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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅡマスク・ザ・G―ChapterⅢ:彼女はアインザックウォルフ
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ChapterⅢ:彼女はアインザックウォルフ①

【VolumeⅡマスク・ザ・G―ChapterⅢ:彼女はアインザックウォルフ】


「妾達が来たらから街は無事なのじゃー!あのお面だけの手柄じゃないのじゃー!そうは思わぬか、響!」

「ははっ!姫様のおっしゃる通りで!」


竹鶴姫は不満そうにそう叫び、従者の響は苦笑いを浮かべていた。

 ひとまずバーレイを退けた俺たちは情報交換を兼ね、ロングネックの酒場に集まっていた。あんな騒ぎの後だけに客は殆どおらず、店内は寂れていた。


「一体何なのじゃーあのお面はぁ!」

「マスク・ザ・Gですよ」


飲み物を運んできたこの店の店主が配膳をしながら答えた。


「マスク・ザ・G?」


オウム返しで俺が問うと店主はにっこりと微笑んだ。


「はい。Gはいつの間にか現れた東海岸の英雄ですよ。風のように現れて、悪を倒し、風のように去ってゆく正義の味方のことです。ご存知ありません?」

「すみません。東海岸に来るのは初めてでして」


 アンダルシアンは東西に幅広い土地だ。同じ国に暮らしていても東と西では数千キロ距離があり、情報が伝わりにくい。ことさらにモルトタウンは西海岸でも辺境に近い位置にあるため、東海岸の情報が入ってくるのは滅多にない。


「アーリィ知ってるか?」

「うーん、なんとなくはね。主に東海岸と首都のマドリッドで活躍している正義のヒーローって位しか知らないけどね」

「へぇ、そんなのがいたんだ」

「うん。ずっと前にお父さんがGが西海岸まで来てくれればゴールデンプロミスに悩まなくて済むって言ってたね」

「この街にはアインザックウォルフのハーパー様、そしてGがおります。あのお二方がご活躍されているからこそ、ロングネックは未だバーレイの手に落ちていないのです」


相当あの黄金仮面とハーパーは街の住人から頼りにされているようだ。


「ところでお主たちはどうしてここにおるのじゃ?」


店主は会釈して席を離れ、一通り愚痴を吐いてすっきりしたのか竹鶴姫が聞いてくる。


「俺たちはこの街にいるジョニー=ウォーカーさんを訪ねてきたんです。姫さんはタリスカーを追って?」

「それもあるが、妾達はバーレイの企みを止めるために馳せ参じたのじゃ」

「あの、そのバーレイって一体何なんですか?」


アーリィがそう聞く。


「バーレイは、えっと、かく、かくめ、なんじゃったか……おい響!」

「ははっ」


ずっと後ろで控えていた響さんが前出る。


「こっからはお主から説明せぇ!」

「承知致しました。革命組織バーレイ、中央政府ではアードベック=アイラモルト元大尉が指揮する武装集団をそう呼称しております」

「アードベック=アイラモルトって、あの第三特殊作戦隊の隊長だった彼ですか!?」

「ジムさん、知ってるのか?」


ジムさんは顔を強ばらせながら頷いた。


「はいです。アードベックは若くして中央政府軍でも当時最強と言われていた第三特殊作戦隊の隊長に若くしになった傑物です。でも三年前に彼はクーデターを起こして、死んだはずなのです」

「三年前のクーデターって、もしかしてグレンモーレンジィ事件のことですか?」


ジムさんは再び頷いた。


 グレンモーレンジィ事件。中央政府の置かれるアンダルシアンの首都マドリッドで起きた一部の軍属のクーデター事件のことだ。現中央政府に不満を持つ一部の軍属が、打倒政府を掲げて決起したが、事前に情報を察知した中央政府によって未然に防がれたクーデター未遂事件。クーデターを引き起こそうとしていた軍属が集結していた地区から、この事件は【グレンモーレンジィ事件】と呼ばれている。


「グレンモーレンジィ事件の首謀者の一人のアードベックは中央政府を陥落させて、自らが政権を握って、アンダルシアンを支配しようとしていたです。まっ、知ってると思うですが、結局は失敗したのですが……」

「支配ねぇ……政権を奪うのはできるかもしれないけど、そのあとのことをアードベックは考えていたのかなぁ……」


アーリィが呆れ気味にそういうと、


「アードベックは過度な自信家だと聞いております」


すかさず響さんが答えた。


「普通の人間でしたらアーリィ殿のように支配後の統治の難しさを考えることでしょう。力で統治をすれば反発が起こり政権の屋台骨が揺らぐ。しかし運営が甘すぎれば民衆は付け上がる。真の支配を成すには相応の思慮か、もしくは先代から引き継いだ強固な地盤と付随する人脈、もしくは何者を屈服させる絶対的で強大な力が必要になります。アードベックは才能はあろうとも、出自は一階の農民でしかありません。ですが奴は自身の能力を過剰に信奉し、己はアンダルシアンを支配できると思っているのです。そのためでしたら奴は手段を選びません」


響さんが手を後ろにすると、白州が懐から一枚の写真を手渡す。

響さんが机の上に置いた写真には船上に設置された巨大な大砲のようなものが写っていた。


「これはスモールバッチバーボン。以前、ゴールデンプロミスのマッカランが手にしようしていたものの小型版になります。先ほど、ロングネックに降り注いでいたのはコレの弾頭。奴はこのロングネックを占拠して基地にし、加えてアインザックウォルフのゴールデンプロミス号を手に入れ、海路で中央政府に攻め入り再びクーデターを引き起こそうとしているのです」


