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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅢハミルトン=バカルディ―ChapterⅡ:南から来た彼女
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ChapterⅡ:南から来た彼女④

 


俺たちは馬へ水を飲ませた後、来た道を引き返し、再び海に沿う荒れ道へ戻った。

その道を暫く進むと、赤い屋根をした立派な平屋建ての建物が見えてきた。あそこがアインザックウォルフの別荘だという。


 玄関を入ってすぐにあるリビングの天井は高く、開放感に溢れていた。

引き戸式のガラス戸の向こうには岩礁に挟まれた白い砂浜のプライベートビーチが広がっている。

部屋も幸いなことに一人ひと部屋ずつあり、家具も簡素だが必要なものは全て、一定の品質の高さを伺わせるものが備えられていた。

まるでホテルのようなここは状況が状況でなければ、ゆっくりとここでバカンスでも楽しみたいと思ったんだろう。

しかし俺は今も一定の緊張を保ったまま、ベッドの上に寝かしつけられているタリスカーを見つめていた。


 タリスカーが眠るベッドの横には別荘に到着してからずっとローゼズが付き添っていた。

ローゼズは時折タリスカーの額へ当てられている濡れタオルを交換し、呻きを上げる奴の手を握り締め落ち着けようとしていた。

その様子は監視ではなく、看病そのものだった。

縄での拘束を頑なに拒み、こうしてタリスカーをベッドへ寝かしつけたのもローゼズ。

そんなローゼズの様子を見て、俺の胸はチクリと痛む。


―――きっとローゼズは過去のことをずっと後悔しているんだ。


 例えマッカランに操られていたとしても、スチルポットを滅ぼし、親友のハミルトン=バカルディを手に掛けたのはローゼズ自身だ。

もしもローゼズが凶行に及ばなければ、ハミルトンは紅兵士タリスカーへ改造されることもなかったかもしれないし、彼女は今でもハミルトン=バカルディとして平穏に暮らしていたかもしれない。

しかし今更そんなことを言っても犯した罪は無くならないし、目の前の現実が変わることは無い。

それでもきっとローゼズはようやく再会できた親友へ、今できることを精一杯しようとしているんだと思う。

それが罪滅ぼしなのか、親愛の証なのかは分からない。

でも一生懸命タリスカーに寄り添うローゼズの行為は無下にはしたく無い。

俺はそう思い、ずっとタリスカーの看病を続けているローゼズを見守り続けていたのだった。


「ローゼズ、交代の時間です。食事を取って下さい」


ハーパーが部屋へ入ってきてそういう。


「ここで良い」


ローゼズはハーパーを見ずにそう言い、タリスカーの額に当てられている濡れタオルを交換した。


「さっきからワガママが過ぎますよローゼズッ!」


ハーパーは眉根を吊り上げ、そう怒鳴るがローゼズは一切反応を示さず、ひたすらタリスカーへ向かい続ける。


「貴方という人は……!」


いよいよ怒り心頭のハーパーは強く一歩を踏み出す。

が、俺はそんなハーパーの手を取った。


「そう怒るなよハーパー」

「しかしワイルド様!」

「代わりに俺がローゼズの食事取りに行くから。なに、ローゼズならいざって時でも少しくらい一人でも大丈夫だろ。こないだだって一人でタリスカーの相手をしてたんだから」

「それはそうですが……」

「ローゼズ、もしも何かあったらすぐに俺たちを呼べよ?」

コクリ。


ローゼズは相変わらずタリスカーへ向かい続けていた。俺は納得しかねるハーパーの手を強引に引いて部屋を出る。


「様子はどう?」


リビングに着くとすぐさまアーリィが聞いてきた。


「変わらずだ。タリスカーもローゼズもな」


俺はアーリィが作ってくれたポトフの入った鍋をコンロの上に置き、温め直すためにマキを焼べ(くべ)ながら回答する。


「今夜はこのまま様子をみるしかなさそうですね」


ソファーに座っているジムさんの神妙な声が俺の背中へ届く。


「ならばやはりタリスカーを拘束して、ローゼズから引き離すべきです!」


ハーパーは大きな声でそう主張した。


「まぁ、本当はそうした方が良いんだけどね。ローゼズさえ許してくれれば……」


アーリィの言葉にみんな黙り込む。


 頑固なローゼズのことだから生半可な言葉じゃ通じる筈もない。

かといって強引にことを進めるにも、相手がローゼズだから失敗する可能性もある。


「仕方ないです。今夜は警戒を厳にして休むしかないですね。でも明日にはタリスカーを中央政府へ引き渡すです。例えロゼたんが邪魔をしても、やるしかないです。みんなそれで良いですね?」


ジムさんの提案に誰も異を唱えなかった。

しかし俺は温まり始めたポトフの前で、胸をざわつかせる。


 タリスカーはさっき、確かに自身のことを「ハミルトン=バカルディ」と言っていた。

ハミルトンとしての人格が蘇っている可能性は十分あるし、きっとローゼズはそれに期待しているのかもしれない。

もしもハミルトンが蘇っているならば、ローゼズの引き離すのは心苦しい気持ちで一杯になる。


―――今夜は未だわからない。そしてこれらどう事態が転がるか、見極めるしかない。


俺はローゼズの食事を持ち、リビングを出てゆくのだった。


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