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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅠゴールデンプロミス―ChapterⅤ:バラと家族と親友と
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ChapterⅤ:バラと家族と親友と ⑦


「なんだよ、これ……」


 ローゼズのノートを読んだ俺の胸は、

締め付けられるような痛みに襲われた。

 後ろで一緒に目を通していた、

アーリィやジムさんも言葉を失っている。

 読むのをここで終わりにしたかった。

でもまた続きがある。


――知ってしまったなら、最後まで受け止めないと。


俺は再び、ノートへ目を戻した。



『一年後、わたしはスチルポットに戻った。やっぱり誰もいないし、街は全部燃えていた。


 後になって調べてマッカランがジョンさんの教会の地下にある、

この施設を狙っていたことが分かった。

 私がマッカランと暮らしたところと、

ソックリなところだった。


 きっとここはわたしのような、

【殺人マシーン】を作るための場所。


 そんなところだからジョン牧師は、

絶対誰にも触れさせないようにしていたんだろう。

だからマッカランは邪魔なジョンさんをわたしに殺させた。


 わたしが再びここを訪れた時、

既にマッカランはいなかった。

でも、最近まで住んでいた跡があった。


 きっとマッカランは、

【わたしのような人間】をまた作ったんだろう。


【わたしのような人間】……殺意を呼ぶ殺人マシーン。


 わたしがジョンさんを殺したことで、

みんながわたしを殺しにやってきた。

 そこでわたしは死ねば良かった。

でも殺人マシーンのわたしは、

その人たちを殺してしまった。


 そしたらもっとたくさんの人が殺しに来た。

そして最後はハミルトンまで殺してしまった。


一度の殺人がもっと多くの人を殺し、

そして最後は一番大切な人まで殺さなきゃならなくなった……』


 ページには涙の跡があった。


『たった一度でも殺人を犯せば、その罪は消えない。


【殺意は殺意を呼び】、

たとえ家族であっても最後はみんな殺すことになる。


 殺したことは消えない。

わたしはスチルポット以外にも、

マッカランの命令でたくさんの人を殺してきた。


 わたしを殺したい人はたくんさいるはず。

それはわたしは殺意を呼んだ結果。

だからわたしがいつ、誰に殺されても仕方がない。


 でもわたしが呼んだ殺意はここでおしまい。

もうわたしは誰も殺さない。

関わった人には誰も殺させない。

でもそれで許されるとは思っていない』


 最後のページはこう締めくくられていた。


『このノートを読んだ誰かがわたしを悪魔と思ってわたしを殺してくれることを願い、このノートをここに残す――フォア・ローゼズ』



 全てを読み昨日の自分が大ばか者に感じた。

ただ怒りに任せてマッカランを殺そうとしていた自分。

憎しみだけで、後先を考えず、

 意気込んでいた自分が恐ろしく感じてしまう。


【殺人】


 人を殺めること。

それは同時に誰かの大切な人を奪うということ。


 俺自身もお袋を殺され、

マッカランを憎んだ。

マッカランを殺したいと強く思った。

だったらその逆だってある。


 俺がマッカランを殺したらきっと、

あのナイフ女のタリスカーが俺を殺しにやってくる。

俺は身を守るためにタリスカーを殺すだろう。

そうした今度はゴールデンプロミスが俺を殺しに来るだろう。

そしたらまた俺はゴールデンプロミスを殺すだろう。

ならのその次は……


『殺意は殺意を呼ぶ』


 昨日ローゼズはそう云っていた。

 たった一度の殺意は、

また新たな殺意を産む。


 数多く、無限に繋がってゆく殺意の連鎖は、

いつの日か俺へ大切な人を、

殺める機会を与えてしまうかもしれない。

 それはアーリィなのか、

ジムさんなのかか、

モルトタウンにいるみんななのか。

 ただ一つ言えること―――それは誰かを殺したならば、

自分も大切な人を失うということ。

 殺意の先にある真実。

それがこれなのだと俺は強く心に刻みつけられる。


「ワッド……泣いてるの?」


 アーリィにそう云われて、

俺は初めて自分が泣いていることに気がついた。

 胸が痛み、悲しみが襲ってきていた。

その気持ちの中心にはローゼズが居た。


 アイツは、ローゼズは、こんなにも辛い目にあった。

もう誰にも鉛弾を撃ち込みたくはないと強く願っていた。

でもその気持ちはマッカランに再び踏みにじられ、

アイツは俺達へ銃を向けるよう強要されている。


――ローゼズを助けたい!


 俺は涙を拭い、

ノートを閉じた。


――もうローゼズに殺人をさせたくない。

もう二度と人へ鉛弾を撃つような真似はさせたくない。

アイツの心はきっと、救いを求めている筈。だったら!


「ワッド、待って!」


 俺の体は自然と動いた。

 足は力強く階段を踏み、

俺を地上へ押し上げてゆく。


――ローゼズを救いたい。

マッカランの呪縛から、殺意の渦から。


 階段を上がり終え、

俺は再び教会の床を踏んだ。


「ローゼズ……」


 そこには既にゴールデンプロミスを引き連れた、

目の死んだローゼズが静かに佇んでいた。


 ローゼズは無言のまま、銃口を俺へ向けてきた。

ビーンズメーカーではない、


【人を殺すための銃】

 ローゼズが忌み嫌い、

もう二度と触れたくはないと思っている武器。


 ローゼズにはもうそんなものを握っては欲しくなかった。

彼女に相応しい武器――


それは不殺の銃【ビーンズメーカー】ただ一つ!


 ゴールデンプロミスもまた、

うすら笑いを浮かべながら銃口を俺へ向け始めた。

 しかし俺の意識が向かっている先はローゼズのみ。


――今はただ、ローゼズを救いたい、それだけだッ!


 俺は教会の床を蹴った。

 ローゼズとゴールデンプロミスが、

一斉に引き金へ指をかける。

 刹那、後ろから無数の銃弾が降り注いだ。

 ローゼズとゴールデンプロミスは、

堪らず物陰に身を隠した。


「何、危ないことしようとしてんのよ!」


 ガトリングを携えた、

アーリィが並んできた。


「あの人数な上にローゼズさんもいるんだよ!? 一人で突っ込むなんてバカだよ!?」


 すると視界の中で、銃を構えようとしている、

ゴールデンプロミスの一人が見えた。

 アーリィはすかさずガトリングを向けようとするが、

間に合わない。

 しかし一発の銃声が響き、

アーリィを狙っていたゴールデンプロミスの銃が弾かれる。


「油断は禁物です!」


 ライフル銃を構えたジムさんが、

俺たちに合流してきた。


「ワッド、どうしたいか教えて」


 アーリィはガトリングを、

ゴールデンプロミスへ突き出す。


「私もワイルドがしたいって思うことを手伝うです!」


ジムさんもまたライフルを構えた。


「二人共……」


 胸が熱くなった。

俺の隣にいる二人が頼もしく感じた。


「俺はローゼズを救いたい。マッカランの呪縛から! 殺意の中から!」


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