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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅠゴールデンプロミス―ChapterⅤ:バラと家族と親友と
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ChapterⅤ:バラと家族と親友と ④


「ローゼズ起きて!」


ベッドの上で目を開けると、ハミルトンがいた。


「んー……?」


 まだ頭が寝ぼけていて、

どうしてハミルトンがここにいるのかわからなかった。

 身体も未だ眠気が冷めなくて上手く動かない。


「行くよ!」


 そんなわたしの手をハミルトンは強引に取った。

 ハミルトンは何故かわたしの荷物袋を背負って、

わたしを部屋から出した。

 起きてから暫くは身体がうまく動かないわたしは、

ハミルトンに手を引かれるまま、

朝の市場の片付けをしている最中の、

スチルポットの街中を歩いてゆく。

 そうして連れてこられたのはジョン牧師の教会だった。


「ローゼズ、今日からここが貴方の家だよ!」

「んー……?」

「ハミルトン!」


 タイミングよく、

教会の扉が開いてジョン牧師が出てきた。

 ジョン牧師は昨日のように怒った顔をしていた。

でも今日のハミルトンはひるまなかった。


「お父さん、今日からローゼズにはここに住んでもらうからね! 良いよね!?」

「何を勝手なこと言ってるんだ!」

「良いじゃん、死んだお母さんの部屋空いてるんだし!」

「ダメだ! 決まりは守りなさい!」

「決まりって何よ!」


ハミルトンの叫びにジョン牧師が怯んだ。


「確かに移民は最初長屋で暮らす決まりになってるけどさ、でもローゼズは女の子なんだよ!?ここ(スチルポット)は安全かもしれないけど、長屋は街の入口のすぐ近くなんだよ!?最近無法者も多いし……男の子だったら、無法者が来ても大丈夫かもしれないけど、もしローゼズが襲われでもしたらどうするの?お父さんどう責任取るつもりなの!?」


「い、いや、しかし、それは万が一の可能性で……」

「だ・か・ら! 起こってからじゃ遅いの! お父さん、この街の代表でしょ!? 保安官さんと一緒に街とみんなを守るのが仕事でしょ!?」

「た、確かに、そうだが……」

「女の子のローゼズを少しでも危険から守れるなら一緒に住んだほうが良いじゃん!」

「しかしだな、ハミルトン、当のローゼズさんには聞いてみたのか?」

「あっ……」


 ハミルトンの口が止まった。

 ハミルトンは恐る恐るわたしへ視線を傾けてくる。


「わたしは構わない」


ジョン牧師は驚いた表情見せ、

ハミルトンはすごい笑顔を浮かべた。

 でも別にハミルトンを喜ばせるためにそう言ったんじゃなかった。

 わたしはあくまでマッカランのお願いに好都合だと思ったからだった。


――殺す相手の家に住めば、殺す機会はたくさんできる。


「じゃあ決まりだね! ローゼズ、行こ!」


 わたしはため息を着き、頭を抱えるジョン牧師を横切って、

ハミルトンと一緒に教会の中へ入っていった。

 礼拝堂を抜け、緑がたくさんの中庭の向こうにある、

小さな家へわたしはハミルトンと一緒に向かう。

 わたしが通されたのは、

今まで生きてきた中で一番綺麗と言える部屋だった。

 窓に付けられた白いカーテンが、

風を受けてゆらゆらと揺れている。

 その下にあるベッドはとてもしっかりしていて、

とても柔らかそうで

綺麗な布団が敷かれている。


「ここが今日からローゼズの部屋だよ!」

「ここが、わたしの……?」


 わたしの足は自然と、

ふかふかの布団が敷かれているベッドへ向かった。

 気がついたときにはもうわたしは、

ベッドへ仰向けに倒れ込んでいた。

 今までの枕よりも柔らかく、

布団はすごくふかふかだった。


「きもちいい……」


 思わず枕に顔を擦り付けてしまう。

お日様の光をたっぷり浴びた枕の匂いが気持ちよかった。

 岩の枕じゃない、土の布団じゃない。

お日様をたくさん浴びて、フカフカになってる布団。

いままで寝ていた布団が嫌になるくらい気持ちよかった。


「気に入った?」

コクリ!

「良かったぁ! ここにあるのは好きに使って良いからね!」

コクリコクリ!

