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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅡマスク・ザ・G―ChapterⅡ:マスク・ザ・G(ゴールド)
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ChapterⅡ:マスク・ザ・G ④


「バーレイめ!」

「お嬢様ッ!」


 バーンハイムの声などものともせずに、

ハーパーは駆け出していった。

バーンハイムも慌てて彼女の後を追う。

 一発だった砲声はその数を増して行き

、木々の向こうからは黒煙が昇っている


――なにかとんでもないことが起こっている。


「俺たちも!」


 俺の声にローゼズ、アーリィ、ジムさんは、

頷きを返してくれた。

俺たちはハーパーが走り去った方向へ駆け出してゆく。

 森を抜け、ロングネック港に続く石の舗装路を全力で駆け抜けてゆく。


 先ほどまでは閑散としていたロングネック港は、

悲鳴に包まれていた。

 緑色を主とした軍服のような衣装を着ている集団が、

次々と家屋の窓や扉を蹴破っていた。

 家の中から飛び出してきた街の人々は、

緑の衣装を着た集団が持つライフル銃の脅威に晒されている。

 緑の集団の暴虐は止まらず、

ロングネック港は阿鼻叫喚包まれていた。


 そんな中先行していたハーパーが、

一軒の家から飛び出してきた。

 その手には先が丸まった競技用のサーベルが握られている。


「バーンハイム!」


ハーパーがそう叫ぶ。


「いつでも行けますお嬢様」


 バーンハイムは手甲を嵌め、応答する。

ハーパーの目には明らかに闘志が宿っていた。

 しかし彼女が持つのはあくまで競技用のサーベル。

方や敵が持つのは大型動物さえ一撃で抹殺できるライフル銃。


「そんなんで敵うわけないだろ! 下がれッ!」


 しかしハーパーは俺の言葉など耳も貸さず、

緑の集団へ突っ込んでった。

 すると緑の集団の一派がハーパーの接近を気取り、

銃口を彼女へ向ける。


「この街から出てお往きなさいバーレイッ!」


 ハーパーはグッと踏み込み、

サーベルを突き出した。

 サーベルの鋒は相手の胸を突く。

ライフルを構えた敵は、

その衝撃で突き飛ばされる。

 ハーパーはサーベルを集団へ突きつける。


「さぁ、みなさんお逃げ下さい! ここは私とバーンハイムが食い止めます!」

「ありがとうございますハーパー様!」


 逃げ惑う人々は口々に、

ハーパーへ礼を云って走り去る。


「はぁっ!」


 ハーパーはどんどんと敵へ踏み込み、

見事なサーベル裁きで敵陣深くへ食い込んでゆく。

 周囲の敵は手甲を付けたバーンハイムが素、

手で殴り飛ばしている。

 しかし敵は直ぐにハーパーの進撃に気づき、

注意を集中させ始める。


「あのバカ! 俺たちも行くぞ!」

「待ってワッド! あたしたち武器ないよ!?」


 アーリィの云う通りだった。

俺とアーリィの銃はジョニーさんに預けたままだった。


「ならアリたんはこれ使うです!」


するとジムさんがアーリィへ砂袋と閃光弾を渡す。


「ワイルドは縄で、アリたんは砂袋で敵を牽制するです。後はロゼたんと私でなんとかするです!」

「分かりました! 行くぞ、アーリィ!」

「ガッテン!」


 俺は縄を握り締め、

アーリィは砂袋を手に突っ込む。


「それ目潰しぃ!」


ア ーリィが砂袋を投げ、

ジムさんがライフル型のビーンズメーカーでソレを打ち抜く。

 近くにいた緑の集団は突然降り注いだ砂に動揺した。

その隙に俺は縄を放ち、敵の武器を拘束する。


