表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅠゴールデンプロミス―ChapterⅠ:荒野の豆鉄砲(ビーンズメーカー)
3/132

ChapterⅠ:荒野の豆鉄砲(ビーンズメーカー)

【VolumeⅠ―ChapterⅠ:荒野の豆鉄砲ビーンズメーカー


~三年前 アンダルシアン大陸西海岸モルトタウン~


「よぉ、ワイルド嬢ちゃん! 今日も可愛いねぇ~」

「だから俺は男だっつぅーの!」


 俺は思わずそう叫んだ。

俺の大声は木造のバー「ターキー」の隅々にまで響く。

 だけど常連の麦わら帽子が目印の、

丸々太ったビリーおじさんは、

椅子に座ったまま全然気にする様子もなくビールを飲み干した。


「ワイルド嬢ちゃん! カップが空だぜ!」

「だ・か・ら! 俺は男だし、お酌なんてしないっつぅの!」


 ビリーおじさんとの、こういうやり取りはいつものこと。

だから店にいるカウボーイと町娘のカップルさん、

立派な黒いスーツを着た一人でコーヒーを飲んでいる爺さん、

ウェスタンシャツを羽織った仕事の終わりの一杯を楽しんでいる男性グループ、

熱く仕事の話を繰り広げているジーンズ姿の採掘労働者のおじさんたち……etc

は全く俺とビリーおじさんのこと気にしないで、思い思いの時間を過ごしている。


 店の天井にある大きな羽の天井扇風機シーリングファンも静かにクルクル回って、

割と暑いアンダルシアンの外気温と店の中の温度を丁度良く調節してくれていた。


 その時俺の背筋がブルっと震えた。

俺の背後にあるのは店の象徴バーカウンター。

そこに立っているのはこの店「ターキー」の店主で、

俺のお袋「レアブリード=ターキー」だ。


 お袋の鋭い視線が遠慮なく俺の背中に突き刺さっている。

俺と同じ艶やかな黒髪で、

店のロゴが入った黒いエプロンを付けた御袋は、

目線だけで「いい加減にしなさい!」と言っている。

 このまま騒いでちゃ、

後でとんでもなくお灸を据えられると思った俺は、

沸き起こった怒りを飲み込み、口を塞ぐ……つもりでいたんだけど、


「怒った顔も可愛いねぇ! だってそうだろ? まん丸の黒い瞳にサラサラとした黒髪、ほんのりお天道様を浴びて色づいた至極健康的な肌! そうだ!俺はワイルドが男でも構わない! 可愛いんだからそれで良い!」


