ChapterⅤ:命、燃やす刻(とき)③
私たちの進軍は開始された。
進軍を初めて早々、私達は警邏に当たっていた銀兵士の一団と遭遇する。
だが勢いで増す私達は一瞬で銀兵士の一団を飲み込んだ。
そしてそれが良い切っ掛けを生んだ。
銀兵士と暴徒の大群が次々と私たちの前へ現れてくれたのだ。
私達は昼夜を問わず戦い続けていたが、戦意は全く落ちない。
目の前に現れる敵は全て飲み込み、撃破する。
多少の被害はあった。
命を落とすものも出た。
それでも私達はひたすら進軍を繰り返し、首都マドリッドを目指す。
これまでどれだけの銀兵士を倒し、暴徒を鎮圧したかは定かではない。
―――もっとだ、もっともっと!
ここで戦い続けることで、スペサイドに投入される敵の数は減る。
そうなればより確実にワイルド様は願いを叶えられる。
プラチナをより確実にその手で殺すことができる。
それだけが支えだった。
彼への想いが私を突き動かし、無尽蔵に近い力を私へ与えてくれた。
マドリッドまで残り200キロ地点、またしても銀兵士の大群が私たちの前へ立ち塞がった。
「先に行きます!ゴォールドゥッ!」
私は皆を飛び越え、大挙する銀兵士軍団へ私は先んじて突っ込む。
銀兵士がこちらに気づき、銃口を一斉に向け、銃弾を降り注がせる。
「はあっ!」
だが、遅い。
私は二本のレイピアを振りかざし、全ての銃弾を弾く。
研ぎ澄まされたレイピアの刃は銀兵士の隙間へ入り込み、いとも簡単に切り裂く。
私は可能な限り、銀兵士の中で暴れ周り、奴らの隊列をかき乱す。
やがて、ゴールドクロスの活動限界を知らせる、胸の宝玉が赤く明滅を始めた。
私は戦うのを切り上げ、銀兵士軍団の中から脱出する。
「ご苦労であった快傑ゴールド殿!後は任されよ!」
次いで、敵の中に飛び込んだのは響、山崎、白州だった。
「行くぞ!各自、射撃地点へ分散せよ!」
「「ははっ!!」」
響、山崎、白州はそれぞれ銀兵士の群れの中へ飛び込んでくる。
私がサント・リーの隊列へ戻った頃には、既に横隊に並んだ構成員達が銃口を銀兵士軍団へ構えていた。
「放てッ!」
ローヤルの合図と共に銃が一斉に火を噴き、銀兵士の群れ向かってゆく。
射撃の狙いは響、山崎、白州のいる地点に合わされていた。
響達がいる箇所で銃弾が銀兵士を貫き、爆発させる。
その爆発は連鎖をし、次々と銀兵士軍団を飲み込んで撃破した。
またしても響達の射撃観測による、一斉射は少ない弾で効果的に銀兵士軍団を撃退した。
私がかき回し、一斉射撃によって銀兵士軍団の隊列は乱れている。
「突撃です!一機も撃ち漏らすんじゃないです!!」
ジムさんを先頭に射撃部隊の後方にいた、突撃隊が一気に隊列の乱れた銀兵士へ向かってゆく。
今回も、ジムさんの考案した波状攻撃は奏功したようだった。
「ご苦労であったな、アインザックウォルフ!」
私は後方へ下がり、専用に与えられた馬車の荷台に戻った。
ゴールドクロスを一先ず脱ぎ、活動時間の回復を行う。
ゴールドクロスに密着していた私の肌からは濛々と蒸気が上がっていた。
そんな私へ後方支援の指揮を取る竹鶴姫がやってきて水の入ったカップを渡してくれた。
「ありがとうございます、竹鶴姫様。残弾の状況は?」
「未だ余裕あるぞい。マドリッドでひと暴れできるぐらいは大丈夫じゃろ。誠、ジム殿はこうした計算に長けておるのぉ」
「ですね!」
私は体が濡れるのも気にせず水を一気に飲み干す。
たった一杯の冷水はまるで力を漲らせる魔法の水のように私へ再び活力を呼び戻す。
「お休み中のところ失礼いたしやす!地上より暴徒がこちらへ接近しておりやす!数は300!至急、急行とジムの頭がおっしゃっておりやす!」
そんな報告が荷台の幕越しに聞こえてきた。
ゴールドクロスの活動時間を示す宝玉は青。
私の体力も回復しているように思う。
「わかりました!すぐに参ります!」
私はすぐにゴールドクロスを手に取る。
再装着し、再び快傑ゴールドとなる。
「無理するでないぞ。貴殿は妾達の要なのじゃからな」
「ありがとうございます姫様!では行って参ります!」
私は竹鶴姫の応援に笑顔を返し、再び戦地へと赴くのだった。
進軍をすればするほど敵の勢いは増した。
辛く長い、永遠にも思える戦いの繰り返し。
でもその度に観測員が知らせてくれる報告に私は胸を躍らせた。
どうやら敵は私たちをかなりの驚異と思ってくれたらしく、東海岸の各地においていた軍団はおろか、西海岸の攻略に回していた勢力さえも、こちらへ向かわせてくれてるようだった。
陽動は確実に成功している。
その手応えがあった。
―――ワイルド様の願いを叶えるため!ワイルド様のために!