「ローゼズッ!」


 背後のローゼズが俺の肩を踏み台にして飛んだ。

空中を華麗に舞うローゼズは、

ビーンズメーカーの銃口を目下の敵へ突きつけた。

 軽快な破裂音を鳴らしながら、

無数の豆が緑の集団を撃ち、意識を消失させる。

 俺たちは緑の集団を次々と倒し、進んでゆく。


「貴方たちどうして!?」


俺たちの進撃に気がついたハーパーがそう叫んだ。


「俺の勘に触っただけだ! 気にすんな!」


俺がそういうとハーパーは笑みを浮かべた。


「勇ましいのですね! ありがとうございます!」

「こいつらはなんなんだ?」

「彼らは【革命組織バーレイ】! ロングネック港とゴールデンメダル号を狙う兵隊崩れの連中です!」


 そう話している間にも俺の縄がバーレイの構成員を拘束し、

ハーパーの突きが敵を倒した。

 ハーパーの剣裁きは素早く、そして華麗で、

うっかりすると見とれてしまいほど。

 敵が銃を持っていても互角以上の戦いを見せている。

 そんなハーパーの姿に触発されたのか、

ローゼズもまたビーンズメーカーで、

次々とバーレイの構成員を倒していた。

 勢いに乗った俺たちは瞬く間に、

バーレイの構成員を次々と撃退して行く。


「あは? みぃつけたぁ!」


 悪寒が俺の背筋を撫でた。

その独特の笑い声を聞いた途端、

恐怖が蘇り脚を竦ませる。

だが、それでも俺は地を蹴った。


「ハーパーッ!」

「えっ?」


 俺はハーパーを抱きしめ、飛んだ。

彼女を石畳にぶつけないようキツく胸へ抱き寄せ、

地面を転がる。

 さっきまで俺たちが立っていたところには、

鈍色にびいろの軌跡が鋭くぎっていた。


「だ、大丈夫ですか……?」


ハーパーが胸の中で心配そうに聞いてきた。


「あ、ああ」


 背中を強く打ち付けたため、

若干身体が痺れている。

だが、身体の回復を待つ時間は無い。


「あは? 逃げないでよぉ!」


 水着のような軽装で身を包み、

全身にシースナイフを括りつけた赤目赤髪の怪人。

忘れたくても忘れられない狂気――タリスカーが目の前に佇んでいた。


「君を殺さないと【アードベック】はマッカランに会わせてくれないからさぁ!」


 タリスカーがナイフを振りかざす。

しかし振り落とされたナイフは、

ハーパーがサーベルで受けて止めていた。


「あは? なぁにぃ? その細い剣はぁ?」

「クッ……こ、このぉ!」


 ハーパーはタリスカーを弾き返して立ち上がると、

再びグッと石畳を踏む。

 そして目にも止まらぬ速さで、

サーベルの鋒をタリスカーへ放った。


「あは? 早い早い! すごいよ君!」


 しかしタリスカーは不気味な笑みを浮かべたまま、

ハーパーの連続突きを軽々とナイフで弾く。


「でも……目障りなんだよぉッ!」


突然タリスカーが吠えた。


「ッ!?」

「ハーパーッ!」


 タリスカーが繰り出した蹴りが、

ハーパーの腹を穿つ。

 ハーパーは悲鳴を上げるまもなく吹っ飛び、

家屋の中へ叩きこまれた。


「あは? あははは! あはははっ! アードベック、やったよ!一人やったよぉ!」


 タリスカーはまるで子供のようにそう叫ぶ。

すると鈍い足音が響き、

それだけで俺の心臓は嫌な鼓動を発した。

屈強な男がタリスカーの背後に現れる。


 筋骨が隆々としている鋼のような肉体を、

バーレイの証である緑の制服に身を包んだ大柄の男。

 隻眼の瞳は獣を狩る狩人のような、

鋭い輝きを帯びていた。

 左手は鈍色に輝くガントレットに覆われ、

右手には流線型の幅広い刀身を持つ栁葉刀りゅうようとうを携えている。


「ワイルド!」


 ローゼズがやってきて、