「ということは、バーレイはもしかしてグレンモーレンジィ事件でクーデターに加担した元中央政府軍の軍人なのですか?」


ジムさんの問いに響さんが頷く。


「おっしゃる通りです。つまりグレンモーレンジィ事件を生き残ったアードベックは、部隊を再編し、バーレイを組織して、再度クーデーターを画策しておるのです。しかもここ最近でタリスカーに加え、元ゴールデンプロミスの無法者をも取り込んだと聞いております」

「元軍人集団にスモールバッチバーボン……これにゴールドメダル号が加わるとすごい戦力になりますですね……」


 ジムさんの言うことに納得する俺がいた。バーレイを、アードベック=アイラモルトをアンダルシアンのために放置することはできない。

そしてなによりも俺自身が革命組織バーレイとその首領のアードベックが許せなかった。

無差別ロングネックを、しかも遺跡からの兵器で焼いた奴を放っておくことなどできない。そんなことを考えていると、俺の肩へアーリィが手を置いた。


「良いよ、ワッドの好きにして」

「アーリィ、お前……」


ジムさんも、そしてローゼズも俺へ頷き返してくる。腹は決まった。


「響さん、姫さん、俺たちも一緒に戦っても良いですか?」

「もとよりそうお願いしようと思っておりました。そのためにここまでお話をしたのですから」

「決まりですね」

「はい。何卒宜しくお願い申し上げます」


そういって響さんは深々と頭を下げた。


「ならば宴じゃぁ!支払いは妾に任せるのじゃ!」


すると突然、ずっと黙ていた竹鶴姫が椅子の上へ立ち上がった。


「おい山崎!中央政府の軍属を呼んで参れ!白州、そなたは人数を把握し注文を取るのじゃ!」

「「ははっ!」」


山崎と白州は竹鶴姫の指示を受け店を飛び出してゆく。


「ひ、姫様そのようば大盤振る舞いは……!」


狼狽える響さんの首元へ竹鶴姫はしゃもじを突き出した。


「けちけちするでない!これから共に戦うもの同士盃を交わし、親交を深めるのは当然じゃろ!?」

「それはご最も。しかしいくらなんでも全ておごりとは……」

「なんじゃ、お主?この期に及んで皆で勘定を割ろうとでもいうのか?」

「金須が……」

「お主のようなけちけち者は打ち首じゃぁ!」

「ひ、姫さま!?それだけはご勘弁を!!」


響さんは椅子から飛び降り、竹鶴姫の前で土下座する。


「ならば響よ、今すぐ金須を持ってまいれぇ!」

「は、ははっ!」

「……っと、いうわけじゃワイルド殿。今日はごゆるりと寛ぐのじゃ」


好意は素直に嬉しけど、響さんが気の毒で俺は苦笑を禁じ得なかった。


 店の中はすぐさまは満タンになり、竹鶴姫が主催する大宴会が始まった。

大賑わいの店内は、そこにいるだけで故郷のモルトタウンと実家のバーが思い出される。


―――ビリーおじさん、上手くやってるかな?


そんな中、俺は突然ローゼズに手を取られた。


「どうした?」

「話しある」

「えっ?なに?」


周りの話し声でよく聞こえなかった。

和やかな店内でローゼズは一人真剣な表情を浮かべている。何かよほどの話があるのだと思い俺はローゼズに従って外へ出てゆく。

 店の外は夕闇に包まれていた。潮風が冷たく、俺は一瞬身を震わせる。


「で、どうした?何か話があるんだろ?」

「……気になる」

「気になる?」

コクリ。

「昼間みた、マスク・ザ・G」


ローゼズからその名前を聞き、尋常ならざるGの身のこなしが思い出される。常人離れした跳躍力、そして神速の斬撃。

東海岸の英雄は、それ自体は好ましいと思える。

しかしあの身のこなしは確かに首を傾げるものだった。


「ローゼズ、もしかしてGは……」

コクリ。

「わたしと同じかもしれない」

「やっぱり……」


 常人では考えられない身のこなし―――マッカラン、タリスカー、そしてローゼズと同じく遺跡の力で作られた存在を仄めかす。

となれば、東海岸のどこかに遺跡が存在し、Gのような存在を作り出した人間がどこかにいるということになる。それは危惧すべきことだ。

もうローゼズ達のような悲劇を繰り返さえたくはない。

この旅の目的はそうした悲劇を撒き散らす遺跡を全てこのアンダルシアンから葬ることにある。


―――なら遺跡はどこに?誰がGを作ったんだ?


そんなことを考えていると、俺の脳裏にジョニーさんの研究所で出会った彼女のことが過ぎった。


ハーパー=アインザックウォルフ。


 ローゼズと互角に渡り合っていた彼女の能力は目を見張るものがあった。

そう思うとマスク・ザ・Gの正体がハーパーなのではないかと思えてしまう。

仮面とハットで素顔は隠していたものの、声の質感、体つきがどことなくハーパーに思えて仕方がない。


「もしかしてGの正体はハーパー=アインザックウォルフじゃ……?」

「その可能性はある」


ローゼズも同意見だったらしい。

バーレイ、スモールバッチバーボン、アードベック=アイラモルト。様々な事柄存在している。だがそんな中でGのことも捨て置けないと思う俺がいた。


「ハーパーのことも一緒に調べてみよう。もし遺跡が関係しているんだったら見過ごせない」

コクリ。

「ここにいらっしゃいましたか」


不意に声をかけられ、俺は視線を横へ傾けた。



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