私達は破竹の進撃を続ける。
そして二日後、ついに私達は目的地に達した。
私、ジムさん、竹鶴姫、そしてローヤルの四人は二年前と同じように小高い丘の上から、視界の中では捉えきれない程広がる首都マドリッドの町並みを見下ろしていた。
二年前、大敗を喫し、プラチナに跋扈を許すこととなった記憶が思い出される。
「ジム、戦力の損耗率は?」
丘を見下ろしながら葉巻を吹かすローヤルが聞く。
「ここまでの犠牲者は約1,789人、損耗率は10%といったところです」
「そうか。皆よく耐えたな。ジムの考案した攻撃方法のおかげだ」
「これまではあくまで前哨戦です。本番はここから……」
「ああ、そうだったな。竹鶴、物資の状況は?」
ローヤルは竹鶴姫に聞く。
「残弾は丸一日攻撃を続けても持つぞい。じゃが、兵糧がな……」
「ここまで来て兵糧などもうどうでも良いのです」
ジムさんはぴしゃりとそういった。
「あと一日でワイルドはスペサイドに着く筈です。今日一日を私たちがつなげれば良いのです。もはや生きて帰るつもりはないのですから」
「そうじゃな。余計な情報を挟んであいすまんかったな、ジム殿」
ジムさんは突然、竹鶴姫へ振り返る。
「だから竹鶴姫、君たちはここで私達別れるが良いのです。君たちは異国の地の人。もう協力する必要はないのです」
「お断りじゃな」
竹鶴は明らかな否定の言葉をジムさんへぶつけた。
「何を水臭いこと言っておるのじゃ?妾とそして響、山崎、白州もサント・リーに加わった時から覚悟は決めておるわい。それともお主はもしや妾達がそんな中途半端な気持ちで戦いに加わったと思っておるのか?」
「それは……」
「乗りかかった船じゃ、最後まで乗らせてもらうぞい。それにだ……実のところ妾にはもう帰るところがないのでな……だからここが今や妾の故郷じゃ。妾が暮らし、守りたい国なのじゃ!」
それ以上ジムさんは何も言わなかった。
私達は誰からともなく、再びマドリッドを見下ろし始める。
首都マドリッド。
観測員の報告では、ここにはプラチナの側近である三銃士のアードベック=アイラモルトと彼を操る同じく三銃士のボウモワ=ラーガンがやってきているという。
奴らはプラチナ一派の雑兵軍の大半を率いていると聞く。
それはすなわち、少なくとも私達は敵の殆どをを引き付けることに成功したということだった。
嬉しくて堪らなかった。
私がワイルド様のお役に立てていることが。
彼の願いを叶えるためのお手伝いができたことが。
「ハーパー、君にはアードベックをお願いしたいですが良いですか?」
ジムさんが聞いてくる。
私は、
「承知しました!お任せ下さい!」
アードベック=アイラモルト。
かつて革命組織バーレイを率いて、私の故郷ロングネックを襲った宿敵。
奴とボウモワのコンビは10,000の兵力に匹敵すると聞く。
彼らを足止めできれば、よりワイルド様の願いが成就する確率は高まる。
そう考えるだけで私の胸は踊り、戦意が更に高揚した。
「突撃は二時間後の10:00!各員、それまでに準備を進めるのです!!」
私達は解散し、それぞれの持ち場へ戻ってゆく。
―――ワイルド様、どうか!どうか願いを叶えてください!
私は何度も心の中でそう唱えながら、支度をするのだった。