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ChapterⅦ:決戦⑤


狭いスペサイドの通路からは相変わらず銀兵士が姿を表し、

俺とローゼズへ攻撃を仕掛けてくる。


何度か銃弾を弾こうとクロコダイルスキンの発動を試みたが、

やはり絶対防壁は俺の皮膚に現れない。


幸いなことに身体能力は前のままだったので、俺は回避をしつつ、

ローゼズと共に銀兵士を倒し、通路の奥へ奥へと進んでゆく。


 不思議なことに奥へ進めば進むほど銀兵士の姿は減って行く。

そして俺とローゼズは通路の先にあった巨大な金属の扉の前へ到達した。

突然、扉が鈍い音を放ちながらゆっくりと左右へスライドしてゆく。


 その先にあったのは不思議な部屋だった。

円形の広間の周囲には禍々しい雰囲気の機械がひしめくように並んでいる。

奥には中身が空の二本の巨大なガラス管があった。

片方はものの見事に砕けていた。

見覚えのある空間だった。

実際に目にするのは初めて。

しかし俺はここを知っていた。


―――きっとここは俺とプラチナが発見されたところ。


その中心には首からSAAシングルアクションアーミーをぶら下げた白いドレスを身にまとった銀髪の少女がいた。

彼女は瞑っていた目をゆっくりと開く。


「お帰りなさい、お兄ちゃん。待ってたよ」

「プラチナローゼズ……」

「ここわかるよね?ここはお兄ちゃんと私のお家なんだよ?」


プラチナは少しはにかんで見せる。

だが俺はそんな奴へ遠慮なしにビーンズメーカーを突きつけた。


「今すぐスペサイドを止めろ、プラチナ!」

「嫌だよ。だってこういうことをするために私とお兄ちゃんは作られたんだから」


プラチナはあっさりと俺の言葉を一蹴した。


 隣から明確な殺気を感じた。

視線を隣にいるローゼズへ傾けてみれば、彼女の右腕が強張っているのが感じられる。

ビーンズメーカーではなく、実銃が収められている右の方をだ。

それを見て、俺はローゼズの意図を察する。


―――ローゼズはやっぱりプラチナを殺す気でいる。


 過去の罪の戒めとして彼女がずっと右側に指している実弾入りの銃。

彼女はかつて、これを抜き、誰かを殺した瞬間、自らの命を絶つと言っていた。

そんな戒めをローゼズは今迷わず抜こうとしている。

だがそんなローゼズを前にしてもプラチナは動じないばかりか、俺への殺気を漂わせていた。


「やっぱりお兄ちゃんは私と一緒にいてくれないんだね」

「当たり前だ!」

「……そういうと思ってた。やっぱお兄ちゃんからクロコダイルスキンを奪って正解だったよ。もうわかってるでしょ?お兄ちゃんにはもうクロコダイルスキンがないってことを?」

「いつ、俺から奪ったんだ?」


「さっきお兄ちゃん銀兵士に撃たれたでしょ?あの銀兵士にはね、ボウモワ先生特製の特殊弾を込めさせていたの。その弾を浴びたお兄ちゃんはもう二度とクロコダイルスキンを使えない。もう絶対防壁は出てこない。幾ら【黒】のお兄ちゃんでも、クロコダイルスキンがなければ私でも殺せるんだ!お兄ちゃんを私の手で殺すためにそうしたんだ!」


無表情だったプラチナの顔に狂気の笑みが浮かぶ。


「世界を壊すのは一瞬。だからその前にお兄ちゃんは私のものになっていて欲しいの!死んでしまえばお兄ちゃんは私を否定しない!ずっと一緒にいてくれる!私の側に永遠にい続けてくれる!だから私はお兄ちゃんからクロコダイルスキンを奪って、ここま導いた!お兄ちゃんをこの手で殺して、私だけのものにするために!!」


もはやプラチナには正気というものがないと悟った。

自らが生まれた意味を完遂するため、そして否定を繰り返す俺を手に入れるためにプラチナは世界を破壊し、俺を殺すつもりでいる。


―――そんなことはさせない!絶対にさせない!


俺にはまだこの世界に生きる意味がある。

絶対にここで勝って、帰る必要がある。

世界を守るなんてかっこいいことは言わない。

俺はただ単純にアーリィのいるところへ戻りたい。


ずっと側にいたい!

そしてアイツとみんなと笑って過ごせる世界を取り戻したい!それだけだ!


「プラチナ、お前の好きにさせてたまるかよ」

「じゃあどうする?」

「決まってる」


俺は銃をホルスターしまう。


「決闘だ!プラチナッ!」


 俺はプラチナから視線を外さず、横へずれてゆく。

視界へプラチナとローゼズと収めるようにゆっくりと。

俺、ローゼズ、プラチナは楕円の広間へ三角形に並んだ。

それぞれが殺気を顕にしている。

まさに地獄の三角決闘というに相応しい状況。

三様の殺気が渦巻く広間は凍えるような空気感に包まれている。


 視界の右側にいるローゼズは相変わらず、右の実銃を撃とうと身構えていた。

ローゼズの意思、それはプラチナの殺害だ。

だが、絶対にローゼズにはもう殺人をさせたくない。

頑固な彼女のことだ、プラチナを殺した瞬間、きっと自らの命をも絶つはず。


これまでローゼズは辛い日々を過ごしてきた。

数多の殺人を犯した罪悪感、最愛のハミルトンとの決別。

そんなローゼズにはこれからは幸せの中だけで生き続けて欲しい。

もう誰も殺さず、ただ穏やかに日々を過ごしていってほしい。

だからローゼズの殺害を防ぐ必要がある。


―――なら狙うはローゼズの方か?