俺の横へ並び銃口をタリスカーと男に突きつけた。

 すると男は口をにやりと歪ませる。


「タリスカー、マッカランを倒したのはこいつらで間違いないな?」

「あは? そうだよぉ!」

「そうか。タリスカー、少し大人しくしていてはくれないか?」


タリスカーは不満げな表情を浮かべる。


「大人しくしていてくれればマッカランに会わせてやる」

「わかったぁ!」


 タリスカーは目の色を変え、

ナイフを肩のシースへしまう。


「さぁ、楽しもうじゃないか!」


 男は地を蹴った。

屈強な体に似合わない素早さで男が俺たちへ接近し、

栁葉刀を高く掲げる。

 俺とローゼズは同時に左右へ飛んだ。

その隙にローゼズはビーンズメーカーから弾を開放し、

俺は縄を放つ。


「フンッ!」


 しかし男は栁葉刀を軽く薙ぐだけで、

俺たちの攻撃を吹き飛ばした。

 その剣圧は凄まじく、身体の揺れを感じ、

態勢が一瞬崩れる。

 そして次の瞬間にはもう、

男が俺の目の前で栁葉刀を掲げていた。


 横へ飛び退き、男の重い一撃を辛うじて回避する。

すると男の背後でMバレルに換装し、

ビーンズメーカーを構えるローゼズの姿が見えた。

 強力なMバレルの弾が、男へ向け発射される。

 すると男はくるりと振り返り、再び栁葉刀を薙ぐ。

放たれたMバレルの弾は柳葉刀に粉砕され、

はらりと消えた。


「この程度か……拍子抜けだ。相手にもならん……」


男はつまらなそうに口を歪める。しかしその間も隙は一切なく、俺とローゼズは男を挟んでいるが、身動き一つ取れない。


「タリスカー、信号弾を撃ってくれ。そうすればマッカランに会わせてやる」


 男がそういうとタリスカーは再び目の色を変え、

腰に括りつけていた銃を空へ向け放つ。タ

 リスカーの放った銃弾は空で破裂し赤い煙となった。


 どこからともなく甲高い音が響き渡る。

刹那、空から降り注いだ何かが近くの家屋の屋根を爆破する。

しかしそれで終わりではなかった。

 空から次々と何かが降り注ぐ。

それは紫電を帯びた真っ赤な火球だった。

人と同じくらいの大きさの火球は地表へ達すると、

爆発する。


 その衝撃はたった一撃で、

家屋とその周囲にある建造物をも吹き飛ばしていた。

火球は断続的に降り注ぎ、

ロングネックの街を次々と破壊してゆく。


 家屋の中に隠れていた人々は一斉に飛び出してくる。

火球は人、建造物を問わず無差別にロングネックの街を襲う。


「やめろぉぉぉ!!」


 気が付くと、俺の足は男へ向かっていた。

拳一つで俺は男へ突き進む。


「ワイルドッ!」


 ローゼズがビーンズメーカーを放った。

 しかし男は栁葉刀でローゼズの銃弾を弾く。

その隙を突いて俺は拳を思い切り突き出す。


「遅いな、小僧」

「クッ……!」


 男は軽々と俺の拳を掌で受け止めていた。

次の瞬間、天地が逆転する。

 石畳に背中を思い切り叩きつけられ一瞬意識が飛びかける。

 俺の頭上には男がいた。

男は栁葉刀を俺の首筋を突きつける。

栁葉刀の研ぎ澄まされた刃が俺の首筋の薄皮を裂き、

うっすらと血がにじんでいた。


「おっと動くな。薔薇、お前とは少し楽しめそうなのでな。後でゆっくりとだ」


 男がローゼズを牽制し、

彼女の動きを止める。


「小僧、拳一つで向かってきたその勇気だけは褒めてやろう。どうだ、俺の下で働いてみる気はないか?」

「へっ、そんなの死んでもゴメンだ、おっさん!」


 精一杯の反抗だった。

しかしそれしかできない。

男はにやりと笑みを浮かべる。


「そうか。ならば……」


 男が栁葉刀の柄を強く握り締める。

みんなを救い、この男を殴り飛ばしたい自分がいる。

しかし、それは叶わないのか?


