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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅢーハミルトン=バカルディChapterⅣ:朝焼けの決断
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ChapterⅣ:朝焼けの決断②


「な、なんだ!?」


すると先にある路地からハミルトンが飛び出してきた。

ハミルトンの両手には二本のフライ返しが逆手に握られている。


「ハーたん!畳み掛けるです!」

「承知ッ!」


次いで現れたのはそれぞれ木の棒を剣のように持つジムさんとハーパー。

二人は息を合わせて木の棒でハミルトンへ殴りかかるが、


「あは!甘いぃ!」


ハミルトンは笑顔を浮かべながらフライ返しでジムさんとハーパーの攻撃を受け止めた。

するとジムさんとハーパーはすぐさまハミルトンから飛び退き距離を置いた。


「行くです、ハーたん!」

「ええ!先に仕掛けます!ゴォールドゥ!」


腰元に木の棒を指したハーパーが地を蹴る。


「はぁっ!」


ハーパーが至近距離で木の棒を抜き、ハミルトンへ斬りかかる。


「あは!甘い!」


しかしハミルトンはフライ返しで華麗に受け止めた。

だが、ハミルトンの背中がびくりと震える。

ハミルトンが気がついたときにはもう背後には高く飛び、棒を上段に構えるジムさんの姿が。


「てえぃです!」

「くぬぅ!」


ハミルトンは辛うじてジムさんの攻撃をフライ返しで受け止めたが、体勢が崩れる。

その隙にジムさんとハーパーは再び距離を置いた。素早く腰元に棒を差し、地を再び蹴って、


「ハイボール真剣奥義!」


ジムさんが謎の技名を叫んだ。


「二段かまいたち!」


ハーパーはジムさんに合せて同時に腰元から木の棒を抜く。

ジムさんとハーパーは交差してハミルトンを過ぎった。


「切り捨て御免!」


ハーパーは呼吸を落ち着けながら木の棒を腰元へ差す。

ハミルトンの手から二本のフライ返しが弾け飛んだ。

ハミルトンは宙を舞うフライ返しを見て唖然としている。


「次はあたしのばぁーん!」


最後に路地から飛び出してきたのは素手のアーリィだった。


「行くですアリたん!」

「こっちは準備OKです、ジムさん!」

「ッ!?」


ハミルトンが気がついたときにはもうアーリィは懐へ潜り込んでいた。


「せい!

「うぐっ!」


ハミルトンはアーリィの拳を腕でガードする。


「まだでぇす!」


間髪入れずにジムさんが拳を放ち、ハミルトンの体を後方へずらす。


「まだまだぁ!」


アーリィとジムさんの拳は止まらない。再びハミルトンの体勢が崩れた。


「そおぉれっ!」

「あはっ!?」


アーリィは裂帛の気合と共に拳を放った。ハミルトンの体が軽く宙を舞う。ハミルトンはいつの間にか設置されていた樽と板のシーソーへ倒される。


「てぇい!」


ジムさんが勢い良くシーソーを踏むとハミルトンの体が軽々と空へ浮かび上がった。

するとジムさんが木の棒を支柱にして飛ぶ。


「ハイボール心拳奥義!」


ジムさんがハミルトンを掴み、拘束する。


「竜巻ドライバーでぇす!」


ジムさんは空中でハミルトンを掴んだまま激しく回り、落下を始める。


「岩石砕きで決めだぁ!」


落下するハミルトンへ向けてアーリィは掌底を突き出した。


「あは?それだけ?」


だがハミルトンはアーリィの腕を掴んでいた。


「それ!」

「あひゃっ!」


逆にアーリィを投げ飛ばし、その反動で体勢を立て直す。

ジムさんもまた急激なハミルトンの体勢変更で弾き出された。


「アーリィさん!ジムさんしっかり!」


ハーパーはアーリィとジムさんへ駆け寄る。


「いつつ、やっぱハミルトン強いねぇ……」

「でも負けるわけにはいかないのです!女のプライドに賭けて勝たなくちゃいけないのです!」


ジムさん、アーリィ、ハーパーはそれぞれ構えを取る。

しかし目前のハミルトンは余裕綽々な様子で二本のフライ返しを逆手に持って悠然と佇んでいた。


「あは!みんな良いねぇ、良いよぉ!私ゾクゾクしてきちゃったよぉ!」


そんなハミルトンの声を聞いて、悪寒を感じる俺だった。

微妙に顔つきがタリスカーっぽいのは気のせいかな……?


