ChapterⅤ:バラと家族と親友と ②
目を覚ました。
そこは不思議な鉄の箱がたくさんある部屋だった。
窓が無かったから、
今が昼なのか夜なのかわからなかった。
わたしのお腹には包帯が巻かれていた。
少し痛かったけど、もう血は出てきていなかった。
起き上がってみると、わたしの近くには、
白いお面を顔に付けている黒い服を着た人がいた。
白いお面はずっと笑っていて怖かった。
でも白いお面の人はわたしへ暖かいスープをくれた。
お腹が空いていたわたしはあっという間にスープを飲んでしまった。
そうすると白いお面の人は、
今度は暖かくて柔らかい豆と暖かい牛乳をくれた。
それもあっという間に食べてしまった。
生まれて初めてあったかいご飯で、
お腹いっぱいになれたわたしは嬉しかった。
でも、どうして白いお面の人はわたしにご飯をくれたのかわからなかった。
「君、ご飯をもっと食べたいですか?」
白いお面の人がそういった。
わたしは首を縦に振った。
「そうですか、しかしタダはダメです。これから毎日私のお願いをきちんと聞いてくれればこうしてご飯を上げましょう」
「……また暖かいごはん食べられる?」
「勿論です。君が私のいうことを毎日きちんと聞けば必ずあげます」
わたしは少し迷ったけど、
でも首を縦に振った。
一度知ってしまった温かいご飯は、
わたしをくぎ付けにしていた。
「……わかった。いうこと聞く」
「約束です。私の名はマッカラン。そして今日から君はフォア・ローゼズ」
「ふぉあ・ろーぜず?」
「君の名です」
「フォア・ローゼズ……」
生まれて初めて名前をもらって嬉しかった。
●●●
「あ、ん、あああっ……んくっ……マ、マッカランッ!」
「いい子だから我慢するのですよ、ローゼズ」
「ん、んぁ! ああああっ!!」
注射は嫌だった。
チクッと刺さるのも嫌だったし、その後も嫌だった。
マッカランは毎日わたしに注射を刺して、ベッドに縛った。
注射をされた後、すごく身体が苦しかった。
身体がすごく熱くなって、
息ができなくて、
頭の中が滅茶苦茶になって、
でもベッドに縛られているわたしはどうすることもできなくて、
ただ暴れるだけだった。
すごく苦しかった。
でも、マッカランがわたしへ喋りかけてくると、
不思議と気持ちが落ち着いた。
全部終わってクタクタになったわたしをマッカランはいつも抱きしめてくれた。
そして綺麗なオルゴールの音を聞かせてくれた。
そうすると気持ちがすごく落ち着いた。
「今日もよく耐えまえしたね。ローゼズはいい子ですね」
「マッカラン……マッカラン……」
「よしよし。今日は特に頑張ったので今日はローゼズが大好きな豆と牛乳にしましょう」
全部終わって、マッカランと一緒にごはんを食べるのが楽しかったし、嬉しかった。
だからわたしは毎日、注射がどんなに辛くても耐えられた。
マッカランが褒めてくれるのが嬉しかった。
わたしはマッカランにもっと褒めて貰いたくて、
抱きしめて貰いたくて、
優しい言葉を言って欲しくて銃の勉強も頑張った。
銃の勉強はすごく好きだった。
銃を撃つ時はお日様の下に出られるからだった。
それに銃を撃つのはすごく楽しかった。
最初は上手く的に当たらなかったけど、
でもだんだんとコツが分かってきて、全部の弾を、
的の真ん中に当てられるようになった。
「ローゼズは筋が良いですね」
「そう?」
「はい。私には真似ができません。ローゼズは本当に優秀な子ですね」
マッカランに褒めてもらえてすごく嬉しかった。
そんな生活が暫く続くと、
マッカランはわたしと同じ身長くらいの子を連れてきた。
それからまた暫くしてマッカランはまた別の子を連れてきた。
全部で五人になった。
その子達もマッカランからごはんを貰って、
褒めてもらうために注射と銃の勉強をしていた。
みんな注射をすごく我慢して、
銃の勉強もすごく頑張っていた。
マッカランも他の子達を褒めて、抱きしめていた。
それがすごく嫌だった。
マッカランにはわたしだけをみてもらいたかった。
でもマッカランを独り占めにしようとすると、
他の子と喧嘩になって、マッカランに怒られた。
ごはんをもらえない時もあった、
抱きしめてもらえない時もあった。
だから喧嘩は止めた。
代りにもっと注射を我慢して、もっと銃の勉強を頑張った。
そうするとマッカランはまたわたしを褒めてくれた。
嬉しくなったわたしはもっと頑張った。
他の子よりも早く走れるようになったし、高く飛べるようになった。
マッカランはもっとわたしを褒めてくれるようになった。
嬉しかった。
それからまた少し時間が経つと、
不思議なことが起こった。
一人の子が突然いなくなった。
そうすると二人、三人といなくなり、
最後はわたしともうひとりだけになった。
でもそのもう一人も、変な目をしていた。
片方の目は真っ赤で、髪も半分が赤になっていた。
その子はわたしが話しかけても何も答えなかった。
そしてマッカランの注射へ行って、そして帰ってこなかった。
でも全然寂しくなかった。
またマッカランを独り占めできることがわたしは嬉しかった。
そしてもっと褒めて欲しく、わたしは頑張った。
気が付くとわたしの髪と目は真っ赤になっていた。
それをみてマッカランはまた褒めてくれた。
嬉しかった。
●●●
「ローゼズ、準備はできましたか?」
マッカランに拾われて三年が経ったある日、
わたしは荷物をまとめるように言われた。
「できた」
「では行きましょう。もうここに用はありません」
わたしはマッカランの跡をついて、長く暮らした地下室から出た。
階段を上がり、何度も銃の練習をしたオアシスを抜け、赤い大地に踏み出す。
なんとなく、もうあの地下室には戻らないのだと、わたしは思った。
マッカランは注射と銃の勉強はおしまいと云った。
そして褒めてもらう方法が変わった。
「ローゼズ始めますよ?」
コクリ。
マッカランは懐から銀色の懐中時計を取り出し、蓋を開けた。
注射が終わった後にいつも聞かせてくれた優しい音色が響き、
心が落ち着いてゆく。
「目標はこれからあの橋を馬車で通る人全員です」
マッカランの言葉が頭に強く焼き付けられた。
柔らかいマッカランの言葉が頭の中で延々と響き続ける。
「貴方は真紅の薔薇……その刺を持って命を奪う血染めの薔薇……行きなさいッ!」
わたしはマッカランから貰った、
シングルアクションタイプのリボルバーのグリップを、
右手で握り締め、飛んだ。
それがわたしの最初の人殺しだった。
簡単だった。
馬や牛を殺すよりも簡単だった。
マッカランに指示された人へ向け、
銃口を向けて引き金を引くだけ。
みんなかつてわたしが食べた馬や牛のような目をして、
血を撒き散らして動かなかくなる。簡単だった。
馬や牛を食べるよりも簡単だった。
注射よりも簡単だった。
銃の勉強よりも簡単だった。
でもマッカランは、
そんな簡単なことをしてきたわたしをすごく褒めてくれた。
すごく嬉しかった。
だからわたしはいっぱい殺した。
何人、何十人、何百人、どれだけ殺したかわからない。
わたしはマッカランに褒めてもらいたくて、マッカランの命令で人を殺し続けた。




