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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅢーハミルトン=バカルディChapterⅤ:赤の決闘
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ChapterⅤ:赤の決闘⑤

 


 突然、ハミルトンの背後に黒い影が舞い降りた。

背中まである長い黒髪をなびかせ、黒のテンガロンハットとポンチョを身にまとった少女。

彼女が腰に巻いている黒のガンベルトの横では漆黒のシングルアクション式のリボルバーが鈍い輝きを放っている。

まるで全てを黒に染め上げたローゼズ。

そんな風貌の少女が背後からハミルトンを拘束していた。


「あ、貴方は!?」


ハミルトンもまた突然現れた黒い少女に驚きを隠せないでいる。

ハミルトンは懸命に黒衣の少女から逃れようと身体をひねっているが、少女の拘束は解けない。


「ははっ!すぐに終わるから大人しくしててよタリスカー。いや、今の人格はハミルトンなのかな?」

「どうしてそれを!?」


「君のことだったら僕はなんでも知ってるよ、ハミルトン=バカルディ。スチルポットの出身で父は教会牧師のジョン=バカルディ。フォア・ローゼズに瀕死の重傷を負わされた君はゴールデンプロミスのマッカランに拾われ、紅兵士タリスカーとして西海岸で暴れまわっていた……まだ聞くかい?」


「お前何者!!」


ローゼズと俺は黒衣の少女へビーンズメーカーの銃口を向ける。

だが少女は銃口を突きつけられているにも関わらず一切動じない。


「僕はブラックローゼズ!世界を真っ黒に染めるもんだよ!よろしく!」


ブラックローゼズは不気味にも爽やかな笑顔を浮かべていた。


「君がフォア・ローゼズ!マッカランが四番目に拾って来た子で、当時唯一開発に成功した紅兵士!」

「お前、どうしてそれを!?」


「僕は君のことだったらなんでも知ってるさ!四番目の子だからフォア(4)そんな型番みたいな名前を未だ喜んで名乗ちゃってさぁ。君、少しオツムがおかしいんじゃないのかい?」