もうお袋の視線はどうでも良くなった。


「だったら俺が男だってのを見せてやる!」


 ここまで男ってことを否定されちゃ黙ってられない。

俺は首で表へ出るよう促す。

が、ビリーおじさんは相変わらずでっぷりとした腹を、

ベルトの上へ盛大に乗っけたまま立つ素振りを見せない。


「がはは! よし、わかった! んじゃ、俺が勝ったら今日はおじさんと一日デートだ。良いな?」

「上等だ!」

「はい、ワッドもおじさんもそこまで!」


っと、そこで俺とビリーおじさんの間に、

いつの間にか現れたブロンドツインテールのアイツが割り込んで来る。


「んだよ、アーリィ!男の喧嘩に口を挟むんじゃねぇ!」

「男の喧嘩には口を挟まないけど、街の喧嘩には口を挟むもん! だってあたし未来のここの保安官だからね!」


 青い瞳で背の高い、保安官ルック

――茶色の短いスカートに、ブーツ。シャツの上に羽織ったスカートと同じ色をしたベスト――

を着た、金髪ツインテールの幼馴染:アーリィ=タイムズは、

茶色いベストにつけた保安官候補の証の青い星型バッチを見せつける。

が、やはりいつもどおり残念だった。


 スラリとした体つきや、宝石のように輝く青い瞳など、

アーリィはモルトタウンの同世代の中では可愛い部類に入っていると思うし、

顔の面では自慢の幼馴染と言っていい。

 でも幾ら顔が可愛くたって、世の中はトータルバランス。

コイツには決定的に掛けている部分が一つ……それは胸だ。

俺と同じ十七歳にしてはまるで男のように胸が無いのは至極残念、

これだけで10点満点中マイナス6点。

どんなに顔が可愛くても、胸がほぼ平らなら、

俺には全く女に見えない。


「うっせ! これは男同士の問題だ! すっこんでろつるペタ!」

「なっ!?」


 堂々とした威厳を無理に出していた、

アーリィは顔を真っ赤に染め、胸を隠した。


「つ、つるぺタって、幾ら幼馴染でも失礼でしょうが! あたしはこの街の未来の保安官なんだよ!?」

「つったって、候補じゃん。なれないかもしれないし」

「なるもん! 絶対に私なるもん!」

「でも、その胸じゃあなぁ……」

「だから胸は関係無いでしょうがぁ!!」

「なぁなぁアーリィちゃん知ってるかい?」


 ビリーおじさんが脇から、

にやりとした笑みを浮かべながら言葉を挟んできた。


「胸ってのは定期的に刺激をしなきゃ大きくならないんだ!」

「し、し、知ってるもん! だから毎日お風呂で一生懸命揉んでるもん! 100回3セットやってるもん!」

「いやいや、自分じゃダメだよ。ここはこの乳搾り名人ビリーおじさんが……」

「こ、この、エロ親父!」

「はい、そこまでにしましょうね」


 っと、今度は腰元の手錠に手を伸ばそうとしていたアーリィと、

指をわななかせ迫るビリーおじさん両方の肩を掴み仲裁する俺だった。

まるでさっきとは逆の立場になったことに意図せず苦笑が漏れる。


 その時、店の扉が開いた。瞬間、バー「ターキー」がシンと静まり返る。

バーに居る誰もが入ってきたお客に視線を向けた。

もれなく俺も。

俺の視線は一瞬で入ってきた彼女に奪われた。


 ガンベルトを腰に巻き、二丁のリボルバーを携えた彼女。

すらりとした体躯をポンチョで覆い、革のロングブーツから伸びる

、張りのある肌で覆われた太ももが眩しかった。

 切れ長の目の奥には、

まるでルビーを思わせる赤い瞳があって、

ひっそりとした輝きを湛えている。


 彼女は口に加えていた葉巻をポンチョの内側へしまった。

そして悠然とテンガロンハットの下にある、

ポニーテールにまとめた綺麗な赤い長髪を揺らしながら歩き、

カウンター席へ着いた。


「いらっしゃいませ。何になさいますか?」


 カウンターのお袋はにこやかにそう問いかける。

