ChapterⅡ:南から来た彼女⑨
既に陽は沈み、別荘の空では星々が満点の光を放っている。
「お待たせ!たくさん食べてね!」
ハミルトンが持ってきたのは皿に山盛りにされた分厚いステーキだった。
「「「「いただきまーす!」」」」」
テラスでコンロの焚き火を囲み、俺たちはハミルトンが焼いてくれたステーキを頬張る。
焼き加減、塩胡椒のバランスも最高。一口噛むだけでじゅわっと肉汁が口の中に広がり、幸せな気分に浸れる。
他にも色とりどりの野菜をふんだんに使ったサラダや、瑞々しい色合いをした瓶入りのジュース類が並んでいる。
ちなみに今並んでいるものは全て別荘の予め用意されていたもの。アインザックウォルフ様様だ。
超人ビーチバレー対決は、アーリィとハミルトンが戻っても尚あの調子で、結局勝負はうやむやになり終わってしまった。
勝敗はつかなかったけど、妙な遺恨は無い。
みんな久々に戦い以外で思いっきり身体を動かせたのが良かったのかすっきりとした表情を浮かべている。
勿論、俺も超人バレー対決が終わった後は思う存分、ビーチバレーや泳ぎを楽しんだ。
今思えば、ローゼズやハーパーのスパイクを見て涙目になっていたアーリィの気持ちが良くわかる。
―――あれ喰らったらマジで死ぬ。
「んふー!むふー!」
特に運動をして体力を使ったローゼズ達は夢中でステーキを食べていた。
ローゼズはまるで動物のようにTボーンステーキを鷲掴みにしている。
「ローゼズはしたないですよ?」
横にいるハーパーはお嬢様らしくナイフとフォークで食べているが、お腹が空いているのか口に運ぶピッチが速い。
「美味いです!アリたんの焼いたバンズとハミたんの焼いた素敵なステーキのマリア―ジュ!是非売り出そうです!」
ジムさんはステーキをハンバーガーにして食べ、
「あは!やったねアーリィ!」
「うん!さすがハミルトン!」
ハミルトンとアーリィは互いに手を打ち合ってお互いに笑顔を浮かべていた。
勝敗は決まらなかったけど、あのバレーは良い効果があったと思う。
ああしてみんなでバレーをしたおかげでハミルトンは俺たちの中にすっかりと溶け込んでいた。
みんなすっかりハミルトンがあのタリスカーだったと忘れて、楽しげに会話に花を咲かせている。
「おかわり!」
「私もお願い致します!」
ローゼズとハーパーは同時にハミルトンへ空になった皿を突き出す。
「はいはい♪ワイルド君はどうする?」
「じゃあ貰おうかな」
「りょーかい!」
ニコニコとハミルトンは笑顔を浮かべて、テラスの真中に設置されている肉焼き用のコンロへ屈みこむ。
不意に俺の心臓が少し高鳴った。
視線はついついコンロの上で手際よく肉を焼いているハミルトンを追っていた。
短く切りそろえられた赤い髪と丸く朗らかな印象のある赤い目。
時折はにかむ顔が妙に頭へ残る。
―――案外、ハミルトンって可愛いかも。
自然と俺はそんな感想を抱く。
「ワイルド!」
突然、俺の目の前に仏頂面のローゼズが現れた。
「な、なんだよ!?」
「ワイルドはわたしの!」
そういってローゼズは胸を押し付けながら俺の腕へ抱き付いてきた。
「何をなさっているのですかローゼズ!ワイルド様がお困りではないですか!」
ハーパーは反対側からローゼズを俺から押し退けようと迫る。
「ハーたんもそう言いつつワイルドを困らせているのです!」
ジムさんは俺の両脇を固めるローゼズとハーパーを引き剥がそうと正面から迫ってきた。
「ハーパーとジムどく!」
「貴方たちこそワイルド様から離れてください!」
「何いうです!離れるのはロゼたんとハーたんの方です!」
三人は三方向からお互いを引き離そうと押し合う。
三方向から胸の圧力は想像以上に厳しく、息苦しい。
「ア、アーリィ助けて!」
「バカバカバカ!ワッドのバーカ!何デレデレしちゃんてのよ!」
いや、違います。息苦しくて顔が真っ赤なんです……。
「あは!ワイルド君モテモテ~!」
ハミルトンからも助ける素振りはみられず、笑いこけている。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
しかし俺の叫びなど誰にも届かず、その後からの記憶が若干曖昧になる俺なのであった。
―――この状態で笑いこけてるハミルトンって案外酷いかも……




