ChapterⅡ:マスク・ザ・G ③
「この人がジョニー=ウォーカー。ビーンズメーカーの開発者」
服を着直し、
すっかり元通りになったローゼズはそう紹介する。
ぼさぼさの長い髪に、
少しクマの見える目元。
白衣の下に着ているものも、
黒のシャツにベージュのパンツと味気ない物だった。
きっとこの人はきちんと身なりを整えれば、
かなりの美人だとは思うが、
それを口にしたところで全く相手にされなさそうな、
こういう場には如何にも、
というのが俺のジョニーさんの初見の感想だった。
「で、君は?」
ジョニーさんはクマの浮かぶ目を鋭く光らせ、
俺に問いかけてくる。
「初めまして。俺はワイルド=ターキーって云います」
「ターキー? あの、もしかして、貴方のお母さんってレアブリードって名前!?」
突然、ジョニーさんが眼を思いっきり開いて、
俺に寄ってくる。
「あ、あ、は、はい!」
するとジョニーさんは、
クマの浮かぶ目を思いきり丸めて、笑顔になった。
「やっぱりそうなのね! そう、君が……うんうん、立派になって……」
ジョニーさんはしげしげと俺の全身を舐めるように見る。
「も、もしかして御袋の御知り合いですか?」
「まぁね! 旧知の仲ってやつよ。で、レアド元気にしてる?」
「それが、その……この間亡くなりまして……」
「殺されたの!?」
「え、ええ。ゴールデンプロミスに……」
「……そう、ゴールデンプロミスに……ごめんなさいね。嫌なことを思い出させちゃって」
ジョニーさんは申し訳なさそうにそう云う」。
「いえ、もう過ぎたことですから。お気遣いありがとうございます」
「強いのね、ワイルド君は……さて、じゃあそろそろ本題を聞きましょうか?」
ジョニーさんは顔を引き締め、
再び俺へ問いかけてきた。
「はい。実はビーンズメーカーをもう一丁作ってほしいんです」
「どうして?」
「アンダルシアンのみんなを守るためです。でも俺は誰も殺したくありません。だからこそ必要なんです。ジョニーさんが作るビーンズメーカーが!」
俺は正直な想いをジョニーさんへぶつけた。
ジョニーさんの視線は変わらず俺を見据えている。
やはり不殺の武器であっても強力なものに代わりは無い、
ビーズメーカーの作成は一筋縄ではいかないのだろうか。
「良いわよ」
「へっ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
「何よ、アホみたいな声出して」
「いや、その……ほ、本当に良いんですか?」
「ええ。だってワイルド君が本気でビーンズメーカーを必要としているって思ったもの。それにレアドが手塩にかけて育てた息子が私のビーンズメーカーを悪用する筈ないしね」
「あ、ありがとうございます!」
俺は感激のあまり思いきり頭を下げた。
「ふふ、頭上げなさいな。で、新規作成にする? それとも何かベースにしたいものはある?」
「改造でもできるんですか?」
「ええ。まぁ、バレル換装はできないけどね。でもその分、装弾数は実銃の三倍は確保できるわ」
「だったら……」
右のホルスターから形見の銃を抜き、
グリップをジョニーさんへ渡す。
「ふぅん、スコフィールドのレプリカか……オッケー、一日で何とかしてみるわ」
「ありがとうございます! それで料金はどれぐらい……」
「んーそうね、10ペセで良いわよん」
「えっ!?」
バーで軽く飲み食いする程度の、
10ペセという提示に驚きを隠せない俺がいた。
銃一丁が安い物でも約500ペセなのだから、
破格というか、ほぼ値段が無いに等しい。
「ほ、ホントに10ペセなんかで良いんですか?」
「材料は余るほどあるしね。10ペセは、まぁ技術料ってことで。それよりもさぁ、ワイルド君……」
ジョニーさんはにんまりとした笑顔を浮かべた。
「貴方とローゼズってどんな関係な訳? もしかしてもうそういう関係?」
すると俺の手をローゼズが握りしめてきた。
「ワイルドはわたしの大切な人。家族!」
