ChapterⅣ:朝焼けの決断③
「ハミルトン、これ」
「わぁー美味しそう!これケバブってやつだよね?」
「すごく美味しい!食べる!」
「うん!いただきまーす……ってハーパーどうしたの?」
「あ、あの、ナイフとフォークはどこでしょうか?」
「なぁにここでもお嬢様ぶってるでぇすかぁ。こうガブッと行くです、ガブッと!」
「あ、あ、いや、そんなはしたない真似は……」
「はしたなくなんてないよ!ほら、ジムさんの言うとおりそのまま食べる食べる!」
「ちょ、ちょっとアーリィさん!?お肉が漏れて!?」
なんだかみんなは楽しそうだった。
笑顔が絶えない。
……
……
……
「姉さん!こちらをどうぞ!」
「あは!ありがとー!でも私のだけじゃなくてみんなのジュースも買ってきてね」
「へい!おいお前ら姉さんのご指示だ行くぞ!」
「「「「「うおっす!かしこまりましたハミルトンの姉さん!」」」」」
シーバス一家は近くでジュースを買い漁りに走った。
―――もうこいつら檻に入れるよりハミルトンの下にいた方がいいんじゃないか?
……
……
……
「おじさん、ハミルトンはやってないからただで良いでしょ?」
再び射的屋にやってきたローゼズはそういう。
「うげ!?は、はい~……」
店主は肩を落とした。
そんな店主の肩をローゼズは叩く。
「大丈夫。やるのはハミルトンだから」
「あは!私、射撃は苦手だから大丈夫ですよ!」
「わたしが教える。お菓子取ろう」
「うん!」
ハミルトンは店主から受け取ったおもちゃの銃を構え、ローゼズが手取り足取り指導している。
微笑ましい光景だった。
「ならばこの私も!」
っと、ハーパーが射的をやりだそうとしたところ、ジムさんが止める。
「少しは空気を読むです」
「そうだよハーパー!あたしたちはあっちで休んでよ?」
アーリィもまた苦笑いを浮かべながら別の提案をした。
「し、しかし!」
「アリたん、ハーたんを強制連行するでぇす!」
「アイアイマム!」
ジムさんとアーリィはハーパーの腕をがっしり掴んで引きずってゆく。
「わぁーん!ローゼズがぁ~!!」
ハーパーは涙目で訴えるが、それは届かない願いだった。
合掌。
「やった、落ちた!」
屋台ではお菓子を落としたハミルトンがガッツポーズを取っていた。
「その調子!次はあれ狙う!」
「うん!指導よろしくね!」
ハミルトンとローゼズは仲良さそうに射的を続けていた。
そんな二人の姿をみていて俺はあることを思う。
……
……
……
「わぁー綺麗……」
夜空に上がる色とりどりの花火を見て、ハミルトンは目を輝かせていた。
「うん、本当に綺麗……」
隣にいるローゼズもまた微笑んでいた。
祭を十分に楽しんだ俺たちは最後にヒースの街を見下ろせる丘まで登り、祭の締めの花火を見物していた。
アーリィも、ジムさんも、そしてハーパーも夜空へ次々打ちあがる色鮮やかな花火をうっとりした様子で眺めている。
だけど俺の意識は別の方向へ向かっていた。
俺の視線は自然と仲良く寄り添いながら、微笑み合って花火を見物しているローゼズとハミルトンへ注がれていた。
二人は幸せそうに花火を見上げ、笑顔を浮かべている。
ついこの間までこの二人が敵としてぶつかり合っていたなんて、今の様子から到底想像することもできない。
でも今のローゼズとハミルトンの間にはそんな諍い(いさかい)など存在しない。
互いを想い合って、ただ幸せそうに笑顔を浮かべているだけ。
―――ローゼズとハミルトンにはこれからもずっと二人で笑い合って、幸せでいてほしい。
それは祭を回っている時にふいに想った事だった。
二人は不幸にも紅兵士という、普通の人間ではない体にされてしまった。
でも、こうして普通に生活をしていれば、それは関係の無いこと。
今や、ハミルトンをタリスカーとして操るマッカランはいない。
だったら二人はこのまま、互いの過去を忘れ、ずっとこの街で幸せに暮らして行くのが良いんじゃないか?
俺はそう思う。
『その手を離すんじゃないぞ』
マッカランに面会したとき、奴は俺へそういった。
そしてその時は、そんなことをするものかとも思った。
―――でも今は少し違う。
俺たちはまだまだ戦わなければならない。
ローゼズやハミルトンのような不幸を生み出す【遺跡】をアンダルシアンから根絶やしにするまでは。
これからも【遺跡】を巡る戦いに、俺たちは身を投じてゆくことだろう。
その中できっとまたローゼズは、背負わされた罪の十字架に苦しめらることになるんだろう。
このまま一緒に旅を続ければ、ローゼズは苦しむばかり。
だからこそ俺と、俺たちと一緒にいるよりもローゼズとハミルトンは二人きりで居た方が幸せな筈だと思う。
―――それが良い。それが正しい。二人にためにも……でも……
何故か踏み切れない俺はいた。
選択は正しいと思っている。
でも、何かが俺を引きとめていた。
ローゼズと別れることこそ、彼女のためになること。
だけど心の中にある何かがか、その選択をさせまいとしている。
俺の心にブレーキをかける何か。
どうして踏み切れないのか。
俺にはわからなかった。