「黙るッ!わたしにこれ以外の名前は無い!これはみんなの中にあるわたしがわたしである形!わたしの大切な名前!馬鹿にするの許さない!」


「ははっ!まっ、そんな馬鹿だからここ数日平然とハミルトンと過ごせたんだね。友情ごっこは堪能できたかい?」

「お前ッ!」

「僕から言わせりゃよくもまぁ、そう平然とコイツ(ハミルトン)いたなって思うよ。もしかして自分の罪を忘れちゃったのかな?」

「ッ!」


ローゼズはビーンズメーカーのハンマーへ指を掛ける。

しかし俺はそれよりも早くハンマーを倒し、ブラックローゼズを睨んだ。

しかしブラックローゼズは俺の動きを瞬時に察知し、ハミルトンを俺の銃口の前へ向けた。


「おっと、そこまでだワイルド=ターキー!」

「くっ……お前……!」

「にしても君の見た目は気に食わないなぁ……君の黒髪、真っ黒な瞳、まるで僕と一緒じゃないか。黒は僕だけのもの。存在して良い黒は僕だけなんだけどね」

「生憎、これは生まれ付きなんでね。そういうわれても困るんだけどな!」

「ははっ!そうだけど、気にくわないものは気に食わないのさ。だから君は必ず殺すね。この世の中から抹消するね!」


軽快にそう語るブラックローゼズだったが、奴には一瞬の隙も無かった。

もしこの瞬間俺が引き金を引こうとすれば、奴は俺よりも早く銃で心臓を撃ち抜いてくる

そう思えて、俺はトリガーを引けずにいた。


「さぁて!おしゃべりはここまで!じゃあ、ハミルトン=バカルディ、始めようか!」


ブラックローゼズは先端に針を持った鈍色の筒を取り出す。

それに俺は既視感を覚える。

ブラックローゼズが手にしていたのは注射針を持つ銀色の指、引きちぎられたボウモワの義手の中指だった。


「もう一回目覚めてよ、タリスカー!」

「あっ!!」


ブラックローゼズはハミルトンの首筋へ注射針を突き立てた。


「あっ……あっ……あっ……!」


ハミルトンの目が目まぐるしく動き、体が断続的にピクリピクリと震える。

やがてブラックローゼズは注射針を抜き、鈍色に光る指を投げ捨てた。

ブラックローゼズが拘束を解き、ハミルトンはその場へ糸の切れた操り人形のように座り込む。


「さぁて、タリスカー、まずは君がプラチナの力にちゃんとなれるかどうか見せてもらいましょうかね!」


ハミルトンはうなだれたまま落ちていたナイフを拾った。

1本のシースナイフを逆手に持ってゆっくりと立ち上がる。


「そうだいい子だ。じゃあテストだ!まずは同じ紅兵士のフォア・ローゼズを殺して!そして君が本当にプラチナの力になれるかどうか僕に証明して!」


ハミルトンは静かに歩き出す。


「止まれ、ハミルトン!止まるんだッ!」


しかし俺の言葉にハミルトンは一切反応せず、歩き続ける。


「ハ、ハミルトン……!」


ローゼズは顔へ再び動揺を浮かべ、たじろいでいる。


「チィ!」


俺は意を決してハミルトンへ向けビーンズメーカーを放った。

しかしハミルトンはナイフで俺の弾を弾く。

そして気づいたときにはもう彼女は俺の懐へ潜り込んでいた。


「ぐっ!?」


ハミルトンの拳が俺の腹を強く打つ。

その衝撃は俺をその場へ倒された。

ハミルトンは俺を無視して、ローゼズの方を向く。


「ハミルトン、止める……!」


ローゼズは必死に銃口をハミルトンへ向けようとしていたが、ビーンズメーカーを持っている手を上げられずにいる。


ハミルトンがシースナイフを振りかざし、刃が鋭い輝きを放つ。

刹那、シースナイフが振り落とされた。


「うっ、うぐ……げぽっ……」


ローゼズの顔へ真っ赤な血が吹きかかった。


「ハミルトン……?」


ハミルトンはシースナイフを自分の腹へ突き刺していた。


「ハミルトン!

「ち、近づかないでッ!!」


ハミルトンは口から血を吐きながら強く叫んだ。

ナイフのグリップを更に強く握り締め、刃をゆっくりと腹の奥まで沈めてゆく。


「あっ!うっ!ぐっ……はぁ……んんんっ!!!!」


ハミルトンは獣のように叫びながら突き刺したナイフで何度も、何度も、何度も、何度も、何度も腹を抉る。

腹から大量の血が、溢れ出るがハミルトンはナイフで抉る手を止めない。


「あああああッ!」


ハミルトンが勢い良く腹からナイフを引き抜く。

大量の血と、ズタズタに引き裂かれ、もはやどの部位かはわからない肉片が彼女の腹から飛び出していた。

ハミルトンの膝から力が抜けのがみえた。


「ハミルトンッ!!」


ローゼズは倒れるハミルトンを抱き止めた。


「あは……やっぱ、刃物で切るって痛いね……」


いつものハミルトンの声が聞こえてきた。

彼女は口元から真っ赤な血を流しながら弱々しい笑顔を浮かべていた。


「なんでハミルトンこんなこと……?」


ローゼズが恐る恐るそう聞くと、ハミルトンの顔から笑顔が消えた。


「……ごめんね、ローゼズ。私、思い出しちゃったんだ……貴方に対して抱いてた怒り、悲しみ、全部……今の私は確かにハミルトン=バカルディ。でももう、ローゼズの知る昔の私じゃない……ここにいるのは、そう、貴方を殺してやりたいと願う復讐鬼……」

