを手で食べられなかったのでぇす」
「ほんと、この箱入りお嬢様は……」
「し、仕方ないじゃないですか!当家ではは手づかみで食べるような料理など幼い頃から出てきたことがありませんし、その……!」
すっかりジムさんとジョニーさんにしてやられているハーパー。
ジムさんを起点にさっきまで重苦しい雰囲気だったリビングが軽やかで和やかな空気に変わっている。
でも、その中にローゼズの姿は無い。
「そろそろ行ってくる」
俺はおもむろに席から立ち上がった。
「では私も!」
ハーパーも元気よく席から立つ。
「ハーたんはここにいた方が良いですよ?」
ジムさんはそっとハーパーの手を取り、静かにそう言った。
「しかし!」
「大丈夫、ワイルドがなんとかするです。それに大勢で押しかけたらそれこそ逆効果だと思うのです」
「ですが……私は……」
「気持ちはわかるです。私もできればワイルドと一緒に行ってロゼたんとお話したいです。でも今はワイルドに任せるです。私たちは待とうです?」
ジムさんは優しくそう諭す。
ハーパーは肩を落とし、静かに席へ戻った。
俺はジムさんへ目線で礼を言う。ジムさんは小さく頷き返してくれた。
「ワッド、これ……」
隣に居たアーリィがバスケットを差し出してくれた。
バスケットはほのかに暖かく、香ばしいバターの匂いが微かに香っている。
「今日はローゼズが大好きなミックスナッツと牛乳も入れといたから」
「ありがとう。それじゃあ行ってくる」
俺は皆の視線を一身に浴びながら、バスケットを持って別荘を出た。