――何か手はないのか、何か!?


そう思ったの時だった。


「来たぞ―!マスク・ザ・Gゴールドだッ!」


 どこからともなくそんな声が聞こえた。

すると俺の目の前にある家屋の屋根の上へ人影が降り立った。


 逆光でその姿ははっきりと確認できない。

剣を携えた人影が屋根から飛んだ。

 常人では考えられない跳躍力を見せる影は一瞬で、

目下の街へ降り注ごうとしている、

一つの火球の前へ到達する。

すると火球は地表へ達する前に爆発した。


 影が火球の残骸を足場にして、

また次の火球へ飛んでゆく。

 人影は目にも止まらない速さで空から降り注ぐ火球を、

次々と剣で切り裂き、空中で四散させ続ける。


「ええい! またしても邪魔を!」


 男は俺から退き、ガントレットを跳躍し続ける影へ向ける。ガ

ントレットの指先から無数の弾丸が発射された。

 人影は弾丸に気がつき、

くるりと身を翻す。

手にしていたレイピアを振るうと、

全ての弾丸が弾かれた。

 影が男の前に降りた。


 舞い降りたのは細身で、

しなやかな体つきをした騎士だった。


 騎士は手足と胴体を黄金のラインが無数に走る鎧で覆い、

その上から漆黒のマントを羽織っていた。

黒のハットと金色のマスカレードで素顔を隠し、

細身のレイピアを携えている。


「マスク・ザ・G! 今日こそ引導を渡してくれる!」


男は騎士が舞い降りるとすぐさま栁葉刀を構え、騎士――マスク・ザ・G――へ突撃する。


「アードベック! 覚悟ッ!」


 Gはレイピアで男――アードベック――へ斬りかかる。

 アードベックの斬撃よりも早く、

Gはレイピアの鋒を突き出した。

 辛うじてアードベックはそれを弾くも、

既にGのレイピアはアードベックを狙っていた。


 アードベックは再び栁葉刀でGのレイピアを弾くが、

Gの追撃は止まらない。

 Gのレイピアから繰り出される斬撃は素早く、

アードベックは栁葉刀で弾いてはいるが、

攻撃に転じることができていない。


「タリスカー!」


 アードベックが叫ぶ。

彼の背後からタリスカーがナイフを抜きながら飛び上がった。


「あは!」


 アードベックとタリスカーは同時にGへ斬りかかる。

しかしGはレイピアを華麗に捌き、両者の斬撃を弾いた。


「者共かかるのじゃー!」


 今度は聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。

俺の後ろから青い軍服を着た、

アンダルシアン中央政府の正規軍兵士がロングネック港へなだれ込んでくる。

 その中でも一際目を引く東方の三人侍。


「山崎、白州! 嵐の陣で仕掛ける!」


大柄の武士響が叫び、


「「御意ッ!!」」


 同じく東方鎖国の武士、

細面の山崎と中肉中背の白州が同意する。


「妾の力を思い知らせるのじゃー!」


 神輿の上で竹鶴姫がしゃもじで号令をかける。

東方の三人侍は刀剣の峯でバーレイの構成員を次々と倒してゆく。

中央政府軍も勢いを増し、戦局は一気に傾いた。


「おのれここまでか……総員撤退! 繰り返す総員速やかに撤退せよ!」


アードベックの指示は構成員の間を次々と伝わって行き、バ

ーレイは次々と撤退してゆく。


「マスク・ザ・G覚えていろ! 次こそが貴様の最後だ!」


 アードベックはそう捨て台詞を吐いて、

タリスカーと共に後退してゆく。


「マスク・ザ・Gありがとう!」


 バーレイとアードベックが撤退し、

平穏を取り戻したロングネック港から歓声が沸き起こった。

 街の誰もが仮面の騎士に歓声と感謝の言葉を叫ぶ。

しかし仮面の騎士は何も語らず跳躍する。

 その跳躍は素早く、

仮面の戦士マスク・ザ・Gの姿はあっという間に見えなくなるのだった。



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