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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅠゴールデンプロミス―ChapterⅤ:バラと家族と親友と
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ChapterⅤ:バラと家族と親友と ⑥

 


 ある日ハミルトンはジョンさんの頼みごとで、

夜まで帰ってこなかった。

だからその日の食事はジョンさんと二人きりだった。

 ハミルトンが居ないのは少し寂しかったけど、

でもわたしは我慢していた。


「ローゼズ、すまないが井戸から水を組んできてくれないか?」

「わかった」


ジョンさんの頼みでわたしはバケツを持って教会を出た。

 外は既に真っ暗だった。

こんな暗い道をハミルトンが、

ちゃんと帰ってくるか心配だった。

 でも、どこにいるかわからないし、

勝手に出歩いたらハミルトンは心配するはず。

だからわたしは我慢して、

井戸へ水を汲みに向かった。


「すっかりスチルポットに馴染んだようですね、真紅の薔薇」


 久々に聞く声に、

びっくりしたわたしは振り返る。

 マッカランがいた。


「マ、マッカラン……?」


 何故かわたしは久々に会った

マッカランを怖く感じた。


「どうしてそんな顔をするのですか?私が怖いのですか?」


 わたしの体は自然と後ろへ下がる。

しかしその度にマッカランはわたしとの距離を縮める。

 井戸が下がるのを邪魔した。

バケツが井戸の底へ落ちた。

 マッカランは懐から銀色の、

懐中時計を取り出した。


「ふむ。やはり長期滞在は暗示を薄めてしまうようですね……ローゼズ、今すぐに貴方を真紅の薔薇に戻してあげますよ、ふふっ……」


懐中時計からオルゴールの音が響く。


「あ、あああっ!」


 急に胸が締め付けられ、

頭が痛くなったわたしはその場にうずくまった。


「真紅の薔薇よ、君はその刺を持って命を奪う血染めの薔薇……」


 色んなことが頭の中へ浮かんでは消えてゆく。


 隣で笑っているハミルトン。

いろんな言葉を教えてくれたハミルトン。

わたしを家族と言ってくれたハミルトン。


 ハミルトンだけじゃない。

わたしへ声をかけてくれたスチルポットのみんな。

わたしをこの街の一員として暖かく迎えてくれたスチルポットのみんな。


 ハミルトン、ハミルトン……

ハミルトンがわたしの頭の中で次々と消えてゆく。

どんなに手を伸ばしても、掴んでもハミルトンは消えてしまう。

ハミルトンはみんなマッカランに変わってしまう。

ハミルトンがマッカラン。


―――あれ? ハミルトンって誰だっけ?


 わたしが一緒にいて嬉しい人。

わたしを褒めてくれる人。

それは……マッカラン。


 マッカランは……わたしに優しくしてくれる。

マッカランはわたしを褒めてくれる。

マッカランの側にいると嬉しい。

マッカランがわたしの全て。

マッカランが喜ぶことをわたしはしたい。


――どうすれば?


殺し、殺害、殺人。

そうだ。


 わたしは真紅の薔薇、

その棘を持って命を奪う血染めの薔薇。


『ジョン牧師を殺しなさい』


 マッカランがそう言っている。

ジョン牧師、スチルポットの牧師。

あそこにいる牧師。

 ジョン牧師を殺せばマッカランは喜ぶ。

わたしを褒めてくれる。

わたしは嬉しくなれる!


「ロ、ローゼズ何をっ!?」


 気が付くとわたしはマッカランからもらった、

シングルアクションのリボルバーを右手に握り、

その銃口をジョン牧師へ向けていた。


――ジョン牧師を殺せばマッカランは褒めてくれる。

褒めてもらえると嬉しい。凄く嬉しい!


 わたしは引き金を引いた。

 不思議と少し照準がずれて、

弾はジョン牧師の頭じゃなくて腹を貫通した。

だからジョン牧師は未だ生きていた。


「ロ、ローゼズ、君は何を……!?」


 ジョン牧師は床へ真っ赤な血をまき散らしながら、

まるでイモムシのように這いつくばっていた。

 逃げられては困ると思ったわたしはジョン牧師の脚を打ち抜いた。

それでもジョン牧師は動こうとした。

 だからわたしはジョン牧師の背中を踏んだ。


「あ、うっ! かはっ! ごぽっ……!」


 何度も何度も踏んだ。

背中から肺を押しつぶすように。

確実に殺すために。

 その度にジョン牧師は血を吐いた。

でもまだ死んでいない。


――これじゃマッカランは喜ばない。


 だからわたしはジョン牧師の後ろの頭へ弾を打ち込んだ。

ジョン牧師の頭は真っ赤な血を飛び散らして、

消えてなくなった。

 もう死んだはず。

頭に大きな穴が空いたんだから、死んだはず。


「やった……マッカラン、わたしやった!」


 早くマッカランに褒めて欲しかった。

嬉しくなりたかった。

 だからわたしはジョン牧師の死体を、

ぐちゃぐちゃに踏みつけながら教会を出た。


「や、やはり出たな! 赤い悪魔!」


 教会を出ると、

よぼよぼおじいさんがわたしへ、

ライフルの銃口を向けていた。


――この人は……スミス? 

あれ、なんでわたしこのおじいさんの名前知ってるの?