さすがはお袋、どんな客でもいつもと変わらない、

っと思った。


 赤髪の彼女からは異様な空気が、

漂っているように俺は感じていた。

 蛇に睨まれた蛙とでも言うべきか。

研ぎ澄まされた刃物のような冷たさと、

銃口を眉間に突きつけられたような緊張感が俺の中にあった。

 自然と心臓は激しく鼓動し、喉が渇く。


――きっと、あの赤髪の女は賞金稼ぎ。


しかも非情で無法者などものともしない凄腕の。


「ミルク、豆」


 お袋は手早くビリーおじさんが今朝方絞ったばかりの、

特製牛乳をグラスへ注ぎ、

ミックスナッツを皿に盛って、赤髪の彼女へ出した。


「……ッ!」


 牛乳を一口呑み、

豆を口へ放り込んだ彼女の肩が震えた。


「お口に合いませんでしたか?」


フルフル、と彼女は首を横へ振る。


「んまぁ――――い!」


 俺も、

アーリィも、

ビリーおじさんも、

お袋以外の店の全員がまるで劇団のように一斉にズッコケた。

 しかし当の彼女はそんなことなどまるで気にせず、

ミルクと豆に夢中な様子だった。


「美味しい?」


 彼女はコクリコクリ、

と首を縦に振り、


「うん! おかわり!」

「はいはい。どうぞどうぞ」

「ありがとー! ……んまぁーーーい!!」


 さすがお袋。

赤髪の彼女のギャップなんて全く気にしないで、

彼女へ再びミルクと豆を提供していた。


 容姿端麗で冷たい印象とは対照的な、

妙に子供っぽい言葉と行動に若干の違和感を覚えるけど、

でもそれはそれで良いのかもしれないと思う俺だった。


 シンと静まり帰っていたバーも活気を取り戻し、

店にはいつもの和やかで賑やかな空気に染まる。

そんな和やかな音の中に、馬蹄ばていの響きが入り混じってきた。


「た、大変だ! 無法者だぁ!」


慌 てた様子で店へ飛び込んできた住民の男の叫びを聞き、

店の中の熱気は一気に冷めた。

一つに聞こえた馬蹄の音は二つ、

三つと増えてゆき、

やがて音だけでは一体何匹の馬が外にいるのか分からなくなる。

 突然、無数の銃声が聞こえ始めたかと思うと、

窓ガラスの割れる音や悲鳴が聞こえ始める。


「待って!」


 胸がざわついた俺はアーリィの声を無視して、

誰よりも早く店の外のテラスへ飛び出した。


 真っ赤な赤土てらろっさの上に粗末な家が立ち並んでいる、

俺の暮らす街モルトタウン。

 アンダルシアン大陸の西海岸でも最も偏狭なところにあるここは

年に一回行われる街の開拓祭の時以外は、

いつも落ち着いていてのどかな田舎町だ。

でもそんな街が今、祭の時以上に騒然としていた。


 鳴り止まない銃声と、逃げ惑う住民たちの悲鳴。

街の至るところから馬蹄の音と、

耳障りで不愉快で汚らしい笑い声が響き渡っている。

 店の周りにある家や商店の窓ガラスは全て粉々に砕かれていて、

木の板の壁には無数の弾痕が浮かんでいる。


 奴等・・・は馬にまたがった無法者が我が物顔で暴れまわり、

金品を強奪し、街の人々を見境なく襲っている。

その全員が胸元に金色のバッチを付けていた。


 最悪だった。

奴らは無法者の中でも最悪最低、

無作為に暴れまわるアンダルシアン大陸西海岸でも、

最大の無法者集団【ゴールデンプロミス】の一員だった。


 店の中から次々とお客が飛び出して、

我先にと逃げ出す。

 でも俺はつま先を隣の家の窓ガラスへ、

鉛弾を撃ち込んでいる無法者へ向けていた。

 住み慣れた町を無法者に汚されることが許せなかった。

 野生の動物だって無作為に暴れたりはしない。

だから今、モルトタウンを、

自分たちの欲望の為だけに襲っているこいつ等は動物以下。

こんな行いが許される筈は無いし、見過ごす訳にも行かない。


「待ちなさい! 何をするつもりなの!?」


 俺が飛び出そうとしたその時、