ローゼズがそう云う」と、
ジョニーさんはにんまりした顔を嬉しそうな笑顔に変えた。
「ふふ、そうなの。それは失敬失敬。ところでさっきから後ろで物色してるお二人さんはどうするわけ?」
研究所の中にあるものを、
勝手に手にとって眺めているジムさんと、
その横であたふたしているアーリィへジョニーさんは声をかけた。
「ふむ……ジョニーさん、これもビーンズメーカーですか?」
ジムさんは愛用している、
レバーコック式ライフルにそっくりな銃を手に取り、
物怖じせずにジョニーさんへ聞いた。
「そうよ。たまたまウィンチェスターのコピーのガラクタが手に入ったから作ってみたの。まぁ、単に豆を強力に発射できる代物でしかないけどね。興味ある?」
「なのです。実銃は使いどころを選んでしまいますですから」
「そんなので良かったらそれ50ペセで良いわよ?」
「ふむふむ……分かったのです。交渉成立です。ついでに伺いたいのですが、これを作る一丁作るのにどれぐらいの期間が必要ですか?」
「そうね、発射ユニットさえ事前に作っておけば一丁二時間程度かしらね?」
「発射ユニットのコストは?」
「コスト? そうねぇ……今の材料の備蓄だけでも数千丁は作れるはずよ」
「なるほど!」
ジムさんはニッコリ笑顔を浮かべ、
ライフル型ビーンズメーカーで構えを取った。
「重さも丁度良い感じなのです。もし使用感が良ければ、量産してはどうでしょう? 取引先は主に牧場。家畜の追いまわし用として販売すれば売れるかもしれないのです。この作りだったら販売価格は700ペセでも安いくらいです。原材料費は数千丁までならウィンチェスターのコピーかガラクタを手に入れれば良いだけなのですからどんなに安く見積もっても500ペセぐらい利益があがりそうです」
ジムさんは真剣な顔つきでそう語る。
話を聞くジョニーさんもいつの間にか真剣な表情に変っていた。
「一丁500ペセの利益か……日割りすると一日役4丁。週2回は休ませて貰うとして、1週間で20丁。1か月だったら4000ペセ……」
「勿論報酬はジョニーさんが7、私が3で良いのです」
「貴方お名前は?」
「ハイボール牧場のジム=ビームというのです」
自然とジムさんとジョニーさんは握手を結んでいた。
「是非ウィンチェスター型ビーンズメーカーの性能評価お願いします! もし改善点があれば遠慮なく云ってください。現実的に解決して見せます!」
「分かったのですジョニーさん! 任せるのです! 今日から私たちはビジネスパートナーなのです!」
「ええ! 是非このビジネスを成功させましょうジムさん!」
凄く真剣な表情で更に硬い握手を交わすジムさんとジョニーさん。
しかし、その目の奥にはどうしても、
現金がちらついて見えて仕方のない俺だった。
「で、最後にそこの貧乳娘はどうするのぉ?」
「い、今なんて云いましたか!?」
ずっと放置されていたアーリィが、
素っ頓狂な声を上げた。
「だってまだ名前知らないもん。とりあえず身体的特徴から考えて貧乳娘と呼んだ。オッケー?」
「オッケーじゃありません! 私はアーリィ=タイムズです! そういうジョニーさんだって貧乳じゃないですか!!」
アーリィは眉を吊り上げてそう叫ぶ。
確かにアーリィが指摘する通り、
ジョニーさんはアーリィと並ぶくらい残念なまな板だった。
しかし、
「だからそれがどうだっていうの? 別に気にしてないし。もしかしてアーリィちゃんは凄く気にしてるのかしら?」
「ッ!?」
アーリィは顔を真っ赤に染めて胸を隠した。
「ははぁ~ん、そうなのねぇ。でも気にしたって仕方ないわよ? 持って生まれたものだもの。その運命に従い、抗わず、素直に生きる! それしかないのよ」
「つまりアリたん諦めろということですね♪」
ジムさんがさらりとそう云うと、
「うわぁぁ~ん!酷いぃ~!」
いつも通りアーリィは泣きべそをかいて走り出すが、
「あべしッ!」