「誰に作られた……お前は一体誰に作られたんじゃ!!」


 スミスおじいさんは引き金を引いた。

でも全然、遅かった。

 わたしは少し体を動かしてライフルの弾を避け、

スミスおじいさんへ銃を撃った。

 スミスおじいさんは頭を撃ち抜かれ、

動かなくなった。


――早くマッカランにジョン牧師を殺せたことを言おう。

たくさん褒めて貰おう。


 すると後ろから悲鳴が聞こえた。

 綺麗な女の人がいた。

 ずっと綺麗な女の人が叫んでいるのが煩くて、

わたしは引き金を引いた。

 綺麗な女の人もまた頭を撃たれて動かなくなった。


――早くマッカランにジョン牧師を殺せたことを言おう。たくさん褒めて貰おう。


 わたしはまた歩き出した。

夜なのに少し街が煩くなっていた。

凄く頭に響いて嫌だった。


「ロ、ローゼズ! お前、なにやってるんだ!」


 暫く歩くと、今度はいつもわたしへ話しかけてくれた、

おじさんが銃をわたしへ突きつけていた。


「どうしてジョン牧師やマリーさんを殺したんだ!」

「?」

「こ、この悪魔め!」


 おじさんが引き金を引こうとしているのが分かった。

だからわたしはそれよりも先におじさんの頭を撃った。

 おじさんは動かなくなった。

わたしはおじさんの死体を踏みつけ、先を進んだ。

 すると今度はいっぱいの大人が銃を持ってわたしの前に現れた。


「なんてことをしてくれたんだ! お前は自分が何をしたのかわかっているのか!?」

「どうしてジョン牧師やボイドさんを殺したんだ!」

「答えろッ! ローゼズッ!!」


 煩かった。

わたしは早くマッカランに褒めてもらいたかった。

だから撃った。


 目の前にいる大人を全員撃ち殺して、先を進む。

でも、また別の大人がわたしの前へ現れた。

今度は言葉もなく、銃を撃ってきた。


 でも遅かった。

私は弾を全部避けた。

そして邪魔だから撃った。


 すると、一発の銃弾が樽に当たった。

樽は大きな炎を上げた。

風が炎を巻き上げて、家を燃やした。

 風は次々と炎を運び、

やがて町のほとんどは炎に包まれた。

暑いけど真っ赤に燃える炎は綺麗だった。

不思議と嬉しくなったわたしは先を行く。

 どんどん大人が家から出てきた。

炎から逃げる人もいた。

でもほとんどの人がわたしへ銃を向けてきた。


「どうしてこんなことするんだ!」

「悪魔! 悪魔め!」

「殺す! お前は絶対に殺す!」


 だから銃で撃って殺した。

 一人殺すたびに、

もっとたくさんの人がわたしへ銃を向けてきた。

邪魔だから殺した。


 殺した、殺した、殺した。


「何、やってるの……」


 何故か、その声を聞いた時心臓が強く鳴った。

自然とわたしのつま先が後ろを向く。

 女の子が居た。

 青い大きな瞳と黄金色の綺麗な髪を持つ、

可愛らしい女の子だった。

 最初に殺したジョン牧師にそっくりだった。

彼女は腕を震わせながら銃口をわたしへ向け、

涙を流しながらわたしを見ていた。


「答えて! どうしてお父さんを……こんな酷いことをするの! ねぇ!」

「……」


女の子の怒りに満ちた目をわたしへ向けていた。


「許さない……」

「……」

「絶対に許さないッ!この悪魔めッ!」


 何故か胸が痛くなって、

わたしの目から涙がこぼれた。

でもどうしてそんな風になったのか、

わたしにはわからなかった。

 女の子が引き金を引くのが分かった。

だからわたし先に撃った。

 でも涙のために視界がぼやけて、狙いが少し外れた。

銃弾は女の子の腹に当たった。


「どうして……ローゼズ……ッ」

「ッ!?」


 女の子がわたしの名前を呼び、

わたしの中で何かが崩れた。


 この子は誰? マッカラン?……違う。

この子はハミルトン。

ハミルトンって誰だ……?

そうだ! ハミルトンは家族。

ハミルトンが家族だから、ジョン牧師もわたしの家族。

スチルポットのみんなも家族。

嬉しくなるのはマッカランじゃない。

もうマッカランじゃない!


「ハミルトンッ!!!」


 わたしは血を流し倒れた、

ハミルトンへ駆け寄った。

でも、もう遅かった。

 ハミルトンはまだ暖かかった。

でももう何も答えてくれなかった。


「ハミルトン……! ハミルトン……ッ!!」


 どんなに体を揺すっても、

ハミルトンは何も答えなかった。

 気が付けば、わたしの周りは無数の死体が転がり、

炎に焼かれていた。


 その中にはマリーさんが居た。

炎で焼け焦げているけど、きっとあれはギムさん。

みんな顔を知っていた。

たくさん挨拶をしたり、話をした。

でももう誰も起き上がらない。

わたしに話しかけてもくれない。


――どうしてこんな……


殺ったのはわたし。


「っ……」


 ジョンさんを殺したのはわたし。

スミスおじいさんを殺したのはわたし。

ボイドさんを殺したのはわたし。

 マリーさんを殺したのはわたし。

ギムさんを殺したのはわたし……


 知り合いを一人殺すたびに、

違う知り合いがわたしを殺しにやってくる。

だから殺した。


 殺しが殺しを呼ぶたびに、

わたしは人を殺した。

そしてこうなった。


 ハミルトンがわたしへ銃を向けてきた。

だから殺した。

でも……殺したくはなかった。

だけど殺した。


 家族のハミルトンを、

この手で! わたしの手で!


「うわぁぁぁぁぁ!!!! あああぁぁぁぁーーー!!!」


 怖かった、

恐ろしかった、

そして悲しかった。


 このままここにいたら狂ってしまいそうだった。

 だからわたしは走った。

真っ赤な炎で燃えるスチルポットの街を、

夢中になって駆け出し走った。


 走って、走って、わたしは、

涙をまき散らして、大声で叫びながら、

アンダルシアンの荒野をひたすら走り続けた。


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