ローゼズを撃ち、アイツの手から実銃を弾くか?そうしたいが簡単には行きそうもない。


 視界の左には殺気を漂わせているプラチナがいる。

奴はローゼズのことなどまるで眼中に入れず、俺への殺気を漂わせている。

奴には銀兵士がいる。

おそらく、ローゼズの銃撃は銀兵士で受け止めるつもりなんだろう。

だからこそ俺への殺意のみを発しているのだと感じる。

奴の銃の実力は未知数。

だが、二年前音もなくアーリィの背後へ回り込んで銃撃を仕掛けてきたんだ。

侮れない。

それに俺はここで死ぬわけにはいかない。

アーリィのためにも俺はここで死ぬわけにはいかない。


 しかし絶対防壁であるクロコダイルスキンは失われている。

自分の命を守るためにプラチナへ銃を向ければ、ローゼズは確実にプラチナを殺してしまう。

逆にローゼズの銃を弾いてしまえば、俺はプラチナに殺されてしまう。

どちらを選んでも最悪の結果は不可避。

一瞬、実銃とビーンズメーカーを同時に撃とうかと考えた。


しかし俺の銃は両方ともシングルアクション。

ハンマーを倒し、引き金を引くという動作は片手だけではどうしても照準が思うように付けられない。

そもそも俺は右利きだ。

左のホルスターには実銃が挿さっていて、下手をすればプラチナを殺してしまう。

それはアーリィとの約束を破ってしまうことになる。

今、ここで銃を反対に差し替える暇は無い。

よって二丁による射撃は却下。

だから俺が撃てるのはどちらか一方。


―――どうする?どっちにする……?


 頭が混乱し始めた俺は一度考えをクリアにして、再考を図った。

状況を今一度整理し、冷静に分析を進める。


 俺が撃てるのはビーンズメーカーで、一発のみ。

狙えるのはローゼズかプラチナのどちらか一方。

何がベストで、何を信じるのか?

その可能性は?


感覚は徐々に研ぎ澄まされ、喉が渇く。

腕がにわかに震える。

それでも俺は考え、考え続ける。

もう殆ど時間はない。

そして勝負は一瞬。

迷いは更なる悲劇を生むはず。


―――なら決めるしかない!


確実に、そして素早く、俺は考えを収束させる。

バラバラのピースだった状況と思考が一枚の絵にまとまり、俺へ信じるべき答えを知らせてくる。

広間に漂う張り詰めた緊張感が頂点に達する。


―――右のローゼズか、左のプラチナか!どっちか!?


震えは収まり、思考が一枚の絵になったとき、俺は決断を下した。

黒い不殺の銃(ビーンズメーカ―)を抜き、ハンマーを倒し、短いストロークの引き金を引く。

同時に鳴り響き三発の銃声。


「あっ……!」


プラチナがゆっくりと倒れた。

だが、奴の体からは血が一滴も流れていない。むしろ、俺もローゼズも誰も血を流してはいない。しかし俺とローゼズの銃口は揃ってプラチナを狙っていた。


 俺には全てが見えていた。

プラチナは俺を狙っていた。そんなプラチナをローゼズは実銃ではなく、ビーンズメーカーで撃ったのだ。

ローゼズの弾はプラチナの手を弾き、奴のSAAの射線を俺から外す。

そして素直にプラチナへ向けた弾は、奴を撃ち今に至る。

正しい判断を下せたことに胸をホッと撫で下ろす。

俺はローゼズは実銃を撃たない可能性に掛け、彼女を信じ、プラチナを撃ったのだった。


 俺とローゼズは互いに視線を重ねて首肯する。

どちらからともなく、互いに実銃を抜き、そして周囲の機器へ向け銃撃を始めた。

俺とローゼズの銃弾は遠慮なしに禍々しい機器を打ち抜き、破壊してゆく。

火花がまるで花火のように広間に輝く。

徐々に機器が光を失い、そして息を引き取るように静かに機能を停止した。

室内が緩やかに揺れ始める。

どうやら機能を停止したスペサイドが下降を始めているようだった。


「ありがとう、ローゼズ」


俺がそう礼を言うと、


「どういたしまして、ワイルド」


ローゼズはそう返してきたのだった。


 俺は背後に気配を感じ、振り向き様にビーンズメーカーを放つ。

床に転がっていたSAAが隅へ弾き飛ばされる。

そこには這いつくばるプラチナの姿があった。


「どうしてお兄ちゃん……なんで私を殺さなかったの?」


プラチナは静かにそう問いかけてくる。


「アーリィは生きていた。だからお前を殺す必要はなくなった。それだけだ」

「そう……アンダルシアンをこんなにした私でもお兄ちゃんは殺さないんだね」

「それがあいつとの約束だからだ」

「じゃあ、お兄ちゃん、私を生かすなら一緒に連れってよ……」


プラチナはまるで伺うように聞いてくる。

俺はそんなプラチナの言葉を無視して、背を向けた。


「一人はやだよぉ……お兄ちゃんはこの世でたった一人の私の家族なんだよぉ……私にはお兄ちゃんしかいないんだよぉ……一人残されるんだったら殺してよ!唯一の家族の手で私を殺してよ!!」


俺は立ち止まり、再び振り返った。


「俺は誰も殺さない。例え世界を滅ぼしかけたお前でもだ。でも俺はお前を見逃した訳でも許した訳でもない。お前がまた俺の大切な人達や、この世界を襲うなら俺は立ち向かう。お前に。何度でも!」

「お兄ちゃんッ!!」


 俺はそう叫び、ローゼズと共に広間を跡にする。

後ろからはプラチナのすすり泣く声が聞こえ、俺に少しの胸の痛みを与える。

だが、俺はその痛みをグッと堪え、崩壊するスペサイドから脱出するのだった。



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