相変わらず引きずっているガトリングガン入りの木箱が、
引っかかり盛大にずっこけるアーリィだった。
しかもあまりに盛大に転んだせいで木箱の蓋があいてしまい、
ガトリングガンが晒される。
「へぇ~ガトリング! 胸は無いけど力はあるのねぇ」
「ううっ~胸の事はもうやめて下さいよぉ……」
「アリたんよしよし、泣かないのですよぉ」
泣きべそをかくアーリィを、
ジムさんは子供あやすように撫でるのだった。
「あはは、おふざけ過ぎてごめんねアーリィちゃん。お詫びの印としてそのガトリングもビーズメーカーに改造してあげようか?」
「ううっ、ぐすん、おでがいじまず(おねがいします)」
「ほら、ハンカチ」
さすがに少しアーリィが、
気の毒に思えた俺はハンカチを貸してやった。
「あでぃがとう、ばっど(ありがどう、ワッド)」
「御免下さいッ!」
その時、凛とした声が聞こえたかと思うと、
ジョニーさんの研究所の玄関扉が開いた。
自然と俺たちの視線はそちらへ向かう。
そこには端正な顔立ちの麗しい女性が居た。
身なりこそシャツにジャケット、、
ロングスカートと質素なものだけど、
そんなありきたりな衣装でさえも、
それらが煌びやかなドレスと思えてしまうくらい、
彼女の放つ雰囲気は威厳に満ちていた。
黄金色の背中まであるロングヘアー。
透き通るような瞳はまるで宝石のよう。
目鼻立ちはくっきりとしていて、
可愛らしいというよりも綺麗と言う方が正しい気がする。
おまけに彼女の背後にはタキシードを着た、
年齢不詳の長身の男性が控えめに佇んでいるから、
余計に彼女の煌びやかさが助長されている。
まさにお嬢様。しかも飛びきりの。
だから自然と俺の背筋は伸びてしまう。
他のみんなも、彼女が放つ威厳に気圧されて、
口をあんぐり開けたまま動けずにいる。
「ハーパー、あんたも飽きないわねぇ」
しかしそんな中でジョニーさんは、
一人面倒臭そうにそう云った。
「飽きなどしません! 今日こそはとお願いに参りしました!」
すると威厳のある女性――ハーパー――は、
手にしていた大きなトランクを、
ジョニーさんの前へ置き錠を解放した。
トランクの中にはぎっしりと金貨が詰まっていた。
「約10000ペセあります! これでいかがでしょうか!?」
「あーダメダメ」
ジョニーさんは目の前にある、
大量の金貨に目もくれない。
「これはあくまで前金です! バーンハイム!」
ハーパーがそう叫ぶと、
後ろに控えていた長身の男性バーンハイムが一歩前に出た。
「着手金として10000ペセ。お嬢様のご依頼を受けて下さった際はあと20000ペセをお支払いいたします」
「はぁ~……」
ジョニーさんは盛大にため息をついた。
「あのねハーパー、お金じゃないの。無理だから帰りなさい」
「どうしてですか!?」
「どうしても」
「ジョニーさんはこのままでも良いとお思いなのですか!?」
ハーパーは、
更にジョニーさんへ詰め寄った。
「今ロングネックは、いえ、アンダルシアンは未曽有の危機に直面しようとしているのです! 私はアインザックウォルフの人間として当主たるお姉様ががご帰還されるまで、ロングネックとアンダルシアンを守る義務があります!」
「あー、やっぱアインザックウォルフのお嬢様だったんですね」
ジムさんが納得したようにがぼそりと呟いた。
「アインザックウォルフってゴールドメダル号を作ったっていう?」
そう聞くとジムさんは頷いた。
「そうなのです。アインザックウォルフは貿易業を生業とする、アンダルシアンでも一位二位を争う大金持ちの名家なのです」
「へぇ」
そんな話をしている俺たちなど目も暮れず、
アインザックウォルフのご令嬢ハーパーは
相変わらずジョニーさんとにらめっこをしていた。
「なんでダメなのですか!?」
「なんでもどうしてもダメ」
「理由をお聞かせください!」
「ああ、もうダメなものはダメなんだってば! 諦めなさい!」