店から飛び出してきたお袋に腕を掴まれていた。


「うるせぇ! 街が襲われてんだ! 黙ってみてらんねぇよ!」

「ワイルドッ!!」


 俺はお袋の手を振り解いて、

怒り任せに店のテラスから飛び降りた。


「ふざけんじゃねぇッ!」


 俺は近くにあった大きめの石を拾って、思い切り投げる。

 石は無法者の頭を直撃し、落馬させた。

すると背後に鋭い寒気を感じる。

踵を返すと別の無法者がリボルバーの撃鉄に指を掛けて、

銃口を俺へ向けていた。

 俺が横へ転がり飛ぶのと同時に、

さっきまで俺のいた所へ無法者の銃弾が撃ち込まれた。

間一髪、銃弾を避けた俺は、

近くの家の壁に括り付けられていた荷引き用の縄の束を掴み投げる。

放った縄は銃を持つ無法者の右腕に絡みつく。


「そらぁっ!」


 縄を勢いよく引いて、無法者を転げさせる。

奴は短い悲鳴を上げながらすっころび、銃が手からはじけ飛ぶ。


「や、やった!」


 無法者を二人、

しかも丸腰で倒せたことが嬉しかった。


「ワッドッ!」


 突然、脇からアーリィが飛び出してきて、俺を突き飛ばした。

 銃弾が俺とアーリィの頭上をすり抜けてゆく。

慢心していたせいで、他の無法者の気配に気づかなかったようだった。

 無法者の銃口は未だに俺とアーリィへ向けられている。

するとアーリィは、強く地を踏んで、


「保安官舐めんなぁーッ!」


 銃口を向けていた無法者の懐へ潜りこんで、

鋭いアッパーを繰り出す。

アーリィの拳は無法者の顎へぶつかって、

激しくふっ飛ばす。

 昔から腕っぷしの強いアーリィ。

保安官候補になって益々それに磨きがかかったと思う。


「流石だな、アーリィ!」」

「なに呑気なこと言ってんの!? 死にたいの!? どうしておばさんのいうこと聞かないの!!」


 アーリィは真剣な顔つきで思い切り叫ぶ。


「街が襲われてんだ! 見過ごせねぇんだよ!!」

「バカ! ワッド一人じゃどうしようもないよ! ここはあたしとお父さん……きゃっ!?」


 再び背中に嫌な気配を感じて、

今度は俺がアーリィを守るように押し倒す。

銃弾が俺たちの顔の近くの地面を撃って、

赤い砂埃を上げさせる。


 近くに感じた鋭い銃弾の音は、俺へ死の恐怖を感じさせた。

たった一発、これを浴びるだけで死んじまう。

街を襲っている無法者は全員、こんな強力で凶悪な武器を持っている。

片や俺は丸腰。

 ここまでで二人倒せたのはたぶん運が良かっただけだ。

現に、こうしてアーリィが来てくれ無きゃ、俺はさっき死んでいたと思う。

 そう思うと怒りの熱で一杯だった頭は急激に冷めて行き、冷静さが戻ってくる。


 冷静になってみれば、俺一人ではどうしようもないということに気が付く。

だけどみんなで団結すればきっと勝てる筈。

街を守って、無法者を追い出すことができる筈。


「お前の言う通りだ。ありがとう。頭に血が昇ってた……」

「わかってくれたならそれで良いよ」

「とりあえず逃げよう!」

「うん!」


 俺は下のアーリィの手を取って立ち上がろうとする。


「おっと、そうはいかねぇなぁ!」

「ッ!!??」


 突然、俺の後頭部に冷たい銃口が突きつけられた。

 一瞬で背筋が凍りついて、

心臓が激しく脈を撃ち始めて、喉がカラカラに乾く。


「俺たちに丸腰で挑むだなんていい度胸だ。俺たちゃ泣く子も黙るゴールデンプロミスって分かってんだろうなぁ? おい?」

「だ、だから相手してんじゃねぇか。分かんねぇのか?」


 俺は精一杯声を絞り出して、そう強がる。

すると背中へ複数の汚らわしい無法者の笑い声が響いた。


「でもよ、もうちっと考えて動いたほうが良いぜ? 勇敢と無謀を履き違えちゃいけねぇ。そんなこともわからねぇようじゃ、このテラロッサの上じゃ生きてけねぇぜ?ヒヒヒッ」