「ハミルトンを楽しませる道理などありません!」


ハーパーは勇ましく叫んだ。


「私たちとワイルド様を引き離し、あまつさえローゼズと二人きりにして仲を深めさせようと計画した策士ハミルトン=バカルディ!天が見逃しても、この快傑ゴー……じゃなくて、ハーパー=アインザックウォルフは決して貴方を見逃しません!」

「そうです!ロゼたんだけに肩入れするなんでずるいです!」


ジムさんは怒り心頭で文句を言い、


「あ、あたしは別にワッドと二人きりでなんて……」


何故かアーリィは顔を真っ赤に染めて吃っていた。


「アーリィさん!そんな弱気でどうするのですか!」


ハーパーが一喝する。


「そうです!弱気になったらそこで戦いはお終いです!しっかりするですアリたん!」

「ハーパー……ジムさん……」


アーリィは気合十分の構えを取ってみせた。


「ごめん二人共!あたし間違えてた!あたしもワッドとお祭りを楽しみたい!」

「あは!みんな素直で良いねぇ!じゃあ……行くよッ!」


ハミルトンが地を蹴り、フライ返しで斬りかかる。

ハーパー、アーリィ、ジムさんはハミルトンの猛攻へ三人で立ち向かう。

確かにハミルトンは強い。

三人を相手に全ての攻撃をたった二本のフライ返しで防ぎきっている。

だけど勝率は味方の数に比例する。ハミルトンは三人の攻撃を防ぎきっているものの、反撃に転じられていない。


「姉さーん!お待たせしましたぁー!」


道の向こうからお玉やフライパン。

はたまた大根など日用品屋や食材を手にしたシーバス一家がなだれ込んでくる。


「邪魔です!」

「どくでぇす!」

「あっち行けぇーッ!」

「ふぐうおっ!?」


フライパンを手に先頭を切って飛び出してきた首領のシーバス=リーガルはハーパー達の攻撃を一身に受け吹き飛ばされる。

後に続くシーバス一家は皆、ドミノ倒しのように倒れた。


―――役立たず……


「行ってくる!」

「あ、ちょっと、ローゼズ!?」


ローゼズは突然ハミルトンのところまで飛んだ。


「ローゼズ!?どしたの!?」


ハミルトンは突然現れたローゼズに驚きを隠せない様子。


「ハミルトン一人じゃ敵わない。手伝う!」

「いやいや、ダメだって!なんのために私がみんなの相手をしてると思ってんの!?」

「んー?」

「現れましたね、ローゼズ!」


ハーパーは木の棒を正眼に構え、ニヤリと笑みを漏らす。


「ジムさん、アーリィさん!ここでローゼズを倒せば道は開けます!やりますよ!」

「わかったでぇす!」

「ローゼズ、今日は本気で行くからねッ!」

「はぁ~もうローゼズのばかぁ……」


何故かハミルトンはため息を吐きながら頭を抱えた。


「ハミルトン?」


「まぁ、こうなっちゃ仕方ないか……ローゼズ、さっさとみんなを片付けてワイルド君のところに戻りなよ!」

コクリ!

「皆さん!あの陣形で行きましょう!」


ハーパーがそう促し、


「はいです!」

「わかった!」


ジムさんとアーリィは応答する。


「パァーイルフォーメイションッ(縦列陣形)!」


ハーパーの号令で、ハーパー、アーリィ、ジムさんといった大きい順に縦へ積み重なるように並んだ。

まるでこれって……


―――響さん達の嵐の陣?