「それでは困ります! 私はすぐに強い武器が必要なんです! 【バーレイ】と【アードベック】」をこの街から追い払う強力な武器を! ビーンズメーカーのような高性能な兵器を造れるジョニーさんだからこそお願いをしているのですよ!?」
ハーパーは一向に引く様子をみせない。
するとジョニーさんは深い溜息を吐いた。
「だったらそこの赤髪の子と銃の勝負をして勝ったら考えなくもないわ」
ジョニーさんがそう吐き捨てるように云うと、
ハーパーは満面の笑みを浮かべた。
「分かりました!」
「ローゼズ、あとはよろしく~」
コクリ。
「云っとくけどローゼズはアンダルシアン一の銃使いだからねぇ」
ジョニーさんはそうハーパーを牽制するが、
「そうですか。ではお手並みを拝見させていただきましょう」
ハーパーはさらりとそう云って退けた。
少しローゼズの眉間に皺が寄った。
ローゼズはジョニーさんから、
シングルアクションタイプのリボルバーを受け取る。
そしてポンチョを翻し、足早に研究所を出て行った。
俺たちとハーパーも続いて外へ出る。
すると研究所前には数人の人が集まっていた。
「ハーパー様! どうでしたか?」
一人の成人男性がそう声を上げる。
「今交渉中です。でもジョニーさんは必ず説得してみせます」
「お願いします! ハーパー様だけだが頼りなのです! どうか! どうかロングネックに平穏を!」
「ハーパー様! お願いします!」
「ハーパー様!」
「ハーパー様!」
皆はハーパーを取り囲み、
口々に懇願する。
「お任せください! 私はアインザックウォルフとしてロングネックを守って見せます!」
ハーパーは凛々しい表情を崩さず、
その期待に応えてみせる旨を語り続けていた。
そんなハーパーを無視して、
ローゼズはガラクタの中から適当な空き缶を一つ拾い上げ、
近くの切り株の上へ置いた。
十分な距離を置いて、
ジョニーさんから借りた銃を掲げる。
火薬銃の壮大な破裂音が森に響き、
ローゼズの握る実銃のシリンダーから弾が放たれた。
弾は六発すべてが空き缶に命中する。
相変わらずの見事な射撃に俺やアーリィ、
そしてジムさんは思わず拍手をしてしまう。
ローゼズと銃で勝負するだなんて分が悪過ぎる。
しかしハーパーは、
そんなローゼズの見事な射撃を前にしても、
涼しい表情を崩していなかった。
「素晴らしい射撃ですね……ですが、貴方の銃の腕はアンダルシアンでは二番目です!」
気がつくとハーパーの従者のバーンハイムは、
切り株の上に新しい空き缶を置いていた。
バーンハイムが素早く下がったことを確認した手を翳す。
するとまたまた音もなく現れたバーンハイムが、
ハーパーへシングルアクションリボルバーを渡した。
ハーパーは緩やかに銃口を空き缶へ向ける。
次の瞬間、ハーパーの細い五本の指がさらりと撃鉄に触れ、
まるでアーリィのガトリングのように弾が切れ目なく放たれた。
全て命中。
そこまではローゼズと同じ。
しかしバーンハイムが持ってきた二つの空き缶を見比べてを見て、
俺は思わず目を見開いてしまった。
一つの空き缶には穴が二つ。
方や一つだけ。
前者はローゼズが撃ち抜いたもので、
後者がハーパーのだった。
つまりハーパーは同じ穴へ全ての弾を潜らせた、
ということになる
周りにいたロングネックの人たちが、
割れんばかりの拍手と喝采をハーパーへ送る。
「いかがですか? ローゼズさん?」
ハーパーもまた勝ち誇ったような顔をしていた。
「……ッ!」
ローゼズは眉を強ばらせた。
ローゼズは再び瓦礫の山へ小走りで向かい空き缶を拾うと、こ
れまた小走りで切り株の上へソレを置き、距離を取った。
ローゼズの指が銃の撃鉄を華麗に撫で、弾を放った。
一発目は空き缶を空中へ浮かび上がらせる。
空中でクルクルと回転する空缶。
それにローゼズの放った銃弾は全て命中した。
空き缶が地面に落ち、
ローゼズはそれを拾って俺たちへ見せつける。
「す、凄いのです!」
思わずジムさんが声を上げた。