「だったらわたしは殺されても良いッ!!」


ローゼズの瞳から涙がこぼれ落ちた。


「わたしは悪いことをした!たくさんしてきた!だから殺されてもしかたない!ハミルトンがそうしたいんだったら、そうして欲しい!」

「あは……できないよ……」


ハミルトンは力を振り絞ってローゼズへ手を伸ばす。

そしてローゼズのことをそっと抱きしめた。


「だってローゼズは私の家族だもん……家族を殺すことなんてできないもん……」

「……」

「矛盾してるよね……殺したい相手なのに、殺したくない……ううん、殺せない……。でも私から何もかもを奪ったローゼズが憎い。この手で殺したいほど憎い……」」


ハミルトンは顔を上げ、涙を懸命に堪えるローゼズの真っ赤な瞳を見つめた。


「こんな私だからさ……いつローゼズを殺しちゃうかわかんない……でもきっとそうしたら私はすごく後悔すると思う……家族はこの手にかけたくない……だから……」

「それでもわたしは良い!!」


ローゼズはハミルトンを強く抱きしめた。


「それでもわたしはハミルトンと一緒に居たい!ずっとずっと一緒に居たい!どうして!?なんでこんなことしたの!?ねぇ、ハミルトン!」

「あは……分かってよ、もう……」


ハミルトンはローゼズの後ろ髪を優しく撫でた。


「私はローゼズにこれからも生きていってほしいの。これまでずっと辛い思いをしてきたローゼズにはこれからたくさん幸せになって欲しいんだもん……だけど私が生きている限り、ローゼズは命の危険に晒される……だったら私は死にたい。家族を危険な目に合わせるのは私自身……だから私は私を殺すことにした……久々にローゼズと会って、たくさん楽しいことして、全部思い出した上で見つけた答えがこれだから……」


「ハミルトン……うっ、ひっく……ハミルトン……」

「ごめんね、またローゼズに寂しい思いをさせちゃうね……でも、大丈夫。今の貴方にはアーリィやジムさん、ハーパーにそしてワイルド君がいるじゃない……」

「やだぁ……やだよぉ……わたしはハミルトンがいないとやだぁ……!」


ローゼズは涙を流し続けながら、更にハミルトンを抱きしめる。


「もうやだぁ!ハミルトンがいなくなるのやだぁ!!」

「ローゼズ……」

「やだやだやだやだぁ!ハミルトンがいなきゃやだぁッ!」

「わがまま言わないの……」

「やだぁっ!!!」

「みんな、に宜しく……ね……それじゃあ……バイバイ、ローゼ……」


ハミルトンの腕がするりローゼズから離れて、テラロッサへ落ちた。


「ハミルトン……?」


ローゼズは胸の中のハミルトンを離す。


「起きる……!ねぇ、起きる!ハミルトン起きるッ!!」


何度もハミルトンの身体を揺すった。

何度も何度も揺すり、ハミルトンの名前を呼ぶ。

しかしハミルトンは笑顔のまま目を瞑ったまま、目を開けることはなかった。


「あは……あははは……あーっはっはっは!」


突然、ブラックローゼズが腹を抱えて笑いだした。

その不愉快な笑いに俺の怒りは一瞬で沸点へ到達する。


「笑うんじゃねぇ!」

「あは、あははは……だって、面白いじゃないか!」

「てめぇ……」

「なんなんだいアレは!まさか演劇以外でこんな面白い場面が見られるだなんて!最高だよ、最高!もうほんっとに最高ッ!あははははッ!」


―――真っ黒なアイツをぶっ飛ばしたい。


 ボウモワの時よりも激しい怒りが沸き起こり、頭と体が熱を帯びる。

だが突然、その熱がすっと引いてゆく、不思議な感覚を俺は得た。

怒りは胸の中にあるし、激しい炎のような感情は俺の中に確かに存在している。

だがその熱は俺を焼き尽くすことなく、静かに燃えていた。

そして目の前で笑いこける黒衣の少女が酷く哀れに映って見える。

まるでマッカランをそしてマスク・ザ・Gと対峙した時のような不思議な、優しいが物悲しい気持ち。


悲しみを分からない無い存在。

人の死を、死と受け取らず笑うことしかできない壊れた存在。

だがらこそ救わなければならない、救うのが俺の役目。

そして俺は飛んだ。恐ろしく体が軽かった。

頭はクリアで、俺の意識が注がれているのはブラックローゼズのみ。


「あ、えっ?」


ブラックローゼズが間抜けな顔をして俺を見上げていた。

俺は迷わずビーンズメーカーを抜いた。

指が自然とハンマーを撫で、まるでローゼズの銃撃のように俺は五発の弾を一気にブラックローゼズへ打ち込む。

すると、ブラックローゼズは右腕をかざしてみせた。

奴の皮膚が一瞬で黒色化し、まるでワニのウロコのように変化する。

俺の弾はすべて奴の腕に現れた黒いウロコに弾かれ跳弾する。


―――アレが何なのかは分からない。でも今は!