「当主様の掛け声を受け、皆様の意思が一つになったとき、地平を越えテラロッサを越えパイルフォーメイションは完成する。皆様の力はアンダルシアン全ての力とシンクロし、自然現象さえ変える程の力を出すことが可能となるのだ!」

「あのバーンハイムさん?なんでここに?」


いつの間にか俺の隣にはアインザックウォルフの執事、バーンハイムさんがいた。


「お久しぶりですワイルド様」

「ここで何を?」

「ヒースの開拓記念祭にはアインザックウォルフ商会も協賛しておりまして。視察にきたところ当主様がワイルド様との合身を賭けて闘っていらっしゃると聞いたもので見物に来た次第です」

「だからその合身ってなんなんですか?」

「諸君!今心を一つにし合身せよ!」


全く俺の話を聞かず、訳のわからないことを言うバーンハイムさんだった。

気が付くと、何故か戦っているみんなの周りには人だかりができていた。


「おいお前はどっちだ?」

「俺は赤髪の方に10ペセだ!」

「そいじゃこっちは三人組の方に50ペセだ!」

「「「おお~ッ!」」」


何故か賭けが横行していた。

どうも取り囲んでいる人たちはこれが催しものかなにかだと思っているようだった。

それにしてもこうなると相変わらず置いてきぼりを食らう俺。

一体いつ、これは終わるのやら。

そんな時、赤い影が俺の前へ降り立つ。


「はいはいもう止め止めーッ!」


俺の前へ降り立ったのはハミルトンだった。

ハミルトンはフライ返しを腰に差し、そう叫ぶ。

激しい戦いを繰り広げていたローゼズ達もまた戦いの手を止め、ハミルトンへ視線を注ぐ。


「もう戦っても埓が明かないよ。だから誰とお祭りを回るかワイルド君に選んで貰おうよ!」

「ええっ?俺が?」


突然、話題を振られ動揺してしまう。


「良いよね?」

「あーえっと、なんつーか……そういうの止めにしてみんなで祭を回らないか?」

「はぁ!?ワイルド君、そんなで良いと思ってるわけ!?」


何故かハミルトンは激しく叫ぶ。


「ねぇみんなもそんなんで良いわけ!?」


ハミルトンは踵を返して、後ろにいるみんなに聞く。


「ワイルドがいうんじゃ仕方ない」


ローゼズは納得を見せ、


「ワイルド様がそうお望みならば」


渋々といった様子だけどハーパーも同意する。


「たまにはそういうのも悪くはないのです」


ジムさんもやれやれといった具合で木の棒を投げ捨て、


「全く、ワッドらしい答えだね」


アーリィもまた拳を収めた。


「ほう、とんだすけこましです。ワイルド様」


涼しく隣のバーンハイムさんがそういうが、その言葉には刺が含まれているように感じる。


―――俺、なんか悪いこと言ったかな?


取り巻きは戦いが終わると、愚痴をこぼしながらすぐさま解散してゆく。

そんな中ローゼズが駆け寄ってきて、ハミルトンの手を取った。


「今度はわたしハミルトンとお祭り回りたい!」

「えっ?い、良いの?」

「行くッ!」

「あ、ちょっと!」


ローゼズは強引にハミルトンの手を引き、駆け出してゆく。


「当主様、これは絶好の機会です。この機にワイルド様との合身……」


バーンハイムさんが言い終える前に、ハーパーのアッパーカットが炸裂した。

バーンハイムさんは紙人形のように軽々と宙を舞い、近くにあったゴミ捨て場に落っこちて埋もれてしまった。


「それでは私たちも参りましょう!」


ハーパーはさも何事もなかったかのように笑顔でそういった。


「や、でもバーンハイムさんは……」

「参りましょう!」


ハーパーは俺の手を取って歩き出す。


「ハーたん、どさくさにまぎれてそれはずるいのでぇす!」


ジムさんが文句を言いながら続き、


「ちょっと待ってみんなぁー!」


一歩遅れてアーリィが続いてくる。

俺はちょこっとバーンハイムさんのことを気にしながら、雑踏の中へ足を踏み入れるのだった。


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