 シリンダーが回る甲高い音が、

俺の頭蓋骨に響いた。


「ワ、ワッド……!」


 俺の下でアーリィは目に涙を溜めて震えている。

 せめてアーリィには弱気なところは見せたくないと思ったけど、

ダメだった。

 頭に突きつけられた冷たい銃の感触は俺に死を予感させ、

足腰を激しく震わせていた。


「安心しな。今、兄ちゃんが乗っかってる嬢ちゃんは俺たちがあとでたーんと可愛がってやるからよぉ。ホントは兄ちゃんも加えてやりてぇけど、生憎定員オーバーなんでな」


 街も幼馴染も助けられず、

むざむざと殺されてしまうことが悔しかった。

 でも、俺の頭にはぴったりと銃口が突きつけられていて、

ほんの少し引き金を引けば、鉛弾が容赦なく俺の頭を吹っ飛ばす。

どう足掻いてもこの状況じゃ俺が助かる見込みはない。


「すまねぇ、アーリィ……!」

「そんな……そんなのやだよ、ワッドぉ……!」


 俺の下でアーリィは大粒の涙を流している。

そんなアーリィの顔を見て俺の胸は張り裂けそうに痛かった。

でももうどうすることもできない。


「あばよ、兄ちゃん!」


 無法者の声が響く。

 刹那、鋭いが軽い音が聞こえたかと思うと、

突然俺の頭につきつけられていた銃口の感触が消えた。


「ぬおっ!」


 続いてさっきまで俺を撃ち殺そうとしていた、

無法者の悲鳴が聞こえる。

 振り返るとそこには俺を撃ち殺そうとしていただろう、

大柄で髭面の無法者が大の字になって倒れていた。

 そんな奴の奥にポンチョを羽織った女の背中があった。

さっき店のカウンターにいた赤髪の女だった。

 彼女は左手に銀色に輝くリボルバーを携えている


「てめぇ!」


 金バッチをつけた無法者が一斉に彼女へ銃口を向ける。

 突然、彼女の姿がその場から消えた。


「上!」


 アーリィが空を指差す。

顔を上げると、

そこには高々と飛んだ赤髪の彼女の姿があった。

 空中にいる彼女は、

下の無法者へリボルバーの銃口を向け、

右手で撃鉄を華麗に凪ぐ。

 火薬こーんの音では無い軽やかな炸裂音が無数に鳴り、

複数の悲鳴がほぼ同時に聞こえる。

彼女の下にいた数人の無法者が全員テラロッサの大地に突っ伏した。


 すると騒ぎを聞きつけたのか、

道の左右から残りの馬に乗った無法者が、

銃口を彼女へ突きつけながら迫って来る。

 しかし彼女は地面に降りたばかりで、銃を構えられていない。

 俺は咄嗟に起き上がり、近くにあった石を拾って、


「お返しだぁーッ!」


投げた。

 石はまっすぐ飛んで赤髪の彼女の後ろを過ぎ、

左方向から迫っていた集団の先頭の頭に当たった。

 無法者が落馬すると、残った馬は驚いたのか暴れて隊列が乱し、

後ろに続いていた無法者を次々と落馬させる。


「ありがとう」


 赤髪の彼女は律儀に俺へそう礼を言うと、

ポンチョを翻した。

彼女のポンチョの内側には無数のグリップが無いリボルバーが収められていた。


 左手に持っていたリボルバーのシリンダーを右の手の平で弾く。

するとグリップより先が全て外れ、

ポンチョの空いたポケットへ綺麗に収まった。

 間髪入れず少し大きめのシリンダーと銃身に付け替え、

踵を返して、右方向から迫っていた集団へ銃口を突きつけた。

 彼女が再び撃鉄を華麗になでると、

無数のコーンのものよりも軽く、

静かな炸裂音が複数回響いて、

銀色のリボルバーから次々と弾を押し出す。

 弾はまっすぐとまるで吸い込まれるように、

無法者に当たって落馬させ、一瞬で集団は壊滅した。


「ず、ずらかるぞぉ!」


 いつの間にか起き上がっていた大柄で髭面の無法者がそう叫ぶと、

赤髪の彼女に銃で撃たれた筈の、

無法者達は次々と起き上がって、足早に逃げてゆく。


 赤髪の彼女は逃げ去ってゆく、

ゴールデンプロミスの無法者を追わず、

華麗に銃を指先で回しながら、

一切の狂い泣く左のホルスターへ戻した。

 モルトタウンにはいつもの静けさが戻り、

色々なところに隠れていた住民は一斉に顔を覗かせて、

街の驚異が去ったことに安堵の表情を浮かべていた。


「大丈夫?」


アーリィが声をかけてくる。


「ああ」

「どうかしたの?」


 気のない返事をしてしまったのは、

勿論ゴールデンプロミスがいなくなった安心感からというのもある。

でも、一番の大きな理由は、

ここまでで一つ妙なことがあると気がついたからだった。


 赤髪の彼女は銃でゴールデンプロミスの無法者を撃退した。

でも、地面には血溜りどころか血痕一つも見えない。

道の向こうへ逃げ去る無法者の一人から丸い何かがポロリと地面へ落ちる。


モルトタウンのテラロッサの上には何故か、たくさんの【豆】が転がっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