「で、さぁ……」


 ハミルトンはベッドの感触を楽しんでいた、

わたしに近づいてきた。

 ベッドの隣にある、椅子に座って、


「またこないだみたいにお話してくれるかな……?」


何故かハミルトンは不安そうにそう聞いてきた。


「良いよ」

「ほ、ホント?」

コクリ。

「やった!」


 ハミルトンはすごく笑った。

 わたしも頬に緩みを感じた。

胸の奥がざわざわして、少し暖かくなった。

 すごく不思議だった。

初めて感じる気分だった。

でもすごく気持ちかった。


「ローゼズは今までどうしてきたの?」


自然とわたしの口が開いた。


「んー……旅してた」

「あは!じゃあいろんとこ行ってたんだね! 私、生まれてからずっとこの街にしかいないから他のところのことわからんないんだよね! 聞かせてくれる?」


 わたしはマッカランの指示に従って、

色んなところへ行って人を殺してきた。

 殺しがバレないようにアンダルシアンの色んなところの、

文化や風習を知って、街

に染まって、殺し続けてきた。

 殺しの話はできないけど、

その時に覚えたり、知ったことなら話せると思ったわたしは、


「じゃあ、白い粒粒の食べ物の話しよう」

「なにそれ?」


ハミルトンは嬉しそうな目をわたしへ向ける。


「前に東海岸のロングネックで食べた。海の向こうにある遠い国の食べもの。粒粒をお湯で炊いて、柔らかくて食べる」

「へぇ! なんか熱そうな食べ物だね?」

「凄く熱い。でも大丈夫。しゃもじがある」

「しゃもじ?」

「白い粒粒をお皿に盛るために使う。木で出来てて、先っぽが丸い」

「どんなの? 描いて見せて!」


 ハミルトンはすごく表情がよく変わる人だった。

 わたしがする話を聞き、面白い話の時はよく笑い、

怖い話の時は顔をこわばらせていた。

 そんなハミルトンの様子がすごく面白かった。

なによりもハミルトンがそんな風に顔を変えてくれるのが、

すごく嬉しかった。

 どうしてそういう風に感じるかわからなかったけど、

でも胸の奥が暖かくて、

気持ちかったからあまり深く考えなかった。



●●●



 次の日、わたしはジョン牧師の頼みで、

ハミルトンと一緒に街へ出た。


「ボイドおじさんこんにちは!」


ハミルトンは市場の通りへ入ってすぐのところの屋台で、

野菜を売っていたおじさんに声をかけた。


「おはようハミルトン! 隣にいるのは新入りの子かい?」

「あは! そうだよ!……って、ローゼズ!」

「んー……?」


何故か、ハミルトンは大きな声を出した。


「挨拶しなきゃダメだよ!?」

「んー……?」

「ん、じゃなくて!初めて会ったときは挨拶でしょ?」

「んー……?」

「ああ、もう!」

「がはははっ!まるでおっきい子供だな!俺はボイド、ここで毎日野菜を売ってるぜ!」


 ボイドというおじさんは笑いながら、

そう自己紹介をしてくれた。

 何かを言わなきゃいけない。

頭ではわかっていたけど、でも言葉が出ない。

というよりも、どう言ったら良いかわからないのが正しい。


「もしかしてローゼズ、どう言ったら良いのかわかんないの?」

コクリ。

「そっかぁ。まぁ、握手も知らなかったからねぇ……じゃあ、ローゼズわたしの真似して?」

コクリ。

「初めまして! 私はフォア・ローゼズです! これからお世話になります。よろしくお願いします! ……はい、どうぞ!」

「……はじ、め、ま……んー……?」


馴染みのない言葉は一回じゃ覚えられなかった。


「初めまして!私はフォア・ローゼズです! これからお世話になります。よろしくお願いします! ……はい、どうぞ!」


 何回かハミルトンに聞いて、

ようやくわたしはボイドさんへ挨拶することができた。

すると、


「よろしくなローゼズちゃん!」


 ボイドさんがまたすごく笑って、

わたしに言葉をかけてくれた。

 胸が暖かくなった。

むずむずした。

スチルポットに来て、ハミルトンと出会ってから、

何回胸がこんな風になったんだろう?

最初は驚いたけど、今はそうでもない。


――ベッドで寝るとの同じくらい気持ちいい……


 ハミルトンと市場を周り、

わたしは覚えたての言葉をどんどんスチルポットのみんなへ言ってゆく。


「初めまして、私はマリーよ。ローゼズちゃんの髪、綺麗ね」


 お肉屋さんはマリーさん。背が高くてかっこいい女の人。


「よぉ! 俺はギムだ!よろしくな!」


 とっても綺麗なアクセサリーを作っているのはギムさん。

 いろんな人と挨拶をすると、その度胸の奥が暖かくなって嬉しかった。


わたしが挨拶をする度に、

隣にいるハミルトンはわたしのことを褒めてくれた。

 それも嬉しかった。

どうしてかはわからないけどすごく嬉しかった。

 だからわたしはどんどんスチルポットの人たちに挨拶をした。

 胸はいつも暖かくて、気持ちかった。


「あ、悪魔だ!」


 でも突然、しゃがれた声が聞こえて、

わたしの胸の中にあった暖かさが急になくなった。

 市場にいたみんなも話を止め、

しゃがれた声がした方を向いた。

 そこにはボロボロのローブを着て、

杖をついた顔がシワシワのお爺さんがわたしを指さしていた。

 おじいさんの目はまるで、

昔ナイフを振りかざした時の子牛のように怯えた様子を浮かべていた。


「く、来るな! 紅い悪魔ぁ!」


 わたしが一歩踏み込むと、

おじいさんは後ろへ下がった。


「みんな聞くのじゃ! この娘は悪魔じゃ! 赤目赤髪の悪魔じゃ! 近寄るな! 近寄るで無いぞ!」


 おじいさんはそう大声でまくしたてる。

 でも市場にいるみんなの目は冷ややかだった。


「良いか悪魔! わしはお前を絶対にこの街から追い出してみせる! 必ずな!!」


 そうおじいさんは一方的にまくし立てると、

杖を突きながら雑踏の中に消えた。


「気にしないでね。スミスさん、ちょっとおかしいんだ」


隣にいるハミルトンもまた苦笑いを浮かべていた。


「なんか昔、無法者に酷い目に合わされたみたいでね。それであんな風にね……」

「大丈夫。気にしてない。慣れてるから」

「えっ?それは……」


 それ以上は何も言いたくなかった。

するとハミルトンはわたしの気持ちを分かってくれたのか、

表情を普通に戻した。


「さっ、早く買い物済ませちゃおう!」

コクリ。


 わたしたちはまた賑わう市場の中を歩き始めた。


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