着地した俺は地を蹴った。

異常に軽く感じる俺の体は一瞬で、ブラックローゼズの懐へ潜り込む。


「お前は一体……?」

「うおぉぉぉぉっ!」


明らかな動揺を浮かべているブラックローゼズの顎へ、俺はアッパーを見舞った。

ブラックローゼズは吹き飛ぶが、空中で体勢を立て直し、着地する。


「うぜぇんだよ、てめぇ!」


 ブラックローズは素早く黒い銃を抜き、ハンマーを撫でた。

奴の銃から機関銃のように弾丸が飛び出す。


 俺は無意識の内に右腕を翳した。

すると、俺の右腕の皮膚が一瞬で黒色化し、まるでワニのウロコのように変化した。

俺へ進んでいた全ての弾丸が黒色化した皮膚に弾かれ、跳弾する。


「クロコダイルスキン!?どうしてお前がそれを!」


ブラックローゼズは接近し、俺へ蹴りを向ける。

意識をブラックローゼズへ集中させると、奴の動きが遅く見え始めた。

奴の蹴りの軌道を見切った俺は、腕で払い退ける

しかしブラックローゼズの蹴りの連続は止まらない。


「どうしてお前がクロコダイルスキンを使えるんだ!何故なんだ!?」


ブラックローゼズは明らかな動揺を見せ、訳のわからないことを口走りながら蹴りを続ける。


「あれは僕のものだ!僕だけのものだ!僕がプラチナに貰ったものなんだぁ!」


一瞬、ブラックローゼズの蹴りに大きな隙が見えた。

俺はその隙を見逃さず、ブラックローゼズの足首を取る。

俺は奴の足首を掴んだまま、腕を真横へ凪いだ。

ブラックローゼズがまるで人形のように軽々と吹き飛び、木の幹へ激しくぶつかる。


「こ、殺す……」


ブラックローゼズは立ち上がりながら呟く。

俺を見る奴の目は哀れな嫉妬と憎悪に染まっていた。


「殺す殺す殺す絶対にぶっ殺す!黒は僕だけのもの!黒で居て良いのは僕だけだぁぁぁぁぁッ!」


しかし、拳を構えたブラックローゼズははたりと動きを止めた。

奴は右耳へ手を当てる。


「……分かった、それがプラチナの意思なら……うん、うん……それじゃあまた後で……」


ブラックローゼズは右耳から手を外し、俺を鋭い眼差しで睨む。


「ワイルド=ターキー、覚えていろ!お前はいつか僕が殺す!この手でお前をズタズタに引き裂いてやる!!


ブラックローゼズは高く跳躍した。

その姿は背後の森に消え、それっきり奴が姿を見せることはなかった。


「……ッ!?」


突然、激しい疲労感が押し寄せ、俺はその場に倒れこむ。

今度は体がまるで鉄の塊になったかのように動かない。

霞む視界の中、ローゼズはハミルトンを抱きしめたまま動かずにいた。


「ロ、ローゼズ……!」


俺はローゼズへ手を伸ばすが、届くはずもない。

すると、霞む視界の中見覚えのある背中がローゼズとハミルトンへ駆け寄って行く。


「ロゼたん、これは……」

「ローゼズ!貴方は大丈夫なのですか!?」


―――ハーパーとジムさんか、あの二人がいれば大丈夫か……


誰かが俺を抱き起こす。


「ワッド!しっかりしてワッド!!」


―――なんだアーリィか……ボロボロだけど怪我は無さそうだな……


「何があったの!?ねぇ、ワッド!!」

「……」


アーリィの問いに答えたい気持ちはあった。

しかし体がそれを許してくれない。

次第にアーリィの声が遠のき、視界が霞んでゆく。

そして俺は静かに眠りに就くのだった。


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