俺もアーリィも同感でローゼズの撃ち抜いた空き缶に目を奪われる。
空缶には前後左右に一発ずつ穴が開いていた。
空中で、しかもこれだけ正確に空缶を十字に打ち抜くなんて、
信じられない芸当だ。でも、ローゼズの凄さはそれだけじゃない。
空き缶の中には細かな金属片が落ちていた。
つまり……ローゼズは空缶を十字に撃ち抜き、
しかもそれぞれの銃弾を缶の中で全て当て、粉々に砕いた、
そういうことになる。
たぶんローゼズは本気モード。
さっきは油断して手を抜いていたんだと分かる。
「わたしが一番!」
ローゼズはハーパーを見ながら、
珍しく声を張ってそう叫んだ。
するとずっと涼しげな表情をしていたハーパーが顔を歪めた。
「ふ、ふん! その程度私も! バーンハイム!」
「万事完了しておりますお嬢様」
既にバーンハイムはハーパーのために空き缶をセットし終えていた。
ハーパーは再び弾を放つ。
ローゼズと同じように一発目で缶を空中に上げ、
残りの弾は全て空き缶に吸い込まれた。
空き缶が再び地面に戻る。
すると、カラン、という音が落ちた瞬間に聞こえた。
バーンハイムは表情一つ変えずに、
ハーパーの撃ち抜いた缶を彼女へ渡す。
ハーパーの顔は曇ったまま。
俺たちも缶の中身をみて納得する。
缶はローゼズと同じく十字に撃ち抜かれていた。
でも缶の中には弾丸の残骸と
原型を留めた弾丸が二発転がっていたのだった。
「やっぱりわたしが一番!」
ローゼズはそう力強く宣言し、
「クッ、まさか……この私が!?」
ハーパーは悔しそうに唇を噛み締めていた。
でも、俺は思う。ローゼズに近い芸当をやってみせたハーパーは凄い。
十分に凄すぎると。
「もう一回勝負です!」
だけど負けず嫌いなんだろうハーパーは、
バーンハイムへ向け手を指し出しだす。
が、ハーパーの手は空を切るばかり。
「申し訳ございません。弾切れでございますお嬢様」
バーンハイムは努めて冷静にそう云った。
「なんですって!? なぜですか!?」
「こんなことになろうなど想定してはおりませんでして」
「なら早く買ってきてください! 迅速に! 速やかに!」
「幾ら弾があってもムダ」
ローゼズはそう云ってバーンハイムの持つ空き缶へ向かって、
今度はビーンズメーカーを放った。
銃を放たれても一切動じていないバーンハイムの手から空き缶が、
弾かれ宙を舞う。
今度はジョニーさんから預かった実銃で、
宙に浮かぶ空き缶へ再び六発の弾丸全てを打ち込んだ。
「「「おお~!」」」
本日三回目のアーリィ、ジムさん、俺、
そしてロングネックの街の皆様の感嘆。
地面へ落ちた空き缶の底は、
まるで缶切りで開けたかのようにキレイに抜けていた。
「銃は誰にも負けない! わたしがアンダルシアンで一番ッ!」
ローゼズは勝ち誇るようにそう云い、
ハーパーは悔しそうに歯を食い縛る。
――ローゼズも案外負けず嫌いなんだなぁ。
ローゼズの新しい側面を見らたためか
、胸の奥が少しほっこりとした俺だった。
「認めません! 認めるもんですか! さっきはたまたま調子が悪かっただけです! 私こそ一番、アインザックウォルフの人間は常に完璧なのです!」
ハーパーは顔を真っ赤にし、
少し涙目でそう訴える。
「わたしが一番!」
「いいえ! アインザックウォルフたる私こそ一番です!」
「わたし一番ッ!」
「いいえ私ですッ!」
ローゼズとハーパーは互いににらみ合ったまま、
一向に引く気配が見えない。
ハーパーもローゼズに負けず劣らずの、
負けず嫌いだと確信した俺は苦笑を禁じ得なかった。
「バーンハイム早く銃弾を買ってき……」
ハーパーが云い」かけたその時、
何処からともなく砲声が聞こえ、
森にその残響が響き渡った。
それまで悔しさで一杯な様子だったハーパーが急に顔を引き締める。
「バーレイめ!」
「お嬢様ッ!」
バーンハイムの声などものともせずに、
ハーパーは駆け出していった。
バーンハイムも慌てて彼女の後を追う。




